2023年06月06日

ピーナッツアレルギーと母乳

ピーナッツアレルギーと母乳

The protective effect of moderate maternal peanut consumption
on peanut sensitization and allergy



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 昔は食物アレルギーのある新生児に、母親も除去食をして授乳するよう指導した時期もあり
ましたが、現在では母乳からアレルゲンは移行しないので、授乳に関して心配はないと指導
していました。ところがまた、逆転的な論文が出ています。


1) 卵アレルギーがあるか、又はかなりの乳児湿疹を有するリスクの高い4〜11か月の乳児を
   対象にしています。生後ピーナッツ摂取を避けた303人を登録しています。
   その中の281人が授乳をしていました。母親を3つのグループに分けています。
   ・181人が授乳中にピーナッツを全く摂取しない群
   ・69人が5gr/週以下の少量摂取群(平均で1.45gr/週)
   ・31人が5gr/週以上の高用量摂取群(平均で16.1gr/週)に分けています。
   全体の平均では2.55gr/週です。

2) 生後60か月でプリックテストの反応により、ピーナッツアレルギーの有無を判定して
   います。
   高用量群は25.8%の陽性率、低用量群は10.1%、全く摂取しない群では25.4%でした。
   同様に生後60か月に経口摂取のチャレンジテストでも、高用量群は19.4%、
   低用量群は7.2%、全く摂取しない群では18.8%の陽性率です。

3) 考察
   授乳の際に母親がピーナッツを多く摂取する事と全く摂取しない事は、ピーナッツに
   対する耐用を損なうことに繋がります。
   母親への授乳中の指導をどうするかは今後の課題です。
   この事は他の食物アレルギーにおいても当てはまるのか、研究が待たれます。




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私見)
 何事も「過ぎたるは及ばざるがごとく」でしょうか。






The protective effect of moderate maternal peanut consumption on peanut sensitization and allergy - ScienceDirect.pdf












posted by 斎賀一 at 18:03| 小児科

2023年06月02日

急性心不全のラシックスの効果減弱

急性心不全のラシックスの効果減弱

  
The blunted loop diuretic response in acute heart failure is driven
by reduced tubular responsiveness rather than insufficient tubular
delivery. The role of furosemide urine excretion on diuretic
and natriuretic response in acute heart failure



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 心不全に利尿薬のラシックスは、急性の場合も慢性の場合も定番と認識しています。
今回、慢性の使用によりラシックスの効果が減弱(鈍る)するとの論文が掲載されています。


1) ラシックスの効果は色々な因子によって影響されます。
   ・ラシックスの用量 ・血圧 ・消化管からの吸収 ・腎機能
   ・電解質 ・RAS系 ・体液量などです。

   先ずラシックスの効果が減弱するのに、二つの仮説を立てて研究しています。
   一つは心不全そのもの、もう一つはループ利尿薬であるラシックスの慢性使用における
   対応の低下です。
   それに関して二つの機序が想定されます。


  ・ラシックスによる尿細管への移送(delivery)の減少
   ラシックスが利尿効果を発揮するには、尿細管の電解質チャンネルに十分な薬剤量が到達
   しなくてはなりません。健康人ではラシックスの65%が未変化として尿に排出されます。
   心不全の場合には、ラシックスがこのイオンチャネルに活性的に伝達・到達していないの
   ではとの仮説です。

  ・尿細管の反応の低下
   心不全においては、イオンチャネルが構造的、かつ機能的に障害されている。
   更に傍糸球体装置のイオンチャネルを、ラシックスそのものが抑制する。


2) 50人の心不全患者に、新たにラシックスを投与した新規群(28人)と、慢性に投与して
   いた慢性群(22人)に分けて調べました。
   利尿効果と尿中のラシックス濃度を調べました。
   新規群の方が、慢性群よりも尿量は明らかに多い結果でした。
   腎機能を補正してからの尿中のラシックスの絶対量は、新たな群と慢性群とではほぼ同じ
   でした。しかし尿中ラシックス濃度(1㎍/ml)当たりの尿量は新規群では148.6mlに
   対して、慢性群では50.6mlと明らかに利尿効果に対する反応の鈍化が認められました。





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   新規群では尿量が多いので尿中のラシックス濃度は低いのですが、それが一定の値
   (閾値)に達すると利尿効果が発揮されます。
   下記のグラフでも表示していますが、慢性群ではラシックスの量を増加しなくては尿量
   増加が期待されません。
   (慢性処方の場合には、ラシックスの増量が必要とまでは本論文で示唆していません。)




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             赤が新規群、黒が慢性群です。






私見)
 心不全に利尿薬、特にラシックスは必要ですが、慢性心不全にはその効果が減弱している
 ことを念頭に置かなくてはなりません。
 本論文ではラシックスの増量と、それに代わる薬剤の選択までは言及していません。
 本院では増量は選択肢にはなく、ラシックスの筋注、利尿薬の変更、他の薬剤へ追加
 (SGLT-2阻害薬、エンレスト)を考慮する必要がありそうです。
 勿論、心不全増悪の原因を精査する事も大事となりますが。






ループ利尿薬.pdf









posted by 斎賀一 at 20:47| Comment(1) | 循環器

2023年05月30日

好酸球性食道炎・胃と腸の特集より

好酸球性食道炎・胃と腸の特集より

胃と腸 第53巻第3号2018年3月



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雑誌の胃と腸に特集がありましたのでコピペしてブログします。



・序説 好酸球性食道炎の疾患概念の変遷 春間賢氏

 一般に好酸球性食道炎(EoE)は粘膜下層や筋層に著しい好酸球浸潤とともに線維化を来す
ため食道運動機能の低下、嚥下障害を来し進行すると狭窄となる進行性疾忠である。本邦での
EoEの診断基準は、基本的に欧米の診断基準に準じている。しかし、内視鏡所見と食道生検に
よる好酸球浸潤の個数は基準を満たすが、自覚症状がない症例が本邦では多く発見されており、
広義にはそれらの症例が含まれて報告されていることもある。EoEは近年増加しつつある新しい
疾患であり、その病態はまだまだ不明の点が多い。





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・好酸球性食道炎の病理診断 藤原美奈子氏
  
 他の好酸球浸潤を伴う食道疾患に比べて、EoEの好酸球上皮内浸潤はひときわ著明であり、
脱穎粒所見や好酸球性微小膿蕩の所見はEoEに特徴的であると考えられる。著明な好酸球浸潤を
食道上皮に認めた場合、好酸球性胃腸炎との鑑別のために胃や十二指腸など他の消化管粘膜の
生検は必須と考える。





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(病理所見も上記のように複合的な所見が大事で、単に好酸球の浸潤のみで診断するのは注意が
 必要だと思っています。)





・好酸球性食道炎の画像診断 浅野直喜氏

 好酸球性食道炎はつかえ感や嚥下障害などの自覚症状を引き起こす疾患で、食物性アレルギー
であると考えられている。
EoEの現在の診断基準では症状があることが必須項目となっている。しかしながら、EoEに特徴的
な内視鏡像を呈し、生検病理組織標本で好酸球浸潤を認めながらも自覚症状を欠く症例も存在し
これらの取り扱いが今後課題となると考えられる。たとえ自覚症状がない症例であっても、食道
粘膜への好酸球浸潤と持続する炎症により、食道粘膜下層の線維化が引き起こされ、最終的には
食道内腔の狭窄を来すおそれがある。そのような不可逆的な変化が生じる前に治療介入すること
が望ましいと考えられるが、自覚症状が必須となっている現在の診断基準では、必然的に治療
介入は不可能ということになってしまう。





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(基本的な所見は輪状溝ですが、診断基準にもありますが縦走溝と白斑の所見は確定診断と
 なります。狭窄まで進行する例があり注意が必要です。)







私見)
 実地医家の偏見的な見解ですが、好酸球性食道炎は未だ稀な疾患で、好酸球性胃腸症との
 鑑別が大事です。私としては食物アレルギーとの関係は乏しい印象です。
 当然ながら牛乳の除去を試してみる事は必要です。好酸球は組織の修復過程で現れますので、
 好酸球の浸潤のみでの診断には注意が必要と思っています。
 嚥下障害等の症状があれば検査が必要ですが。












posted by 斎賀一 at 17:42| 消化器・PPI