2023年03月20日

新しい脂質異常症治療薬・ベンペド酸

新しい脂質異常症治療薬・ベンペド酸

Bempedoic Acid and Cardiovascular Outcomes
in Statin-Intolerant Patients
[This article was published on March 4,2023, at NEJM.org]



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 脂質LDLコレステロール降下薬の新しい薬剤、ベンペド酸の臨床試験結果が雑誌NEJMに
掲載されています。海外では既に承認されていますが、日本では臨床試験の段階です。


1) 対象者は18〜85歳で心血管疾患のリスクがあり、スタチン薬の副作用のため服用を
   望まない人です。但しスタディ開始時にはスタチンの利点を説明し、納得するか
   スタチンの種類を変えたり、量の変更を承認した人も含まれます。
   従って開始時には、スタチンやゼチーアなどの他の脂質異常症治療薬も併用している
   場合もあります。

2) ベンペド酸180mg服用群と、服用しないコントロール群に分けています。
   登録者は13,970人でベンペド群は6,992人、コントロール群は6,978人です。
   主要転帰は4つのMACE(心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、
   冠動脈再建術)です。
   経過観察期間は平均で40.6か月、ベースラインでのLDLコレステロールの平均は、両群
   とも139.0でした。

3) 結果はベンペド群がLDLを29.2mg/dl低下させ、21.1%の低下率でした。
   主要心血管イベント(4-MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞/脳卒中、冠血行再建術の
   複合)のリスクを13%有意に低下しています。
   致死性/非致死性心筋梗塞は23%(危険率0.77)、冠動脈再建術は19%(危険率0.81)
   の有意なリスク低下でした。
   一方、致死性/非致死性脳卒中は、ベンペド酸群で15%の低下傾向を示したものの
   有意差は認められません。

4) 副作用としての筋肉痛は差がありません。
   新規糖尿病の発生もコントロール群と同等でした。
   尿酸値の上昇、肝機能障害、尿管結石、クレアチニン増を認めています。







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私見)
 学会発表時に、本薬剤はスタチンに代わるものでなく、スタチンの忍容性がない場合の
 代替薬の位置付けとしています。
 スタチンの服用で、筋肉痛を心配される患者さんが意外に多い感じです。
 本薬剤はゼチーアとの併用効果もあるとの事です。大いに期待できそうです。












posted by 斎賀一 at 18:24| 脂質異常

2022年09月13日

脂質異常症の治療薬・スタチンによる筋症状はまれ

脂質異常症の治療薬・スタチンによる筋症状はまれ

 
Effect of statin therapy on muscle symptoms: an individual
participant data meta-analysis of large-scale, randomised,
double-blind trials



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 脂質異常症の治療薬の主体は、スタチン系(下記の一覧表を参照)です。
心血管系疾患の予防に対する効果は実証済みです。
スタチン系薬剤の副作用として有名な横紋筋融解症があります。
グロテスクな病名と相まって、患者さんによってはスタチンに対して過剰に心配される方が
いらっしゃいます。
 今回、副反応の筋症状発生は稀であるとする論文が、LANCETに掲載されています。


1) スタチンとプラセボを比較した19のスタディを、メタ解析しています。
   1,000例以上の二重盲検試験で、2年以上経過観察したスタディを採用しています。
   また、軽〜中等度のスタチンと強力スタチンを比較した4つのスタディも加えています。
   対象症例は123,940例、平均年齢は63歳、女性は27.9%
   心血管疾患は48.1%、糖尿病18.5%です。
   スタチンの強さの4つの比較スタディは、30,724例です。

2) 追跡期間の平均は4.3年です。
   筋症状または筋力低下はスタチン群で16,835例(27.1%)
   プラセボ群が16,446例(26.6%)で危険率は1.03でした。
   スタチン群での筋症状または筋力低下は治療開始1年以内が一番多く、スタチン群で7%
   増加していました。その危険率は1.07です。
   絶対的発生率は11人/1000人/年で、実際にスタチン服用により15例中1例の発生頻度
   となります。
   2年以降は両群に差はなく、危険率は0.99です。
   スタチンの強さの違いでは危険率が1.08とやや増加しています。
   血清CK値の上昇は殆ど変化がなく、基準値の0.02倍でした。





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3) 考察
   筋症状と筋力低下とは具体的に、筋痛症、痙攣(クランプ)、下肢痛、骨格筋痛、
   筋肉疲労等です。本研究ではスタチンの種類による差はありませんでした。
   また投与量による差もありませんでしたが、中等度より強力スタチンの方が若干報告が
   多い傾向でした。11%対6%です。
   筋症状を報告した患者の多くが1年後も継続服用していた事実は1年後の発生が同じとの
   データに影響はしてないようです。
   中等度のスタチンを服用することにより、5年間で1,000人当たり11人の筋症状の副作用が
   報告されますが、心血管疾患の二次予防に50例に効果があり、一次予防には25例に貢献
   できています。
   スタチン服用による筋症状に対してはnocebo効果があり、患者に対する説明にはチャレン
   ジ的要素が必要となります。
   スタチン服用で筋症状を訴える90%はスタチンが原因とは断定できません。
   しかもその殆どが治療開始の1年以内です。
   軽度の筋症状を訴える患者には継続服用を勧めます。







私見)
 本論文はスタチンの有効性とその安全性を担保する論文ですが、私が注目したのは患者さんに
 説明するのにチャレンジ的要素という文言でした。

 歴史家の加来耕三氏が語ります。
 「歴史とは結果だけ見ていては何も学べない。何をしようとしたのか、何を志したのか、
  それを探していくところに教訓らしきものが出てくる。」

 なんと素晴らしい言葉でしょう。借金ばかりを残していく先代に鎮魂歌の響きがあります。












posted by 斎賀一 at 20:40| 脂質異常

2020年01月14日

75歳以上の高齢者における脂質異常症の治療

75歳以上の高齢者における脂質異常症の治療

 
The Association Between Low‐Density Lipoprotein Cholesterol
and Incident Atherosclerotic Cardiovascular Disease in Older Adults
    <短 報>



 以前の私のブログでも高齢者の脂質異常症に関する治療効果について掲載していましたが、(下記に
掲載します。)今回は、75歳以上に於いては脂質異常症と心血管疾患との関連はないとする論文が掲載
されていました。


1) 心血管疾患の既往のない75歳以上の高齢者が対象です。
   悪玉コレステロールLDLが130以上か、脂質異常症の治療薬を服用していない人が対象です。
   2,667名で59%が女性、平均年齢は78歳です。

2) 他の危険因子として喫煙、糖尿病、高血圧を含めて調べています。

3) 心血管疾患がフリーで75歳以上の脂質異常症の人は、心血管疾患の危険率が1.022でした。
   結局は一次予防効果は無いとしています。
   この傾向は他の危険因子(喫煙、糖尿病、高血圧)があっても同様でした。
   (一つの危険因子がある場合は12.8%対15.0%、二つの危険因子がある場合は
    21.9%対24.0%でした。)
   つまり75歳以上の場合は血圧、糖尿病、喫煙の治療が大事なようです。





私見)
 最新の医学情報を職員及び患者さんに伝えるのが主たる目的のブログですが、論文により見解が
 異なり右往左往する事が多々あります。
 本論文の様に対象が、75歳と高齢者の為でしょうか?
 
 初心に戻ってブログ作成を本年は心掛けます。
 また、時間をかけて書籍コーナーも新生してみます。








高齢者 LDL.pdf

1 スタチン(脂質異常症治療薬)は高齢者でも継続服用を!_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf

2 スタチン(脂質異常症治療薬)は高齢者に効果がない?_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf

3 高齢者にメバロチン(脂質異常症治療薬)は有効か?_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf











posted by 斎賀一 at 20:00| Comment(0) | 脂質異常