2025年02月25日

成人における脂質異常症の薬剤管理のガイドライン・米国

成人における脂質異常症の薬剤管理のガイドライン・米国

American Association of Clinical Endocrinology Clinical Practice Guideline
on Pharmacologic Management of Adults With Dyslipidemia



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 長文のガイドラインのため「サマリー」だけをブログします。


1)成人脂質異常症の一次予防について、AACE(American Association of Clinical
  Endocrinology)は、治療に関する患者との意思決定のため、ASCVD(動脈硬化性心血管
  疾患)イベントの将来リスクを予測する有効なツール、または計算機の使用を推奨する。


2)最大耐用量のスタチン投与を受けている成人の脂質異常症患者で、ASCVDを発症している、
  またはリスクは高いが目標値(LDL-C< 70mg/dL)に達していない場合、AACEは通常に
  加え、エボロクマブまたはアリロクマブの使用を提案する。
  (補足説明;エボロクマブ(Evolocumab)商品名: Repatha(レパーサ)はPCSK9を阻害
   することで、LDL受容体の数を増加させ、LDLコレステロール(LDL-C)の血中濃度を
   下げます。
   投与方法:140mgを2週間に1回、または420mgを4週間に1回皮下注射する。
   アリロクマブは、日本では発売されていません。)


3)ASCVDを発症していない成人の脂質異常症患者において、AACEは通常の治療に加えて
  エボロクマブまたはアリロクマブを使用しないことを勧めます。

  ・現在のところ、エボロクマブとアリロクマブを比較した直接的なエビデンスはない。
  ・ほとんどの試験参加者はASCVDのリスクが高いか、二次予防のための治療を受けて
   います。
   ASCVDリスクの低い成人で、有益性が有害性を上回るかどうかは不明です。


4)成人の脂質異常症患者におけるインクリシランの使用については、推奨または反対ともに
  十分な証拠がないです。(推奨なし、証拠不十分)

  ・全体としてはスタディの数も少なく、心血管疾患のイベント発生の症例数も非常に少ない
   ため、通常の治療に加えてインクリシランを使用することの潜在的な有益性と、有害性の
   バランスを決定できない。
   (補足説明;インクリシラン(商品名:レクビオレジスタードマーク)は日本で利用可能です。
    2023年9月25日に製造販売承認。レクビオレジスタードマークは、家族性高コレステロール血症や高
    コレステロール血症の患者さんで、心血管イベントのリスクが高く、スタチン(HMG-
    CoA還元酵素阻害剤)では効果が不十分、またはスタチンの使用が適さない場合に使用
    されます。
    投与方法は、初回投与後3カ月後に2回目を皮下投与し、その後は6カ月毎に1回の投与
    となります。)


5)スタチン不耐容でASCVDを有するか、リスクが増加している成人の脂質異常症においては、
  AACEは通常の治療に加えてベムペド酸の使用を推奨する。
  (補足説明;ベムペド酸は、HMG-CoA還元酵素の上流に作用する経口脂質低下薬で、スタ
   チンが使えない患者向けの新しい経口脂質低下薬。
   LDL-Cを約15〜25%低下させ、スタチンと併用可能。
   筋肉痛のリスクが低いが、尿酸値上昇に注意が必要。日本では未承認)


6)ASCVDを発症しておらず、他の脂質低下薬に耐容性がある成人の脂質異常症患者において、
  通常の治療に加えてベムペド酸を使用する事は勧めていない。

  ・患者には、ベンペド酸は心筋梗塞をわずかに減少させるかもしれないが、潜在的な有害性
   (痛風、胆石症、腱断裂)のリスクがある。従って、潜在的な利益と害についての議論を
   含む共有意思決定アプローチが必要となる。
  ・低用量のスタチンを含めた不均一な被験者(heterogeneity)のスタディである事に注意
   が必要。
  ・一次予防に関するエビデンスは限られている。
   最も大規模な臨床試験の二次解析によると、一次予防に有益である可能性が示されたが、
   被験者数が少なく、参加者全員がASCVDの高リスクであった。


7)心血管系疾患を有する、またはリスクが高い人で高中性脂肪(150〜499mg/dL)の成人に
  対しては、AACEはスタチンに加えてEPA(IPE)の使用を推奨する。
  (ただし条件付き推奨でエビデンスの確実性は低い)


8)重度の高トリグリセリド血症(≥ 500mg/dL)の成人におけるEPA(IPE)の使用を推奨する
  が、推奨しない十分な根拠はない。(推奨しない、証拠不十分)

  ・EPA単剤療法は心筋梗塞をわずかに減少させる可能性があるが、潜在的な有害性(心房細動
   の発症リスクや、大出血のリスクがわずかに増加する。)のリスクが存在することを説明
   すべきである。
  ・重度の高トリグリセリド血症(≥ 500mg/dL)を有する患者は、いずれのスタディにも
   含まれていなかった。
   さらに、EPAまたはIPE単剤療法が膵炎に効果があるかも報告されていない。


9)心血管系疾患を有するか、リスクが高い高中性脂肪(150〜499mg/dL)の成人において、
  AACEはスタチン療法に加えて、EPAとDHAを併用する事を推奨しない。


10) 重度の高トリグリセリド血症(≥ 500mg/dL)を有する成人に対するEPAとDHAの併用
  療法を推奨するエビデンスは、不十分である。(推奨しない、証拠不十分)

  ・1.8g/日以上のEPAとDHAの投与では、心血管イベントや死亡率の臨床的に意味のある
   減少は認められず、潜在的な有害性(心房細動や大出血のリスクがわずかに増加する)
   のリスクがあることを患者に説明すべきである。
  ・重度の高トリグリセリド血症(≥ 500mg/dL)の患者は、いずれのスタディにも含まれ
   ていなかった。さらに、膵炎に対するEPAとDHAの効果も報告されていない。


11) ASCVDまたはリスクが高い高トリグリセリド血症(150〜499mg/dL)の成人において、
  AACEは通常の治療に加えて、ナイアシンを使用することを推奨しない。


12) 重度の高トリグリセリド血症(≥ 500mg/dL)の成人に対するナイアシンの使用を推奨、
  または推奨しないことを示す証拠は不十分である。(推奨しない、証拠不十分)

  ・ナイアシンとスタチンとの併用は、心筋梗塞の些細な減少につながるかもしれないが、
   重大な潜在的有害性のリスク(感染症、出血、高血糖の増加)がある。
  ・ナイアシンとスタチンを含む併用薬はFDAでは、もはや承認されていない。
  ・重度の高トリグリセリド血症(≥ 500mg/dL)は、いずれのスタディにも含まれていな
   かった。
   さらに、各スタディでは、EPA(IPE)が膵炎の効果については報告されていない。


13) ASCVDまたはリスクが高い脂質異常症の薬物療法を受けている成人において、AACEは
  LDL-C目標値を70mg以下に設定することを提案している。(条件付き推奨、エビデンス
  の確実性は低い)

  ・2017年に推奨されたLDL-C治療目標値の引き下げ(< 55mg/dL)は、スタチン+
   エゼチミブに関する単一の試験によってもたらされた。
   しかし、その後の多数のスタディのメタ解析では、心血管イベントや死亡率に差は
   示されなかった。
  ・臨床医は、些細な利益や些細な副作用、コスト、患者の嗜好、治療目標が低い場合に、
   患者間の差別化懸念(equity)の影響などを含め、共有の意思決定に患者を参加させる
   べきである。







私見)
 本院でも、スタチンとゼチーアの副反応を心配される患者さんがいます。
 本ブログを参照して、薬を選択します。







脂質異常症ガイドライン.pdf











posted by 斎賀一 at 20:37| 脂質異常

2023年10月31日

脂質異常症治療薬のクレストールとリピトールの比較

脂質異常症治療薬のクレストールとリピトールの比較

Rosuvastatin versus atorvastatin treatment in adults with
coronary artery disease: secondary analysis of the randomised
LODESTAR trial



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 脂質異常症治療薬の中で汎用されているストロングのクレストールと、リピトールを比較した
論文が出ていましたのでブログします。韓国からの報告です。


1) 2016年9月から2019年11月までの統計です。
   冠動脈疾患を有する、19歳以上の4,400人が対象です。
   クレストール群が2,204人で、リピトール群が2,196人です。
   主要転帰は3年間で死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈再建術です。
   二次転帰は安全性;新たな糖尿病発生、心不全の入院、血栓塞栓症、腎疾患のエンド
   ステージ、忍容性による中断、白内障の手術、血液検査異常です。

2) 結果
   4,400人中で4,341人が最終登録しています。
   平均投与量はクレストールが17.1mgで、リピトールが36.0mgです。
   主要転帰発生はクレストール群で189人(8.7%)、リピトール群では178人(8.2%)
   でした。
   期間中のLDLはクレストール群で1.8mmol、リピトール群で1.9mmolでした。
   新規の糖尿病発生はクレストール群で7.2%、リピトール群で5.3%でした。
   白内障手術の発生はクレストール群で2.5%、リピトール群で1.5%でした。





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3) 結論
   クレストール群もリピトール群も冠動脈疾患に対してほぼ同じ効果でしたが、新規の
   糖尿病発生と白内障手術はクレストール群の方が多い結果です。

4) 考察
   以前のSATURN研究では、エコーにおける血管のアテロームの変化は両群に差はありま
   せんでした。また主要転帰においても差は認められていません。
   これは投与量が本研究よりも多い点と、観察期間が短かったためと推測します。
   本研究では、LDLコレステロールの低下はクレストール群の方が大きい結果でした。
   これはクレストール群の方が半減期が長く、HMG-COA reductaseに強く結合するため
   と思われます。この事が新規糖尿病発生がクレストール群の方に多い結果になったと
   思われます。
   白内障では上皮の再生抑制に長時間クレストール群の方で晒されるためと思われます。
   主要転帰で若干クレストール群よりリピトール群の方が勝っているのは、ゼチーアの
   併用が多い点とリピトールが色々な組織に入り込んで作用するためとしています。
   つまりPleiotropic effectと捉えていますが、今後の研究が待たれます。





私見)
  クレストールとリピトールでは、有効性に差はないようです。
  クレストールは水溶性でリピトールは脂溶性の差があるものと認識しておりますが、
  コレステロールを下げる意味ではクレストール、pleiotropicを期待するのなら
  リピトールかとも思いました。









Rosuvastatin versus atorvastatin.pdf










posted by 斎賀一 at 19:41| 脂質異常

2023年03月20日

新しい脂質異常症治療薬・ベンペド酸

新しい脂質異常症治療薬・ベンペド酸

Bempedoic Acid and Cardiovascular Outcomes
in Statin-Intolerant Patients
[This article was published on March 4,2023, at NEJM.org]



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 脂質LDLコレステロール降下薬の新しい薬剤、ベンペド酸の臨床試験結果が雑誌NEJMに
掲載されています。海外では既に承認されていますが、日本では臨床試験の段階です。


1) 対象者は18〜85歳で心血管疾患のリスクがあり、スタチン薬の副作用のため服用を
   望まない人です。但しスタディ開始時にはスタチンの利点を説明し、納得するか
   スタチンの種類を変えたり、量の変更を承認した人も含まれます。
   従って開始時には、スタチンやゼチーアなどの他の脂質異常症治療薬も併用している
   場合もあります。

2) ベンペド酸180mg服用群と、服用しないコントロール群に分けています。
   登録者は13,970人でベンペド群は6,992人、コントロール群は6,978人です。
   主要転帰は4つのMACE(心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、
   冠動脈再建術)です。
   経過観察期間は平均で40.6か月、ベースラインでのLDLコレステロールの平均は、両群
   とも139.0でした。

3) 結果はベンペド群がLDLを29.2mg/dl低下させ、21.1%の低下率でした。
   主要心血管イベント(4-MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞/脳卒中、冠血行再建術の
   複合)のリスクを13%有意に低下しています。
   致死性/非致死性心筋梗塞は23%(危険率0.77)、冠動脈再建術は19%(危険率0.81)
   の有意なリスク低下でした。
   一方、致死性/非致死性脳卒中は、ベンペド酸群で15%の低下傾向を示したものの
   有意差は認められません。

4) 副作用としての筋肉痛は差がありません。
   新規糖尿病の発生もコントロール群と同等でした。
   尿酸値の上昇、肝機能障害、尿管結石、クレアチニン増を認めています。







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私見)
 学会発表時に、本薬剤はスタチンに代わるものでなく、スタチンの忍容性がない場合の
 代替薬の位置付けとしています。
 スタチンの服用で、筋肉痛を心配される患者さんが意外に多い感じです。
 本薬剤はゼチーアとの併用効果もあるとの事です。大いに期待できそうです。












posted by 斎賀一 at 18:24| 脂質異常