2023年02月14日

アルコールと認知症との関係

アルコールと認知症との関係

Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia
in a Nationwide Cohort in South Korea



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 アルコールと認知症との関係は今までも多く論じられており、本ブログでも紹介して参り
 ました。
 関係が一方的にあるとするものから、余りないとするものまで色々でしたが、今回雑誌
 JAMAに、韓国からのスタディが掲載されています。


1) 全ての認知症、アルツハイマー型認知症、血管性認知症を対象としています。
   40歳以上で、2009年から2011年にかけて登録し、2018年の12月まで解析しています。
   2009年から2011年の登録時をベースラインとして、アルコール摂取量は0グループ、
   軽度グループ(15gr/日以下)、中等度グループ(15~29.9gr/日)、
   大量摂取グループ(30gr/日以上)に分けています。
   その後のアルコール摂取量の変化として、0摂取を堅持、禁酒、節酒、現状維持、増量に
   分けています。

 (1) sustained nondrinkers, (2) quitters (those who stopped drinking),
 (3) reducers (those who reduced their level of consumption but did
   not stop drinking), (4) sustainers (those who maintained the same
   level of consumption), and (5) increasers (those who increased
   their level of consumption).)


2) 主要転帰は新たに診断された認知症です。

3) 結果
   3,933,382人が登録されています。平均年齢は55.0歳。経過観察は平均で6.3年。
   全ての認知症発生は100,282人、アルツハイマー型認知症は79,982人、
   血管性認知症が11,085人でした。
   アルコール摂取が全然しないことを維持した人を比較対象にしますと、少量を堅持した
   群の危険率は0.79、中等度を堅持した群は0.83でした。
   一方で大量接種を継続した人は1.08の危険率の増加です。
   アルコールの量を増加したり、禁酒すると却って危険率は増加しています。

4) 少量又は中等度を持続している場合が危険率が低いようです。
   (下記のグラフをご参照ください。)




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       (下段がベースラインで、摂取量の変化をプロットしています。)







私見)
 お酒は百薬の長で、嗜むことが大事な様です。
 禁酒を声高に指導するのではなく、上の表を示して節酒の意味を説明して参ります。








アルコール.pdf









posted by 斎賀一 at 18:18| 脳・神経・精神・睡眠障害

2023年01月31日

食物繊維を食べると片頭痛の予防になる

食物繊維を食べると片頭痛の予防になる
 
The association between dietary fiber intake and
severe headaches or migraine in US adults



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 ある種の因子が片頭痛を誘発する事は、良く知られています。
アルコール、チョコレート、柑橘類、ナッツ、アイスクリーム、トマト、タマネギ、乳製品、
カフェイン、グルテン、ストレス、ライフスタイルです。
食物繊維は腸管で吸収されませんが、大腸に入ると腸内細菌により発酵して、腸内細菌の
恒常化を司ります。食物繊維が豊富な食べ物は、果物、野菜、穀物、ジャガイモ、塊茎です。
食物繊維が片頭痛の予防になるとの論文が、中国より発信されました。


1) 1999年から2004年までの12,710人が登録されています。
   重症な片頭痛は2,527/12,710(19.9%)に出現しています。
   片頭痛と食物繊維の摂取量とは、逆相関の関係です。 危険率は0.74でした。
   また、食物繊維を毎日10g摂取することにより、片頭痛が11%減少していました。
   ただし、アメリカ人とメキシコ人にはあまり顕著ではなく、肥満傾向の人
   (BMIが25〜30)にも当てはまりませんでした。

2) 腸管の透過性の亢進は前炎症物質の吸収に繋がります。それが血管に作用する誘引物質と
   なります。食物繊維は腸管で吸収されませんが、腸内細菌叢により代謝され、細菌の代謝
   産物が形成されます。
   この代謝産物が腸管のバリヤーとなり、免疫機能と炎症の恒常化を保ちます。
   そして、オキシダントと炎症のカスケードをも防ぎ、片頭痛を緩和します。
   食物繊維特にグリセミックインデクスが低い食物が有効です。
   グリセミックインデクスの低い食品を介入すると、3か月で片頭痛予防の効果が表れます。
   女性は男性の3倍、片頭痛の頻度が高いですが、エストロゲンとの関係で生理、更年期、
   妊娠により片頭痛の発生は影響します。
   また肥満との関連性も指摘しています。






私見)
 動脈硬化が進むと、片頭痛の頻度は減少すると言われています。
 そのせいか、はたまた便秘解消のためゴボウを食しているためか、私は片頭痛から解放されて
 います。







本論文.pdf

GL値とは?GI値との違いと.pdf

グリセミックインデクスとグリセミックロード.pdf

1 片頭痛を悪化させる食品.pdf

2 小児及ぶ青年の片頭痛に対する予防.pdf

3 片頭痛を誘発する食品_.pdf

4 片頭痛の鑑別.pdf

5 赤ワインは片頭痛の誘発因子.pdf

6 小児の片頭痛.pdf

7 ランニングが片頭痛に有効.pdf

8 片頭痛について_.pdf

9 口内細菌と片頭痛との関係.pdf

10 急性期片頭痛のガイドライン.pdf

11 小児の片頭痛は腹痛発作.pdf

12 コーヒーは片頭痛に良くないかも?.pdf














posted by 斎賀一 at 18:32| 脳・神経・精神・睡眠障害

2023年01月20日

早期アルツハイマー病の治療薬レカネマブ

早期アルツハイマー病の治療薬レカネマブ
 
Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease
[N Engl J Med 2023;388:9-21.]



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 アミロイドβの沈着を抑制することが、アルツハイマー型認知症の治療目標です。
アミロイドβには水溶性と非水溶性がありますが、非水溶性のアミロイドβに結合するのが
アデュカヌマブで、水溶性のアミロイドβに結合するのが今回のレカネマブです。
何れもエーザイとバイオジェンが共同開発したモノクローナル抗体です。
アデュカヌマブはアミロイドβを減少させますが、認知機能の低下を遅らせる効果はわずかと
されています。
しかし、2022年9月28日にレカネマブが主要評価項目、ならびに全ての重要な副次評価項目を
統計学的に高度で有意な結果をもって達成したと発表され、2023年1月6日にアメリカのFDAが
迅速承認しました。
報告文献がNEJMに掲載されています。


前知識として、下記の指標を判定の評価にしています。

・臨床認知症評価尺度(CDR-SB)スコア(0〜18で、数値が高いほど障害が大きいことを示す)
・PET上のアミロイド蓄積の変化量
・アルツハイマー病評価尺度の14項目の認知機能下位尺度(ADAS-cog14)スコア(0〜90で、
 数値が高いほど障害が大きいことを示す)
・アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS;0〜1.97で、数値が高いほど障害が大きいことを
 示す)
・アルツハイマー病共同研究の軽度認知障害における日常生活動作評価尺度(ADCS-MCI-ADL)
 スコア(0〜53 で、数値が低いほど障害が大きいことを示す)
・ARIA(amyloid-related imaging abnormalities); アミロイド関連画像異常
 抗アミロイド薬(レカネマブ、アデュカヌマブなどの人モノクローナル抗体)の使用により、
 アルツハイマー病患者の神経画像で見られる最も一般的な異常で、アルツハイマー病患者で
 自然発生的に生じることはめったにない。


ARIA-EとARIA-Hの2種類がある
ARIAは実際には有害性を意味するのではなく、アミロイドクリアランスの有効性のマーカーで
ある可能性も否定できないとされています。
ARIA-E(edema)浮腫は可溶化したアミロイドβが、血管周囲リンパ排液路に流れ込むも
十分ドレナージされずに溢れて浮腫性変化が生じたもの。
ARIA-HのHはヘモジデリン沈着を意味しており、血管壁のアミロイドβが中途半端に引き抜かれ
たことにより、血管壁が脆弱化し出血性変化が生じたもの。


アポ蛋白-Eとアルツハイマー病との関係
 アポ蛋白-Eにはアポ蛋白-E2、アポ蛋白-E3、アポ蛋白-E4があり、
 アポ蛋白-E3は正常型、アポ蛋白-E4がアルツハイマー病を悪化させる
 アポ蛋白-E2がアルツハイマー病の低下につながるとされています。


本論文として
レカネマブ経過観察12か月の研究発表がありましたが、効果がないとの結論でした。
今回は18か月での経過です。レカネマブを静注後にMRI検査ではARIAが9.9%出現しています
が、症状のある人は3%以下でした。


1) 早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症)を
   有し、PETまたは脳脊髄液検査でアミロイドの沈着を認める50〜90歳の人を対象と
   して、18ヵ月間の3相試験を行った。
   参加者をレカネマブ(10mg/kg 体重を2週間隔)を静脈内投与する群と、プラセボを投与
   する群に 1:1 の割合で無作為に割り付けた。

2) 1,795例が組み入れられ、898例がレカネマブ、897例がプラセボの投与を受けた。
   ベースライン時のCDR-SBスコアの平均は、両群とも約3.2であった。
   ベースラインから18ヵ月までの変化量の補正後の平均値は、レカネマブ群で1.21、
   プラセボ群で1.66であった。

3) 死亡率はレカネマブ群で0.7%、コントロール群では0.8%でした。 
   重篤な副反応はレカネマブ群で14%で、コントロール群は11.3%です。
   症状を伴うARIA-Eはレカネマブ群1.2%で、コントロール群は0%です。
   ARIA-Eは91%が軽症で、その殆どが(74%)3か月以内に認められ、4か月以内に消退
   しています。(81%)
   ARIA-Hはレカネマブ群で0.7%、コントロール群は0.2%でした。
   めまいの症状が多い結果です。脳出血はレカネマブ群で0.6%、
   コントロール群は0.1%(1/897)です。アポ蛋白-E4の人にその傾向がありました。

4) 結論
   レカネマブの投与は、18ヵ月の時点で早期アルツハイマー病におけるアミロイド関連
   マーカーを減少させ、認知・身体機能尺度の低下がプラセボよりも小さかったが、有害
   事象とも関連した早期アルツハイマー病に対するレカネマブの有効性と、安全性を明らか
   にするためには、より長期の試験が必要とされる。






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       (一部、日本版をコピペ)







私見)
 高額の薬剤です。今後は点滴でなく筋注も試験されているようです。
 副反応と効果に関しても、今後の報告が待たれます。












posted by 斎賀一 at 20:55| 脳・神経・精神・睡眠障害