2023年08月28日

頸動脈解離の予防

頸動脈解離の予防
Risk Profile of Patients with Spontaneous Cervical Artery Dissection



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 頸動脈解離は稀な疾患ですが、若い人に多く、死亡率も高いため注目される疾患です。本院でも数名の患者さんが発症しており、事前に診断できなかったのか悔やまれます。今回、その予防に関する論文が掲載されていますのでブログします。

先ず頸動脈解離を説明します。(ウイキペディアより)

「脳に血液を供給する頚動脈の内層がふた状に裂けた状態のことである。典型的な症状は、首、顔、頭の片側に痛みが生じる。頸動脈解離は、脳卒中の症状である片目の失明、味覚異常、複視などを伴う場合がある。その他の症状には、ホルネル症候群(縮瞳と眼瞼下垂)があげられる。合併症には、脳卒中またはくも膜下出血があげられる。」


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         (以上ウイキペディアより)


本論文はイタリアからの報告です。

 1) 3群を比較検討しています。
    
    1群;特発性の頸動脈解離群(sCeAD)
    2群;sCeAD以外の急性脳卒中群
    3群;健康な病院職員です。
  
    1群は1,468人、平均年齢は47.3歳、男性が56.7%です。
    1群の病変は殆どが単一血管で頸動脈が59.3%、椎骨動脈が26.3%です。

 2) 結果
  
    1群を他の群と比較したリスク率は、高血圧が1.65、前兆のない片頭痛が2.67、
    前兆がある片頭痛は2.45、家族歴があれば1.69でした。
    一般的な脳卒中の危険因子の糖尿病、高脂血症、肥満の項目は関係なく寧ろ逆相関
    でした。
    又、β―ブロッカーが投与されていない場合は逆相関の関係です。
  
 
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 3) 高血圧と片頭痛がリスクです。
    治療にはβ-ブロッカーが有効です。




私見)
  若い人で高血圧がある人には片頭痛の有無を問診し、一度はMRI検査を勧め、基本的な治療はβ-ブロッカーが第一選択でしょうか。

  Uptodateより図譜
   解離は、動脈壁の構造的完全性が損なわれ、最初に壁内血腫として血液が層間に
   集まります。
   明白な外傷なしに起こる場合は、病因に関与する体質的な素因があっても特発性と
   扱われます。


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頸動脈解離.pdf









     
      
posted by 斎賀一 at 18:56| 脳・神経・精神・睡眠障害

2023年06月23日

可逆性後頭葉白質脳症症候群

可逆性後頭葉白質脳症症候群

Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome
[n engl j med 388;23 nejm.org June 8, 2023]



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 雑誌NEJMに可逆性後頭葉白質脳症症候群(PRES)の総説が載っていましたので、簡単に
纏めてみました。


1) 急性、亜急性の脳の症候群です。代表的な症状は頭痛、脳症、痙攣、視力障害です。

2) 原因は急激な高血圧による脳内のダメージが主体ですが、その他に下記の様な原因疾患、
   薬剤が関与し、BBB(血液脳関門)の破綻が原因と推定されています。
   (uptodateの日本語翻訳を下記に掲載)





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3) 頭痛は徐々に出現し軽度〜中等度ですが、時に激しい雷鳴頭痛の事もあります。
   (頭痛は通常一定で、局在化せず、中等度から重度で、鎮痛薬に反応しません。
   意識の変化は、軽度の傾眠から混乱や興奮にまで及び、極端な場合には昏迷や
   昏睡に進行します。) 痙攣は全般または部分発作が経過中の3/4に出現します。
   視野の障害は20〜39%に出現。(視覚知覚の異常は、しばしば診断可能です。
   半盲、視覚消失、アウラ・閃輝暗点、視覚幻覚、および皮質失明が発生する可能性
   があります。)   以上、カッコ内はuptodate

4) 診断の基本はMRIで、CTでは見落とされることがあります。
   数週間から数か月続いて、66〜70%がMRI画像にて正常化します。
   浮腫が主体ですが、時に脳ヘルニアや出血も稀ながらあります。
   後頭葉は他の領域よりも交感神経の支配を受けておらず、そのため血圧の変動による
   ダメージが生じやすい。




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私見)
 鑑別診断について本論文にもuptodateにもありますが、それは私の許容範囲外なので
 増悪する頭痛患者さんには、高血圧を含めて基礎疾患と薬剤服用をチェックし、MRI検査
 が必要の様です。







分水嶺梗塞.pdf











posted by 斎賀一 at 19:42| 脳・神経・精神・睡眠障害

2023年02月14日

アルコールと認知症との関係

アルコールと認知症との関係

Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia
in a Nationwide Cohort in South Korea



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 アルコールと認知症との関係は今までも多く論じられており、本ブログでも紹介して参り
 ました。
 関係が一方的にあるとするものから、余りないとするものまで色々でしたが、今回雑誌
 JAMAに、韓国からのスタディが掲載されています。


1) 全ての認知症、アルツハイマー型認知症、血管性認知症を対象としています。
   40歳以上で、2009年から2011年にかけて登録し、2018年の12月まで解析しています。
   2009年から2011年の登録時をベースラインとして、アルコール摂取量は0グループ、
   軽度グループ(15gr/日以下)、中等度グループ(15~29.9gr/日)、
   大量摂取グループ(30gr/日以上)に分けています。
   その後のアルコール摂取量の変化として、0摂取を堅持、禁酒、節酒、現状維持、増量に
   分けています。

 (1) sustained nondrinkers, (2) quitters (those who stopped drinking),
 (3) reducers (those who reduced their level of consumption but did
   not stop drinking), (4) sustainers (those who maintained the same
   level of consumption), and (5) increasers (those who increased
   their level of consumption).)


2) 主要転帰は新たに診断された認知症です。

3) 結果
   3,933,382人が登録されています。平均年齢は55.0歳。経過観察は平均で6.3年。
   全ての認知症発生は100,282人、アルツハイマー型認知症は79,982人、
   血管性認知症が11,085人でした。
   アルコール摂取が全然しないことを維持した人を比較対象にしますと、少量を堅持した
   群の危険率は0.79、中等度を堅持した群は0.83でした。
   一方で大量接種を継続した人は1.08の危険率の増加です。
   アルコールの量を増加したり、禁酒すると却って危険率は増加しています。

4) 少量又は中等度を持続している場合が危険率が低いようです。
   (下記のグラフをご参照ください。)




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       (下段がベースラインで、摂取量の変化をプロットしています。)







私見)
 お酒は百薬の長で、嗜むことが大事な様です。
 禁酒を声高に指導するのではなく、上の表を示して節酒の意味を説明して参ります。








アルコール.pdf









posted by 斎賀一 at 18:18| 脳・神経・精神・睡眠障害