2025年03月12日

めまいの原因についてリスクを層別化するための 臨床スコアの開発

めまいの原因についてリスクを層別化するための
臨床スコアの開発

Development of a Clinical Risk Score to Risk Stratify for a Serious Cause
of Vertigo in Patients Presenting to the Emergency Department



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 めまいの臨床診断は、日常茶飯事です。
勢い脳外科に依頼する事も間々ありますが、リスクのスコア化を記した論文が出ましたので
ブログします。
めまいを表す言葉にdizziness,vertigo,imbalanceがありますが、本論文では明白な区別を
なくし、めまいとして一括しています。
重大な疾患として、脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、脳腫瘍、椎骨動脈解離としています。
めまいの30〜50%がCT検査を受けています。その中の98%が正常でした。
CTによる脳卒中やTIAの診断確率は報告者により異なり、7〜16%です。
しかし、めまいで入院し良性として退院した人は、マッチングしたコントロール群と比較して
7日以内の脳卒中の発生は50倍と高率でした。


1)カナダの3病院で2019年7月から2022年8月までにめまいで救急外来受診者を対象にして
  います。
  救急外来を受診した18歳以上の2,618人の内、2,078人が登録しています。
  症状が発症したのが14日以上前の場合、過去14日間に頭頸部外傷がある場合、グラスゴー
  昏睡スケールスコアが15未満、収縮期血圧が90mm/Hg 未満、過去14日間で失神エピソード
  がある場合、または活動性の悪性腫瘍がある場合は、本研究から除外されました。
  平均年齢は77.1歳。59%が女性。重大な疾患は111人(5.3%)でした。
  7項目を予測因子としました。
  男性、65歳以上の年齢、高血圧、糖尿病、運動/感覚障害、小脳の徴候/症状、良性発作性
  頭位めまいの項目です。


2)結果
  重大原因の確率は、スコア<5で0%、スコア5から8で2.1%、スコア>8で41%の範囲
  でした。
  患者の3分の1以上がCTを受けました。
  重篤な診断を除外するための検査としてCTを使用することは、感度が低く、利益が限られて
  います。コホートでは45.9%(95%CI 36.8%〜55.2%)の感度でした。





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3)結論
  結論として、サドベリーめまいリスクスコアは、患者のめまいの原因として深刻な診断の
  リスクを特定します。
  検証されれば、医師の調査、診察、治療の決定を導き、リソースの利用を改善し、診断の
  見逃しを減らすのに役立つ可能性があります。






私見)
 基本的にはBPPV(良性頭位変換眩暈)との鑑別が重要となります。
 BPPVのめまい発作は一過性で、特定の頭位でのみ生じます。
 Dix-Hallpike(ディックス・ホールパイク)法とRoll test(ローリングテスト)が基本です。
 安易にCTやMRIに頼らないことも大事です(?)
 スコアのPDFとアクセスを、下記に記載します。





・Dix-Hallpike
https://www.bing.com/videos/riverview/relatedvideo?q=dix-hallpike%ef%bc%88%e3%83%87%e3%82%a3%e3%83%83%e3%82%af%e3%82%b9%e3%83%bb%e3%83%9b%e3%83%bc%e3%83%ab%e3%83%91%e3%82%a4%e3%82%af%ef%bc%89%e3%83%86%e3%82%b9%e3%83%88&mid=C1A625F5650D6ACAA5A8C1A625F5650D6ACAA5A8&FORM=VIRE


・Roll test
https://www.bing.com/videos/riverview/relatedvideo?q=Roll%20test&mid=6A360D2EA9BA0885F6E36A360D2EA9BA0885F6E3&ajaxhist=0







本論文.pdf

めまいのスコア.pdf











posted by 斎賀一 at 18:18| 脳・神経・精神・睡眠障害

2024年12月07日

片頭痛のトリプタンと心血管疾患のリスク

片頭痛のトリプタンと心血管疾患のリスク

Safety of Triptans in Patients Who Have or Are at High Risk
for Cardiovascular Disease:A Target Trial Emulation



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片頭痛の主要な治療薬のトリプタンは、心血管疾患の患者さんには禁忌ではないが、注意が必要とされていましたが、今回論文がありましたのでブログします。
本院で採用しているトリプタンを下記に掲載します。
なお、Target Trial Emulationとは観察研究のデータを使用して、ランダム化比較試験のような条件や設計を再現する手法のことを指します。これは、実際のランダマイズ試験を実施することが困難、または非現実的な場合に、既存のデータを活用して、治療効果や因果関係を推定する
ための方法のようです。仮想空間的な試験でしょうか


 1) 2000年1月より2022年8月までのデータを利用しています。
    トリプタン群とプラセボ群の服用60日後の比較を心血管疾患(MACE)の発生率で
    調べています。

 2) 結果
    マッチングするようにトリプタン群3518人、プラセボ群3518人を登録しています。
    平均年齢55歳。女性80.6%です。
    60日後のMACE発生は、トリプタン群52人(1.48%)で、プラセボ群
    13人(0.37%)でした。相対リスクは4.0(CI 2.24to7.14)。
    非死亡の心筋梗塞は、15人(0.43%)対0人、心不全は相対リスク4.5、
    非死亡の脳卒中は、相対リスク8.0でした。
    死亡は、両群共に5人(0.14%)です。

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 3) 考察
    トリプタン服用中に胸痛を訴える事がありますが、殆どが心疾患とは関係がありま
    せん。実際の臨床現場ではトリプタン服用による心血管疾患の発生は極めて低いです。
    又トリプタンに関する今までの文献の多くが心血管疾患のない人を対象にしており、
    評価には限界がありました。

 4) 結論
    トリプタンにおけるMACEの発生率は低いですが、明らかに増加傾向です。




私見)
 トリプタンの心血管疾患の発生は1/100人と低率ですが、事は重大で心血管疾患のリスクを
有する人に処方する場合は説明が大事です。
 これからの名医になるためには、decision-makingがキーワードかもしれません。






片頭痛 トリプタン 本論文.pdf

1 トリプタンについて.pdf

トリプタン2.pdf

片頭痛・トリプタンの心血管疾患への危険性.pdf

片頭痛を悪化させる食品は.pdf

片頭痛を誘発する食品.pdf













posted by 斎賀一 at 16:58| 脳・神経・精神・睡眠障害

2024年12月06日

脳卒中予防のガイドライン・2024

脳卒中予防のガイドライン・2024

2024 Guideline for the Primary Prevention of Stroke:
A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association



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 実地医家用のガイドラインが出ていましたので個人的に興味のある点だけをブログします。


1) 生活習慣の8つの改善 



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   ・食事
    地中海料理を推奨
    減塩食とカリウム(野菜と果物)を多く摂取する事は、脳卒中の予防となる。
    その他、色々なサプリメントの効果はない。
   ・運動
    週に150時間の軽度から中等度の運動と、75時間の強めの運動を推奨
    デスクワークで座ってばかりいないよう注意
   ・肥満に注意
    18歳から注意が必要
   ・睡眠
    睡眠時無呼吸は専門医に相談
   ・血圧
    18歳から血圧には注意が必要
    130/80が目標の至適血圧
    一剤では30%の人しか血圧管理が出来ていない。
    多くが二剤、または三剤服用が必要
   ・血糖
    18歳から注意が必要。糖尿病予備軍の人はリスク
    ヘモグロビンA1cが7.0以上の場合は、GLP-1の治療を考慮する。
    SGLT-2に関しては慢性腎臓病と心不全に効果を示しているが、脳卒中の予防に関しては
    今後の研究が待たれる。
    ヘモグロビンA1cが6.5以下とする積極的治療のベネフィットはない。
    糖尿病予備軍の人に対して、生活習慣の改善とメトグルコの予防投与での効果は現段階
    では十分に出ていない。
   ・脂質
   ・禁煙
    電子タバコも禁煙の一環です。ヘビースモーカーに対して禁煙外来での診療と並行して
    電子タバコに切り替えての漸減効果は確立していない。(姑息的手段かも)
    ヘビースモーカーに対しては、禁煙外来を勧める。

2) 動脈硬化
   ・無症状の人に、スクリーニングで頸動脈エコー検査をすることは推奨しない。
    無症状の人が頸動脈エコー検査で70%以上の狭窄があれば、患者さんと相談し治療の
    選択をする。(decision-making)
    狭窄が50%以上の場合は、6か月から1年ごとの経過観察を推奨。
    その場合、手術のリスクもあり明白な方針は決定されていない。
   ・無症状の脳小血管病変(Cerebral small vessel disease)*1
    2019年のガイドラインではスタチンの適応はありませんでしたが、2024年版では
    低用量のスタチンは虚血性脳卒中を予防する可能性を示唆しています。
    抗血小板療法の効果はハッキリとしていません。
    しかし臨床家は、抗血小板療薬を処方する傾向です。
    無症状の皮質下脳梗塞に抗血小板療法が必要かは、更なるデータが必要です。
   ・片頭痛

3) その他
   ・動脈硬化の炎症
    最近、心筋梗塞を発症した人では、スタチンに低用量のコルヒチンを追加する事を推奨
    コルヒチンは冠疾患、心筋梗塞、心血管疾患の死亡、虚血性脳卒中のリスクを減少して
    いますが、虚血性脳卒中の予防効果においてはそれ程ではありませんでした。
   ・子宮内膜症
    既往を調べる事は、脳卒中のリスク管理に繋がる。
   ・閉経
    卵巣不全(40歳前での閉経)や早期閉経(45歳前の閉経)は、脳卒中のリスクとして
    考える。
   ・妊娠
    妊娠中または出産6週間以内で、収縮期血圧160以上または拡張期血圧110以上の場合は
    妊婦の脳出血のリスクがあり、また生涯にわたり慢性高血圧と脳卒中の発生が高まる。
    妊娠高血圧症候群、早産、妊娠糖尿病、胎盤異常などの妊娠に関連した疾病は、脳卒中
    のリスクとして捉える必要がある。

4) 抗血小板薬
   以前に脳卒中の既往がない場合は、糖尿病や心血管リスクがあっても抗血小板薬を処方
   するかは確立されていない。
   70歳以上の人で冠疾患のリスクが1つある場合でも、抗血小板薬は脳卒中の予防効果が認め
   られていない。

 
   
   個人的解釈
   *1脳小血管病変(Cerebral Small Vessel Disease)
     脳の小さな血管の病変による障害を広範囲に含む概念で下記の病変  
     ラクナ梗塞: 小血管が詰まり、小さな梗塞(直径15mm以下)が発生
     白質病変(leukoaraiosis): 脳の白質に見られる異常(虚血の結果)
     微小出血(microbleeds): 小さな出血の跡
     脳萎縮: 長期的な血流障害や炎症による脳の萎縮






脳卒中 ガイドライン.pdf











 
posted by 斎賀一 at 20:07| 脳・神経・精神・睡眠障害