シェーグレン症候群・uptodateより
uptodateより、実地医家にとっての心構えを導きたいと思い調べました。
この疾患では、外分泌腺の障害による乾燥症状に加えて、多臓器に及ぶ腺外(全身性)症状が
認められることがあり、臨床像は大きく「腺性症状」と「腺外症状」に分類されます。
SjD(シェーグレン症候群)は単独で発症する場合もありますが、関節リウマチや全身性エリテマ
トーデス(SLE)など、他の全身性自己免疫疾患に併発する形でみられることもあります。
1)類似語としては
・単独で起こるSjDを一次性(primary)、他の膠原病に併発するものを二次性
(secondary)と呼んできました。
しかし「secondary(二次性)」という言葉は誤解を招きます。
なぜなら、SjDが他疾患の後から生じる合併症とは限らないこと、また臨床的重要性が
二次的という意味ではないためです。
従って現在では、他の膠原病と同時に存在する場合は “associated SjD(併発 SjD)”
が好ましい用語とされています。
・Sicca syndrome(シッカ症候群)
Sicca syndrome はSjDの同義語ですが、現在の医学教科書ではほとんど使われません。
ICD(国際疾病分類)では2021年9月まで診断用語として使用されていました。
尚“sicca complex”は別概念で、眼や口の乾燥症状があっても原因(病因)を特定
しない場合を指します。
・Mikulicz syndrome(ミクリッツ症候群)
Mikulicz syndrome は、耳下腺や涙腺の顕著な腫大を特徴とする状態を指します。
SjDでみられることがありますが、IgG4関連疾患など他の病態でも起こり得ます 。
2005年の Mikulicz の原著論文の再評価によると最初に報告された患者は、現在でいう
MALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織リンパ腫)であった可能性が高いとされています。
2)軽度〜中等度の患者像
乾燥症状(眼・口)が中心で、疲労感、筋肉痛、軽度の認知機能低下を伴うことがあり
ます。
このような症例でSjDの診断を支えるのは、抗 Ro/SSA 抗体の存在、小唾液腺生検での
陽性所見(焦点スコア≧1)などです。
こうした患者は、薬剤性の乾燥症状を伴う線維筋痛症やうつ病の患者と臨床的に似ている
ため、鑑別が難しい場合があります。
3)重症例の患者像
重症の患者では、耳下腺腫大(顕著)、リンパ節腫大、抗Ro/SSA・抗La/SSB 抗体の
陽性、クリオグロブリン血症、 低補体血症、悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)の
発症リスク、 多様な腺外症状などがみられます。
4)腺外症状が主体の患者
少数の患者では乾燥症状がほとんどないにもかかわらず、抗 Ro/SSA 抗体が陽性、
腺外臓器にSjDあるいはSLEを疑う所見 (例:末梢神経障害、腎症、間質性肺炎、
血液異常、リンパ増殖性変化など)といった特徴を示す場合があります。
5)高齢者では乾燥症状はSjDより遥かに一般的で、約30%が乾燥症状(眼・口のいずれか、
あるいは両方)を訴えます。
原因は、薬剤、加齢による腺の萎縮などが大部分を占めます。
客観的な涙液分泌量や唾液量の低下を示すのは、症状のある高齢者の約4%のみです。
SjDそのものの発症は65歳以降では比較的稀ですが、高齢ではANAやリウマトイド因子の
陽性率が高まるため、診断には注意が必要です。
6)SjDを疑うきっかけとしては、以下が挙げられます:
持続する目の乾燥、口の乾燥、耳下腺腫大、歯の虫歯増加(特にう蝕の分布が不自然な
場合)、特定の血液検査異常(抗 Ro/SSA 抗体、抗 La/SSB 抗体、リウマトイド因子、
高ガンマグロブリン血症など)
SjDは、単独の検査で確定する疾患ではありません。
そのため、臨床症状、検査所見、画像所見など複数の情報を統合し、乾燥を来す他疾患を
除外したうえで診断します。
抗 Ro/SSA・抗 La/SSB 抗体があるだけでは、SjDとは言えません。
これらの抗体は他の膠原病、健康な人にも見られる場合があります。
7)問診
乾燥症状の問診(Symptoms of dry eyes and mouth)
3か月以上、毎日乾燥症状があるかどうかを確認します。
<眼の乾燥を尋ねる質問例>
毎日、困るほどの目の乾燥がありますか?
砂や小石が入っているような感覚を繰り返しますか?
1日3回以上人工涙液を使用しますか?
<口の乾燥を尋ねる質問例>
3か月以上、毎日口が乾きますか?
夜中に口の乾燥で、水を飲むために起きますか?
乾いた食物を飲み込むために、水をよく飲みますか?
成人してから唾液腺が腫れたことが繰り返しありますか?
8)身体診察(Physical examination)
重点的に観察する所見:
唾液腺の腫大、う蝕(特に歯頸部・切縁部のむし歯)、舌乳頭の萎縮(地図状、
ざらつきの消失)、舌下部の唾液貯留の減少(プーリングの欠如)、
唾液が1分以内に十分に貯まる場合、唾液低下の可能性は低いです。
その他:
下腿の紫斑、末梢神経障害、口腔カンジダ症などもSjDに伴う可能性があります。
9)血液検査
以下を確認します:
白血球減少、血小板減少、貧血、高ガンマグロブリン血症(ESR 上昇)、尿蛋白・血尿
(腎病変の可能性)、尿濃縮低下、尿 pH≥7(遠位尿細管性アシドーシスの可能性)
必須検査:抗 Ro/SSA 抗体、抗 La/SSB 抗体、ANA(蛍光抗体法)、リウマトイド因子。
ANAが陰性でも、SSA/SSB が陽性の場合があります。(ANA は感度不足のため“スクリー
ニングには不適”)
10)鑑別疾患
・良性リンパ上皮性唾液腺炎・涙腺炎
(Benign lymphoepithelial sialadenitis / dacryoadenitis)
涙腺・大唾液腺に:
広範なリンパ球浸潤、腺房萎縮、リンパ上皮性病変(lymphoepithelial lesions)
(導管上皮へのリンパ球侵入から上皮の増殖と構造破綻)
これらはSjDの進行例の特徴的所見ですが、非SjDの患者にも生じ得るため、この
病理像=SjDとは限りません。
注意点:
MALTリンパ腫の前駆病変とも考えられる、SjDの存在や他の膠原病の有無を確認する
必要がある。
・免疫チェックポイント:阻害薬によるシッカ症候群
PD-1/PD-L1、CTLA-4 阻害薬の使用後に:
比較的急速に発症する口腔乾燥SjDと異なり、ほとんどが新規発症、多くは腺外症状なし。
一部で関節炎・皮疹・間質性肺炎を伴うこともある。
・血管炎(特に GPA)
GPA(多発血管炎性肉芽腫症)では、稀に両側の耳下腺・顎下腺腫大を呈します。
しかし壊死性肉芽腫、ANCA陽性、血管炎の全身症状などから鑑別可能です。
11)全唾液量測定(Whole sialometry)
唾液分泌量を測定する簡易検査です。
方法:1. 口内の唾液を一度吐き出す
2. その後、決められた時間(5〜15分)唾液を容器に集める
3. 容器の重量差から唾液量を算出する
基準:0.1mL/分以下 → 唾液低下と判断
12)抗 Ro/SSA・抗 La/SSB 抗体
原則:SjDの60〜80%で陽性、健康人でも0.5〜1%陽性の場合あり。
近年の固相法アッセイは、感度は高いが特異度が低い。
13)乾燥(sicca)はSjDの特異的症状ではない点が重要です。
従って、乾燥症状だけではSjDとせず、客観的検査と背景因子の評価が必要です。
14)腺外症状(extraglandular features)からSjDが疑われる患者
乾燥症状が軽い、あるいはないにもかかわらず、以下の所見でSjDが疑われる場合が
あります:
末梢神経障害、腎病変(間質性腎炎、尿細管性アシドーシス)、皮膚血管炎、
間質性肺疾患、B細胞増殖性疾患、血液学的異常(白血球減少、低補体血症、
クリオグロブリン血症)
15)抗SSA/SSB 陽性で乾燥がない患者
以下の可能性があるため、注意して評価します:
SjD の前駆状態(前症状期)、他の自己免疫疾患、健康人の偶発陽性(特に低力価)
乾燥症状がなくても生検でSjDに特徴的な所見が出ることがあるため、必要に応じて
実施します。
抗体陰性でSjDを疑う患者、抗体陰性例でもSjDはあり得ます。
特に高齢者、SSA陰性だが著明な乾燥、超音波やMRIで典型的所見、腺外症状が顕著。
このような場合は、小唾液腺生検が決定的役割を果たします。
16)実際のアプローチ
乾燥症状 → まず非SjD原因を評価
典型所見 → 抗体検査+生検で確定
腺外症状 → 抗体・生検の重みが増す
抗体陰性でもSjDは否定できない