2025年12月06日

シェーグレン症候群・uptodateより

シェーグレン症候群・uptodateより



 uptodateより、実地医家にとっての心構えを導きたいと思い調べました。

この疾患では、外分泌腺の障害による乾燥症状に加えて、多臓器に及ぶ腺外(全身性)症状が
認められることがあり、臨床像は大きく「腺性症状」と「腺外症状」に分類されます。
SjD(シェーグレン症候群)は単独で発症する場合もありますが、関節リウマチや全身性エリテマ
トーデス(SLE)など、他の全身性自己免疫疾患に併発する形でみられることもあります。


1)類似語としては
  ・単独で起こるSjDを一次性(primary)、他の膠原病に併発するものを二次性
   (secondary)と呼んできました。
   しかし「secondary(二次性)」という言葉は誤解を招きます。
   なぜなら、SjDが他疾患の後から生じる合併症とは限らないこと、また臨床的重要性が
   二次的という意味ではないためです。
   従って現在では、他の膠原病と同時に存在する場合は “associated SjD(併発 SjD)”
   が好ましい用語とされています。

  ・Sicca syndrome(シッカ症候群)
   Sicca syndrome はSjDの同義語ですが、現在の医学教科書ではほとんど使われません。
   ICD(国際疾病分類)では2021年9月まで診断用語として使用されていました。
   尚“sicca complex”は別概念で、眼や口の乾燥症状があっても原因(病因)を特定
   しない場合を指します。

  ・Mikulicz syndrome(ミクリッツ症候群)
   Mikulicz syndrome は、耳下腺や涙腺の顕著な腫大を特徴とする状態を指します。
   SjDでみられることがありますが、IgG4関連疾患など他の病態でも起こり得ます 。
   2005年の Mikulicz の原著論文の再評価によると最初に報告された患者は、現在でいう
   MALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織リンパ腫)であった可能性が高いとされています。


2)軽度〜中等度の患者像
  乾燥症状(眼・口)が中心で、疲労感、筋肉痛、軽度の認知機能低下を伴うことがあり
  ます。
  このような症例でSjDの診断を支えるのは、抗 Ro/SSA 抗体の存在、小唾液腺生検での
  陽性所見(焦点スコア≧1)などです。
  こうした患者は、薬剤性の乾燥症状を伴う線維筋痛症やうつ病の患者と臨床的に似ている
  ため、鑑別が難しい場合があります。


3)重症例の患者像
  重症の患者では、耳下腺腫大(顕著)、リンパ節腫大、抗Ro/SSA・抗La/SSB 抗体の
  陽性、クリオグロブリン血症、 低補体血症、悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)の
  発症リスク、 多様な腺外症状などがみられます。


4)腺外症状が主体の患者
  少数の患者では乾燥症状がほとんどないにもかかわらず、抗 Ro/SSA 抗体が陽性、
  腺外臓器にSjDあるいはSLEを疑う所見 (例:末梢神経障害、腎症、間質性肺炎、
  血液異常、リンパ増殖性変化など)といった特徴を示す場合があります。


5)高齢者では乾燥症状はSjDより遥かに一般的で、約30%が乾燥症状(眼・口のいずれか、
  あるいは両方)を訴えます。
  原因は、薬剤、加齢による腺の萎縮などが大部分を占めます。
  客観的な涙液分泌量や唾液量の低下を示すのは、症状のある高齢者の約4%のみです。
  SjDそのものの発症は65歳以降では比較的稀ですが、高齢ではANAやリウマトイド因子の
  陽性率が高まるため、診断には注意が必要です。


6)SjDを疑うきっかけとしては、以下が挙げられます:
  持続する目の乾燥、口の乾燥、耳下腺腫大、歯の虫歯増加(特にう蝕の分布が不自然な
  場合)、特定の血液検査異常(抗 Ro/SSA 抗体、抗 La/SSB 抗体、リウマトイド因子、
  高ガンマグロブリン血症など)
  SjDは、単独の検査で確定する疾患ではありません。
  そのため、臨床症状、検査所見、画像所見など複数の情報を統合し、乾燥を来す他疾患を
  除外したうえで診断します。
  抗 Ro/SSA・抗 La/SSB 抗体があるだけでは、SjDとは言えません。
  これらの抗体は他の膠原病、健康な人にも見られる場合があります。


7)問診
  乾燥症状の問診(Symptoms of dry eyes and mouth)
  3か月以上、毎日乾燥症状があるかどうかを確認します。

  <眼の乾燥を尋ねる質問例>
  毎日、困るほどの目の乾燥がありますか?
  砂や小石が入っているような感覚を繰り返しますか?
  1日3回以上人工涙液を使用しますか?

  <口の乾燥を尋ねる質問例>
  3か月以上、毎日口が乾きますか?
  夜中に口の乾燥で、水を飲むために起きますか?
  乾いた食物を飲み込むために、水をよく飲みますか?
  成人してから唾液腺が腫れたことが繰り返しありますか?


8)身体診察(Physical examination)
  重点的に観察する所見:
  唾液腺の腫大、う蝕(特に歯頸部・切縁部のむし歯)、舌乳頭の萎縮(地図状、
  ざらつきの消失)、舌下部の唾液貯留の減少(プーリングの欠如)、
  唾液が1分以内に十分に貯まる場合、唾液低下の可能性は低いです。

  その他:
  下腿の紫斑、末梢神経障害、口腔カンジダ症などもSjDに伴う可能性があります。


9)血液検査
  以下を確認します:
  白血球減少、血小板減少、貧血、高ガンマグロブリン血症(ESR 上昇)、尿蛋白・血尿
  (腎病変の可能性)、尿濃縮低下、尿 pH≥7(遠位尿細管性アシドーシスの可能性)
  必須検査:抗 Ro/SSA 抗体、抗 La/SSB 抗体、ANA(蛍光抗体法)、リウマトイド因子。
  ANAが陰性でも、SSA/SSB が陽性の場合があります。(ANA は感度不足のため“スクリー
  ニングには不適”)


10)鑑別疾患
  ・良性リンパ上皮性唾液腺炎・涙腺炎
   (Benign lymphoepithelial sialadenitis / dacryoadenitis)
   涙腺・大唾液腺に:
   広範なリンパ球浸潤、腺房萎縮、リンパ上皮性病変(lymphoepithelial lesions)
   (導管上皮へのリンパ球侵入から上皮の増殖と構造破綻)
   これらはSjDの進行例の特徴的所見ですが、非SjDの患者にも生じ得るため、この
   病理像=SjDとは限りません。

   注意点:
   MALTリンパ腫の前駆病変とも考えられる、SjDの存在や他の膠原病の有無を確認する
   必要がある。

  ・免疫チェックポイント:阻害薬によるシッカ症候群
   PD-1/PD-L1、CTLA-4 阻害薬の使用後に:
   比較的急速に発症する口腔乾燥SjDと異なり、ほとんどが新規発症、多くは腺外症状なし。
   一部で関節炎・皮疹・間質性肺炎を伴うこともある。

  ・血管炎(特に GPA)
   GPA(多発血管炎性肉芽腫症)では、稀に両側の耳下腺・顎下腺腫大を呈します。
   しかし壊死性肉芽腫、ANCA陽性、血管炎の全身症状などから鑑別可能です。


11)全唾液量測定(Whole sialometry)
  唾液分泌量を測定する簡易検査です。

  方法:1. 口内の唾液を一度吐き出す 
     2. その後、決められた時間(5〜15分)唾液を容器に集める 
     3. 容器の重量差から唾液量を算出する

  基準:0.1mL/分以下 → 唾液低下と判断


12)抗 Ro/SSA・抗 La/SSB 抗体
  原則:SjDの60〜80%で陽性、健康人でも0.5〜1%陽性の場合あり。
     近年の固相法アッセイは、感度は高いが特異度が低い。


13)乾燥(sicca)はSjDの特異的症状ではない点が重要です。
  従って、乾燥症状だけではSjDとせず、客観的検査と背景因子の評価が必要です。


14)腺外症状(extraglandular features)からSjDが疑われる患者
  乾燥症状が軽い、あるいはないにもかかわらず、以下の所見でSjDが疑われる場合が
  あります:
  末梢神経障害、腎病変(間質性腎炎、尿細管性アシドーシス)、皮膚血管炎、
  間質性肺疾患、B細胞増殖性疾患、血液学的異常(白血球減少、低補体血症、
  クリオグロブリン血症)


15)抗SSA/SSB 陽性で乾燥がない患者
  以下の可能性があるため、注意して評価します:
  SjD の前駆状態(前症状期)、他の自己免疫疾患、健康人の偶発陽性(特に低力価)
  乾燥症状がなくても生検でSjDに特徴的な所見が出ることがあるため、必要に応じて
  実施します。
  抗体陰性でSjDを疑う患者、抗体陰性例でもSjDはあり得ます。
  特に高齢者、SSA陰性だが著明な乾燥、超音波やMRIで典型的所見、腺外症状が顕著。
  このような場合は、小唾液腺生検が決定的役割を果たします。


16)実際のアプローチ
  乾燥症状 → まず非SjD原因を評価
  典型所見 → 抗体検査+生検で確定
  腺外症状 → 抗体・生検の重みが増す
  抗体陰性でもSjDは否定できない











posted by 斎賀一 at 17:28| その他

2025年12月05日

シェーグレン症候群を早期に発見するには

シェーグレン症候群を早期に発見するには



スクリーンショット 2025-12-05 171930.png


       

https://www.medscape.com/viewarticle/which-diagnostic-steps-help-spot- HYPERLINK "https://www.medscape.com/viewarticle/which-diagnostic-steps-help-spot-sj%C3%B6gren-syndrome-early-2025a1000wc5"sj%C3%B6gren-syndrome-early-2025a1000wc5

https://www.univadis.fr/viewarticle/syndrome-gougerot-sj%C3%B6gren-plus-fr%C3%A9quente-des-2025a1000knq



 フランスからのネットでの報告です。
簡潔に纏められていますのでブログします。
Sjögren症候群は、主に涙腺と唾液腺に影響を及ぼす全身性自己免疫疾患であり、持続する眼・
口の乾燥、倦怠感、炎症性関節痛を引き起こします。
歴史的には稀な疾患と考えられてきましたが、現在では最も一般的な全身性自己免疫疾患と
認識されており、有病率は2%〜4%です。

初期症状は非特異的であり臨床像の幅も広いため、全身性合併症(リンパ腫を含む)リスクを
減らすには、早期の認識が不可欠です。
Sjögren症候群は一次性として発症することも、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身
性強皮症などの自己免疫疾患に併発することもあります。
外分泌腺のリンパ球浸潤により、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥、皮膚・気道・膣の乾燥が生じます。
典型的な三徴は、持続する乾燥感、慢性疲労、炎症性関節痛です。
乾燥性角結膜炎は視力低下や角膜潰瘍のリスクを高め、口腔乾燥は齲蝕や口腔カンジダ症の原因
となります。


1)臨床像
  全身性の病変は30%〜40%にみられます。
  表現型には、耳下腺炎、リンパ節症、脾腫、間質性肺疾患、遠位尿細管性アシドーシス、
  末梢神経障害、紫斑やレイノー現象などの皮膚症状が含まれます。
  リンパ腫の全体リスクは約5%であり、活動性の全身病変や免疫学的に活動性の高いプロ
  ファイルを持つ患者で、より高くなります。
  本疾患は女性に多く男女比は約9:1で、典型的には50歳前後で発症します。


2)診断基準
  診断は、臨床所見、検査、外分泌腺の機能評価、組織学の統合により行います。
  フランス国家保健庁(HAS)は、次の検査を推奨しています。

 ・検査(血液)
  抗核抗体の存在、特に抗SSA/Ro60及び抗SSB抗体
  リウマトイド因子(約半数で陽性)
  多クローン性高ガンマグロブリン血症
  補体(通常C4またはC3・C4)
  全身性病変が疑われる場合は、クリオグロブリン血症の評価

 ・機能検査
  シルマー試験:結膜円蓋部に濾紙を置き、5分で≤5mm
  染色スコア:フルオレセインなどで ≥5
  安静時唾液分泌量:15分で≤0.1mL/分

 ・組織(生検)
  小唾液腺生検でフォーカススコア ≥1(4 mm2あたり50個以上のリンパ球浸潤)

 ・活動性評価
  EULAR Sjögren’s Syndrome Patient Reported Index (乾燥、倦怠感、痛みの自己
                             申告評価)
  EULAR Sjögren’s Syndrome Disease Activity Index (臓器ごとの全身活動性評価)

 ・抗SSA/Ro60、抗SSB陽性の患者は、全身合併症のリスクが高くなります。
  最終的な分類は、2016年の米国リウマチ学会(ACR)/EULAR分類基準に基づき、
  スコア≥4 を必要とします。
  抗SSA/Ro60陽性または小唾液腺生検でフォーカススコア≥1→3点
  染色スコア≥5、シルマー≤5mm/5分、安静時唾液≤0.1mL/分→各1点

 ・除外基準には以下が含まれます:
  頸部放射線治療歴
  活動性C型肝炎
  HIV関連疾患
  サルコイドーシス
  アミロイドーシス
  移植片対宿主病
  IgG4関連疾患

 ・明確な基準があるにもかかわらず、臨床像の不均一性、早期乾燥症状の欠如、一般人口でも
  よくみられる症状と重なるため、診断は依然として困難です。

 ・管理と経過観察
  管理の焦点は、症状緩和と全身性合併症の予防です。
  治療は臨床像によって異なり、以下が含まれます:
  乾燥性角結膜炎
  保湿点眼剤、人工涙液
  口腔乾燥
  定期的な水分補給
  保湿ジェル、唾液代替、重曹うがい
  唾液分泌を刺激する調剤ピロカルピン
  全身性病変
  低用量ステロイド(通常 5–10 mg/日)
  ヒドロキシクロロキン
  メトトレキサート、リツキシマブなどの免疫抑制薬(臓器病変に応じて)


3)Sjögren症候群では、疾患活動性の評価、全身性病変の検出、リンパ腫リスク評価のため、
  歯科・眼科・臨床・検査による定期的フォローが必要です。
  2022年のフランス国家保健庁による国家診断・治療プロトコルは、長期フォローのための
  体系的ガイダンスを提供しています。
  治療は多職種連携であり、疾患重症度や進行に応じて調整されます。
  初期治療はプライマリケア医でも可能ですが、重症例では専門医や施設の関与が必要です。
  難治例・重症例・多臓器病変例では、専門センターへの紹介が推奨されます。
  患者教育プログラムは、日常での症状管理を改善するうえで重要です。






私見)
 以前のブログも下記に掲載します。
 やや心許ないので、次回uptodateより調べてみます。






1 原発性シェーグレン症候群.pdf

2 原発性胆汁性胆管炎(PBC).pdf

3 IgG4関連疾患について.pdf

4 シェーグレン症候群における間質性膀胱炎.pdf

5 リンパ球性間質性肺炎・シェーグレン症候群.pdf














posted by 斎賀一 at 18:05| その他

2025年08月09日

『私はとても静かになった』医師が自殺を試みるとき

『私はとても静かになった』医師が自殺を試みるとき
 
‘I Became So Quiet’: When Physicians Attempt Suicide
  
       
スクリーンショット 2025-08-09 133026.png

 



 Medscapeの記事によりますと、医師による自殺念慮が多いとの事です。


1)2022年の報告によれば、直近または現在の自殺念慮は医師のおよそ10%にみられ、これは
  2022年にCDCが報告した一般人口率の2倍超である。
  同研究はまた、自殺で亡くなった医師は自殺で亡くなった非医師と比べて、いくつかの
  異なる特徴を示すことも見いだした。
  医師は職務上の問題を抱える可能性が2倍超、法的問題を抱える可能性が40%高かった。
  さらに、致死的手段へのアクセスにより、医師は自ら命を絶つリスクが特に高い。
  JAMA Psychiatry の研究では、医師は薬物(毒物)による死亡の可能性が85%高く、
  鋭器の使用は一般人口の4倍超であった。


2)医療の現場にいる医師たちは、燃え尽き、非現実的な要求、自分のための余暇の少なさ、
  といった問題がある。
  内科・老年医学のアムナ・シャビール医師は、ケアを提供するためだけに事務や保険関連の
  「海」の様な業務と闘ってきたと語る。


3)こうした状態にもかかわらず、医師が自身の苦悩について沈黙を保つ障壁は、今だに存在
  する。
  歴史的に、医師免許や病院の資格審査申請書におけるメンタルヘルスに関する質問条項は、
  却ってメンタルヘルスや自殺念慮に関して支援を求めることを、罰則の対象になり得るとの
  恐れから妨げてきた。


4)医師の自殺は、コミュニティの問題でもあると強調する。

  「患者と医療提供者は診察台の両側にいると思いがちだが、実は同じ側にいる。
   私たちは皆、一緒に傷ついているのだ。」

  シャビール医師は2023年に Early Career Physicians Institute を設立し、燃え尽きや
  完璧主義に直面する医師たちへのコーチングを行っている。
  次世代の“癒す者”たちのメンタルヘルスに関する開かれた姿勢は、マイヤーズ医師に
  楽観を抱かせる。
  「『誰かのストーリーを読んで、自分は孤独ではないと気づいた』と話す医師は多い」
  と彼は言う。
  「自ら助けを求めることへの恥の意識が薄らいでいく。それは驚くほど力強いことだ。」





私見)
 記事には色々なケース報告がなされています。
 「涙の数ほど強くなれるよ」とは医師の場合はいきません。
 診察台の向こう側の、市井の患者さんの深い苦悩から多くを学べば良いのでしょうか。










posted by 斎賀一 at 14:09| その他