2022年09月06日

卵巣と子宮付属器の病変

卵巣と子宮付属器の病変

Lesions of the Ovary and Fallopian Tube
[N Engl J Med 2022;387:727-36]



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 雑誌NEJMに卵巣および子宮付属器の病変について総説が載っています。
要点をブログします。


1) 卵巣と卵管の疾患は閉経前の女性で35%、閉経後で17%罹患するとのデータがあります。
   卵巣と卵管は同じ血管領域のため、その病変の対応は同じ観点となります。
   卵巣の悪性腫瘍は、卵管の末端に浸潤しやすい構造です。
   早期の癌でも2〜10%がこの卵管に潜在しています。
   従って卵巣の悪性腫瘍の切除手術の際には、卵管も一緒に摘出します。

2) 鑑別診断は困難な場合があります。
   基本的には組織診断が必要ですが、侵襲的診断の処置によって悪性細胞が播種する危険が
   あります。

3) 卵巣および付属器における疾患に対しては、常にその緊急性が問われます。
   子宮外妊娠、茎捻転、悪性病変の有無等の鑑別が大事です。
   患者の妊娠の希望にも沿わなくてはなりません。
   胎児の安全性も重視する必要があります。

4) 高齢は悪性腫瘍の危険因子です。
   また悪性腫瘍の20%に、遺伝子異常が見つかっています。

5) 経腟の内診は精度に限界がありますが、外科的処置の情報には有効です。
   MRIの感度は81%で、特異度は98%です。CTは診断の精度において劣ります。
   腫瘍マーカーはCA-125が有効です。卵巣及び卵管の悪性上皮性腫瘍では、80%の
   精度です。
   閉経後の女性では感度は69〜87%、特異度は81〜91%です。
   CA-125が35単位以上で、腫瘤を認めれば、婦人科の癌専門医にコンサルトすべきです。
   但し進行がんの20%の患者にCA-125は正常です。
   また良性病態でもCA-125は増加します。

6) 最も多い卵巣の病変は嚢胞です。ほとんどが良性で50〜70%は自然に消退します。 
   また薄い隔壁があっても悪性のリスクはありません。
   20年の経過観察で、悪性化はありませんでした。
   症状がある場合や大きな嚢胞は手術の適応となりますが、基本的にはエコーでの管理観察
   となります。
   50歳以上の1,363例で、嚢胞が小さくても単純でなくcomponent(構成)がある場合を
   経過観察しますと、7か月以内に悪性の所見が現れます。
   ACOG学会は充実性病変がない安定した(変化のない)嚢胞病変は1年間の経過観察で
   よく、充実性病変があっても、安定した嚢胞病変は最大2年までは経過観察も可能です。

7) 出血性嚢胞、内膜症、成熟型奇形腫は全て良性です。
   症状がある場合は手術の適応となります。しかし今日では症状のない奇形種は経過観察と
   なっています。

8) 経過観察にエコー検査は有効です。







私見)
 本院では腹部エコーが検査の主体です。下記に論文を掲載します。






卵巣腫瘍1.pdf













posted by 斎賀一 at 21:21| 婦人科

2022年09月05日

卵巣・子宮付属器の病変

卵巣・子宮付属器の病変

院内勉強予習編
 


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 医療機関は女性の職場です。患者さんばかりでなく、職員の皆さん御身も勉強
する必要がありますので、予習編をブログします。

 ・ 先ずは、生命の進化の過程を説明します。

   単細胞生物から多細胞生物に進化する過程で、多細胞だけでは
   中心に酸素が行き渡りません。そこで、ある程度の多細胞になった
   時点で分化が起きます。


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   外側の鎧の部分が外胚葉、中心の臓器が内胚葉、その間を中胚葉
   が埋めます。外胚葉の一部が嵌入して、神経組織が発生します。
   神経組織は外胚葉です。

 ・ 生命の進化と、受精卵からの人体の発生は全く同じです。生命の不思議で、
   受精卵は胎内で進化の過程を経て、臓器が形成され胎児が形成されます。

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        (ネットより)


今回のテーマの卵巣・付属器は中胚葉です。

 ・ 先ず卵巣腫瘍から

   腫瘍の発生は、その発生母地の細胞が悪性変化して癌化しますので、
   腫瘍の組織は、発生母地に似ています。悪性度とは、正常の組織から、
   どの程度逸脱したかです。似ても似つかなければ、未分化癌の範疇に
   なります。卵巣の組織は、生命の源のため、あらゆる組織系が発生します。
   対照的に、胃がんは腺癌、肺がんは腺癌と扁平上皮癌が主体です。

 ・ 話を卵巣に戻しますと、卵巣、子宮、付属器は、中胚葉の上皮である
   中皮より発生します。
   下記の図の体腔上皮である、中皮の一部が特殊化して、卵巣の上皮となり、
   嵌入したミュラー管から、卵管、子宮、膣が形成されます。


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    (中皮とは、上皮の一種で、心膜、胸膜、腹膜など(まとめて
    漿膜という)をつくっている上皮の事を特別に呼ぶ名前。
    心膜、胸膜、腹膜は、それぞれ心膜腔、胸膜腔、腹膜腔
    という体内にある閉じた空間(=体腔という)の表面を
    覆っている膜です。)


 ・ 下記に卵巣腫瘍の発生母地を示します。
   (尿路系上皮に似たBrenner腫瘍と十二指腸のBrunner腫瘍を混同
    しないでください。)
   つまり、中皮である漿膜上皮から発生する腫瘍が嚢胞腺腫(cystic
   adenoma)で、それには良性から境界領域、悪性まであります。
   その他として、胚細胞、つまり卵そのもの、卵胞を包む層からの
   腫瘍があります。


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 ・ 話は戻りますが、卵巣が発達すると表層上皮が間質まで入り広がり、
   腺や嚢胞を形成します。従って間質からも嚢胞腫瘍が発生します。


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  下記のPDFに、卵巣腫瘍の組織分類を示します。
  
 ・ ネットの極めて簡単な下記の図から俯瞰しますと、殆どが嚢胞性腫瘍
   (cyst adenoma)です。
  

         0905-7.PNG 
       (ネットより)




私見)
 卵巣・子宮付属器の腫瘍は、殆どが良性のcyst adenoma(上皮性腫瘍)です。
 その他は多岐にわたりますが、患者さんもその診断名をきちんと担当医から説明してもらってください。ステージにもよりますが、組織診断により、予後がかなり異なります。

参考書籍
 ルービン病理学




卵巣腫瘍の臨床病理学的分類.pdf











posted by 斎賀一 at 22:39| 婦人科

2022年06月13日

本院でも子宮頸がんワクチン(HPV)の再開

本院でも子宮頸がんワクチン(HPV)の再開

<院内勉強編>



 本院でもHPVの予約をされる方が出始めています。
積極的に接種を希望される方ですので、万全を期したいと思います。
uptodateより纏めてみました。


1) ヒトパピローマウイルスは200種類ありますが、リスクの高い遺伝子型の16と18で
   子宮頸がんの70%が引き起こされます。
   2価のサーバリックスは16と18です。
   4価のガーダシルは 6、11、16、18を含んでいます。
   9価のガーダシル9は 6、11、16、18、に更に31、33、45、52、58です。
   (ガーダシル9は日本では自費扱いとなり、まだ公費負担はありません。
    20%アップとなります。)
   アメリカではガーダシルのみが採用されています。
   uptodateによりますと、9価のガーダシルを勧めています。

2) 11歳から12歳が推奨されていますが、9歳からも可能です。
   13歳から26歳のキャッチアップは推奨されますが、27歳以上は一般的に推奨されて
   おらず、個人ベースとなります。
   スケジュールを逃した場合には、いかなる時間が過ぎていてもやり直しではなく、再
   スタートができます。(投与間隔は厚労省の方針に従います。)
   再ワクチンは必要でなく、2価又は4価ワクチンの済んでいる人がガーダシル9を追加で
   接種することは推奨していない。





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3) 他のワクチンとの同時接種は可能ですが、コロナワクチンとは2週間の間隔が必要
   (本院では同時接種は行いません。)

4) 一般的なワクチン、特にHPVでは失神を起こしやすいので、接種後15分間の仰臥位が必要
   接種の同日の失神の危険率は6.0で、2週間以内の局所皮膚感染の危険率は1.8です。

5) 妊娠中の接種は問題がないが、念のため避けてください。
   授乳は問題がありません。

6) 効果は97%です。
   効果は若い人の方があります。



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私見)
 本院では基本ガーダシルを採用しますが、被接種者の人数を制限し、接種後30分間は
 仰臥位をお願いします。








1 HPV・子宮頸がんワクチン_.pdf

2 HPVワクチンに関するQ&A.pdf

3 頸がんワクチン 厚労省.pdf

4 HPVワクチンに関するQ&A|厚生労働省.pdf

5 Syncope After Vaccination.pdf











posted by 斎賀一 at 20:20| 婦人科