産後の子癇前症および高血圧性疾患の管理
Management of Postpartum Preeclampsia and Hypertensive Disorders
産後の血圧を厳格に管理することが、合併症のリスクを減らし患者の転帰を改善するか
どうかは不明でした。
アメリカでは子癇前症の発症が全妊娠の3〜6%もあり、その中で5〜12%は産後の高血圧障害
で病院を受診しています。産後の血圧管理がその後の人生で心血管疾患の予防に繋がる事は、
十分に推測できます。
アメリカの産婦人科学会のガイドラインでは、150/100を治療のターゲットにしています。
しかしAHAは、血圧全般に対し130/80を目標に掲げています。
出産後の母体の死亡の60%が高血圧関連です。産後の高血圧は殆どが出産後4〜6日です。
4〜6週で、妊娠前の血圧に回復します。
しかし、産後の血圧を自己測定すると、80%以上の人が高血圧状態を維持していました。
本論文では収縮期血圧130/80mmHg未満を目標とした厳格な降圧治療が、産後高血圧患者の
救急外来受診を減少させるかを検討しています。
1)18歳以上の産後高血圧患者を2023年3月〜2024年3月にかけて前向きコホートで募集し、
遠隔血圧モニタリングを用いて、血圧<130/80mmHgを維持する治療を行ないました。
一方で、2021年2月から2023年2月までに血圧<150/100mmHgを維持するための治療を
受けたレトロスペクティブコホートと比較されました。
最終的には276人と429人の患者が、それぞれ前向きコーホート研究の厳格群と、レトロ
スペクティブグループ(従来の管理)のコントロール群に残りました。
厳格群 (130/80mmHg未満)は、遠隔血圧モニタリングを用いた厳格な血圧管理、
コントロール群 (150/100mmHg未満)は、 過去の標準的な治療を受けた患者です。
主要アウトカムは、高血圧性疾患による救急外来受診としています。
2)結果
厳格群 (n=276) とコントロール群 (n=429) を比較しますと、
高血圧性疾患による救急外来受診率は、厳格群が3.6% (10名)で、コントロール群が
8.4% (36名)でした。リスク差は-4.8%でした。
産後6週間の血圧は、厳格群の収縮期血圧が4.4 mmHg低下 、拡張期血圧が3.1 mmHg
低下です。
結論)
血圧管理が厳格なほど、救急外来受診や産後合併症のリスクが減少しました。
(補足説明;
子癇前症は、妊娠20週以降に発症する高血圧と臓器障害が特徴です。
症状は多彩で、蛋白尿、肝腎機能障害、血小板減少、胎児発育不全(FGR)などがみられ
ます。
子癇は、子癇前症が進行して、けいれん発作(強直間代発作)が出現した状態を指します。
産褥子癇は出産後48時間以内に発症することが多いですが、まれに出産後7日〜数週間
以内に発症することもあります。
妊娠中毒症という言葉は過去の用語で、現在は妊娠高血圧症候群(HDP)が正式名称です。
HDP(Hypertensive Disorders of Pregnancy)には、以下の病態が含まれます。
妊娠高血圧(Gestational Hypertension):高血圧のみで蛋白尿なし
子癇前症(Preeclampsia):高血圧+蛋白尿
子癇(Eclampsia):子癇前症に痙攣を伴う
慢性高血圧合併妊娠:妊娠前から高血圧がある
慢性高血圧合併子癇前症:慢性高血圧に子癇前症を合併)
私見)
妊娠中並びに産後の血圧管理と尿検査は必須の様です。
本論文.pdf
妊娠と高血圧症.pdf
妊娠高血圧症候群.pdf
妊娠中の軽度慢性高血圧の治療.pdf