2024年11月13日

末梢性脊椎関節炎・その3

末梢性脊椎関節炎・その3


61113.PNG

   
   
 体軸性脊椎関節炎(axSpA)と末梢性脊椎関節炎(pSpA)は同じ脊椎関節炎の分類に入り
ます。
しかし全く独立した疾患ではなく、同じ「脊椎関節炎(SpA)」グループに属する異なるタイプ
と考えられています。
疾患の原因や病態生理の多くが共通しているため、疾患として完全に独立しているわけではあり
ません。
両者は共通の遺伝的背景や免疫系の異常によって発症すると考えられており、特にHLA-B27と
いう遺伝子との関連が指摘されています。
また、同じように炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-17など)が関与していることが多く、
関節炎や腱付着部の炎症が見られます。
体軸性脊椎関節炎は主に脊椎や仙腸関節などの「軸骨格」に影響を及ぼすのに対して、末梢性
脊椎関節炎は膝や足首などの「末梢関節」に症状が現れやすいです。
一部の患者では、軸性と末梢性の両方の症状が同時に現れることがあり、これも同じ脊椎関節炎
グループに属する理由の一つです。
つまり独立した疾患というよりも「脊椎関節炎」の異なる表現型として見なされることが多い
との事です。


末梢性脊椎関節炎(pSpA)についてuptodateより調べてみました。
末梢性脊椎関節炎は、症状と所見が体軸方向ではなく、主にまたは完全に末梢性の特徴を持つ
患者です。主に下肢および/または非対称性である関節炎が含まれます。
現在または過去の腰痛の既往歴を持つ人もいますが、腰痛が主な特徴ではありません。
一方、体軸性脊椎関節炎の患者は、時に末梢症状も存在しますが、末梢性脊椎関節炎のカテゴ
リーに含まれません。

治療に関しては、
軽度の関節炎の患者では、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) による治療を開始します。
関節の腫れの数が限られている患者は、関節内ステロイド注射の適応があります。
また、低用量から中用量の経口グルココルチコイドも選択肢です。

NSAID、関節内グルココルチコイド、および低用量経口グルココルチコイドに不適切に反応
する末梢関節炎の患者では、生物学的DMARDではなく、スルファサラジン(SSZ;毎日2.3 g)、
メトトレキサート(MTX;週1回最大25 mg)、またはレフルノミド(LEF;毎日20 mg)などの従来
のDMARDが推奨されています。

従来のDMARD療法に効果がない場合は生物学的DMARDに切りかえます。
代替の選択肢には、インターロイキン17(IL-17)阻害剤(セクキヌマブおよびイキセキズマブ)
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(トファシチニブおよびウパダシチニブ)が含まれます。


腱付着部炎
アキレス腱症や足底筋膜炎などの患者では、最初の治療薬としてNSAIDが勧められます。
ペリテンジン性ステロイド剤注射(ステロイド剤を腱の周囲組織(ペリテンジン)に注射
することを意味します。)は、一部の部位では有益かもしれませんが、他の部位、特に
アキレス腱では避けるべきです。NSAIDsおよび/または局所ステロイド剤注射による治療が
不十分な患者では、SSZ、MTX、LEFなどの従来のDMARDではなく、TNF阻害剤(関節炎患者
では a.)、IL-17阻害剤、またはJAK阻害剤などの生物学的製剤を使用します。


指炎
NSAIDsを初期治療に使用し、次の選択肢はTNF阻害剤(関節炎患者など)やIL-17阻害剤などの
生物学的DMARDで治療します。


個人的解説;
DMARD(Disease-Modifying Antirheumatic Drugs: 疾患修飾性抗リウマチ薬)には、大きく
分けて以下の4つのタイプがあります。

1. 合成DMARD (sDMARD)、(csDMARD):
  メトトレキサート (MTX): 最も一般的なsDMARDで、炎症を抑え関節の破壊を防ぎます。
  スルファサラジン: 抗炎症作用があり、リウマチや潰瘍性大腸炎にも使われます。
  レフルノミド: 免疫系を抑制する薬で、MTXと似た効果がありますが、異なる作用機序を
          持ちます。
  ヒドロキシクロロキン: 免疫調整作用があり、リウマチ以外にマラリア予防にも用いられ
              ます。

2. 生物学的製剤 (bDMARD)
  TNF阻害剤: インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど。
         TNFという炎症性物質を抑制します。
  インターロイキン (IL) 阻害剤:
         アナキンラ(IL-1阻害)、トシリズマブ(IL-6阻害)など、特定のインター
         ロイキンを抑制します。
  抗B細胞治療薬: リツキシマブなど、免疫反応に関わるB細胞を標的にします。

3. 目標分子阻害薬 (tsDMARD)
  JAK阻害剤: トファシチニブ、バリシチニブなど、JAK(Janusキナーゼ)という酵素を
         阻害し、炎症反応を抑制します。

4. PDE4阻害剤
  アプレミラスト: 炎症を抑えるためにPDE4酵素を阻害し、乾癬や乾癬性関節炎の治療に
           用いられます。

DMARDは疾患の進行を遅らせ、関節の破壊を防ぐことを目的としており、それぞれ異なる作用
機序や副作用の特性を持つため、患者ごとに最適な組み合わせが選択されます。

コセンティクス(Cosentyx)は、生物学的製剤(bDMARD)の一種に分類されます。
具体的には、インターロイキン-17A(IL-17A)阻害剤です。
コセンティクス(および他のbDMARD)は比較的早い段階で効果が現れることが多く、数週間
以内に症状の改善が期待されることが一般的です。
(一方で合成薬のcsDMARDは効果発現に時間がかかる(数週間から数ヶ月)ことがあり、初期
には効果が見えにくいこともあります。)
コセンティクスと他のbDMARDは感染症リスクが高まる(特に結核や真菌感染)事があり注意が
必要ですが、重大な副作用の発生率は低いとされています。
注射部位反応や、軽度のアレルギー反応もあります。

csDMARD:「conventional synthetic Disease-Modifying Anti-Rheumatic Drugs(従来型
      合成疾患修飾抗リウマチ薬)」の略称です。
      肝障害、腎機能障害、骨髄抑制などの副作用が見られることがあり、定期的な血液
      検査が必要です。






私見)
 治療に関して、体軸性脊椎関節は関節リウマチに対比する疾患で、末梢性脊椎関節炎は
 やや関節リウマチにかぶってる印象です。
 ともあれ本院の患者さんにおいては整形外科での診断は的確で、予後の良い疾患でもあり、
 治療コセンティクスも安全性が高いので、前向きに治療と仕事に取り組んでください。
 下記にコセンティクスのPDFを掲載します。






コセンティクス.pdf















posted by 斎賀一 at 19:57| 整形外科・痛風・高尿酸血症

2024年11月11日

体軸性脊椎関節炎・強直性脊椎炎の治療・その2

体軸性脊椎関節炎・強直性脊椎炎の治療・その2



61111.PNG

  
  

 体軸性脊椎関節炎は若年成人に特徴的にみられ、ピーク年齢は20歳から30歳です。
主に脊椎疾患と考えられているが、腱付着部炎、末梢関節の関節炎は、時には一過性であり、
患者の最大50%で発生します。従って疾患の活動性を定期的に測定し、それに応じて治療を
調整して転帰を改善する必要があります。
関節リウマチとは異なり、経口(低用量)のステロイド剤は体軸性脊椎関節炎には効果があり
ません。


uptodateより抜粋してブログします。

非薬物的介入
・禁煙に関するカウンセリング
 喫煙は、特に脊椎の構造的損傷が進行するだけでなく、心血管リスクやその他の健康面
 にも悪影響を与えるため、禁煙を勧めるべきです。

・運動は、体軸性脊椎関節炎の患者の心血管健康と疾患活動性を改善します。
 新たに体軸性脊椎関節炎と診断された患者は、初期評価とトレーニングのために理学療法士
 に紹介されるべきです。
 自宅での運動は効果的ですが、監督下の運動プログラムや正式な理学療法の方が有益であり、
 水治療法と組み合わせた運動療法は、運動単独よりも効果的かもしれません。


NSAIDによる初期薬物療法
 例としては、ナイキサン(1日2回最大500 mg)、セレコックス(1日2回最大200 mg)、
 ボルタレン(1日3回最大800 mg)などがあります。
 一部の患者では、NSIDsだけでコントロールが出来ます。
 患者の約70〜80%が、NSIDsにより腰痛やこわばりなどの症状が大幅に緩和されたと報告
 されています。
 NSAIDs、は末梢性型の症状も軽減するのにも役立ちます。
 ボルタレンには、変形性関節症(OA)患者における心血管リスク増加のエビデンスもあり
 ますが、ボルタレンはOAで見られたリスクと比較して、体軸性脊椎炎患者の場合の方が
 高かった。(オッズ比2.64) 
 このようなリスクは、ナイキサンを服用している患者では見られませんでした。
 非ステロイド性抗炎症薬(ΝSA.D)が2〜4週間以内に有効で、通常は症状に応じてオンデ
 マンドで使用されますが、一部の患者は効果を維持するために継続的に毎日の服用を必要
 とします。
 一部のデータでは、患者が無症候性であってもNSAIDsで継続的に治療することで、脊椎の
 シンデスモファイトの成長の形成を防ぐ可能性があることを示唆しています。
 しかし、これはその後の研究で確認できませんでした。
 一般的には無症候性の患者では、NSAIDを連続して使用していません。
 シンデスモファイト形成の予防は、セレコックス(100.200 mgを1日2回)で治療された215人
 の患者を対象とした2005年のスタディもあります。
 又別のスタディでは、167人がボルタレンによる継続的または必要な治療を受けたランダム
 化試験では、継続治療に割り当てられたグループで、2年後にX線写真の変化が減少したと
 いう証拠は見つかりません。
 (シンデスモファイト(syndesmophyte)形成とは、脊椎や関節において靭帯の付着部に
 新しい骨が形成される所見です。これは特に強直性脊椎炎やその他の脊椎関節炎といった  
 自己免疫性の炎症性疾患で見られ、脊椎の関節間に骨が成長し、関節が癒合していく
 ことで関節の可動域が制限される原因になります。)
 非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) による初期治療に対する不十分な効果の患者では、
 NSAIDs単独または従来の合成 (DMARD) のサルファサラジンなどの継続ではなく、腫瘍壊死
 因子 (TNF) 阻害剤を提案します。(SSZ)
 活性体軸性脊椎炎に対するこれらの薬剤の使用は、軽度から中等度の症状の患者に効果的
 であるにもかかわらず、疾患活動性が高い患者に特に適しています。
 末梢性関節炎の症状や所見が主な患者様では、まずcsDMARDを使用してからTNF阻害剤に
 切り替えます。


インターロイキン17阻害剤・セクキヌマブ
 抗IL-17Aモノクローナル抗体であるセクキヌマブは、体軸性脊椎関節炎患者に対するTNF
 阻害剤の代替薬です。セクキヌマブは、ローディング・ドーズの有無にかかわらず開始
 できます。(Loading Doseとは、薬物治療において、治療効果を迅速に得るために最初に
 通常の維持用量(Maintenance Dose)よりも多くの薬物を投与する初期投与量のことを
 指します。ローディング・ドースを使用することで、薬物の血中濃度を早く目標範囲まで
 上昇させ、治療効果を速やかに発現させることができます。)
 TNF阻害剤療法とは対照的に、セクキヌマブ治療下での潜在性結核再活性化の報告はあり  
 ません。したがって、セクキヌマブ(またはイキセキズマブ)などのIL-17阻害剤は、
 結核のリスクが高い患者に好ましい生物学的製剤です。
 長期的に良好な安全性は、4〜5年間の市販後調査データによって裏付けられています。
 カンジダ症を含む感染症は、試験の最初の16週間のプラセボ対照期間中にセクキヌマブ
 を投与された患者で、より一般的でした。
 治療の全期間中、好中球減少症、カンジダ感染、クローン病の発生率は、セクキヌマブで
 治療された患者のうち、それぞれ患者年100人あたり1例をわずかに下回っていました。

 体軸性脊椎関節炎は慢性疾患ですが、少数の患者は自然寛解の可能性があります。
 軽度の体軸性脊椎関節炎患者は、ほぼ完全な機能的および能力を維持することができます。
 大多数の患者は50代までに十分に回復することができました。
 生物学的療法がない場合でも、疾患活動性は個々の患者で変動し、症状は通常数十年に
 わたって持続しますが、疾患活動性の段階を発症後に、長期寛解となります。


予後指標
 生物学的製剤が利用可能になる前の時代では、多くの予後指標が同定された。
 例えばある研究では、328人の患者を評価しました。
 7つの変数が疾患の重症度の増加と相関していました。
  股関節炎 . OR 23
  ソーセージのような指 OR 8
  非ステロイド性抗炎症薬の効力が低い . OR 8
  高い赤血球沈降速度 (ESR; >30 mm/h) . OR 7
  腰椎の可動域の制限. OR 7
  単関節炎. OR 4
  16歳未満の発症 . OR 3
  CRPレベルの上昇は、仙腸関節と脊椎の両方でX線写真による進行のリスクの増加と関連
  しています。
  X線写真による進行の進行度の増加に関連する他の因子には、喫煙が含まれます。



今日の臨床サポートより

運動・理学療法:
 定期的な運動・体操により姿勢や脊椎・胸郭の動きを保ち、痛みを和らげて運動機能を
 促進する。入浴やシャワーの後にストレッチを行うことにより関節の可動域が保たれる。
 プールでの運動や水泳が理想的である。
 背骨を伸ばす運動や深呼吸をする運動が勧められる。
 個人に適した強さの体操や運動を、無理せず継続して行うことが重要。
 末梢関節炎に対してはスルファサラジン(アザルフィジンEN)が有効である。(未承認)
 グルココルチコイドは主に関節局所への注射が使用されるが、頻回に投与することは
 避けるべきである。
 なお、体軸症状に対してはメトトレキサート(MTX、未承認)を含む従来型合成疾患修飾
 性抗リウマチ薬(csDMARDs)が有効であるというエビデンスはない。


IL-17阻害薬:
 IL-17阻害薬もTNF阻害薬と同様にNSAIDsの効果が不十分な体軸症状、またはNSAIDsおよび
 局所へのグルココルチコイドやスルファサラジン内服によっても効果不十分な末梢関節炎
 に対して投与が考慮される。
 日本では、セクキヌマブ(コセンティクス)、イキセキズマブ(トルツ)、ブロダルマブ
 (ルミセフ)が承認されている。
 重要なことは、IBD(潰瘍性大腸炎とクローン病)が存在すると、IL-17阻害薬投与時に
 IBDが悪化するために、投与前と初期には十分注意が必要である。
 また、ぶどう膜炎に関してのIL-17阻害薬の有効性は認められていない。
 乾癬を有する患者がおり、乾癬が強い場合にはIL-17阻害薬を選択すべきである。
 その他の注意点は、カンジダ症と上気道炎などの感染症である。





       61111-2.PNG






  
私見)
 運動療法のパンフレット及び症例報告を下記のPDFに掲載します。
 次回、末梢型をブログし本院の取り組み方を纏めます。







1 体軸性脊椎炎 治療編.pdf

2 症例報告.pdf

3 体軸性脊椎関節炎の体操.pdf












posted by 斎賀一 at 20:34| 整形外科・痛風・高尿酸血症

2024年11月09日

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎)について・その1

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎)について・その1


1109.PNG

 


 最近、整形外科で体軸性脊椎関節炎の診断を受けた患者さんがおりました。
主治医の私に相談されましたので、生兵法ながらも勉強しました。
体軸性脊椎関節炎には、広い意味と狭い意味とがあるようです。広い意味では、全体としても
体軸性脊椎関節炎というのですが、レントゲンで所見がある場合を、r-axSpAで従来の強直性
脊椎炎と同義です。一方レントゲンに所見がない場合を、nr-axSpA で狭い意味での体軸性脊椎
関節炎です。(日本ではレントゲン検査で所見があれば強直性脊椎炎で、ない場合を体軸性脊椎
関節炎と言っても良いようです)
又、末梢性関節炎、末梢性腱付着部炎、末梢性指炎が主体の場合を末梢性SpAとしています。
 

         1109-2.PNG  


先ずはドクターサロンにより大まかに概略を理解しました。
関節リウマチの場合は、滑膜が炎症の場で、その後もここが主たる炎症の場になりますが、
強直性脊椎炎では靱帯の骨への付着部に始まります。つまり関節外です。
要するに、あちこち骨の出っ張った所で、そこに圧痛が生じるのが初期の特徴です。
X線像で骨萎縮や、破壊による骨関節の変形が見られる関節リウマチRAに対して、強直性脊椎炎
ASではその変形は少なく、関節をつなぐ靭帯の骨化が特徴的です。脊椎炎とはいうものの、
股、膝、足などの末梢関節炎(痛)で初発するケースが3割ぐらいあって、脊椎炎という病名に
とらわれていると、ついつい見逃してしまいます。末梢関節から初発する場合もあることは
覚えておくべきです。強直性脊椎炎の痛みは、動くと楽で、じっとしていても良くならないと
いうのは、通常の腰痛とはやや違う点です。安静では良くならないのが特徴です。
炎症の初発が靱帯の骨への付着部ですから、あちこち骨の出っ張った部位の圧痛が特徴です。
多いのは大腿骨の大転子、それからアキレス腱や足底腱膜の付着部である踵骨、さらには脊椎の
棘突起、腸骨稜とか、鎖骨とか肋骨などです。要するに骨が出っ張っているところです。
脊柱の可動域は必ず調べなければならないのですが、最初は伸展が悪くなりますので、通常は
前傾姿勢になり、うつ伏せで寝るのが辛くなります。
治療は、やはりまずはNSAIDsです。これだけで6〜7割のケースがコントロール可能です。
一つ大事なことは、関節リウマチではMTXとかSASP、その他種々のDMARDsが使われますが、
これらが強直性脊椎炎ASに対して有効であるというエビデンスはほとんどないことです。日本のリウマチ医の先生方は、強直性脊椎炎ASでも関節リウマチRAと同じ方針で薬物療法を開始
されますが、これらはほとんど効かないということに留意すべきです。
NSAIDsを2種類使って、見るべき効果がなかったら、次は直ちに生物学的製剤をといわれているぐらい選択肢が少ないのです。
生物学的製剤は有害事象もあまり重いものは出ませんし、中年になると自然に病勢が沈静化するケースが多いのも強直性脊椎炎の特徴ですから、人生の大切な時期に生物学的製剤をうまく使用することで、より有意義な人生を送れるという点からも、この薬の強直性脊椎炎に対する使用価値は高いといえます。

uptodateに詳しく調べますと、

 1) nr-axSpAの10〜40%が、2〜10年後にr-axSpAに進展します。
    診断は総合的に行われます。従って、単一な症状や所見からは診断が出来ないのです。

 2) 主な臨床所見  
    #炎症性腰痛(inflammatory Back Pain(IBP)
     ・ 40歳より若くして出現
     ・ 潜在性発症
     ・ 運動で軽快
     ・ 安静では軽快しない  
     ・ 夜間に増悪し起床すると軽快
    上記の5つの特徴のうち4つの存在はIBPの可能性。
    リウマチ専門医によって評価された、45歳以下での腰痛の原因と、発症が不明な慢性
    腰痛患者の腰痛の炎症性原因に対して、IBPを考慮すると、それぞれ80%と74%の
    感度と特異度を持っています。
    ただし、IBPが存在し、他の要因を考慮しないと、慢性腰痛患者のaxSpAの確率は
    5%から14〜16%にしか増加しません。
    一般集団におけるaxSpAの有病率は、腰痛の他の原因の有病率と比較して低いです。
    したがって、IBPの存在を唯一の診断基準として使用する場合、axSpAの偽陽性診断の
    割合は高くなります。
    腰痛の他の原因を持つ人の約20%がIBPと同様の症状を訴え、IBP患者の40%は
    axSpAを発症することなく自然に解消します。さらに、かなりの数のaxSpAの患者は、
    これらのIBP基準を満たす腰痛を持っていません。
   (IBPは炎症に関連した腰痛の一種で、特に若年者に多く、長期間続く傾向があります。
    朝のこわばりや夜間痛、運動による改善などの特徴を持ち、一般的な腰痛とは異なり
    ます。
    IBPの原因は多くの場合、免疫系の異常であることが多く、非感染性の炎症によって
    引き起こされますが、IBP自体が特定の疾患を示すものではなく、症状の一部です。
    IBPは症状(炎症による腰痛)を指し、AxSpAは、特定の疾患グループを指します。
    IBPを経験している人の一部がAxSpAと診断されることがありますが、すべてのIBP
    患者がAxSpAを患っているわけではありません。)
 
    #左右交互に起こる臀部痛
    このような痛みは、片側性のままではなく、左右の臀部領域(交互の仙腸炎を反映)を
    交互に繰り返す
  
    #腱鞘炎による踵の痛み–
    腱炎による踵の痛みは、踵骨へのアキレス腱や足底筋膜のかかとの痛み、または圧痛
    として現れます。
    
    #指炎(ソーセージ指)
    指炎は、足の指や指のびまん性腫脹で、「ソーセージ指」とも呼ばれます。
  
    #主に下肢の非対称関節炎
    これには、特にそれが単一関節性、非対称性、および主に下肢のものである場合、
    関節炎の過去、または現在の病歴が含まれます。
  
    #前部ぶどう膜炎(虹彩炎)
    これは、ぶどう膜炎が眼科医などのブドウ膜炎の専門家によって、通常は細隙灯検査
    によって診断された場合に最も役立ちます。
  
    #クローン病または潰瘍性大腸炎
    確認されたクローン病または潰瘍性大腸炎の過去または現在の病歴で、axSpAの
    可能性が高まります。
 
    #乾癬
    過去または現在の乾癬で、axSpAの可能性が高まります。
 
    #NSAIDsに対する疼痛症状の良好な反応
    NSAIDに対する良好な反応の病歴は、axSpAの診断に非常に役立ちます。
    多くの原因の腰痛を持つ患者は、NSAIDの抗炎症剤で治療すると改善する可能性が
    ありますが、24〜48時間以内の痛みの著しい改善はaxSpAの診断をサポートする
    可能性があります。それ自体は診断機能として特定されていません。
    
    #SpA の家族歴
    陽性の家族歴は、axSpA、ブドウ膜炎、反応性関節炎、乾癬、または炎症性腸疾患の
    診断の第一度、または第二度の近親者に存在することとして定義されます。
    特に、axSpAまたはブドウ膜炎の家族歴の存在は、慢性腰痛患者のaxSpAを特定する
    のに有用です。
 
 3) 単純レントゲン検査
    axSpAが疑われるすべての患者は、仙腸関節を視覚化するために、X線撮影で十分で
    あることが多く、放射線被曝が禁忌の患者は、代わりにMRIを受けるべきである。
  
    グレード0: 正常
    グレード1: 疑わしい(ただし確定的ではない)変化
    グレード2: 最小限の異常–関節幅に変化のない、びらんまたは硬化を伴う
    グレード3: 明白な異常 – 中等度または進行性の仙腸炎で、びらん、硬化、
          関節腔の広がり、狭窄、または部分的な強直症の 1 つ以上
    グレード4: 関節の全強直症

今日の臨床サポートより

  ・ 脊椎関節炎(spondyloarthritis: SpA)はいくつかの疾患のグループ名であり、
    以前は⾎清反応陰性脊椎関節炎(seronegative spondyloarthritis)と⾔われて
    いた。SpAに属する疾患は、強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis: AS)、
    反応性関節炎(reactiv arthritis: ReA)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis:
    PsA)、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)に伴う脊椎関節炎
   (IBD-SpA)、分類不能脊椎関節炎(undiffertentiated SpA: uSpA)である。
  
  ・ SpAの特徴は、古くは関節リウマチ(RA)と区別する目的で確⽴された。
    つまり、
     1)  ⾎清のRFは陰性である
     2)  RAで認められる⽪下結節やその他の関節外病変は認めない
       SpAがRAとは異なることが明らかになり、
     3)  体軸関節炎を伴う(その症状は炎症性腰背部痛)
     4)  末梢性関節炎を伴う(ASでは下肢を中⼼に、非対称性、4カ所以下の関節炎)
     5)  付着部炎・指趾炎を伴う
     6)  家族性発症が認められ、HLA-B27が重要である
     7)  乾癬、炎症性腸疾患、前部ぶどう膜炎などの関節外症状を認める
    が、SpAの特徴として知られている。

        1109-3.PNG
  

  ・ ⽇本の強直性脊椎炎AS友の会の報告では、10〜20歳代に初発症状を認める。
    重要なことは、この初発症状から強直性脊椎炎ASが進⾏する場合と、末梢関節炎
    による初発症状は起こるが、⼀旦⾃然寛解し、その後に体軸性関節炎が発症する
    症例も存在するということである。

  ・ 仙腸関節炎・脊椎炎︓
    仙腸関節・脊椎は体軸関節(axial joint)と呼ばれる。仙腸関節炎・脊椎炎の
    典型的な臨床症状は、IBPである。つまり、脊柱を中⼼とした⾝体のこわばりがあり、
    腰殿部痛(仙腸関節痛、坐骨関節痛)、項部痛、胸部痛が主症状である。
    初期には、背部痛の激痛発作〜軽快を繰り返すことが多い。病状の進⾏に伴い、
    脊柱の可動域制限が⽣じ、進⾏例では、脊柱の強直に⾄る。可動域制限により、
    脊柱は後彎傾向になり、特徴的な前傾・前屈姿勢になる。
    重要なことは、全脊椎の強直化に進⾏するのは強直性脊椎炎ASの全症例ではなく、
    約30%にすぎないということである。

          1109-4.PNG

  
  ・  付着部炎(enthesitis)︓
     関節周囲の靱帯付着部(踵部、⼤腿骨⼤転⼦、脊椎棘突起、腸骨稜、鎖骨、肋骨など)
     に炎症が起こり、疼痛が⽣じる。滑膜炎(synovitis)と鑑別を要する(つまり関節
     リウマチとの鑑別が必要)。
     線維筋痛症に認める圧痛点と鑑別する必要があり、線維筋痛症の圧痛点は、強直性
     脊椎炎ASの付着部炎と異なり、広範囲に及ぶ。

  ・  末梢関節炎︓
     全経過中末梢関節炎は、80%以上の症例に認められる。股、肩、膝、⾜の順に、
     ⽚側性に出現する。初発症状が末梢関節炎であることも30%の症例に認められる。
     単なる関節痛ではなく滑膜炎である(末梢関節炎では滑膜炎が起きている)。
     股関節に多い。下肢に⽚側性に起こることが特徴である。

   ・ ぶどう膜炎︓
     前部ぶどう膜炎は約30%に認められ、再発性で、⽚側性である。診断時に、
     ぶどう膜炎の既往を聞くことが必要である。発作は⽚側性である。
     経過中は左右どちらかに起こる。

  問診・診察のポイント

 •  45歳未満に始まった腰痛で、3カ⽉以上の継続を認められることが多い。
 •  腰痛は安静時に悪化し、体動時に改善する傾向があれば「炎症性背部痛」を疑う。
 •  明け⽅に腰痛のため起こされ、腰痛は右や左と⼀定しない場合「炎症性背部痛」を疑う。
 •  家族にAS、またはSpAが存在すれば、可能性は⾼い。
 •  腰痛は、NSAIDs内服48時間以内に改善される。
 •  前部ぶどう膜炎の既往があれば可能性は⾼い。
 •  腰部の激痛は数⽇間続き、急に⾃然に緩和することが特徴である。
 •  股肩膝の関節痛や、⽪疹の存在または既往を聞く。
 •  頭髪、臍部、⽖、肘、膝など乾癬の好発部位を診る。⼿掌、⾜底の⽪疹を診る。
 •  下⾎、下痢、腹痛などの既往を聞き、IBD-SpAが存在しないか注意する。
 •  仙腸関節の圧痛、頚椎から腰椎までの叩打痛、アキレス腱の触診、付着部炎の確認、
   股肩膝の関節を診察する。
 •  前屈時に頚・胸・腰椎の屈曲を診る。

体軸病変の進⾏は⼀部の症例では寛解し、また進⾏が停⽌している症例も存在することを
理解することが重要である。
 
       1109-5.PNG


 
私見)
 画像が多くなってしまいましたので下記にPDFとして掲載します。
 次回、治療編を作成します。






体軸性脊椎関節炎画像.pdf











posted by 斎賀一 at 19:00| 整形外科・痛風・高尿酸血症