末梢性脊椎関節炎・その3
体軸性脊椎関節炎(axSpA)と末梢性脊椎関節炎(pSpA)は同じ脊椎関節炎の分類に入り
ます。
しかし全く独立した疾患ではなく、同じ「脊椎関節炎(SpA)」グループに属する異なるタイプ
と考えられています。
疾患の原因や病態生理の多くが共通しているため、疾患として完全に独立しているわけではあり
ません。
両者は共通の遺伝的背景や免疫系の異常によって発症すると考えられており、特にHLA-B27と
いう遺伝子との関連が指摘されています。
また、同じように炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-17など)が関与していることが多く、
関節炎や腱付着部の炎症が見られます。
体軸性脊椎関節炎は主に脊椎や仙腸関節などの「軸骨格」に影響を及ぼすのに対して、末梢性
脊椎関節炎は膝や足首などの「末梢関節」に症状が現れやすいです。
一部の患者では、軸性と末梢性の両方の症状が同時に現れることがあり、これも同じ脊椎関節炎
グループに属する理由の一つです。
つまり独立した疾患というよりも「脊椎関節炎」の異なる表現型として見なされることが多い
との事です。
末梢性脊椎関節炎(pSpA)についてuptodateより調べてみました。
末梢性脊椎関節炎は、症状と所見が体軸方向ではなく、主にまたは完全に末梢性の特徴を持つ
患者です。主に下肢および/または非対称性である関節炎が含まれます。
現在または過去の腰痛の既往歴を持つ人もいますが、腰痛が主な特徴ではありません。
一方、体軸性脊椎関節炎の患者は、時に末梢症状も存在しますが、末梢性脊椎関節炎のカテゴ
リーに含まれません。
治療に関しては、
軽度の関節炎の患者では、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) による治療を開始します。
関節の腫れの数が限られている患者は、関節内ステロイド注射の適応があります。
また、低用量から中用量の経口グルココルチコイドも選択肢です。
NSAID、関節内グルココルチコイド、および低用量経口グルココルチコイドに不適切に反応
する末梢関節炎の患者では、生物学的DMARDではなく、スルファサラジン(SSZ;毎日2.3 g)、
メトトレキサート(MTX;週1回最大25 mg)、またはレフルノミド(LEF;毎日20 mg)などの従来
のDMARDが推奨されています。
従来のDMARD療法に効果がない場合は生物学的DMARDに切りかえます。
代替の選択肢には、インターロイキン17(IL-17)阻害剤(セクキヌマブおよびイキセキズマブ)
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(トファシチニブおよびウパダシチニブ)が含まれます。
腱付着部炎
アキレス腱症や足底筋膜炎などの患者では、最初の治療薬としてNSAIDが勧められます。
ペリテンジン性ステロイド剤注射(ステロイド剤を腱の周囲組織(ペリテンジン)に注射
することを意味します。)は、一部の部位では有益かもしれませんが、他の部位、特に
アキレス腱では避けるべきです。NSAIDsおよび/または局所ステロイド剤注射による治療が
不十分な患者では、SSZ、MTX、LEFなどの従来のDMARDではなく、TNF阻害剤(関節炎患者
では a.)、IL-17阻害剤、またはJAK阻害剤などの生物学的製剤を使用します。
指炎
NSAIDsを初期治療に使用し、次の選択肢はTNF阻害剤(関節炎患者など)やIL-17阻害剤などの
生物学的DMARDで治療します。
個人的解説;
DMARD(Disease-Modifying Antirheumatic Drugs: 疾患修飾性抗リウマチ薬)には、大きく
分けて以下の4つのタイプがあります。
1. 合成DMARD (sDMARD)、(csDMARD):
メトトレキサート (MTX): 最も一般的なsDMARDで、炎症を抑え関節の破壊を防ぎます。
スルファサラジン: 抗炎症作用があり、リウマチや潰瘍性大腸炎にも使われます。
レフルノミド: 免疫系を抑制する薬で、MTXと似た効果がありますが、異なる作用機序を
持ちます。
ヒドロキシクロロキン: 免疫調整作用があり、リウマチ以外にマラリア予防にも用いられ
ます。
2. 生物学的製剤 (bDMARD)
TNF阻害剤: インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど。
TNFという炎症性物質を抑制します。
インターロイキン (IL) 阻害剤:
アナキンラ(IL-1阻害)、トシリズマブ(IL-6阻害)など、特定のインター
ロイキンを抑制します。
抗B細胞治療薬: リツキシマブなど、免疫反応に関わるB細胞を標的にします。
3. 目標分子阻害薬 (tsDMARD)
JAK阻害剤: トファシチニブ、バリシチニブなど、JAK(Janusキナーゼ)という酵素を
阻害し、炎症反応を抑制します。
4. PDE4阻害剤
アプレミラスト: 炎症を抑えるためにPDE4酵素を阻害し、乾癬や乾癬性関節炎の治療に
用いられます。
DMARDは疾患の進行を遅らせ、関節の破壊を防ぐことを目的としており、それぞれ異なる作用
機序や副作用の特性を持つため、患者ごとに最適な組み合わせが選択されます。
コセンティクス(Cosentyx)は、生物学的製剤(bDMARD)の一種に分類されます。
具体的には、インターロイキン-17A(IL-17A)阻害剤です。
コセンティクス(および他のbDMARD)は比較的早い段階で効果が現れることが多く、数週間
以内に症状の改善が期待されることが一般的です。
(一方で合成薬のcsDMARDは効果発現に時間がかかる(数週間から数ヶ月)ことがあり、初期
には効果が見えにくいこともあります。)
コセンティクスと他のbDMARDは感染症リスクが高まる(特に結核や真菌感染)事があり注意が
必要ですが、重大な副作用の発生率は低いとされています。
注射部位反応や、軽度のアレルギー反応もあります。
csDMARD:「conventional synthetic Disease-Modifying Anti-Rheumatic Drugs(従来型
合成疾患修飾抗リウマチ薬)」の略称です。
肝障害、腎機能障害、骨髄抑制などの副作用が見られることがあり、定期的な血液
検査が必要です。
私見)
治療に関して、体軸性脊椎関節は関節リウマチに対比する疾患で、末梢性脊椎関節炎は
やや関節リウマチにかぶってる印象です。
ともあれ本院の患者さんにおいては整形外科での診断は的確で、予後の良い疾患でもあり、
治療コセンティクスも安全性が高いので、前向きに治療と仕事に取り組んでください。
下記にコセンティクスのPDFを掲載します。
コセンティクス.pdf