2023年02月20日

関節リウマチの発病機序の多様性

関節リウマチの発病機序の多様性

Rheumatoid Arthritis − Common Origins,Divergent Mechanisms
[N Engl J Med 2023;388:529-42.]



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 関節リウマチは膠原病の一種ですが、他の疾患とは機序が複雑で趣も異なります。
診断における血液検査の抗CCP抗体(ACPA)は、感度は80%以下と低いですが特異度は
90%以上と高く、また骨破壊の進行の指標としてもルーチン検査として有効です。
ACPAは、上皮細胞に存在するシトルリン残基を認識する抗体です。
最近ではこのACPAが診断ばかりでなく、疾患そのものの原因機序に関与しているとも
言われています。特にタバコとの関係が指摘されています。

 雑誌NEJMに発生機序に対する総説が載っています。ACPAにおける免疫系も詳細に記述
されていますが、門外漢の私は端折ってブログします。下記の図をご参照ください。


1) 関節リウマチは症状が出る前から免疫系の異常が起こり、段階を経て進行する疾患です。
   乾癬性関節炎などの他の関節疾患とは異なり、関節リウマチは色々な免疫機能の経路を
   経て発症してきます。
   臨床症状は同じでも、発症の過程は患者により異なります。
   前臨床期では、先ず粘膜上皮(口腔内、肺、消化管)における免疫機能の異常が生じて
   います。最初は局所ですが、やがて全身に進展しACPAが陽性となります。
   臨床期の4.5年前からそれは認められます。

2) 関節リウマチは女性の方が男性の2〜3倍多いのは、エストロゲンが関与しているからだと
   思われています。
   感染症も疑われています。
   EBウイルス、細菌、マイコプラズマ、口腔内細菌(porphyromonas gingivalis)等
   です。タバコ、肥満、ビタミンD欠乏、避妊薬も可能性が指摘されています。
   特にタバコによって細気管支の粘膜に肥厚が生じ、排出したDNAを好中球が捕捉し、
   免疫機能の活性化を誘発してAPCAが高値となります。

3) 関節リウマチは対称性の小関節が侵されますが、その病態は関節滑膜の疾患で進行性
   です。パンヌスと言って恰も悪性腫瘍の様に増殖します。
   このパンヌスに免疫細胞が集結し、症状の悪化を招きます。

4) 免疫機能の病態の主体は、末梢性ヘルパーT細胞(Tph)です。
   Tph細胞はB細胞の増殖及び抗体産生の形質細胞への分化を促進します。
   更にマクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞が連動してきます。
   パンヌスから破骨細胞の活性も誘発されます。

5) 全身の免疫機能の異常ですから、関節リウマチは関節ばかりでなく全身の多臓器にも
   病変が起こります。

6) (雑駁な解説となりましたが、下記の図譜をご参照ください。)





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私見)
 関節リウマチの治療の進歩も目覚ましいものがあります。
 以前の私のブログをご参照ください。治療は複雑な免疫機能をターゲットにしています。
 原因の究明も盛んな様です。









posted by 斎賀一 at 15:13| 整形外科・痛風・高尿酸血症

2023年01月27日

人工関節周囲感染症

人工関節周囲感染症

Periprosthetic Joint Infection
[N Engl J Med 2023;388:251-62]



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 人工関節周囲感染症の総論が雑誌NEJMに掲載されていますのでブログして見ます。


1) 人工関節周囲感染症は稀な疾患です。
   臨床的には本来の骨や関節の感染症とは異なります。
   感染は細菌を始めとした微生物ばかりでなく、関節インプラントと患者の免疫機能とも
   関係してきます。
   微量の細菌(場合により真菌も)が人工関節周囲感染症を引き起こしますが、原因菌は
   皮膚の細菌叢が、関節インプラントの表面に付着して手術の後に細菌が周囲に広がった
   り、血行性や局所組織の感染巣から波及します。
   細菌はbiofilmという膜を形成し、白血球や抗生剤の攻撃を避けます。




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2) 臨床症状
   主な症状は関節痛です。
   時には炎症の局所症状である発赤、腫脹、局所の熱感がありますが、全身の発熱はない
   事が多いです。
   排出膿漏が原因の事もありますが、多くの症例では関係はありません。
   非感染性の人工関節の不全との鑑別が困難な症例もあります。

3) 細菌
   細菌が病原の主体ですが、極めて稀に真菌のこともあります。
   70%が単独細菌ですが、25%は多菌種です。
   細菌培養で原因菌が同定されるのは45%です。
   肩関節の人工関節周囲感染症の場合は、44%がアクネ菌です。
   下記の表を参照




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4) 危険因子
  下記の表を参照 




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  肺炎などの他の臓器の感染症を併発している場合は、人工関節の手術は遅らせた方が
  賢明です。関節リウマチを罹患している場合も危険因子となります。
  人工関節の手術そのものが90分以上かかる場合も、危険率は1.6倍に上がります。

5) セファゾリンが予防投与に推奨されていますが、切開部が縫合されたら中断しても
   よいです。

6) 診断
   レントゲンや血液検査は診断に特異的でありません。
   血液培養は2回実施する必要があります。
   プロカルシトニンも時に有効です。残念ながら決め手になる診断ツールはありません。







私見)
 稀な疾患ですが、人工関節周囲感染症は何年たっても発症の可能性があります。
 単なる不具合と思わずに、本疾患を念頭に置く必要がありそうです。









posted by 斎賀一 at 18:31| 整形外科・痛風・高尿酸血症

2022年12月02日

高齢者の尿酸降下薬・ザイロリックの初期用量

高齢者の尿酸降下薬・ザイロリックの初期用量

<短 報>
Initiation Dose of Allopurinol and the Risk of Severe Cutaneous Reactions
in Older Adults With CKD: A Population-Based Cohort Study



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 慢性腎臓病の患者においては、ザイロリックの用量を調整しなくてはなりません。
アメリカの学会では、ザイロリックの初期量は100mgからで、腎機能低下では50mgを勧奨して
います。
 今回、特に高齢者で慢性腎臓病の場合は、初期量に注意が必要との論文が出ています。


1) 対象は66歳以上で、腎機能のeGFRが60以下です。
   ザイロリックの初期量を100mg以上と100mg以下に分けて、処方開始から180日以内での
   重篤な皮膚反応で医療機関を受診した頻度を比較しています。

2) 47,315人が登録しています。
   平均年齢は76歳、eGFRの平均は45です。
   初期量が100以上の群が25,802人で、100以下の群が25,816人です。
   重篤な皮膚反応(スティーブン-ジョンソン症候群とTEN)の発生率は
   100以上群で0.40%、100以下群で0.18%でした。
   重篤な皮膚反応は500人に1人で稀な副反応ですが、時に生命を脅かします。






私見)
  ザイロリックの復権が言われています。30年前の私の手帳にも50mgからと記載して
  いました。今回の論文でエビデンスとして明白に記載されています。
  下記に書籍のPDFも載せました。


  ・薬の禁忌 100   富野康日己順天堂大学  医学書院








本論文.pdf

手帳より.pdf

ザイロリック 薬の禁忌100.pdf












posted by 斎賀一 at 20:28| Comment(1) | 整形外科・痛風・高尿酸血症