潜在性甲状腺機能低下症
n engl j med 376;26 nejm.org June 29, 2017
NELMに症例形式の総説が載っていましたので、纏めてみました。
本院でも潜在性(血液検査の異常だけで明白な症状がないし、治療がすぐに必要でない)の甲状腺機能低下の患者さんが多く来院されます。
今回の総説では、実地医家にとって明快な解説になっており大変参考になります。
1) 提示された症例は、71歳の女性、高血圧の治療中、4年前に心筋梗塞の既往があります。
甲状腺の腫大はありません。
TSH : 甲状腺刺激ホルモンは6.9 (正常は0.4~4.3)
Free-T4 : 甲状腺ホルモンは19と正常 (正常は11~25)
(元来、甲状腺ホルモンが低下しているので、それを刺激するTSHが多く分泌されている。
つまりFree-T4は正常だがTSHが高値の場合を、潜在性甲状腺機能低下と診断します。)
2) Free-T4が少量でも低下するとTSHが反応するようです。
3) 軽症と中等度の境界は、一般的にTSHの値が10としています。
(10以下が軽症)
4) 高齢者、女性、ペルオキシダーゼ抗体陽性者は、TSHとFree-T4の関係が直線状で比例関係
です。
5) 年間で2~6%が顕性甲状腺機能低下に移行するが、46%が2年以内に正常化する。
6) 一般的に、鬱、記銘力低下、倦怠感、体重増加、寒冷に弱い、便秘が症状としては多い。
7) 心血管との関連性が以前より報告されていますが、
TSHが4.5~6.9では危険率は1です。
7.0~9.9では1.17で、10~19.9では1.89と増加します。
TSHが7以上では、心不全や脳卒中も増加傾向です。
8) 女性の場合は、不妊、流産、妊娠中毒症、妊娠時高血圧症との関連性もありそうです。
9) 潜在性甲状腺機能低下の疑いがあれば2〜3か月後に再検し、更にペリオキシダーゼ抗体を測定
して治療方針を決定する。
10) エコー検査は有効であるが、ルーチンには勧奨していない。
(しかし本院ではルーチンに行う価値があると認識しています。)
11) 治療はチラージンを用いるが、25~75μとする。
一般的には25μから始めるが、6カ月しても症状が改善されなければ治療は中止する。
(治療効果については色々な研究結果があり、バイアスや基礎データが各研究で異なっており結論
が相反しています。よって省略します。)
12) 年齢と伴にTSHの値が増加します。それと治療の判断とが明白になっていないようです。
下記のPDFを参照ください。
13) 本患者に対して、筆者は結論的に鬱、倦怠感があり、3か月後に再検して一時的なものを除外
出来たらチラージンでの治療を開始する予定との事です。
しかし既往歴の心筋梗塞の有無は、投与に関して考慮しないとしています。
また、60歳以上では治療によりTSHが低下しすぎると、心房細動や骨折のリスクが却って増加
するので、定期的なチェック検査をする必要があります。
私見)
ためになる事がいっぱいあり、覚えきれません。
結局次のように理解すれば良いでしょうか。
1)妊娠をしているかをチェック
2)潜在性甲状腺機能低下の疑いがあれば、3か月後に再検
3)その際にペリオキシダーゼ抗体も追加検査
4)再び潜在性甲状腺機能低下であれば、年齢を考慮して患者さんと相談する。
TSHが10以上でペリオキシダーゼ抗体が陽性ならチラージン25μを開始し、効果が無ければ3か月
後に中止の方向と説明する。
尚、私のブログの甲状腺のカテゴリーから、以前の記事を紐解いていただき再度確認してください。
(本院職員の皆さん、私もビックリする位いい事を書いています。)
潜在性甲状腺機能低下.pdf