抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
SIADH,SIAD
SIADH,SIAD
The Syndrome of Inappropriate Antidiuresis
[n engl j med 389;16 nejm.org October 19, 2023]
[n engl j med 389;16 nejm.org October 19, 2023]
外来で低ナトリウム血症を呈する患者さんは意外に多く見かけます。
先ずSIADHを疑いますが、今回雑誌NEJMに総説が載っていましたのでブログに纏めてみます。
(抗利尿ホルモンADHは現在AVPと一般的には命名されていますが、馴染みのバゾプレッシン
としてブログします。)
1) 低ナトリウム血症は外来、入院患者共によく見られる病態です。
軽度;130〜134、中等度;125〜129、高度;125以下に分類されます。
低ナトリウム血症は、腎臓からの水分の排出(水分利尿;aquaresis)が障害された
状態です。
利尿障害は抗利尿ホルモン(バゾプレッシン;AVP)の分泌過剰によります。
一般的には高浸透圧や循環血液量の低下がバゾプレッシンの分泌を促します。
血液量減少及びある種の血液量増加障害(例えば、心不全)に関連する低ナトリウム血症
では、水分貯留は有効動脈血量の減少が誘因となり、バゾプレッシンの放出によって
引き起こされます。
逆にSIADでは浸透圧および血行動態の刺激がない状態、つまり正常の血液量の状態で
不適切にバゾプレッシンが分泌されます。
バゾプレッシンの分泌とは関係なく(independent)水分利尿の障害が起きるために
低ナトリウム血症が起こります。この原因にはナトリウムなどの電解質摂取の低下、
急性腎障害、慢性腎臓病があります。
稀ですが、低ナトリウム血症は過剰な水分摂取が水分利尿を上回っている場合に起き
ます。病態の原因に関わらず、腎臓や他の部位からの水分の消失を水分の摂取が上回ら
なければ、低ナトリウム血症は起きません。
低ナトリウム血症は65歳以上の入院患者では40%に認められ、その中で25〜40%は
SIADです。特にSIADは年齢と共に増加の傾向です。
加えて腎糸球体ろ過率の低下、腎のプロスタグランジンの低下、浸透圧や非浸透圧に
関わらずバゾプレッシンの反応の増加によって、年齢による水分利尿が障害されます。
塩分やたんぱく質の摂取不足が高齢者ではよく見られ、それが水分利尿の障害とも
なります。
そのため水分摂取が中等度に多いと低ナトリウム血症となってしまいます。
48時間以内の急性のSIADでは脳浮腫が起き、倦怠感、頭痛となりますが、重症の場合は
痙攣や昏睡ともなります。
脳の恒常化機能により、48時間以上の慢性のSIADでは症状は軽微です。
しかし重篤な慢性SIADでは嘔気、嘔吐、頭痛、錯乱、幻覚、稀に痙攣も起きます。
認知障害、歩行障害、転倒、骨折などが単なる年齢によるものと誤診され、SIADが
見過ごされます。
2) 診断
SIADでは、正常血液量、低浸透圧、低ナトリウム血症の証明が診断の根幹です。
必ずしもバゾプレッシンの測定が必須ではありません。
ヨーロッパの診断基準では尿中ナトリウムと尿浸透圧が診断の基本ですが、実地臨床
では省略されているのが現状です。
原因疾患は一つ以上のことが多いです。
抗うつ薬、特にSSRIが原因となることもあります。17〜60%が原因不明です。
私見)
立派な論文は目からウロコです。診断基準を下記に掲載します。
私なりに纏めてみますと、
・SIADとは水分利尿の障害です。正常血液量、低浸透圧、低ナトリウム血症が基本です。
それなのにバゾプレッシン(AVP)が分泌されている。
(原因と結果が混在しているため私の頭は混乱します)
・AVPの分泌により一時的に低浸透圧となり、AVPの作用でRAS系が抑制されナトリウム
利尿が起きます。(RAS系は腎からのナトリウムを再吸収する作用です。)
(AVPの分泌亢進により、SIADでは一時的に循環血液量が増加した希釈性低ナトリ
ウム血症や低血漿浸透圧を呈します。しかし、AVPの分泌亢進状態が長時間持続すると
ダウンレギュレーションが生じて部分的に水利尿が回復します。
これはAVPエスケープ現象と呼ばれます。
それと同時に、循環血液量増加により二次的にナトリウム利尿のペプチドレニン-
アンジオテンシン-アルドステロン(renin-angiotensin-aldosterone:RAA)系が
抑制され、尿にナトリウムを多く排斥します ;ネットより)
診断基準と私のメモを下記に掲載します。
SIADH診断基準.pdf
私のメモ.pdf