2023年10月24日

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 SIADH,SIAD

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
SIADH,SIAD

The Syndrome of Inappropriate Antidiuresis
[n engl j med 389;16 nejm.org October 19, 2023]



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 外来で低ナトリウム血症を呈する患者さんは意外に多く見かけます。
先ずSIADHを疑いますが、今回雑誌NEJMに総説が載っていましたのでブログに纏めてみます。
(抗利尿ホルモンADHは現在AVPと一般的には命名されていますが、馴染みのバゾプレッシン
 としてブログします。)


1) 低ナトリウム血症は外来、入院患者共によく見られる病態です。
   軽度;130〜134、中等度;125〜129、高度;125以下に分類されます。
   低ナトリウム血症は、腎臓からの水分の排出(水分利尿;aquaresis)が障害された
   状態です。
   利尿障害は抗利尿ホルモン(バゾプレッシン;AVP)の分泌過剰によります。
   一般的には高浸透圧や循環血液量の低下がバゾプレッシンの分泌を促します。
   血液量減少及びある種の血液量増加障害(例えば、心不全)に関連する低ナトリウム血症
   では、水分貯留は有効動脈血量の減少が誘因となり、バゾプレッシンの放出によって
   引き起こされます。
   逆にSIADでは浸透圧および血行動態の刺激がない状態、つまり正常の血液量の状態で
   不適切にバゾプレッシンが分泌されます。
   バゾプレッシンの分泌とは関係なく(independent)水分利尿の障害が起きるために
   低ナトリウム血症が起こります。この原因にはナトリウムなどの電解質摂取の低下、
   急性腎障害、慢性腎臓病があります。
   稀ですが、低ナトリウム血症は過剰な水分摂取が水分利尿を上回っている場合に起き
   ます。病態の原因に関わらず、腎臓や他の部位からの水分の消失を水分の摂取が上回ら
   なければ、低ナトリウム血症は起きません。
   低ナトリウム血症は65歳以上の入院患者では40%に認められ、その中で25〜40%は
   SIADです。特にSIADは年齢と共に増加の傾向です。
   加えて腎糸球体ろ過率の低下、腎のプロスタグランジンの低下、浸透圧や非浸透圧に
   関わらずバゾプレッシンの反応の増加によって、年齢による水分利尿が障害されます。
   塩分やたんぱく質の摂取不足が高齢者ではよく見られ、それが水分利尿の障害とも
   なります。
   そのため水分摂取が中等度に多いと低ナトリウム血症となってしまいます。
   48時間以内の急性のSIADでは脳浮腫が起き、倦怠感、頭痛となりますが、重症の場合は
   痙攣や昏睡ともなります。
   脳の恒常化機能により、48時間以上の慢性のSIADでは症状は軽微です。
   しかし重篤な慢性SIADでは嘔気、嘔吐、頭痛、錯乱、幻覚、稀に痙攣も起きます。
   認知障害、歩行障害、転倒、骨折などが単なる年齢によるものと誤診され、SIADが
   見過ごされます。

2) 診断
   SIADでは、正常血液量、低浸透圧、低ナトリウム血症の証明が診断の根幹です。
   必ずしもバゾプレッシンの測定が必須ではありません。
   ヨーロッパの診断基準では尿中ナトリウムと尿浸透圧が診断の基本ですが、実地臨床
   では省略されているのが現状です。
   原因疾患は一つ以上のことが多いです。
   抗うつ薬、特にSSRIが原因となることもあります。17〜60%が原因不明です。






私見)
  立派な論文は目からウロコです。診断基準を下記に掲載します。

  私なりに纏めてみますと、
  ・SIADとは水分利尿の障害です。正常血液量、低浸透圧、低ナトリウム血症が基本です。
   それなのにバゾプレッシン(AVP)が分泌されている。
   (原因と結果が混在しているため私の頭は混乱します)

  ・AVPの分泌により一時的に低浸透圧となり、AVPの作用でRAS系が抑制されナトリウム
   利尿が起きます。(RAS系は腎からのナトリウムを再吸収する作用です。)

   (AVPの分泌亢進により、SIADでは一時的に循環血液量が増加した希釈性低ナトリ
   ウム血症や低血漿浸透圧を呈します。しかし、AVPの分泌亢進状態が長時間持続すると
   ダウンレギュレーションが生じて部分的に水利尿が回復します。
   これはAVPエスケープ現象と呼ばれます。
   それと同時に、循環血液量増加により二次的にナトリウム利尿のペプチドレニン-
   アンジオテンシン-アルドステロン(renin-angiotensin-aldosterone:RAA)系が
   抑制され、尿にナトリウムを多く排斥します ;ネットより)

   診断基準と私のメモを下記に掲載します。







SIADH診断基準.pdf

私のメモ.pdf











posted by 斎賀一 at 18:51| 甲状腺・内分泌

2023年07月26日

男性更年期障害のホルモン補充療法の安全性

男性更年期障害のホルモン補充療法の安全性

Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy
[N Engl J Med 2023;389:107-17]



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 テレビの健康番組で、男性の更年期障害に対してテストステロン補充療法を紹介して
いました。
その治療法の心血管疾患に対する安全性・副作用を調べた論文が、雑誌NEJMに掲載されて
いますのでブログします。

一般的に男性の更年期障害(LOH症候群)とは
・男性ホルモン(テストステロン)が年齢と共に低下することによって、様々な症状が生じる。
・加齢による男性ホルモンの低下やストレスが原因だと考えられている。
・40-60歳の男性で発症することが多い。

症状は、性欲低下、勃起障害 (ED)、抑うつ、だるさ、不眠です。
(以上ネットより  ・・・私は全てに合致します。)


以下本論文より(一部、日本版よりコピペ)

1) 方法
   心血管疾患の既往を有する、またはそのリスクが高く性腺機能低下症の症状を訴え、
   空腹時テストステロンの 2 回の測定値が 300 ng/dL未満であった、45〜80 歳の
   男性 5,246 例を組み入れた患者を、1.62%テストステロンゲル(テストステロン
   濃度 350〜750 ng/dL を維持するように用量を調節)を 1 日 1 回塗布する群と、
   プラセボゲルを塗布する群に無作為に割り付けた。
   心血管安全性の主要エンドポイントは、心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞
   非致死的脳梗塞の複合項目のいずれかが最初に発生した時とした。
   副次的心血管のエンドポイントは、心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞です。
 
2) 結果
   平均投与期間は 21.7±14.1 ヵ月、平均追跡期間は 33.0±12.1 ヵ月であった。
   主要心血管エンドポイントのイベントは、テストステロン群では 182 例(7.0%)、
   プラセボ群では 190 例(7.3%)に発生した(ハザード比 0.96)心房細動、
   急性腎障害、肺塞栓症の発生率は、テストステロン群のほうが高かった。




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  懸念される副作用として

  ・前立腺癌はテストステロン群で12例(0.5%)、プラセボ群で11例(0.4%)でした。
  ・ ハイグレードの癌はテストステロン群で5例、プラセボ群で3例でした。
  ・ PSA値はテストステロン群の方が0.20高値です。
  ・収縮期血圧は、テストステロン群の方が0.3mmHg高めです。
  ・治療を要する不整脈は、テストステロン群で134例(5.2%)で、
   プラセボ群では87例(3.3%)でした。
  ・心房細動は91例(3.5%)対63例(2.4%)です。
  ・急性腎障害は60例(2.3%)対40例(1.5%)でした。




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3) 考察
   以前の報告では肺塞栓症の報告が見られたが、調べると血小板の増多の人で発生して
   いた。
   血小板数を事前に調べることにより回避できる。
   本試験では、血栓症を有する人には注意を払っている。
   心房細動の発生は、テストステロン補充療法の量を最小にすることにより回避できる。
   テストステロン補充療法は性欲の低下、骨量の増加、原因不明の貧血、うつ状態の改善に
   期待されるが、それらの症状は生命にかかわるものではないため、治療には一般的に
   積極的ではありません。
   しかし今回の調査により、心血管疾患に対するマイナス点は余り認められませんでした。

4) 結論
   心血管疾患の既往を有する、またはそのリスクが高い性腺機能低下症の男性において、
   テストステロン補充療法は、主要有害心イベントの発生に関して、プラセボに対しては
   非劣性を示した。






私見)
 テストステロン補充療法はそれ程心配はないようですが、懸念される前立腺と心房細動には
 注意が必要なようです。
 本院では検査はしますが治療は行っていません。
 私はと言えば...。
 ホルモンは枯渇していますが、それよりも猛暑とクーラー病と、水まきでフラフラして
 います。年をとるという事は、あらゆるものを失って、枯渇していくことの様です。
 ホルモン以前の問題のような気もします。











posted by 斎賀一 at 19:19| 甲状腺・内分泌

2022年10月12日

副腎偶発腫瘍(incidentaloma)の発生頻度

副腎偶発腫瘍(incidentaloma)の発生頻度

<短 報>
Prevalence and Characteristics of Adrenal Tumors
in an Unselected Screening Population



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 中国からの報告です。
健康な人を対象にしたスクリーニング検査で、副腎偶発腫瘍の頻度は1.4%との事です。


1) 無症状の人25,000人を対象にしています。年齢は18〜78歳です。
   12か月ごとの経過観察で、良性の腺腫との鑑別と内分泌の検査を行っています。

2) 10mm以上の腫瘍の頻度は1.4%です。65歳以上の場合は3.2%です。
   351例の副腎偶発腫瘍の中で、腺腫が337例、14例が他の良性腫瘍でした。
   悪性腫瘍は一例もありません。

3) 症例の3分の2が内分泌検査を実施しています。
   69%が正常(non-function)の腺腫
   20%が自律的コルチゾール分泌(autonormous corisol secretion;クッシング症候群)
   12%がアルドステロン症でした。
   褐色細胞腫は一例もありませんでした。





私見)
 本院では、電解質異常や高血圧患者さんにホルモン検査をして、二次施設に副腎腫瘍の
 検査依頼を行います。
 本論文と検査対象が逆転していますが、殆どが良性である点は患者さんを紹介する際に
 良い方向です。







本論文.pdf









posted by 斎賀一 at 18:35| Comment(1) | 甲状腺・内分泌