2022年10月12日

副腎偶発腫瘍(incidentaloma)の発生頻度

副腎偶発腫瘍(incidentaloma)の発生頻度

<短 報>
Prevalence and Characteristics of Adrenal Tumors
in an Unselected Screening Population



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 中国からの報告です。
健康な人を対象にしたスクリーニング検査で、副腎偶発腫瘍の頻度は1.4%との事です。


1) 無症状の人25,000人を対象にしています。年齢は18〜78歳です。
   12か月ごとの経過観察で、良性の腺腫との鑑別と内分泌の検査を行っています。

2) 10mm以上の腫瘍の頻度は1.4%です。65歳以上の場合は3.2%です。
   351例の副腎偶発腫瘍の中で、腺腫が337例、14例が他の良性腫瘍でした。
   悪性腫瘍は一例もありません。

3) 症例の3分の2が内分泌検査を実施しています。
   69%が正常(non-function)の腺腫
   20%が自律的コルチゾール分泌(autonormous corisol secretion;クッシング症候群)
   12%がアルドステロン症でした。
   褐色細胞腫は一例もありませんでした。





私見)
 本院では、電解質異常や高血圧患者さんにホルモン検査をして、二次施設に副腎腫瘍の
 検査依頼を行います。
 本論文と検査対象が逆転していますが、殆どが良性である点は患者さんを紹介する際に
 良い方向です。







本論文.pdf









posted by 斎賀一 at 18:35| Comment(1) | 甲状腺・内分泌

2021年09月15日

潜在性甲状腺機能低下症の症状と治療

潜在性甲状腺機能低下症の症状と治療
 
Does Subclinical Hypothyroidism Add Any Symptoms?
Evidence from a Danish Population-Based Study



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 潜在性甲状腺機能低下症とは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値ですが甲状腺ホルモン(free-T4)
が正常の場合です。
多くが橋本病です。意外に患者さんは多く、本院でも症状から検査をして診断に至りますが、甲状腺エコーの所見から鑑別診断をすることがあります。
 症状から診断・治療を行ってはならないとするデンマークからの論文が出ていましたので、纏めてみま
した。


1) 1997年から2005年までに8,903人の登録をしています。
   潜在性甲状腺機能低下症の群376人、甲状腺機能正常のコントロール群7,619人です。
   以前の研究から、関連症状を次の13項目にしています。
   倦怠感、乾燥肌、気分のむら、便秘、動悸、落ち着きのなさ、息切れ、喘鳴、咽頭不快感、嚥下困難、
   脱毛、めまい、及び頸部痛です。

2) 結果は、顕性甲状腺機能低下症の症状のスコアを用いて調べますと、潜在性甲状腺機能低下症群と
   甲状腺機能正常のコントロール群の差はありませんでした。
   ただし潜在性甲状腺機能低下症群では合併症が多く、そのために倦怠感、息切れ、喘鳴が多い傾向
   でした。TSH値との症状の関連性もありませんでした。
   若い人で精神的側面の倦怠感、落ち着きのなさ、不安定感が多く認められました。
   息切れは肥満、喫煙との関連性がありました。

3) 結論として、潜在性甲状腺機能低下症だからといって特別な症状はないようです。
   従って症状の緩和のためにチラーヂンS(甲状腺ホルモン剤)を処方するのでなく、むしろその症状
   の鑑別診断を優先すべきとしています。





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私見)
 甲状腺機能低下症の場合には、症状の軽減のための処方は意味がなさそうです。
 十分な鑑別と経過観察が必要です。






甲状腺機能低下症.pdf










posted by 斎賀一 at 19:47| Comment(0) | 甲状腺・内分泌

2020年07月18日

甲状腺結節の診断

甲状腺結節の診断
 
Thyroid Nodules: Advances in Evaluation and Management


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 エコー検査の際に偶然、甲状腺に腫瘤を見つけることがあります。
大まかに言って下記の疾患を鑑別していきます。


・腺腫様甲状腺結節
  一見、良性の腺腫様に見える過形成疾患です。
  時間の経過とともに濾胞性変性、線維化、石灰化、骨化、出血という二次的変化が起きます。
  上皮が濾胞内腔に乳頭状に一見増殖することがあり、乳頭癌と誤診しないよう注意が必要です。
   (飯島病理より)

・腺腫様甲状腺腫
  上記の腺腫様甲状腺結節が多発している場合です。病理的には過形成疾患です。
  言葉的に注意が必要です。良性の腺腫に見えるが単に甲状腺が腫れている、つまり甲状腺腫です。
  (脾臓が腫れれば脾腫といいますが、甲状腺が腫れているから甲状腺腫ということになります。
   外国ではgoiterと言って混乱が生じません。)

・良性の甲状腺濾胞性腺腫
  さすがに腺腫は甲状腺から言葉的に離れています。
  単純性腺腫、コロイド腺腫、好酸性細胞腺腫、異型腺腫があります。
  (ルービン病理より)
  異型腺腫は、病理的にも癌との鑑別が困難です。

・甲状腺癌
  乳頭癌と濾胞癌がありますが、細胞の形で決めてしまいますので乳頭癌が多くなります。


 甲状腺の結節を鑑別するのは、実地医家にとってはかなりしんどいです。
勉強すればするほど袋小路に入ってしまいます。
勢いで専門家に紹介することが多いのですが、その際に一度単純に考えて、それから詳細に検索した
方がよい場合があります。
それにぴったりの論文が雑誌american family physicianの総説に載っていましたので、
纏めてみました。


1) 甲状腺に結節病変が見つかるのは、68%といわれています。
   しばしば偶然に発見され、ほとんどが良性です。甲状腺刺激ホルモン(TSH)が正常、または高値の
   場合は、原則としてFNA(穿刺細胞診)が勧められる場合もありますが、一般的には低エコーの充実
   性で1cm以上の結節性病変の場合に推奨されています。

2) 最近では、細胞診に分子生物学的診断を併用する傾向です。
   残念ながらエビデンスが十分でない点と長期予後のデータに乏しく今後の研究が待たれますが、
   臨床家も積極的に取り入れることが大事です。

3) 悪性の可能性があれば、6〜9ヶ月のエコーの再検が必要です。

4) 完全な嚢胞性(cystic)の場合やスポンジ状または嚢胞性が優位の場合は、ほとんどが良性のため
   2cm以上の場合のみFNAを勧めます。
   もしもFNAを行わない場合は、12~24ヶ月後のエコー再検を推奨します。

5) 実地医家の場合は結節が増大傾向の場合は紹介が必要であるが、繰り返しのFNAで悪性の診断が
   なければ、その後はエコーのみの経過観察で増大に注意すればよい。




          20718-2.PNG



 

私見)
 参考文献を下記のPDFに掲載します。
 さすがに厚かましい私でも、ガイドラインのテキストは一部とさせていただきます。
 閲覧希望の方は医院長に申し出てください。または是非購入してください。






甲状腺エコー 伊藤病院.pdf

甲状腺腫瘍の超音波診断.pdf

抜粋.pdf








posted by 斎賀一 at 16:33| Comment(0) | 甲状腺・内分泌