2025年03月14日

ペニシリンアレルギーのある患者におけるセファロスポリン系処方の指針

ペニシリンアレルギーのある患者におけるセファロスポリン系処方の指針

Navigating cephalosporin prescribing in patients allergic to penicillin



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 医療ネットでペニシリンアレルギーがあっても、セファロスポリンは安全かもしれないとの
記事が載っていましたので、ブログします。
以前の私のブログでも同様の内容を報告しておりましたが、再確認です。


1)ペニシリンアレルギーの報告は6〜25%と、ばらつきが大きいです。
  要因としては、殆どの報告が自己申告の形で、正確な評価はされていません。
  ペニシリンアレルギーの報告は、多くが子供の頃です。
  そもそもペニシリンアレルギーは、10年以上経過すると80%まで軽減、消失します。

2)セファロスポリン系のアレルギーは、約2%と低率です。
  アレルギーに関与するのはベータラクタム環ではなく、側鎖のR1とR2です。
  第一世代のセファロスポリンはR1がペニシリンと似ていますが、その後のセファロス
  ポリン系のR1はペニシリンと異なっています。
  そのためアレルギーの交差反応は殆どありません。
  ペニシリンアレルギー患者にセファロスポリン系を処方して、アレルギー反応が起きた
  との報告は事例紹介です。

3)ペニシリンアレルギーに対する警告が解除されてからは、セファロスポリン系処方が
  17.9%から27%に増加し、ペニシリンアレルギー患者に対してセファロスポリン系の
  処方は、47%にまで増加しています。

4)ペニシリンアレルギー患者において、セフェム系抗生物質の使用は多くの場合安全で
  あり、適切なリスク評価とアレルギー確認を行うことで、不要な抗生物質回避を防ぐ
  ことができます。
  医師は慎重なアプローチをとるべきですが、誤ったアレルギー情報に基づく治療制限を
  減らすことが重要です。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       

5)補足説明;



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   ペニシリンには側鎖Rがありますが、セファロスポリンにはR1とR2があります。




   


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   ペニシリンであるサワシリンとセファロスポリンはR1が異なっています。






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                            以上 香長中央病院より


 https://ameblo.jp/kachyomasa/entry-12699622037.html 




       
 R1は抗菌活性の決定要因でペニシリン結合タンパク質(PBP)との親和性に影響を与え、
 細菌に対する抗菌力を左右します。(セファロスポリン系の場合でも)
 R2は薬物動態(半減期、排泄経路)の決定要因で、体内動態(T1/2、代謝、排泄)に影響を
 与えます。更に組織移行性の調節や、血中濃度の持続性、髄液移行性に関与します。
 つまり、ペニシリンアレルギーとセファロスポリンの交差反応性は、R₁側鎖(7位側鎖)の
 類似性によって決まります。

   第一世代セファロスポリン (交差反応リスク:高い 5〜10%)
   第二世代セファロスポリン (交差反応リスク:2〜5%)
   第三世代・第四世代セファロスポリン (交差反応リスク:1%未満)

 本院で処方するロセフィン、バナン、メイアクトはR2がなく、交差反応リスクは1%とされて
 います。(プロドラッグとしての側鎖はあります。)






私見)
 サワシリンを処方する場合はアレルギー反応検査を行いますが、セファロスポリンに
 対しては行っていません。
 幸いな事か分かりませんが、セファロスポリン系の抗生剤は現在でも出荷制限が掛かって
 います。







Navigating cephalosporin.pdf

香長中央病院医局勉強会.pdf









2024年09月07日

黄色ブドウ球菌に対する抗生剤の効果は?

黄色ブドウ球菌に対する抗生剤の効果は?

Comparative in vitro efficacy of antibiotics against
the intracellular reservoir of Staphylococcus aureus

<短 報>


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 黄色ブドウ球菌に対する抗生剤の効果の機序を、in vitro(試験管内)で調べた論文がありま
した。黄色ブドウ球菌に感染すると、しばしば菌血症を起こします。
血流に乗って黄色ブドウ球菌は、肝臓の網様体系(貪食細胞)であるKupffer細胞に取り込まれ
ます。それにより黄色ブドウ球菌は排除され、菌血症は解消されます。
しかし、Kupffer細胞内に留まり生き残る菌もあります。
そこでは抗生剤からの攻撃も逃れることが出来、結局は血液の中からの排除(クリアランス)が
遅くなり、死亡率にも悪影響を受けます。


1) 本論文は、生体と同じくPHが低い条件での実験です。
   抗生剤のMIC(最小発育阻止濃度)を比べています。
   MICが小さいほど抗生剤は感受性が高く有効です。
   具体的な抗生物質としては、一般的に使用されるβ-ラクタム系、マクロライド系、
   リファンピシンなどが含まれています。
   MICが低い物は、oxacillin, rifampin, cefazolin, ceftobiprole, ceftarolineでした。
   一方でMICが高い物は、oritavancin, daptomycin, fosfomycinです。
   (日本では承認されていない薬もあります。)
   多くの抗生剤がKupffer細胞に集積しますが、多い順にoritavancin, fosfomycin,
    oxacillin, vancomycin, ceftaroline, cefazolin, ceftobiproleでした。
   daptomycinのみ集積が乏しい傾向です。
   24時間での黄色ブドウ球菌の死滅率はKupffer細胞内での抗生剤の暴露と関係があり、
   oritavancin 、rifampin とvancomycinの併用が最も優れていました。
   daptomycin, ceftaroline, ceftobiprole, oxacillin, cefazolinが中程度以上の効果
   です。vancomycin単独では、静菌的で効果が乏しいです。

2) 結論
   cefazolin(セファメジン)、oxacillin(プロスタフィリン)の方がvancomycin よりも
   黄色ブドウ球菌の菌血症には有効との事です。






私見)
  vancomycin が最も強力ではない根拠を示してくれた論文の様です。






ブ菌 本論文.pdf




















2024年08月22日

ステロイド剤使用のガイドライン・2024年版

ステロイド剤使用のガイドライン・2024年版

European Society of Endocrinology and Endocrine Society
Joint Clinical Guideline: Diagnosis and therapy
of glucocorticoid-induced adrenal insufficiency



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 ステロイド剤は最強の抗炎症薬の一つです。
症状が安定したら、いかに漸減していくかが問題です。ステロイド剤には、そのものの副作用と
ステロイド剤誘因の副腎不全も注意しなくてはなりません。
 今回、ヨーロッパからガイドラインが出ていましたのでブログします。
長い論文で実地医家にとってはやや饒舌な感じのため、journal Watchからも引用し、端折って
纏めます。


1) ステロイド剤の用量に関係なく、投与の期間が3〜4週間以内なら漸減の方法をとらなく
   ても良い。

2) 投与の期間が3〜4週間を超えた場合は、漸減方式が必要となる。
   それによってステロイド離脱症状を予防し、下垂体からの副腎刺激を回復できる。

3) 漸減は疾患がコントロールされていることを確認する必要があります。
   ・プレドニン換算で40mg/日を超えている場合は、5〜10mg/週の割合で漸減していく。
   ・40mg/日以下の場合は、10〜20mg/日になるまで2.5mg/1〜4週間毎に漸減し、
    10mg/日になったら、1mg/1〜4週間毎に漸減していく。

4) 長時間作用型ステロイド(例えばデキサメタゾン)を処方している場合は、短期作用型
   ステロイド(プレドニンやハイドロコルチゾン)に変更してから漸減する。

5) 漸減して生理的量(プレドニン換算で4〜6mg)に達したら、早朝のコルチゾール値を
   測定し、10μg/dl以上なら視床下部―下垂体―副腎(HPA)の反応が回復しているので
   ステロイドを中止しても良い。
   10μg/dl以下の場合は漸増を継続し、数週間後に再検する。

6) 考察
   ステロイドを漸減していく際に、ステロイド離脱症状か副腎不全か、それとも本来の疾患
   の再炎かを区別する事は簡単ではない事に留意する。

 




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私見)
 従来よりステロイド剤を2週間処方している場合は急に中止しても良いとされていましたが、
 本院では1週間としています。
 小児の場合は4日間が無難でしょうか。
 今後もステロイド離脱症候群、急性副腎不全(副腎クライシス)に注意して参りましょう。
 下記に関連文献を掲載します。






本論文.pdf

Adrenal Crisis.pdf

急性副腎不全(副腎クリーゼ).pdf