2020年03月13日

前立腺癌の診断におけるMRIを用いた生検の有用性?

前立腺癌の診断におけるMRIを用いた生検の有用性?
 
MRI-Targeted, Systematic, and Combined
Biopsy for Prostate Cancer Diagnosis
N Engl J Med 2020;382:917-28.


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 前立腺癌は、低悪性度(indolent)から死亡率の高いものまで幅の広い癌です。
現在では診断のための生検は、エコーによるガイド下で12穿刺(systematic)が標準的です。
しかしこの方法では癌を見落とすことがあることと、逆にグレード分類の間違いもあり、過剰診断と過小
診断に繋がる問題があります。
systematic法により根治治療の手術を受けた人の43%が低悪性度であり、放射線治療を受けた60%がグレード1であったとの報告もあります。
 一方、最近では前もってMRIで疑わしい所見の部位を同定し、ターゲット部位を生検する方法が主流に
なりかけています。 (MRI-targeted)
MRI 標的生検(MRI-targeted法)が系統的生検(systematic法)に代わるものかを調べた論文が、
雑誌NEJMに掲載されています。
MRI-targeted法単独、systematic法単独と両者を併用したcombined法を比較しています。


纏めますと

1) 対象者は18歳以上で、PSAが高値か直腸指診で異常所見のある人です。
   コンサルトでMRIを受けてMRI 可視病変を有する男性に、MRI 標的生検と系統的生検の両方を
   行いました。
   2,103 例が両方の生検を受け、そのうち 1,312 例(62.4%)がこれらの 2 つの生検の併用
   (併用生検)により癌と診断され、404 例(19.2%)が根治的前立腺全摘除術を受けています。
   主要転帰は、グレードグループ(グリーソン分類)別の癌の検出としています。
   グレードグループ 1 は臨床的に重要でない癌、グレードグープ 2 またはそれ以上は予後良好な
   中リスクまたはそれ以上の癌、グレードグループ 3 またはそれ以上は予後不良な中リスクまたは
   それ以上の癌としています。

2) 生検後に根治的前立腺全摘除術を受けた男性において、生検から全手術標本の病理組織学的
   検索でグレードグループの上昇と低下を記録しました。

3) 生検後に根治的前立腺全摘除術を受けた 404 例で調べますと、併用生検は手術標本の病理
   組織学的解析で、グレードグループが 3 以上に上昇した患者の割合(3.5%)が低く、MRI 標的
   生検(8.7%)、系統的生検(16.8%)と比較して最小でした。

4) もしもMRI 標的生検だけで診断すると30.9%のupgradeとなり、その中の8.7%が臨床的に重要
   なupgradeとなっており結果的には見落としとなります。
   一方で統計学的に解析しますと、系統的生検をしないとグレード 3 以上の癌の見落としが1.9%で、
   グレード 2 以上の癌の見落としは5.8%となります。
   つまりMRI 標的生検は、完全に系統的生検に代わる方法ではない様です。

5)結論
  併用生検が生検の精度を上げている。
  下のグラフは根治的前立腺全摘除術を受けた男性404 例の解析です。

   (46+168+63+125=402)


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   上のグラフは、根治的前立腺全摘除術を受けた男性404 例を全標本で調べています。
   それを正解として見た時に、其々の生検の仕方の精度を表しています。
   赤が見落としに相当し、青が過剰診断と捉える事も出来ます。
   論文では青に関しては各生検方法に差は無いとして詳しくは解説していません。
   濃い青の部分を言っているようです。






私見)
 明らかにMRI 標的生検の方が系統的生検に比べて精度は高いのですが、ザックリと言ってMRI 標的
 生検だけですと、見落としが8.7%で過剰診断が2.5%となります。系統的生検を更に追加すれば、
 見落としは3.5%まで低下できるとしています。


 ただ問題は 「私のいとしのエリー」 に対して、更に串刺しを12回もお願いするかと言う事です。
 今までの私のブログより文献等を下記に掲載します。








1 前立腺ガイドライン.pdf

2 前立腺癌に対する新しいガイドライン_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf

3 前立腺癌学習.pdf

4 前立腺文献1.pdf

5 MRI.pdf

6 前立腺癌の治療.pdf

7 前立腺癌のMRI検査の有用性_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf

8 早期前立腺癌の根治手術と経過観察(積極的監視)の比較_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf

9 前立腺.pdf

10 PiRADS v2による.pdf


















posted by 斎賀一 at 18:12| Comment(2) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2020年02月06日

前立腺癌検診のPSAによる効率化

前立腺癌検診のPSAによる効率化

Association of Baseline Prostate-Specific Antigen Level
With Long-term Diagnosis of Clinically Significant Prostate Cancer
Among Patients Aged 55 to 60 Years
JAMA Network Open. 2020;3(1):e1919284


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 55~60歳の人のPSAを用いた前立腺癌の検診を検討した論文が、雑誌JAMAに掲載されています。
腫瘍マーカーの中では、唯一と言ってもよいPSAが検診に採用された1990年代から、
一時は批判的な時を経て、最近ではやや見直されています。
しかし、どの様にPSAというツールを利用するかは議論が分かれています。
又、前立腺癌そのものの生物学的特徴(indolent;進行が遅く臨床症状がない潜在癌の場合も多い)
から過剰診断と過剰治療も指摘され、PSA検診そのものの意義も問われています。


論文を纏めてみますと、


 1) 55~60歳(平均57歳)の10,968人が対象です。
    ベースラインとして1回のPSA検査で、その後の13年間の経過観察です。

 2) 主要転帰は、

    ・何らかの前立腺癌の診断(any prostate cancer)と
    ・臨床的に明白な前立腺癌(clinically significant prostate cancer)です。
  
    尚、clinically significant prostate cancerの定義は、
      
      T2b、グリソンスコアの7以上、前立腺癌での死亡のいずれか
      前立腺癌の摘出術の場合はT3以上、グリソンスコアの7以上、
      リンパ腺転移のいずれか

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 3) 結果
     13年間で前立腺癌の死亡はたったの15例のみで、PSAが2.0以上は、9例(60%)でした。

 4) 結論
     55~60歳でPSAが2.0以下では繰り返しの検査は必要でなく、
     1.0以下では、その後のPSA検査は実施しなくてよい。

              
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私見)
 60歳以下でPSAが1.0以下ならば、10年間はPSA検査をしなくてよいと指導して良さそうです。
2.0以下の場合は5年後に再検し、4.0以下なら3年後でも良いでしょうか?

1 前立腺癌.pdf

2 前立腺癌 ガイドライン.pdf







posted by 斎賀一 at 12:37| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2019年06月15日

造影剤による急性腎障害

造影剤による急性腎障害
 
Contrast-Associated Acute Kidney Injury
  N Engl J Med 2019;380:2146-55.


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 造影剤における腎障害に関しては、直接的及び間接的に腎臓に作用すると考えられています。

今回雑誌NEJMより総説が載っていましたので読んでみました。
但し残念ながら知見が混とんとしていて、読んでいても更に迷路に入ってしまったようで、すっきりと理解
できませんでした。しかし流石はNEJMで、そんな中で光を放つ内容もあり、私なりに曲解し箇条書きに
して纏めてみました。

1) クレアチニン値は、腎障害の程度の指標にならない事がある。
   薬剤の影響と体液量の変化によって、クレアチニン値は変動するからである。
   わずかな増加でも腎障害に繋がる事もあれば、低下が悪化のサインである事もある。
   兎も角も変動に注意する必要があるが、如何に判断するかは今後の課題である。

2) 検査前の患者の腎機能が、リスク評価にとって重要である。
   糖尿病とCKD(慢性腎臓病)はリスクの独立因子として、相互的に腎障害を悪化させる。

3) 低浸透圧と等浸透圧の造影剤がリスク軽減のために推奨されている。
   しかし、どの程度の量が適正かは未だ判明していない。
   造影剤が350ml以上、72時間以内での再度の使用はリスクとなる。
    (イオン性でなく非イオン性が日本でも推奨されています。
     イオン性の場合はイオン化により浸透圧が倍になるからとしています。)

4) 疾患によってはそのリスクは増加する。
   特に心電図でST上昇を伴う心筋梗塞の血管造影はリスクが高い。

5) 繰り返しになりますが、造影剤の検査後にクレアチニンがわずかに増加しても、又逆に低下しても
   徐々に腎機能が低下する事があるので、90日間の観察が必要となるケースもある。
   つまりクレアチニン値は造影剤で揺れる。 (fluctuation)

6) 研究(study)によっては、造影剤検査で腎障害がそれほど発生しないとする報告もある。
   しかしそのような研究は、ハイリスクの患者は事前に研究から除外されている。
   それでも造影剤検査後の重大な副作用(透析など)の頻度は、0.3%と低率である。
   だからと言って、造影検査は安全とも断定できない。 (私の訳が煮え切らないのでしょうか?)

7) 造影検査前後の輸液点滴も効果があると言う報告もあるが、ないとする発表もある。
   しかし著者は、短期的な輸液点滴を勧めている。
   従って、造影検査の1~3時間前と検査の6時間後に行う。
   ただし、輸液の量が多い方が良いかは不明である。

8) アセチルシステインは安価で予防に有効との研究もあるが、無効とする報告も散在している。

9) 脂質異常症の治療薬であるスタチン系には、予防的効果は無い。
   しかし当然ながら、心血管疾患の患者が対象なので、スタチンは継続服用を勧める。

10) 腎障害を誘発する薬剤、例えば利尿薬、降圧剤のARB、鎮痛解熱剤(NSAIDs)などは中止する
   事が適当だとするはっきりしたエビデンスはない。
   特に糖尿病治療薬であるメトグルコの一時的休薬は周知の事実であるが、それは直接的な腎障害
   ではなく、腎障害が発生した場合の乳酸アシドーシスの懸念からである。

11) まず患者のリスク評価を行う。それに従ってストラテジーを組む。
   しかしリスク評価は単に一時的判断であり、施行する検査方法にも影響を与えるので絶対的では
   ない。  (かなり慎重なコメントなので、どうしていいのか分からない。取り敢えずリスク評価を
   PDFで掲載します。)

12) かなりの点がこの論文で明白になったが、不明な点は今後の研究が待たれるとしています。
   慎重ながらも自信満々の結論です。






私見)

 本院で出来る事は

 ・造影検査を予定している患者さんにはメトグルコ、利尿薬、鎮痛解熱剤、ARBは休薬も視野に入れて
  の説明とします。
 ・造影検査後の90日間は、本院でもクレアチニンで経過を見る必要がありますが、これのみでは腎障害
  の指標にはならない様です。
 ・本論文の主旨では、適正な判断で造影検査の有意義な点を無視しないように心がける事も大切だと
  しています。
  下記のPDFに、本論文のストラテジーとuptodateの指針を掲載します。



1 本論文より.pdf

2 uptodate.pdf

3 ガイドライン.pdf















posted by 斎賀一 at 16:20| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺