前立腺癌の診断におけるMRIを用いた生検の有用性?
MRI-Targeted, Systematic, and Combined
Biopsy for Prostate Cancer Diagnosis
N Engl J Med 2020;382:917-28.
Biopsy for Prostate Cancer Diagnosis
N Engl J Med 2020;382:917-28.
前立腺癌は、低悪性度(indolent)から死亡率の高いものまで幅の広い癌です。
現在では診断のための生検は、エコーによるガイド下で12穿刺(systematic)が標準的です。
しかしこの方法では癌を見落とすことがあることと、逆にグレード分類の間違いもあり、過剰診断と過小
診断に繋がる問題があります。
systematic法により根治治療の手術を受けた人の43%が低悪性度であり、放射線治療を受けた60%がグレード1であったとの報告もあります。
一方、最近では前もってMRIで疑わしい所見の部位を同定し、ターゲット部位を生検する方法が主流に
なりかけています。 (MRI-targeted)
MRI 標的生検(MRI-targeted法)が系統的生検(systematic法)に代わるものかを調べた論文が、
雑誌NEJMに掲載されています。
MRI-targeted法単独、systematic法単独と両者を併用したcombined法を比較しています。
纏めますと
1) 対象者は18歳以上で、PSAが高値か直腸指診で異常所見のある人です。
コンサルトでMRIを受けてMRI 可視病変を有する男性に、MRI 標的生検と系統的生検の両方を
行いました。
2,103 例が両方の生検を受け、そのうち 1,312 例(62.4%)がこれらの 2 つの生検の併用
(併用生検)により癌と診断され、404 例(19.2%)が根治的前立腺全摘除術を受けています。
主要転帰は、グレードグループ(グリーソン分類)別の癌の検出としています。
グレードグループ 1 は臨床的に重要でない癌、グレードグープ 2 またはそれ以上は予後良好な
中リスクまたはそれ以上の癌、グレードグループ 3 またはそれ以上は予後不良な中リスクまたは
それ以上の癌としています。
2) 生検後に根治的前立腺全摘除術を受けた男性において、生検から全手術標本の病理組織学的
検索でグレードグループの上昇と低下を記録しました。
3) 生検後に根治的前立腺全摘除術を受けた 404 例で調べますと、併用生検は手術標本の病理
組織学的解析で、グレードグループが 3 以上に上昇した患者の割合(3.5%)が低く、MRI 標的
生検(8.7%)、系統的生検(16.8%)と比較して最小でした。
4) もしもMRI 標的生検だけで診断すると30.9%のupgradeとなり、その中の8.7%が臨床的に重要
なupgradeとなっており結果的には見落としとなります。
一方で統計学的に解析しますと、系統的生検をしないとグレード 3 以上の癌の見落としが1.9%で、
グレード 2 以上の癌の見落としは5.8%となります。
つまりMRI 標的生検は、完全に系統的生検に代わる方法ではない様です。
5)結論
併用生検が生検の精度を上げている。
下のグラフは根治的前立腺全摘除術を受けた男性404 例の解析です。
(46+168+63+125=402)
上のグラフは、根治的前立腺全摘除術を受けた男性404 例を全標本で調べています。
それを正解として見た時に、其々の生検の仕方の精度を表しています。
赤が見落としに相当し、青が過剰診断と捉える事も出来ます。
論文では青に関しては各生検方法に差は無いとして詳しくは解説していません。
濃い青の部分を言っているようです。
私見)
明らかにMRI 標的生検の方が系統的生検に比べて精度は高いのですが、ザックリと言ってMRI 標的
生検だけですと、見落としが8.7%で過剰診断が2.5%となります。系統的生検を更に追加すれば、
見落としは3.5%まで低下できるとしています。
ただ問題は 「私のいとしのエリー」 に対して、更に串刺しを12回もお願いするかと言う事です。
今までの私のブログより文献等を下記に掲載します。
1 前立腺ガイドライン.pdf
2 前立腺癌に対する新しいガイドライン_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf
3 前立腺癌学習.pdf
4 前立腺文献1.pdf
5 MRI.pdf
6 前立腺癌の治療.pdf
7 前立腺癌のMRI検査の有用性_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf
8 早期前立腺癌の根治手術と経過観察(積極的監視)の比較_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf
9 前立腺.pdf
10 PiRADS v2による.pdf