2020年11月24日

慢性腎臓病とRA系阻害薬

慢性腎臓病とRA系阻害薬



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 本院での慢性腎臓病の多くが、高血圧などの動脈硬化か糖尿病が原因です。
血圧のコントロールとして、RA系阻害薬(ACE-IかARB)を主体に治療しています。
腎機能の低下や高カリウム血症の進展により腎臓専門家に紹介する事がありますが、専門家よりカルシウム拮抗薬(CCB)への変更指導を受けることもあります。
2013年のガイドライン以降は注意しながらもRA系阻害薬を投与していましたが、2018年のガイドライン以降ではむしろ推奨されなくなっています。特にステージG3bに対して、特別なガイドラインが各学会共同で出版されています。実地医家にとってはやや戸惑っていますが、その点を成書で比較しながら再考してみます。

2013年頃の文献と2018年以降の文献をまとめて下記のPDFに掲載します。
また、成書では以前のものとして「極論で語る腎臓内科」、現在のものとして「腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました」を拝借して、下記に掲載します。


結論的には

1) 2013年のガイドラインに則った「極論で語る腎臓内科」によりますと
   慢性腎臓病と心血管疾患は、相互に関係しあって増悪因子に成り得ます。  
   RA系阻害薬は血圧降下と蛋白尿の軽減につながります。
   RA系阻害薬の服用による蛋白尿減少でCKDの進行を抑制したいのは、実際にG3からG4です。
   血清クレアチニンの上昇が30%未満ならそのまま継続してよいが、30%以上の時は減量あるいは
   中止を勧告しています。
   しかしRA系阻害薬の投与はハイリスク・ハイリターンであり、十分に監視していけば血清クレアチ
   ニンが高くても、RA系阻害薬服用にチャレンジしてみようとまで記載しています。
    (つまり、CKDのステージG3Bでも軸足はRA系阻害薬でした。)

2) 2018年のガイドラインに沿った「腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました」によりますと、
   下記の2つの論文により軸足が変わりました。
   下記に両文献もPDFで掲載します。

   ・Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and
    long term cardiorenal risks: cohort study; 雑誌BMJ
    RA系阻害薬投与直後の血清クレアチニンが10〜30%上昇で長期予後は悪い。
   ・The impact of stopping inhibitors of the renin–angiotensin system
    in patients with advanced chronic kidney disease
    CKDステージG4~G5でRA系阻害薬から他剤に変更で腎機能が改善 
    結論としては、RA系阻害薬は尿蛋白のあるCKDに推奨されるが、進行したCKD(ステージG4、5)
    や75歳以上の高齢者では急激な腎機能低下や高カリウム血症が懸念されるため、副作用に細心
    の注意が必要 (つまり、CKDのステージG3BでのRA系阻害薬投与は中止です。)   

3) uptodateより調べました。
   腎機能低下に際しての記載は一般論として記載されており、基本的には注意深くRA系阻害薬を使用
   することを勧めています。しかし、あくまでも第一選択薬はRA系阻害薬との事です。

4) 今日の臨床サポートより調べました。
   明白に腎機能低下、つまりeGFR30以下はRA系阻害薬を中止するように勧告しています。
   特に高齢者には注意が必要なようです。






私見)
 実地医家の場合に、推奨に軸足があればアクセルを踏むことです。
 警告に軸足があればブレーキを踏むことです。eGFRが30以下とは言わず45以下のステージG3bで
 ブレーキをかけて、RA系阻害薬を中止して参ります。
 しかし「腎臓病診療に自信がつく本」の一部の記載に、糖尿病腎症ではありますがRA系阻害薬の有効
 例が記載されています。
 また時代が変わりその時が来るまで頭の片隅にしまっておきます。

 尚、地域でのオピニオンリーダーの寺脇博之教授の冊子がありましたので同時に掲載します。






◆ 参考文献

  ・極論で語る腎臓内科  丸善出版
  ・腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました   南江堂
  ・腎臓病診療に自信がつく本   カイ書林
  ・medical practice  V37 N11 2020
  ・日本医師会雑誌  V143 N11 2015






1 CKD 文献纏め.pdf

2 bmj Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks_ cohort study.pdf

3 nephrol dial.pdf

4 ckd3b-5-2017 ガイドレイン.pdf

5 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018.pdf

6 極論で語る腎臓内科.pdf

7 腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました.pdf

8 腎臓病診療に自信がつく本.pdf

9 Uptodateより・CKDの降圧薬.pdf

10 今日の臨床サポート・CKD.pdf

11 市原医師会.pdf

12 慢性腎臓病の自己管理.pdf

13 腎臓の働きを少しでも長持ちさせるには?.pdf














posted by 斎賀一 at 21:58| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2020年11月20日

慢性腎臓病と糖尿病・2020年KDIGOガイドライン

慢性腎臓病と糖尿病・2020年KDIGOガイドライン
 
Diabetes Management in Chronic Kidney Disease
: Synopsis of the 2020 KDIGO Clinical Practice Guideline



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 本ガイドラインは慢性腎臓病患者(CKD)における糖尿病管理のガイドラインであり、必ずしも糖尿病性
腎症だけを扱ってはいません。


主要な部分だけを纏めてみますと

1) 糖尿病、高血圧、蛋白尿を伴う患者には、降圧薬として ACE-I または ARB を漸増しながら処方
   するのが第一選択の原則です。
   薬剤を最初に投与する場合や増量する場合には、2〜4週間ごとに血清カリウム、クレアチニンを
   調べます。

2) 治療抵抗の場合は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を漸増する。
    (アルダクトンA、セララ、ミネブロ)

3) CKDの進展と蛋白尿は、互いに悪循環を起こす事が想定されている。
   従ってACE-I、ARB、MRAは糖尿病で血圧があまり高くなく、蛋白尿が陽性の患者には腎保護の
   作用があると期待されるが、高血圧と糖尿病の合併例で蛋白尿が陰性の場合に、どれだけの腎
   保護があるかは不明である。
   しかもその場合、腎保護の観点からは他の降圧薬との差はほとんどない。

4) ACE-IまたはARBは、投与によりクレアチニンが30%増加までは漸増して投与継続が可能だが、
   血圧の下がりすぎや高カリウム血症の場合には、減量か休薬をすべきである。
 
5) 糖尿病のコントロール指標は HbA1c だが、その設定は6.5以下から8.0以下と低血糖のリスクに
   より個々人の設定になる。
   しかも eGFR が30以下では、HbA1c が低めに出てしまいバイアスがかかってしまう。

6) 血糖降下薬の第一選択は、メトグルコかSGLT-2阻害薬である。
   何れも eGFR が30以上が適応だが、SGLT-2 阻害薬に関しては、eGFRが20〜25でのトライアル
   が進行中で注目されている。
   SGLT-2 阻害薬は服用初期に eGFR の低下が認められるが、一過性であり服用を継続してよい。
   なぜならば、その後の SGLT-2 阻害薬による腎保護が期待されるからである。

7) 本ガイドラインでは、糖尿病とCKD合併例においては蛋白摂取制限を0.8g/kg/日に制限している。
 
8) 本ガイドラインでは、GLT-2 阻害薬を腎保護と心血管疾患の予防のため、糖尿病と CKD 合併症
   例には第一選択薬に推奨しています。






私見)
 CKDと降圧薬について、次回のブログで紹介します。
 何はともあれステージG3b(クレアチニンが45以下)では降圧薬の ARB は避けたほうが良いようです。
 本論文の図表は下記の PDF に掲載します。






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1 CKD 図譜.pdf

2 Diabetes Management in Chronic Kidney Disease_ Synopsis of the 2020 KDIGO Clinical Practice Guideline _ Annals of Internal Medicine.pdf












 
posted by 斎賀一 at 18:22| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2020年07月06日

血尿に対するガイドライン

血尿に対するガイドライン
 
Microhematuria: AUA/SUFU Guideline


 
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 アメリカの泌尿器学会(American Urological Association)から、血尿に対するガイドラインが出て
いますのでブログしてみました。

 本ガイドラインは泌尿器科の立場ですので、当然趣は悪性腫瘍に軸足があります。
本院ではプライマリーのため、幅広い観点より本ガイドラインを参考に独自の解釈を含めまして、ストラ
テジーを組んでみました。職員の皆さん、参考にして下さい。



・テステープで潜血反応が陽性の場合は、速やかに沈渣を作り検鏡をします。
 検鏡では、強拡大で1視野あたり3個の赤血球以上を陽性とします。
 一見厳しい基準のようですが、尿が薄い場合は赤血球が融解してしまうために基準を下げています。
 たった1回の尿検査で精度は95%なので、繰り返さなくても良いようです。

 採尿時には注意が必要です。
 最初の尿は捨てて(約10cc)中間尿を採ります。
 男性の場合は可能な限り中間尿ですが、女性の場合は極力中間尿でなければ、診断確率が下がり
 ます。
 運動後の採尿は避けてください。
 尿比重が低くない事も条件ですので、検尿時に尿比重も記載しておいてください。

・尿沈渣で確定し、陽性ならば必ずエコー検査を実施し、泌尿器科や婦人科の疾患、特に悪性疾患を
 鑑別しなければなりません。
 血尿を引き起こす職業も、問診する必要があります。

・抗血小板薬や抗凝固薬を服用しているからと言って安易に除外せず、同様に検索する必要があります。
 ある報告によりますと、血尿患者の5.8%に膀胱癌が見つかり、その中の15.3%は抗血小板薬か
 抗凝固薬を服用していました。

・尿路感染症による血尿と診断しても、必ず治療後の再検で血尿が無くなっている事を確認してください。
 この場合も婦人科疾患を除外する必要があります。
 そのために1か月後の再々検査が必要で、繰り返している場合は尿路感染症の再発と同時に、婦人科
 疾患の可能性も想定してください。

・尿蛋白陽性や尿沈渣で円柱、赤血球の破壊像があれば腎疾患を鑑別してください。
 その際にも腎蔵の悪性腫瘍を鑑別しなくてはなりません。
 尿路系の悪性腫瘍でも腎機能が低下しているケースがあり、危険率は1.39との事です。
 (つまり内科的腎機能低下の疾患であるCKDでも、必ずエコー検査は必要です。)

・最初の血尿の評価後に経過観察するにあたり、先ず患者のリスクの層別化が必要です。
 ◌低リスクは6カ月に1回の検査
  禁煙: 男性は40歳以下で、女性は50歳以下   強拡大で3~10
 ◌中リスクは尿の細胞診とエコー検査
  喫煙: 60歳以下   強拡大で11~25
  高リスクは細胞診と画像診断
  ヘビースモーカー: 60歳以上   強拡大で25以上

・最初に細胞診検査をする必要性はない。

・腫瘍マーカーは推奨しない。

・繰り返す血尿はエコー検査並びに画像診断が必要

・家族歴の問診も必要

・血尿が陰性になっても1年以内の再検は必要

・経過観察中に肉眼的血尿を認めたら、診断と評価はリセットして再検査を要する。






私見)
 本院は尿路感染症と腎疾患が主体ですが、悪性腫瘍を念頭に置いた本ガイドラインも大いに参考に
 しましょう。








血尿 SUFU Guideline - American Urological Associ.pdf











posted by 斎賀一 at 18:14| Comment(1) | 泌尿器・腎臓・前立腺