2020年12月07日

慢性腎臓病の初期治療にRA系阻害薬はいいかも

慢性腎臓病の初期治療にRA系阻害薬はいいかも
 
Comparative Effectiveness of Renin-Angiotensin System Inhibitors
and Calcium Channel Blockers in Individuals With Advanced CKD
: A Nationwide Observational Cohort Study



21207.PNG



 2020年11月24日の私のブログ「慢性腎臓病とRA系阻害薬」でご紹介しましたが、最近では慢性
腎臓病のステージG3b(腎機能eGFRが44以下)での降圧薬として、RA系阻害薬は注意が必要とされて
います。
しかし今回雑誌AJKDによりますと、やはり糖尿病の有無に関わらず、慢性腎臓病の降圧剤はRA系
阻害薬が第一選択薬となりそうです。
RA系阻害薬としてはACE-IとARBがありますが、本院でも慢性腎臓病の降圧薬としてRA系阻害薬を主と
して処方している身なので、ややホッとしています。


本論文を纏めてみますと

1) 慢性腎臓病の腎保護のためにも降圧薬としてRA系阻害薬が推奨されていますが、カルシウム拮抗
   薬(CCB)との比較を調べた研究はあまりありません。
   特に最近では、慢性腎臓病(CKD)ステージG4でのRA系阻害薬の使用に警告を出しているガイド
   ラインがあります。
   今回の本論文では、RA系阻害薬とカルシウム拮抗薬(CCB)のガチンコ勝負で調べています。

2) 対象は慢性腎臓病ステージG4以降(eGFRが30以下)を対象に、RA系阻害薬が2,458名と
   カルシウム拮抗薬(CCB)2,345に振り分けています。
   RA系阻害薬とカルシウム拮抗薬(CCB)を服用していない人との比較は行っていません。
   コントロール群として、慢性腎臓病ステージG3(eGFRが30〜60)を採用しています。

3) 主要転帰は透析導入(腎移植も含む更なる治療)、全死亡、心血管疾患(MACE)の発生です。
   平均年齢は74歳、4.1年の経過観察です。

4) 結論として
   主要転帰はRA系阻害薬群の方が有効で、危険率は0.79でした。
   全死亡率は両群ともほぼ同じで、危険率は0.97です。
   心血管疾患(MACE)も同様で、危険率は1.00です。
   コントロール群(ステージG3)も主要転帰はRA系阻害薬が優位で、危険率は0.67でした。
   本研究には当然ながら制限があります。(limitation)

5) 考察
   従来よりRA系阻害薬が慢性腎臓病の腎保護の観点から推奨されていますが、採用に当たる腎機能
   の基準(threshold)は明白に示されていませんでした。
   本研究では、CCBの種類に関しての検討はされませんでした。
   現実には慢性腎臓病のステージG4から降圧薬を始める人はいないと思います。
   更に地域差や人種の差はあるかもしれませんが、慢性腎臓病ステージG4にRA系阻害薬を処方する
   メリットはあると結論付けされました。





私見)
 本論文のグラフからは、懸念される血清カリウム値に関しても両群で差はありませんでした。
 本院での慢性腎臓病に対する降圧のストラテジーは、ステージG3まではRA系阻害薬を主体とし、
 ステージG3bは専門家への紹介且つ十分な管理と致します。




         21207-2.PNG   ←クリックで拡大








本論文Comparative Effectiveness of Renin-Angiotensin System Inhibitors and Calcium Channel Blockers in Individuals With Advanced CKD_ A Nationwide Observational Cohort Study.pdf








     
posted by 斎賀一 at 19:49| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2020年11月24日

慢性腎臓病とRA系阻害薬

慢性腎臓病とRA系阻害薬



21124.PNG


       
 本院での慢性腎臓病の多くが、高血圧などの動脈硬化か糖尿病が原因です。
血圧のコントロールとして、RA系阻害薬(ACE-IかARB)を主体に治療しています。
腎機能の低下や高カリウム血症の進展により腎臓専門家に紹介する事がありますが、専門家よりカルシウム拮抗薬(CCB)への変更指導を受けることもあります。
2013年のガイドライン以降は注意しながらもRA系阻害薬を投与していましたが、2018年のガイドライン以降ではむしろ推奨されなくなっています。特にステージG3bに対して、特別なガイドラインが各学会共同で出版されています。実地医家にとってはやや戸惑っていますが、その点を成書で比較しながら再考してみます。

2013年頃の文献と2018年以降の文献をまとめて下記のPDFに掲載します。
また、成書では以前のものとして「極論で語る腎臓内科」、現在のものとして「腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました」を拝借して、下記に掲載します。


結論的には

1) 2013年のガイドラインに則った「極論で語る腎臓内科」によりますと
   慢性腎臓病と心血管疾患は、相互に関係しあって増悪因子に成り得ます。  
   RA系阻害薬は血圧降下と蛋白尿の軽減につながります。
   RA系阻害薬の服用による蛋白尿減少でCKDの進行を抑制したいのは、実際にG3からG4です。
   血清クレアチニンの上昇が30%未満ならそのまま継続してよいが、30%以上の時は減量あるいは
   中止を勧告しています。
   しかしRA系阻害薬の投与はハイリスク・ハイリターンであり、十分に監視していけば血清クレアチ
   ニンが高くても、RA系阻害薬服用にチャレンジしてみようとまで記載しています。
    (つまり、CKDのステージG3Bでも軸足はRA系阻害薬でした。)

2) 2018年のガイドラインに沿った「腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました」によりますと、
   下記の2つの論文により軸足が変わりました。
   下記に両文献もPDFで掲載します。

   ・Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and
    long term cardiorenal risks: cohort study; 雑誌BMJ
    RA系阻害薬投与直後の血清クレアチニンが10〜30%上昇で長期予後は悪い。
   ・The impact of stopping inhibitors of the renin–angiotensin system
    in patients with advanced chronic kidney disease
    CKDステージG4~G5でRA系阻害薬から他剤に変更で腎機能が改善 
    結論としては、RA系阻害薬は尿蛋白のあるCKDに推奨されるが、進行したCKD(ステージG4、5)
    や75歳以上の高齢者では急激な腎機能低下や高カリウム血症が懸念されるため、副作用に細心
    の注意が必要 (つまり、CKDのステージG3BでのRA系阻害薬投与は中止です。)   

3) uptodateより調べました。
   腎機能低下に際しての記載は一般論として記載されており、基本的には注意深くRA系阻害薬を使用
   することを勧めています。しかし、あくまでも第一選択薬はRA系阻害薬との事です。

4) 今日の臨床サポートより調べました。
   明白に腎機能低下、つまりeGFR30以下はRA系阻害薬を中止するように勧告しています。
   特に高齢者には注意が必要なようです。






私見)
 実地医家の場合に、推奨に軸足があればアクセルを踏むことです。
 警告に軸足があればブレーキを踏むことです。eGFRが30以下とは言わず45以下のステージG3bで
 ブレーキをかけて、RA系阻害薬を中止して参ります。
 しかし「腎臓病診療に自信がつく本」の一部の記載に、糖尿病腎症ではありますがRA系阻害薬の有効
 例が記載されています。
 また時代が変わりその時が来るまで頭の片隅にしまっておきます。

 尚、地域でのオピニオンリーダーの寺脇博之教授の冊子がありましたので同時に掲載します。






◆ 参考文献

  ・極論で語る腎臓内科  丸善出版
  ・腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました   南江堂
  ・腎臓病診療に自信がつく本   カイ書林
  ・medical practice  V37 N11 2020
  ・日本医師会雑誌  V143 N11 2015






1 CKD 文献纏め.pdf

2 bmj Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks_ cohort study.pdf

3 nephrol dial.pdf

4 ckd3b-5-2017 ガイドレイン.pdf

5 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018.pdf

6 極論で語る腎臓内科.pdf

7 腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました.pdf

8 腎臓病診療に自信がつく本.pdf

9 Uptodateより・CKDの降圧薬.pdf

10 今日の臨床サポート・CKD.pdf

11 市原医師会.pdf

12 慢性腎臓病の自己管理.pdf

13 腎臓の働きを少しでも長持ちさせるには?.pdf














posted by 斎賀一 at 21:58| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2020年11月20日

慢性腎臓病と糖尿病・2020年KDIGOガイドライン

慢性腎臓病と糖尿病・2020年KDIGOガイドライン
 
Diabetes Management in Chronic Kidney Disease
: Synopsis of the 2020 KDIGO Clinical Practice Guideline



21120.PNG




 本ガイドラインは慢性腎臓病患者(CKD)における糖尿病管理のガイドラインであり、必ずしも糖尿病性
腎症だけを扱ってはいません。


主要な部分だけを纏めてみますと

1) 糖尿病、高血圧、蛋白尿を伴う患者には、降圧薬として ACE-I または ARB を漸増しながら処方
   するのが第一選択の原則です。
   薬剤を最初に投与する場合や増量する場合には、2〜4週間ごとに血清カリウム、クレアチニンを
   調べます。

2) 治療抵抗の場合は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を漸増する。
    (アルダクトンA、セララ、ミネブロ)

3) CKDの進展と蛋白尿は、互いに悪循環を起こす事が想定されている。
   従ってACE-I、ARB、MRAは糖尿病で血圧があまり高くなく、蛋白尿が陽性の患者には腎保護の
   作用があると期待されるが、高血圧と糖尿病の合併例で蛋白尿が陰性の場合に、どれだけの腎
   保護があるかは不明である。
   しかもその場合、腎保護の観点からは他の降圧薬との差はほとんどない。

4) ACE-IまたはARBは、投与によりクレアチニンが30%増加までは漸増して投与継続が可能だが、
   血圧の下がりすぎや高カリウム血症の場合には、減量か休薬をすべきである。
 
5) 糖尿病のコントロール指標は HbA1c だが、その設定は6.5以下から8.0以下と低血糖のリスクに
   より個々人の設定になる。
   しかも eGFR が30以下では、HbA1c が低めに出てしまいバイアスがかかってしまう。

6) 血糖降下薬の第一選択は、メトグルコかSGLT-2阻害薬である。
   何れも eGFR が30以上が適応だが、SGLT-2 阻害薬に関しては、eGFRが20〜25でのトライアル
   が進行中で注目されている。
   SGLT-2 阻害薬は服用初期に eGFR の低下が認められるが、一過性であり服用を継続してよい。
   なぜならば、その後の SGLT-2 阻害薬による腎保護が期待されるからである。

7) 本ガイドラインでは、糖尿病とCKD合併例においては蛋白摂取制限を0.8g/kg/日に制限している。
 
8) 本ガイドラインでは、GLT-2 阻害薬を腎保護と心血管疾患の予防のため、糖尿病と CKD 合併症
   例には第一選択薬に推奨しています。






私見)
 CKDと降圧薬について、次回のブログで紹介します。
 何はともあれステージG3b(クレアチニンが45以下)では降圧薬の ARB は避けたほうが良いようです。
 本論文の図表は下記の PDF に掲載します。






          21120-2.PNG









1 CKD 図譜.pdf

2 Diabetes Management in Chronic Kidney Disease_ Synopsis of the 2020 KDIGO Clinical Practice Guideline _ Annals of Internal Medicine.pdf












 
posted by 斎賀一 at 18:22| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺