糸球体ろ過と蛋白尿について
Insights into Glomerular Filtration and Albuminuria
n engl j med 384;15 nejm.org April 15, 2021
この10年間で、糸球体ろ過に関する知見が進展しています。
(私も単純に糸球体の毛細血管の血管壁の透過性が障害され、蛋白が漏出してしまったのが蛋白尿と
理解していました。一般的な降圧薬のCCBが腎機能を悪化させるのは、糸球体の輸出細動脈を収縮し
糸球体内圧が亢進するためと思っていました。
更に降圧薬のARBは血清Kが亢進してしまうため、腎機能の悪化に繋がるのだと思っていました。)
糸球体でアルブミンは殆どがろ過されてしまい、その後下流での再吸収があるため、尿にはアルブミン
が出てこない。しかしそのバランスが障害されたり、わずかな透過性の亢進により明らかな蛋白尿と
なります。
また、糸球体の血流は輸入細動脈が握っており、それが拡張すると全身から血液が糸球体に注がれ、
血流のバランスが崩れることにより、糸球体内圧が亢進して蛋白尿に繋がります。
1) 足細胞の障害
隣り合わせの足細胞の足突起が絡み合って、血管壁を覆っています。
その足突起と足突起の間は超微細で、slit diaphragmと言います。
多くの水分と老廃物はこのslit diaphragmを通過しますが、アルブミンや蛋白などの栄養分は
通過せず血液内に留まります。
走査電子顕微鏡で隣り合わせの足突起を、青と黄色に色分けして示したのが図Cです。
更に超解像蛍光顕微鏡で示したのが図Dです。それを分子レベルで図解したのが図Eです。
図Eの左が黄色の足突起で、右が青の足突起です。その足突起と足突起の間がslit diaphragmです。
その間隔は40nmです。そこにnephrinが橋渡しをしていて、両方の足細胞のシグナル伝達をして
います。
podocinはnephrinと共同作用してイオンチャネルを司ります。
このpodocinの変異が、腎疾患のステロイド抵抗性に関係してきます。
足細胞のactinが足細胞そのものの骨格を形成していますが、糸球体ろ過の程度をコントロールして
います。足細胞の障害が蛋白尿となります。
足細胞の障害とは、その構成成分の崩壊と単純化を意味します。
その障害は原則的には可逆的ですが、場合により不可逆的変化もあります。
30歳以上では、この足細胞の障害は非可逆的変化で、糸球体の硬化性変化に繋がります。
2) 足細胞の自己免疫
足細胞に対する自己抗体が膜性腎症を起こし、ネフローゼ症候群となることが証明されています。
その他遺伝子レベルでも、足細胞のいろいろな構造物の欠損や消失が、糸球体ろ過に影響をして
いることも調べられています。
糸球体の内皮細胞の障害も妊娠中毒症の際に証明されています。
3) 糸球体の超微細ろ過の生理
十数年前までは、糸球体の基底膜がろ過のバリアとして主体的に働き、水分や溶解物は通すが
アルブミンなどの高分子はろ過されないとされていました。
その後の研究で足細胞を傷害すると、蛋白は基底膜を通過して足細胞に取り込まれていることが
分かりました。
また別の研究では、基底膜を通過した物質が足細胞のslit diaphragmで通過できなくなって
いました。この事からslit diaphragmは、選択的バリアの最初の段階と理解されます。
粗雑なバリアの基底膜と繊細なバリアのslit diaphragmがありますが、基底膜を通過した蛋白
が、繊細なslit diaphragmでなぜ詰まらないか、未だに論争があります。
[PGC]血管内圧 [PBS]ボーマン嚢内圧 (piGC)血管内の膠質浸透圧 (piBS)ボーマン嚢内の
膠質浸透圧
血管内圧からボーマン嚢内圧を引いた40に、更に血管内の膠質浸透圧の大体20を引いた20が、
糸球体のろ過の圧力となります。
(左が健康者、右が腎疾患。下の赤が血管、真ん中の青が基底膜、上の緑が足細胞の足突起と
slit diaphragmを表します。)
血管内圧が基底膜を圧迫しています。それを足細胞の足突起が裏から支えている構造です。
基底膜が高分子の物質の透過性を防いでいます。
もしも足細胞が傷害されると基底膜を支えられなくなり、slit diaphragmの短縮も生じます。
slit diaphragmの面積が減少すると水分や低分子の透過性が減じて、腎のろ過率の低下、
つまりGFRの低下となります。
一方で足細胞が基底膜を支えられなくなり、基底膜の蛋白など高分子の透過を防げなくなります。
この事がGFRの低下と蛋白尿の説明です。
(腎機能のGFRは、腎臓の血液の巡りを単純に示しているのでなく、slit diaphragmの減少に
よる透過性の低下を意味します。)
蛋白尿の初期段階でslit diaphragmの短縮が認められています。
降圧薬のARBやACE阻害薬は輸出動脈の収縮を抑制するため、糖尿病と非糖尿病の蛋白尿予防の
基本とされていました。(腎保護作用)
しかし輸入動脈の拡張も起きてしまい、ろ過の増大から基底膜の肥大、足細胞の障害にも繋がり、その
効果は相殺されてしまいます。
最近では、糖尿病治療薬のSGLT-2阻害薬が末期の慢性腎臓病の予後の改善に期待されています。
これはSGLT-2阻害薬の輸入動脈の収縮により、糸球体の過剰ろ過を防いでいるためと考えられて
います。
障害された足細胞は糸球体内圧を下げることはできません。
SGLT-2阻害薬の輸入動脈の収縮がその働きをします。
SGLT-2阻害薬の効果は、腎機能のGFRすべてに認められています。
私見)
4月24日に第一回目のワクチンを受けました。
痛くもなく無事に終了しました。しかし気分の問題でしょうか?
倦怠感があり、言い訳をするようですが本論文を理解するのに4日かかりました。
二回目の接種までに全て忘れてしまいそうです。
ただ二点だけは覚えていたいものです。
・蛋白尿には足細胞が大いに関係している。
・糖尿病治療薬のSGLT-2阻害薬は糸球体内圧を低下させる。
しかし何やら疑問も生じてきてしまいました。
降圧薬のARBとSGLT-2阻害薬を併用したらよいのでしょうか?