2025年01月18日

低ナトリウム血症・補足説明 治療編

低ナトリウム血症・補足説明 治療編

<院内勉強用>


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 uptodateを主体に纏めてみました。
無症候性の血清ナトリウム<130 mEq/Lの急性低ナトリウム血症患者では、通常、血清ナトリ
ウムがさらに低下するのを防ぐために、3%生理食塩水(すなわち、高張生理食塩水)の50mL
ボーラスで治療します。
ただし、低ナトリウム血症がすでに水利尿のために自己矯正されている場合、高張生理食塩水
は投与しません。

血清ナトリウム<130 mEq/L)の急性低ナトリウム症患者で、頭蓋内圧の上昇による可能性のある
症状(発作、曖昧、昏睡、呼吸停止、頭痛、吐き気、嘔吐、振戦、歩行または運動障害、または
混乱)がある場合は、3%生理食塩水の100mLボーラスで治療します。

軽度の低ナトリウム血症(血清ナトリウム130〜134 mEq / L)−軽度の慢性低ナトリウム血症
(血清ナトリウム130〜134mEq / L)の患者では、高張生理食塩水で治療しません。

中等度から重度の低ナトリウム血症(血清ナトリウム<130 mEq / L)−慢性低ナトリウム症および
血清ナトリウム<130mEq / L)の患者における初期治療は、症状の重症度(もしあれば)、既存の
頭蓋内病変(例、最近の外傷性脳損傷、最近の頭蓋内手術または出血、または頭蓋内新生物、
またはその他の空間占有病変)の有無によって異なります。

重篤な症状または既知の頭蓋内病変 − 低ナトリウム血症の重篤な症状 (例、発作、泣き止み、
昏睡、呼吸停止) のあるすべての患者で、3%生理食塩水の100mLボーラスで治療し、症状が
続く場合は、最大2回100mL用量 (合計用量 300 mL) を追加投与します。
各ボーラスは10分以上かけて注入されます。
生理食塩水は、浮腫性障害に関連する低ナトリウム血症の治療には使用しないでください。
SIADHでも生理食塩水を使用しないでください。
SIADHの患者に1リットルの等張生理食塩水を投与すると、ナトリウムは尿中に排泄されますが
水分の一部は保持され、低ナトリウム血症が悪化します。

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の治療
水制限: 1日800〜1000 mLに制限
サムスカ: V2受容体拮抗薬を使用して水排泄を促進
食塩摂取: 軽度の場合は食塩の追加摂取を考慮


3%食塩水の作り方
 生理食塩水400cc+10%食塩水6A(120cc)

1.5%食塩水の作り方
 生理食塩水200mLに10%食塩水を12mL加えると、1.5%食塩水ができます。

前回で紹介した論文のvery緩徐群は3%を倍時間かけて点滴しています。




ネットより
  https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=cXVRAtY5ExA






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       食事の時に食卓用食塩をふりかけるのも一法との事です。







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私見)
 診断のアルゴリズムに従い重症度を判定し、本院での身の丈にあった治療が大事です。










posted by 斎賀一 at 16:52| 泌尿器・腎臓・前立腺

低ナトリウム血症・補足説明 診断編

低ナトリウム血症・補足説明 診断編

<院内勉強用>


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 Uptodateを主に院内勉強用に資料を纏めてみました。

1) 先ず総論として
   健康な人では、バソプレシンとも呼ばれる抗利尿ホルモン(ADH)の放出が抑制され、
   過剰な水分が希薄な尿中に排泄されるため、水分の摂取は低ナトリウム血症につながり
   ません。
   腎水排泄は、低ナトリウム血症を発症するほとんどの患者で障害されており、通常はADH
   分泌を抑制できないためです。
   低ナトリウム血症の多くの患者には単一の原因がありますが、複数の要因が血漿ナトリ
   ウムの低下に寄与することがあります。
   診断の最初は、低張性低ナトリウム血症ばかりでなく、偽性低ナトリウム血症、高張性
   低ナトリウム血症、または等張性低ナトリウム血症であるかどうかを判断することです。
   しかし大多数の低ナトリウム血症患者は、低張性低ナトリウム血症を患っています。


2) 次に腎機能GFRの大幅な低下とチアジド系利尿薬(ナトリックス、フルイトラン)は、
   どちらも尿を正常に希釈する能力を損ない、低張性低ナトリウム血症の重要な原因です。
   一方で軽度から中等度の腎機能障害の患者では、遊離水を排泄する能力は著しくは損な
   われていません。したがって、正常血症は通常維持されます。
   対照的に進行した腎機能障害(eGFRが15以下)では、適切に抗利尿ホルモン(ADH)が
   抑制されているにもかかわらず、尿の最小浸透圧が200〜250 mOsm/kgにまで上昇し
   ます。
   この尿の希釈ができない原因は、機能しているネフロンあたりの溶質排泄の増加によって
   引き起こされる浸透圧利尿であると考えられています。
   概念としてTonicity は浸透圧(Osmolality)とは異なり、膜を通過できる溶質(浸透性
   溶質)はトニシティに寄与しません。
   例えば尿素は細胞膜を自由に通過できるため、浸透圧には影響を与えてもトニシティには
   影響しません。簡単に言えば、Tonicity は細胞とその周囲の溶液間で水の移動を引き
   起こす能力を表す性質です。
    推定尿量(L/日) = 1.44 x eGFR x Pcreat/Ucreat


3) 高血糖が存在する場合は、高張性低ナトリウム血症を除外するために血清ナトリウム濃度
   をグルコース値で補正する必要があります。
   「補正された」血清ナトリウムを計算するには、次の比率を使用します。
    : ナトリウム濃度は、グルコース濃度が100 mg / 100 mL(5.5 mmol / L)増加する
      ごとに約2 mEq / L低下します。


4) 血清浸透圧は直接には測定しません。下記の計算式で代用します。
    血清浸透圧の計算式:(mOsm/kg)=2×Na+Glucose÷18+BUN÷2.8



   https://doctor-fun-life.com/osmolality-estimator/
   https://www.calculatorultra.com/ja/tool/serum-osmolality-calculator.html#gsc.tab=0



  基準値は
   低張性低ナトリウム血症:  血清浸透圧 < 275 mOsm/kg
   正常浸透圧性 (偽性低ナトリウム血症):  275–295 mOsm/kg
   高浸透圧性:  血清浸透圧 > 295 mOsm/kg

  尿ナトリウム濃度 (Urine sodium)を測定し鑑別に使います。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
   尿Na > 30 mmol/L:  腎性のナトリウム喪失またはSIADH。
    尿Na < 30 mmol/L:  腎外性ナトリウム喪失(例: 下痢や嘔吐)

  尿比重で代替します。簡便ですが正確さに欠けます。
   尿比重が高い(1.025以上)場合: 脱水が疑われるため、血清浸透圧も高い可能性が
   あります。(> 295 mOsm/kg)
   尿比重が低い(1.005以下)場合: 過剰な水分摂取や低ナトリウム血症が疑われ、
   血清浸透圧も低い可能性があります。(< 275 mOsm/kg)


5) 低ナトリウム血症の分類
   • 軽度: 125〜135 mEq/L
   • 中等度: 115〜124 mEq/L
   • 重度: <115 mEq/L

   急性 vs 慢性
   • 急性: 48時間以内に発症
   • 慢性: 48時間以上持続

  症候性 vs 無症候性
   • 症候性: 頭痛、嘔吐、錯乱、けいれん、昏睡
   • 無症候性: 無症状、軽い倦怠感のみ


6) 治療の基本原則
   @ 原因の特定と修正
    • 低血量性: 脱水、出血、利尿薬の使用
    → 生理食塩水で輸液
    • 正常血量性: SIADH、甲状腺機能低下、薬剤
    → 水制限、サムスカ(V2受容体拮抗薬)
    •高血量性: 心不全、肝硬変、腎不全
    → 利尿薬、塩分・水分制限





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私見)
 アルゴリズムを参照しましょう。PDFも下記に掲載します。




       

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低ナトリウム 診断 アルゴリズム.pdf








posted by 斎賀一 at 16:30| 泌尿器・腎臓・前立腺

2025年01月17日

低ナトリウム血症の治療は迅速に!

低ナトリウム血症の治療は迅速に!

Correction Rates and Clinical Outcomes in Hospitalized Adults
With Severe Hyponatremia

<短 報>


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 従来の低ナトリウム血症の治療はエビデンスが十分でなかったため、急速な補正は奨励して
いませんでした。
今回、出来るだけ迅速に電解質の補正をすることの必要性を解説した、メタ解析の論文が出て
いましたのでブログします。

1) ナトリウム血症が120以下、もしくは125以下で症状がある患者11,811人を対象にして
   います。
   2013年1月から2023年10月までの研究が対象です。
   迅速補正群は8〜10mEq/L/24時間、緩徐補正群は6〜10mEq/L/24時間、
   very緩徐補正群は4〜6mEq/L/24時間としています。

2) 主要転帰は入院で30日以内での死亡、二次転帰は入院日数と橋中心髄鞘崩壊症(ODS)
   です。(ODSは多くの場合、血清ナトリウム濃度の急激な変動、特に低ナトリウム血症
   の急速な矯正が関与しています。
   ODSの症状は神経系における橋の機能障害によるもので、以下が含まれます。
   運動機能障害: 四肢の麻痺(特に四肢麻痺)や運動失調。
   嚥下障害: 食べ物や飲み物を飲み込むことが難しくなる。
   発話障害: 構音障害や言語の流暢性の低下。
   意識障害: 軽度の混乱から昏睡状態まで。
   Locked-in症候群: 重症の場合、患者は意識はあるものの、目の動き以外の身体の
             動きが完全に制限される状態に至ることがあります。)
   16の文献から11,811人が登録されています。平均年齢は68.22歳、女性が56.7%です。

3) 結果 
   moderate certaintyの論文では、主要転帰は入院の死亡/1000人では迅速群は緩徐群に
   比して32人減(オッズ比は0.67)、very緩徐群に比して221人減(オッズ比は0.29)
   でした。
   low certaintyの論文では、迅速群は緩徐群に比しリスク比が0.55で、very緩徐群に比し
   リスク比は0.35でした。
   LOSの発生は迅速群に比して緩徐群のリスク比は1.20で、very緩徐群のリスク比は3.09
   でした。

4) 結論
   迅速な補正が有効であることを証明しています。






 
私見)
 本院でも、低ナトリウム血症の患者さんは多く見られてきました。
 高齢化も一因でしょうか。
 迅速な対応が必要です。






本論文.pdf







posted by 斎賀一 at 19:25| 泌尿器・腎臓・前立腺