2018年12月20日

前立腺癌の根治手術と経過観察の29年間の比較

前立腺癌の根治手術と経過観察の29年間の比較
 
Radical Prostatectomy or Watchful Waiting 
in Prostate Cancer − 29-Year Follow-up
 n engl j med 379;24 nejm.org December 13, 2018



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 前立腺癌は男性では胃癌、大腸癌、肺癌に次いで4番目に罹患率の高い癌ですが、最近は増加傾向
です。
  一方で病気が進行していても、その進展は緩徐のため予後は良好であり、治療方針としてもPSA監視療法から根治手術まで多岐に亘っています。

 今回雑誌NEJMより、根治手術と無治療の経過観察とを比較した論文が出ましたので纏めてみました。
現代の医療環境からはやや離れていますが、却ってバイアスが掛からない純粋な(?)前立腺癌の治療効果がみられるとの利点もあります。


1) スカンジナビアにおけるSPCG-4研究からの報告です。
   1989年10月〜1999年2月に、限局性前立腺癌の男性695例を登録し、経過観察群と根治的
   前立腺全摘除術群に無作為に割り付け、2017年まで追跡データを収集しました。
   対象は75歳以下、余命が10年以上あると推測できる人、進行が速く予後が悪い癌に罹患して
   いない人、PSAが50ng以下、組織診断で中等度から高分化、骨転移がない等です。
   根治的手術で再発が確認されたら、アンドロゲン治療を最初に行う。
   骨転移があれば、両群共にホルモン療法を施すとしています。

2) 695名中553名が、2017年までに全死亡(80%)。根治的前立腺全摘除術群の347例中261例
   (71.9%)、経過観察群の348例中292例(83.8%)が死亡しました。
   181名が前立腺癌関連の死亡で(32%)、内訳は71名が根治手術群(19.6%)、110名が経過観察
   群(31.3%)でした。

3) 予後の予測因子としては、根治的前立腺全摘除術を行った男性のうち、被膜外浸潤を認めた男性
   では、被膜外浸潤を認めなかった男性の5倍の前立腺癌死亡リスクに関連し、グリーソンスコア 
   (2〜10で、スコアが高いほど癌の悪性度が高いことを示す。)が7を超えることは、スコアが6以下
   の男性の10倍も前立腺癌死亡リスクに関連していました。

4) 遠隔転移は、根治手術では92名で、経過観察群では150名です。
   23年経過時点では根治手術で26.6%、経過観察群で43.3%の遠隔転移でした。

5) 結論的には、23年の経過観察でみますと根治手術により寿命が2.9年間長くなり、全死亡1例を
   予防するための治療必要数は8.4例でした。
   根治手術による絶対的な利益は、全死亡率及び疾患特異的死亡率共に23年間の期間で2倍増加
   していました。

6) 現在では前立腺癌の診断は格段の進歩を遂げています。
   PSA健診の普及、治療の選択肢の向上、生検の前のMRI検査、遠隔手術(ダビンチ)などです。
   しかし、本論文では前立腺癌の本来の臨床的治療の性質を示唆するものとして、現在の治療選択を
   する際に、重要な指標と成り得るとしています。





私見)
 本論文においては、経過観察をするよりも根治手術を選択する方が2倍の効果ですが、本疾患が予後
 の良い事を考えると8人に1人が助かった事になります。しかも余命が3年長くなる程度でした。
 現在はPSA厳重管理の時代ですし、治療も進歩しています。もしかしたら根治手術と厳重管理の差は
 接近しているかもしれません。

 尚、私の以前の前立腺癌に関連する下記ブログも参照し、グリーソンスコア等を調べてください。
 下記に参考文献も掲載します。
 近々、前立腺癌の総説的なブログも計画しています。



   ○ 早期前立腺癌の根治手術と経過観察(積極的監視)の比較  (2017-7-24)
   ○ 前立腺癌に対する新しいガイドライン  (2017-01-13)
   ○ 限局性前立腺癌に対する10年間の追跡調査  (2016-10-31)






前立腺癌論文より.pdf

前立腺がんとかかりつけ医.pdf








posted by 斎賀一 at 13:13| Comment(1) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2018年11月19日

難治性の膀胱炎

難治性の膀胱炎
 
Poor clinical outcomes associated with community-onset
urinary tract infections due to extended-spectrum
cephalosporin-resistant Enterobacteriaceae



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 治療が長引いたり再発性の膀胱炎が時々ありますが、それに関しての研究論本が掲載されていました。


纏めてみますと

1) 腸内細菌による膀胱炎患者2,009人を対象に、887人を登録しました。
   更に広域セファロスポリン系の抗生剤に抵抗性の患者151人(exposed)を抽出し、それに対象
   として、広域セファロスポリン系に感受性の患者151人(unexposed)を抽出してコントロールと
   しました。
   (広域セファロスポリンとは、第二世代と第三世代です。本院で使用の薬剤では
    ○第一世代;ケフレックス、ケフラール、オラスポア、 ○第二世代;オラセフ、セフメタゾン、
    パンスポリン、 ○第三世代;バナン、フロモックス、メイアクト、セフゾン、ロセフィン注、
    セフトリア注  ※ 尚文献により若干異なります。)

2) 対象の平均年齢は56歳です。女性が79%で男性が21%でした。
   腸内細菌の原因菌としては、大腸菌が76%、 クレブシェーラが13%、エンテロバクターが9%です。

3) 一次転帰は臨床症状の改善です。
   ・発熱の持続 
   ・膀胱炎症状の継続 
   ・3日後の尿培養での腸内細菌が陽性 
   ・抗生剤の変更(感受性結果の報告による変更も含む)を不良転帰とします。  
    修正一次転帰は、膀胱炎症状の継続と尿培養の再検での陽性だけでも可
    除外として、菌血症と腎盂腎炎例は含まれていません。 

4) 結論的には
   ・セファロスポリンに耐性のある場合(exposed)と6か月前にセファロスポリンの服用の既往が
    ある場合(exposure)は、臨床症状の改善が不良でした。
     (本論文を読む場合にexposedとexposureを混同しないように注意)
   ・論者はそれだけでは十分に不良転帰を説明できないとしています。
   ・一般的なセファロスポリンの耐性が原因のβーラクタマーゼだけでなく、セファロスポリン耐性菌
    そのものが、膀胱炎にとって病原性が高いのではないか。
   ・症例は少ないが、エンテロバクターでは転帰が悪い。
   ・透析患者では免疫機能の低下が想定され再発が多い。
   ・逆に呼吸器疾患の患者では、感染症に対して広域抗生剤を使うというバイアスが掛かり、リスクが
    少なくなっている。

5) 検討として
   難治性膀胱炎は予後も悪い傾向です。初期治療には注意が必要ですが、更に3日後の尿培養での
   再検査も重要で、治療方針の再検討を心掛ける。




私見)
 初期治療での尿培養は欠かせませんが、本医院でも3日後の尿沈渣再検と尿培養を併せて、検討の
 余地がありそうです。 
 兎も角としまして、膀胱炎の患者さんは日頃から水分摂取(目標は1.5L)を心掛けてください。




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uti cephalosporin-resistant - コピー.pdf
















posted by 斎賀一 at 20:44| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2018年10月10日

若い女性の水分補給が膀胱炎の再発予防

若い女性の水分補給が膀胱炎の再発予防
 
Effect of Increased Daily Water Intake in Premenopausal
Women With Recurrent Urinary Tract Infections



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 若い女性(閉経前)の場合は十分な水分の補給により、繰り返す膀胱炎の再発予防に繋がるとの研究が、雑誌JAMAに掲載されました。


纏めますと

1) 対象は、閉経前の女性140名です。
   現在は症状が無いが、前年に少なくとも3回以上の膀胱炎を発症し、一日に水分を1.5L以下しか
   摂取していない人を登録しました。

2) 一日に水分を1.5L以上摂取した群(水分群)と、従来通りの摂取量の群(コントロール群)に振り
   分けました。 一年間の経過観察です。

3) 膀胱炎の発症は水分群で1.7、コントロール群で3.2でした。
   膀胱炎に対する抗生剤の使用頻度は水分群で1.9、コントロール群で3.6でした。
   結果的に水分群では、膀胱炎が50%減少しています。

4) 副作用としては頭痛12例、消化器症状が8例ありましたが、両群での差はありませんでした。

5) 患者さんの教育も大事と論者は記載しています。
   ・抗生剤の服用は耐性菌の誘発に繋がり、結局は膀胱炎の難治化となってしまう点
   ・性行為が膀胱炎のリスクとなるとの認識で、水分補給を十分にして、行為後は速やかに排尿する。

6) 抗生剤の予防投与の効果は85~95%まであるが、水分補給は、安価で且つ耐性菌の発生の問題も
   無く、安全であると結論付けています。





私見)
 自慢する程の事ではないのですが、私はこの年になるまで膀胱炎になったことがありません。
 水分補給が1.5L/日とは多いような感じもするかもしれませんが「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」
 十分な水分補給をして、1日に排尿回数8回を目安にしましょう。
  尚、個人的見解ですが、閉経前後や男女に関係なく、多くの水分摂取は膀胱炎の予防になるものと
 実感しています。





本論文より.pdf

JAMA文献.pdf











posted by 斎賀一 at 19:35| Comment(1) | 泌尿器・腎臓・前立腺