2024年08月20日

C型肝炎の再感染・男性間性交渉

C型肝炎の再感染・男性間性交渉

 
Hepatitis C Virus Reinfection Among Men Who Have Sex
With Men With HIV in New York City



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 C型肝炎の治療により完治した人(SVR)が、男性間の性交渉により再び再感染する率が
アメリカで増加しているとの事です。


1) 男性間性交渉(MSM)での再感染率は、4.7人/100人/年との事です。
   その危険率は一般的な感染率と比較すると9.7です。原因として直腸内への射精です。
   現在のニューヨークでは、最初の感染の危険因子はドラッグ(注射による)と性交渉と
   されていますが、再感染はMSMが原因としています。

2) 性興奮薬のメタンフェタミン(経口薬)の使用との直接的な関連性はありませんでした
   が、MSMの特有なメタンフェタミンのネットワークでは、C型肝炎治療の新時代にも関わ
   らず依然としてC型肝炎の治療をしていないグループがおり、間接的にそれらのグループ
   からの再感染との事です。

3) 新たな展開により、それに即したガイドラインが求められています。







私見)
 ニューヨークによる特殊環境かもしれませんが、我々が出来る事は新時代に則してDAA治療
 の啓蒙と考えています。
 肝炎ウイルスの検診が始まっています。
 一度は検診を受けてください。







Hepatitis C Virus Reinfection 1.pdf








posted by 斎賀一 at 17:59| 肝臓・肝炎

2023年07月22日

D型肝炎

D型肝炎

Hepatitis D Virus Infection
[N Engl J Med 2023;389:58-70.]



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 D型肝炎についての総説が、雑誌NEJMに載っていました。
日本の実地医家の私にはあまり馴染みがありませんので、今回勉強してブログします。
先ず日本での現状を「今日の臨床サポート」から引用します。


・D型肝炎ウイルス(HDV)は、B型肝炎ウイルス(HBV)をヘルパーウイルスとして増殖する
 特異な肝炎ウイルスである。 (つまりB型肝炎ウイルスのHBs抗原がないと増殖しません。)
・欧米に比してわが国ではHDVによるD型肝炎は低頻度で、HBs抗原陽性者の0.6%と報告されて
 いる。
・B型肝炎ウイルス感染患者において、HBV-DNA量が低値(4.0 log copy/mL以下)であり、
 更に他の肝障害を生じる疾患(脂肪肝、アルコール性肝障害等)を除外しても、原因不明の
 肝機能障害が持続している場合に、HDV共感染を鑑別診断の1つとして考える。
・HDV感染の診断は、HD抗体陽性で、血中HDV-RNAの検出で診断が確定する。
 2004年以後HD抗体の製造が中止され、現在、抗体診断ができない状況にある。



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デルタ抗原(HD-Ag)は感染性病原体の構成成分であり、この粒子は複製にHBVを必要とする。
HDVのゲノムは約1.7kbの1本鎖、環状のアンチセンスRNAから構成されている。
デルタ抗原の大きさは35-37nmと非常に小さく、その表面はHBs抗原で被われている。
HDVは、それ自身では複製できず、HBVをヘルパーウイルスとして増殖する不完全ウイルスで
あることから、HDVウイルスキャリアはHBs抗原陽性でなければならない。



本論文より


1) B型肝炎ウイルスと同様に感染者からの体液、注射針の感染です。
   慢性D型肝炎は人間において最も激甚な進行性のウイルス性肝炎である。

2) B型肝炎のワクチン接種が進み、若い人でのD型肝炎が稀となっています。
   それに代わって高齢者の診断が高まっています。

3) B型肝炎との同時感染では自然治癒傾向のため、又診断をしない例もありバイアスが
   掛かり実際の感染傾向は把握されていません。

4) 現在のアメリカのガイドラインでは、D型肝炎の流行国からの移民でハイリスクの人が
   対象としています。



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5) 2010〜2020年にかけて慢性C型肝炎患者157,333人全員にD型肝炎抗体を調べましたが
   6.7%程度でした。

6) 感染には2つのタイプがあります。
   B型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルスの同時感染(coinfection)と
   重複感染(superinfection)です。



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   チンパンジーにB型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルス陽性者の血清を接種すると、2か月後
   にB型肝炎ウイルス抗体が出現し、遅れて肝細胞内にD型肝炎ウイルスが増殖し始めます。
   しかし、やがて両抗体は消退します。
   人間でも同時感染では同じ事が想定されます。



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   次のチンパンジーの実験では、B型肝炎のキャリアにD型肝炎ウイルスの血清を接種
   すると2週間後には肝細胞内のD型肝炎ウイルスが認められ、85%まで増殖します。
   B型肝炎とD型肝炎は持続し、今まで安定していたB型肝炎も増悪傾向となってしまい
   ます。
   イタリアからの報告では、慢性D型肝炎の93%は活動型肝炎か肝硬変となっていました。
   しかし、実際は軽症のD型肝炎も多いと想像されています。







私見)
  B型肝炎で安定している人も経過で悪化傾向の場合は、鑑別が必要となりそうです。













posted by 斎賀一 at 16:42| 肝臓・肝炎

2023年03月06日

肝硬変から肝細胞癌の発生頻度

肝硬変から肝細胞癌の発生頻度

<短 報>
Risk factors for HCC in contemporarycohorts of patients
with cirrhosis :Hepatology



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 肝硬変の患者に絞って、肝癌発生を調べた論文が掲載されていましたのでブログします。


1) 肝硬変患者の2,773名(平均年齢60.1歳)が対象です。
   内訳はC型肝炎ウイルス活動群が19.0%、ウイルス治療治癒群が23.3%、
   アルコール性肝硬変が16.1%、非アルコール性脂肪肝が30.1%です。
   肝癌が発生、肝移植、死亡まで経過を追っています。
   統計学的には、毎年7,406名を追跡調査することになるそうです。

2) 年間の肝癌発生は135名で、1.82%/年でした。
   ウイルス治療治癒群の肝癌発生率は、1.71%/年
   アルコール性肝硬変では、1.32%/年
   非アルコール性脂肪肝では、1.24%/年でした。

3) 明らかに肝硬変患者でも非アルコール性脂肪肝では肝癌発生は低いのですが、
   その非アルコール性脂肪肝と比較しますと、ウイルス治療治癒群でも危険率は2.04倍、
   喫煙での危険率は1.63倍、体重増/肥満が1.79でした。

4) 以前の報告からすると、肝癌発生頻度は低い結果でした。
   危険因子として喫煙、肥満が挙げられています。
    




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私見)
 DAAによりC型肝炎が治ったと安心しないでください。
 喫煙、肥満、アルコールに注意しましょう。高々、10年間で1.5割の肝癌発生です。
 何事ものんびり構えて、血の一滴まで頑張りましょう。










Risk factors for HCC.pdf

C型肝炎治療薬.pdf

肝細胞癌_.pdf










posted by 斎賀一 at 18:28| 肝臓・肝炎