D型肝炎
Hepatitis D Virus Infection
[N Engl J Med 2023;389:58-70.]
D型肝炎についての総説が、雑誌NEJMに載っていました。
日本の実地医家の私にはあまり馴染みがありませんので、今回勉強してブログします。
先ず日本での現状を「今日の臨床サポート」から引用します。
・D型肝炎ウイルス(HDV)は、B型肝炎ウイルス(HBV)をヘルパーウイルスとして増殖する
特異な肝炎ウイルスである。 (つまりB型肝炎ウイルスのHBs抗原がないと増殖しません。)
・欧米に比してわが国ではHDVによるD型肝炎は低頻度で、HBs抗原陽性者の0.6%と報告されて
いる。
・B型肝炎ウイルス感染患者において、HBV-DNA量が低値(4.0 log copy/mL以下)であり、
更に他の肝障害を生じる疾患(脂肪肝、アルコール性肝障害等)を除外しても、原因不明の
肝機能障害が持続している場合に、HDV共感染を鑑別診断の1つとして考える。
・HDV感染の診断は、HD抗体陽性で、血中HDV-RNAの検出で診断が確定する。
2004年以後HD抗体の製造が中止され、現在、抗体診断ができない状況にある。
デルタ抗原(HD-Ag)は感染性病原体の構成成分であり、この粒子は複製にHBVを必要とする。
HDVのゲノムは約1.7kbの1本鎖、環状のアンチセンスRNAから構成されている。
デルタ抗原の大きさは35-37nmと非常に小さく、その表面はHBs抗原で被われている。
HDVは、それ自身では複製できず、HBVをヘルパーウイルスとして増殖する不完全ウイルスで
あることから、HDVウイルスキャリアはHBs抗原陽性でなければならない。
本論文より1) B型肝炎ウイルスと同様に感染者からの体液、注射針の感染です。
慢性D型肝炎は人間において最も激甚な進行性のウイルス性肝炎である。
2) B型肝炎のワクチン接種が進み、若い人でのD型肝炎が稀となっています。
それに代わって高齢者の診断が高まっています。
3) B型肝炎との同時感染では自然治癒傾向のため、又診断をしない例もありバイアスが
掛かり実際の感染傾向は把握されていません。
4) 現在のアメリカのガイドラインでは、D型肝炎の流行国からの移民でハイリスクの人が
対象としています。
5) 2010〜2020年にかけて慢性C型肝炎患者157,333人全員にD型肝炎抗体を調べましたが
6.7%程度でした。
6) 感染には2つのタイプがあります。
B型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルスの同時感染(coinfection)と
重複感染(superinfection)です。
チンパンジーにB型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルス陽性者の血清を接種すると、2か月後
にB型肝炎ウイルス抗体が出現し、遅れて肝細胞内にD型肝炎ウイルスが増殖し始めます。
しかし、やがて両抗体は消退します。
人間でも同時感染では同じ事が想定されます。
次のチンパンジーの実験では、B型肝炎のキャリアにD型肝炎ウイルスの血清を接種
すると2週間後には肝細胞内のD型肝炎ウイルスが認められ、85%まで増殖します。
B型肝炎とD型肝炎は持続し、今まで安定していたB型肝炎も増悪傾向となってしまい
ます。
イタリアからの報告では、慢性D型肝炎の93%は活動型肝炎か肝硬変となっていました。
しかし、実際は軽症のD型肝炎も多いと想像されています。
私見)
B型肝炎で安定している人も経過で悪化傾向の場合は、鑑別が必要となりそうです。