2023年07月22日

D型肝炎

D型肝炎

Hepatitis D Virus Infection
[N Engl J Med 2023;389:58-70.]



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 D型肝炎についての総説が、雑誌NEJMに載っていました。
日本の実地医家の私にはあまり馴染みがありませんので、今回勉強してブログします。
先ず日本での現状を「今日の臨床サポート」から引用します。


・D型肝炎ウイルス(HDV)は、B型肝炎ウイルス(HBV)をヘルパーウイルスとして増殖する
 特異な肝炎ウイルスである。 (つまりB型肝炎ウイルスのHBs抗原がないと増殖しません。)
・欧米に比してわが国ではHDVによるD型肝炎は低頻度で、HBs抗原陽性者の0.6%と報告されて
 いる。
・B型肝炎ウイルス感染患者において、HBV-DNA量が低値(4.0 log copy/mL以下)であり、
 更に他の肝障害を生じる疾患(脂肪肝、アルコール性肝障害等)を除外しても、原因不明の
 肝機能障害が持続している場合に、HDV共感染を鑑別診断の1つとして考える。
・HDV感染の診断は、HD抗体陽性で、血中HDV-RNAの検出で診断が確定する。
 2004年以後HD抗体の製造が中止され、現在、抗体診断ができない状況にある。



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デルタ抗原(HD-Ag)は感染性病原体の構成成分であり、この粒子は複製にHBVを必要とする。
HDVのゲノムは約1.7kbの1本鎖、環状のアンチセンスRNAから構成されている。
デルタ抗原の大きさは35-37nmと非常に小さく、その表面はHBs抗原で被われている。
HDVは、それ自身では複製できず、HBVをヘルパーウイルスとして増殖する不完全ウイルスで
あることから、HDVウイルスキャリアはHBs抗原陽性でなければならない。



本論文より


1) B型肝炎ウイルスと同様に感染者からの体液、注射針の感染です。
   慢性D型肝炎は人間において最も激甚な進行性のウイルス性肝炎である。

2) B型肝炎のワクチン接種が進み、若い人でのD型肝炎が稀となっています。
   それに代わって高齢者の診断が高まっています。

3) B型肝炎との同時感染では自然治癒傾向のため、又診断をしない例もありバイアスが
   掛かり実際の感染傾向は把握されていません。

4) 現在のアメリカのガイドラインでは、D型肝炎の流行国からの移民でハイリスクの人が
   対象としています。



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5) 2010〜2020年にかけて慢性C型肝炎患者157,333人全員にD型肝炎抗体を調べましたが
   6.7%程度でした。

6) 感染には2つのタイプがあります。
   B型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルスの同時感染(coinfection)と
   重複感染(superinfection)です。



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   チンパンジーにB型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルス陽性者の血清を接種すると、2か月後
   にB型肝炎ウイルス抗体が出現し、遅れて肝細胞内にD型肝炎ウイルスが増殖し始めます。
   しかし、やがて両抗体は消退します。
   人間でも同時感染では同じ事が想定されます。



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   次のチンパンジーの実験では、B型肝炎のキャリアにD型肝炎ウイルスの血清を接種
   すると2週間後には肝細胞内のD型肝炎ウイルスが認められ、85%まで増殖します。
   B型肝炎とD型肝炎は持続し、今まで安定していたB型肝炎も増悪傾向となってしまい
   ます。
   イタリアからの報告では、慢性D型肝炎の93%は活動型肝炎か肝硬変となっていました。
   しかし、実際は軽症のD型肝炎も多いと想像されています。







私見)
  B型肝炎で安定している人も経過で悪化傾向の場合は、鑑別が必要となりそうです。













posted by 斎賀一 at 16:42| 肝臓・肝炎

2023年03月06日

肝硬変から肝細胞癌の発生頻度

肝硬変から肝細胞癌の発生頻度

<短 報>
Risk factors for HCC in contemporarycohorts of patients
with cirrhosis :Hepatology



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 肝硬変の患者に絞って、肝癌発生を調べた論文が掲載されていましたのでブログします。


1) 肝硬変患者の2,773名(平均年齢60.1歳)が対象です。
   内訳はC型肝炎ウイルス活動群が19.0%、ウイルス治療治癒群が23.3%、
   アルコール性肝硬変が16.1%、非アルコール性脂肪肝が30.1%です。
   肝癌が発生、肝移植、死亡まで経過を追っています。
   統計学的には、毎年7,406名を追跡調査することになるそうです。

2) 年間の肝癌発生は135名で、1.82%/年でした。
   ウイルス治療治癒群の肝癌発生率は、1.71%/年
   アルコール性肝硬変では、1.32%/年
   非アルコール性脂肪肝では、1.24%/年でした。

3) 明らかに肝硬変患者でも非アルコール性脂肪肝では肝癌発生は低いのですが、
   その非アルコール性脂肪肝と比較しますと、ウイルス治療治癒群でも危険率は2.04倍、
   喫煙での危険率は1.63倍、体重増/肥満が1.79でした。

4) 以前の報告からすると、肝癌発生頻度は低い結果でした。
   危険因子として喫煙、肥満が挙げられています。
    




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私見)
 DAAによりC型肝炎が治ったと安心しないでください。
 喫煙、肥満、アルコールに注意しましょう。高々、10年間で1.5割の肝癌発生です。
 何事ものんびり構えて、血の一滴まで頑張りましょう。










Risk factors for HCC.pdf

C型肝炎治療薬.pdf

肝細胞癌_.pdf










posted by 斎賀一 at 18:28| 肝臓・肝炎

2023年01月23日

C型肝炎治療薬のDAAの有効性は普遍的

C型肝炎治療薬のDAAの有効性は普遍的
 
Association of Direct-Acting Antiviral Therapy With Liver
and Nonliver Complications and Long-term Mortality in Patients
With Chronic Hepatitis C



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 慢性C型肝炎の患者は未治療の場合は肝線維化が進行して肝硬変、肝細胞癌に進展します。
肝臓以外の臓器にも悪影響を及ぼして、その為の死亡率も増加すると推測されていますが、
今回その点を調べた論文が、雑誌JAMAに掲載されています。


1) 2010年から2021年にかけて調べています。
   慢性C型肝炎患者245,596人を対象に、DAA治療した40,654と比較しています。
   主要転帰は肝細胞癌、非代償性肝硬変、肝以外の疾病(肝以外の癌疾患、糖尿病、
   慢性腎臓病、心血管疾患)の発生率および全体の死亡率です。

2) 肝細胞癌の発生に関しては、DAA治療群で3.8人/1,000人/年に対して
   非治療群では、4.0人/1,000人/年です。
   肝硬変を併発した場合には、DAA治療群で20.1人/1,000人/年に対して
   非治療群では、41.8人/1000人/年です。
   非代償性肝硬変の発生は同様の傾向でDAA治療群は、28.2人/1,000人/年に対して
   非治療群では、40.8人/1,000人/年でした。

3) 肝以外の疾患発生率は下記のグラフを参照ください。
  
    
     
     
     
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4) 結論
   DAAの治療は肝細胞癌や非代償性肝硬変の発生を抑制するばかりでなく、糖尿病、
   慢性腎臓病、心血管疾患の併発をも減少させています。
   (DAA治療の対象者は高齢者が多いことを勘案すると、統計処置をした後では明確に
   肝以外の疾患の抑制に働いています。)







私見)
 C型肝炎の治療薬DAAの導入は遅きに過ぎたという事はなく、高齢者において肝以外の慢性疾患
 をも抑制できます。HCV抗体の検査と早期の治療は、現在も必要です。









本論文.pdf









posted by 斎賀一 at 20:00| 肝臓・肝炎