2023年03月06日

肝硬変から肝細胞癌の発生頻度

肝硬変から肝細胞癌の発生頻度

<短 報>
Risk factors for HCC in contemporarycohorts of patients
with cirrhosis :Hepatology



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 肝硬変の患者に絞って、肝癌発生を調べた論文が掲載されていましたのでブログします。


1) 肝硬変患者の2,773名(平均年齢60.1歳)が対象です。
   内訳はC型肝炎ウイルス活動群が19.0%、ウイルス治療治癒群が23.3%、
   アルコール性肝硬変が16.1%、非アルコール性脂肪肝が30.1%です。
   肝癌が発生、肝移植、死亡まで経過を追っています。
   統計学的には、毎年7,406名を追跡調査することになるそうです。

2) 年間の肝癌発生は135名で、1.82%/年でした。
   ウイルス治療治癒群の肝癌発生率は、1.71%/年
   アルコール性肝硬変では、1.32%/年
   非アルコール性脂肪肝では、1.24%/年でした。

3) 明らかに肝硬変患者でも非アルコール性脂肪肝では肝癌発生は低いのですが、
   その非アルコール性脂肪肝と比較しますと、ウイルス治療治癒群でも危険率は2.04倍、
   喫煙での危険率は1.63倍、体重増/肥満が1.79でした。

4) 以前の報告からすると、肝癌発生頻度は低い結果でした。
   危険因子として喫煙、肥満が挙げられています。
    




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私見)
 DAAによりC型肝炎が治ったと安心しないでください。
 喫煙、肥満、アルコールに注意しましょう。高々、10年間で1.5割の肝癌発生です。
 何事ものんびり構えて、血の一滴まで頑張りましょう。










Risk factors for HCC.pdf

C型肝炎治療薬.pdf

肝細胞癌_.pdf










posted by 斎賀一 at 18:28| 肝臓・肝炎

2023年01月23日

C型肝炎治療薬のDAAの有効性は普遍的

C型肝炎治療薬のDAAの有効性は普遍的
 
Association of Direct-Acting Antiviral Therapy With Liver
and Nonliver Complications and Long-term Mortality in Patients
With Chronic Hepatitis C



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 慢性C型肝炎の患者は未治療の場合は肝線維化が進行して肝硬変、肝細胞癌に進展します。
肝臓以外の臓器にも悪影響を及ぼして、その為の死亡率も増加すると推測されていますが、
今回その点を調べた論文が、雑誌JAMAに掲載されています。


1) 2010年から2021年にかけて調べています。
   慢性C型肝炎患者245,596人を対象に、DAA治療した40,654と比較しています。
   主要転帰は肝細胞癌、非代償性肝硬変、肝以外の疾病(肝以外の癌疾患、糖尿病、
   慢性腎臓病、心血管疾患)の発生率および全体の死亡率です。

2) 肝細胞癌の発生に関しては、DAA治療群で3.8人/1,000人/年に対して
   非治療群では、4.0人/1,000人/年です。
   肝硬変を併発した場合には、DAA治療群で20.1人/1,000人/年に対して
   非治療群では、41.8人/1000人/年です。
   非代償性肝硬変の発生は同様の傾向でDAA治療群は、28.2人/1,000人/年に対して
   非治療群では、40.8人/1,000人/年でした。

3) 肝以外の疾患発生率は下記のグラフを参照ください。
  
    
     
     
     
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4) 結論
   DAAの治療は肝細胞癌や非代償性肝硬変の発生を抑制するばかりでなく、糖尿病、
   慢性腎臓病、心血管疾患の併発をも減少させています。
   (DAA治療の対象者は高齢者が多いことを勘案すると、統計処置をした後では明確に
   肝以外の疾患の抑制に働いています。)







私見)
 C型肝炎の治療薬DAAの導入は遅きに過ぎたという事はなく、高齢者において肝以外の慢性疾患
 をも抑制できます。HCV抗体の検査と早期の治療は、現在も必要です。









本論文.pdf









posted by 斎賀一 at 20:00| 肝臓・肝炎

2023年01月05日

アルコール性肝炎

アルコール性肝炎

Alcohol-Associated Hepatitis
[n engl j med 387;26 nejm.org December 29, 2022]



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 雑誌NEJMに総説が載っていましたので纏めてみました。
アルコール性肝炎の重症化の基盤は、細菌性感染症です。慢性の経過中に、ある日突然の急性増悪を呈し、短期間で死に至る場合もあり、3か月以内に20〜50%の死亡率です。特にコロナ禍では、急性増悪が増加傾向です。
その際の治療の基本はステロイド剤ですが、長期的な改善があるかはエビデンスがありません。


 1) アルコール性肝炎の多くの患者さんは軽症の経過を辿りますが、
    進行性の線維化から肝硬変に移行し、合併症を伴うこともあります。
    その原因は、遺伝的背景か、環境因子か不明です。特に女性は、
    重症化リスクが高いです。
    アルコールの過剰摂取は、腸管での透過性を増長し、腸内細菌叢の
    変化を誘発し、細菌感染と真菌感染も起こします。この事が更に、
    肝細胞やジヌソイド細胞の周辺の基質の変化を起こし、門脈圧亢進
    となります。更に免疫機能低下から、肝障害や多臓器不全となります。
    組織学的には、細胆管の反応をおこし、肝細胞も偽胆管増生になります。
    これが黄疸の病態です。総ビリルビンは3以上となり、ASTはSLTの1.5倍
    となります。
    中等度の場合でも、3か月以内での死亡は3〜7%で、1年後では
    13〜20%ともなります。その多くの原因は、合併症と感染症です。
    やはり、予防的治療の主体は禁酒です。

 2) 組織学的診断では、肝細胞周辺とジヌソイドの線維化
    (chicken-wire appearance;下記の図参照)ですが、
    非アルコール性肝炎(NASH)でも認められる所見です。
    (下記にRubinの教科書より参照)
    絶対的な鑑別所見はありません。現在、非侵襲的検査として
    血清ケラチン18分画(keratin-18fragment)が有力視
    されています。

 3) 重症化リスクとして黄疸、浮腫、腹水があります。
    多くの患者さんは、入院時にはSIRS(SARSではありません。
    下記PDFを参照)を疑われます。微熱、好中球増多です。
    当初は、感染症は疑われず、無菌性と思われてしまいます。
    プロカルシトニンが、感染性の有無の鑑別に有効です。

 4) アルコール性肝炎の低栄養状態も深刻で、栄養指導も重要となります。

 5) 感染症のコントロールのために、ステロイドの使用は禁忌では
    ありませんが、アルコール性肝炎の重症化には、16%までも感染症が
    関与しており注意が必要です。
    若い人やステロイド治療により、侵襲的真菌感染症も増えています。

 6) 早期での肝移植が推奨されています。
   (以下省略)




私見)
 アルコール性肝炎の患者さんには、黄疸、浮腫、腹水の3徴候がチェックポイントとなります。日頃の体重測定も管理として利用できます。
 本論文で新たに認識できた点は、アルコール性肝炎と感染症の関係でした。
 禁酒の指導はなかなか手ごわい任務です。患者さんに嫌われても、信頼される
医療を目指したいものです。
 


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        上の図はchicken-wire appearance


  
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       上の図はRubinより






SIRSの診断基準.pdf











posted by 斎賀一 at 10:50| 肝臓・肝炎