2023年09月25日

コロナワクチン接種後の脳卒中の可能性?

コロナワクチン接種後の脳卒中の可能性?

Stroke Following Coronavirus Disease 2019 Vaccination:
Evidence Based on Different Designs of Real-World Studies



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 コロナワクチン後の副作用は軽度ですが一般的に懸念される方も多く、接種に対する信頼性が
損なわれ、接種を手控える人もあります。
新型コロナに罹ると血管の内皮細胞障害が起こり、肺の間質病変や多臓器の血栓症を誘発する
事が重症化の一因と言われていました。
コロナワクチンに関しても、免疫機能の変化にて血管障害が懸念されています。
ワクチン誘導性の血小板減少性血栓症が主な病態とも推測されています。また、ワクチンによる
血管内皮細胞のダメージが脳卒中の誘発に関連しているとの推定もされています。
アストラゼネカワクチンも、血栓症の危険性から一時中断された時期もありました。
オミクロン株になってからは、免疫防御機能をすり抜けて感染力は増しましたが、重症化率は
低下している印象です。その事が、現時点でワクチン接種に消極的になる原因でもあります。
フランスでは新型コロナに罹患すると、脳卒中の発生が増すとの報告がありますが、逆の意味
合いでフランスと同様に、イギリスでもコロナワクチン後の脳卒中の報告もされています。
コロナワクチンの脳卒中の副作用に関するメタ解析の論文がありましたので、ブログします。


1) コロナワクチン後の虚血性脳卒中、出血性脳卒中、脳静脈洞血栓症の危険率を調べま
   した。79,918,904人が登録しています。
   コーホート研究、SCCS、CCOSにて危険率を算定しています。
   (下記に補足説明をしました。)
   ワクチンはファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ChAdOx1です。
   リスク期間は接種後7,14、21、28日後に設定しています。

2) 結論
   コーホート研究では、虚血性脳卒中の危険率は0.82、出血性脳卒中は0.75、
   静脈洞血栓症は1.18でした。
   SCCSでは、接種後1〜21日後の虚血性脳卒中は1.05、出血性脳卒中は1.16,
   1〜28日後の虚血性脳卒中は1.04、出血性脳卒中は1.37、静脈洞血栓症は1.58でした。
   CCOSでは、アストラゼネカワクチン接種後の静脈洞血栓症は2.9です。




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               (虚血性脳卒中の危険率です。)



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               (出血性脳卒中の危険率です)



3)考察
  新型コロナ感染による脳卒中の発生予防にも、コロナワクチンの効果はコーホート研究に
  より証明されております。
  コロナワクチン接種後の脳卒中の副反応もコーホート研究によると問題視されませんが、
  SCCSとCCOSではやや増加しており、統計の仕方により差異が生じています。
  コーホート研究ではバイアスが入りやすく、結果が捻じ曲げられることもあります。
  一方でSCCSとCCOSでは同一登録者がコントロールにもなるため、バイアスが最小限に限定
  できます。但しSCCSでは接種の前後の脳卒中の危険領域が含まれてしまう懸念も生じます。
  CCOSでは、脳卒中発生前のコントロール期間とリスク期間の間にそれぞれ接種をして
  います。

4) 結論 
   コロナワクチンによる脳卒中の副作用はかなり稀です。
   しかし脳卒中のリスクのある人は、ワクチンの効果が大きい事とリスクのある事を勘案
   し、十分にワクチンを接種するかを主治医と相談して(making decision)決める事
   も大事です。






私見)
  実地医家にとって、ワクチン接種の際に脳卒中のリスクを判断するのはかなり困難です。
  最近の一過性脳虚血発作や内膜中膜肥厚が中等度以上ある場合や、高血圧が極度に不安定
  な患者さんの場合は、新型コロナに罹患した場合の合併症の危険率も含めて、患者さんと
  決定する方針です。
  何しろリスクのある人には、ワクチンを接種する事を推奨しているのですから。



  
 補足説明)



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 ・Cohort study: コーホート研究は、異なる個体群(コホート)を比較し、特定のリスク
  要因や暴露要因に関連した疾患の発生率を調査します。コーホートは通常、共通の特性を
  持つ人々からなり、長期的にフォローアップされます。

 ・Self-controlled series study"(自己対照系列研究):この研究デザインは、
  同じ個体または同じグループ内の同じ人々の異なる時間帯、または出来事の間で比較を
  行います。特定の出来事や介入が発生した後のリスクや効果を評価することが目的です。

 ・Case-crossover study: ケース・クロスオーバー研究では、個体がケースとして分類
  された期間と、コントロールとして分類された期間を比較するために、条件つき対応解析が
  使用されます。この方法は、各個体が自身のコントロールであるため、自己対照的である
  ことが特徴です。
    
  浅学な私が拡大解釈しますと、一般住民を対象にしたコーホート研究では、発生のリスクは
  極めて稀ですが、脳卒中になり易い人では、やはりリスクを伴うという事のようです。







コロナワクチン 脳卒中.pdf














posted by 斎賀一 at 20:06| ワクチン

2023年09月20日

コロナとインフルエンザのワクチン同時接種の安全性

コロナとインフルエンザのワクチン同時接種の安全性

 
Immunogenicity and Reactogenicity of Coadministration
of COVID-19 and Influenza Vaccines



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 コロナとインフルエンザワクチンの同時接種は認可されていますが、現実には別々に接種
されているようです。背景にはエビデンスが十分でないためと思われます。
 今回雑誌JAMAより、副反応とその効果に関する論文が出されています。


1) インフルエンザワクチンは2022/2023版です。
   コロナワクチンはオミクロン株のBA.4/BA.5のファイバー社です。
   主要転帰はアンケートによる局所反応、発熱、倦怠感、何らかの全身症状とそれらの
   期間です。免疫効果はワクチン後のスパイク蛋白のIgGです。

2) 結果
   588人を解析しています。85人のコロナワクチン単独群(平均年齢71歳)
   357人のインフルエンザワクチン単独群(平均年齢55歳)
   146人の同時接種群(平均年齢61歳)です。
   コロナワクチンの免疫効果を調べたのは151人で、その内74人がコロナ単独群
   77人が同時接種群でした。
   コロナ単独群との比較をしています。
   全身症状の副反応は同時接種群と同等で、危険率は0.82でした。
   免疫抗体の値は、同時接種群は単独群よりも若干低く0.84でした。
   接種後の経過でも31%以上の低下はなく、効果に影響はないものと思われます。



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              (1がコロナワクチン単独群です。)




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       (同時接種の方が若干時間の経過で抗体価が低下しています。)




3) 結論
   同時接種は副反応も免疫効果も非劣勢を証明できました。
   ワクチン接種の遵守のうえからも、同時接種を勧めるべきです。





私見)
  本院の現実としてコロナとインフルエンザのワクチン同時接種は不可能です。
  では単独接種の場合の間隔はどうすべきか。接種者の都合に沿いたいと思っています。
  (私の本心は、2週間は開けたいと思っているのですが。)






本論文.pdf

接種間隔.pdf

新型コロナワクチンとそれ以外のワクチン.pdf

コロナとインフルワクチンの同時接種での副反応.pdf





posted by 斎賀一 at 19:18| ワクチン

2023年09月09日

肺炎球菌ワクチンとA型肝炎ワクチンの同時接種

肺炎球菌ワクチンとA型肝炎ワクチンの同時接種

Coadministered pneumococcal conjugate vaccine decreases immune
response to hepatitis A vaccine: a randomized controlled trial



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 ワクチンの同時接種は推奨されており、特に小児の場合、ワクチンの同時接種の数は天井
知らずです。接種の受診回数を減らすことが優先されています。
海外旅行の際の注意点は、発展途上国はワクチンの供給が不十分なため侵襲的肺炎球菌の感染症
が多く発生しています。また衛生環境上の問題から、A型肝炎も蔓延している国があります。
それらの国に旅行する際には、肺炎球菌ワクチンとA型肝炎ワクチンの同時接種を旅行検閲機関
では推奨しています。安全性は確立されていますが、ワクチン効果に対しての干渉作用に関する
論文はあまりありません。
以前からglycoconjugated vaccines(グリココンジュゲートワクチン)に関しての干渉作用
が一部で懸念されています。
従来のワクチンは、病原体全体やその部分を使って免疫応答を誘導することが一般的でした。
しかし、一部の細菌は表面に多糖類(糖分子の長い鎖)を持っており、これらの多糖類に対する
免疫応答が十分に強力ではないことがあります。
このため、多糖類を蛋白質に結びつけたglycoconjugated vaccinesが開発されました。
この結合により、免疫系は多糖類をより効果的に認識し、それに対する免疫応答を強化すること
ができます。
具体的な例として、肺炎球菌ワクチンやヒブワクチンなどの病原体に対するglycoconjugated
vaccinesが広く使用されています。

 今回スカンジナビアから、肺炎球菌ワクチン(13価)とA型肝炎ワクチンの同時接種により
抗体価に干渉反応がないかの論文が出ています。


1) 旅行の検疫クリニックを訪れた、健康な305人の成人を対象に調べています。
   肺炎球菌ワクチンとA型肝炎ワクチンを同時接種した群、肺炎球菌ワクチン単独の群、
   A型肝炎ワクチン単独の群を1:1:1にランダマイズして接種後1か月の抗体値を調べて
   います。

2) 結論
   抗体のIgGを調べると、同時接種群と肺炎ワクチン単独での肺炎球菌に対する抗体値は同じ
   でしたが、A型肝炎に対する抗体値は型単独群よりも同時接種群の方が低下していました。
   安全性の面では問題はありませんでしたが、高齢者ほど同時接種ではA型肝炎に対する抗体
   価が低下していました。




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        (上のAは接種後1か月のA型肝炎に対する抗体値の分布
         明らかに同時接種の方が低下した分布です。)



3)考察
  Conjugate vaccineは4種混合ワクチンにも利用されていますし、小児の肺炎球菌ワクチン、
  ヒブワクチン、B型肝炎ワクチンとの同時接種も推奨されています。
  しかし今回の本論文の結果からは、glycoconjugated vaccinesのヘルパーT細胞などの
  干渉作用により、抗体値の低下を誘導する関連性を示唆しています。
  (コンジュゲートワクチンの特徴的な特性は、タンパク質や多糖類などの外部構造を持つ
  病原体と、免疫系に反応を引き起こすために使用される抗原を結びつけることです。)
  ワクチンの安全性を報告する機関は十分に機能していると思われるが、その効果に関しては
  未だ不明確です。







私見)
 同時接種はあらゆるガイドラインが推奨しています。
 ただし、小児の場合には安全を確認する場合は臨床家と相談し、単独接種もあり得るとして
 います。
 勿論、私は同時接種に反論するつもりはありませんが、本院では乳幼児の最初のワクチンで
 ある肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは、免疫応答を見る意味でも初回は単独接種を行って
 います。






同時接種.pdf







posted by 斎賀一 at 15:44| ワクチン