2020年05月09日

小児におけるPPI使用は骨折の危険?

小児におけるPPI使用は骨折の危険?

 
Association Between Proton Pump Inhibitor
Use and Risk of Fracture in Children



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 胃酸分泌抑制薬の中でもPPIは最も効果的です。
その使用方法は、経験的データからと言うよりは専門家による意見に基づいています。
小児でもその使用は増加傾向ですが、安全性に関してのデータは少ないようです。


スウェーデンからの報告です。

1) 対象は18歳以下の小児です。2006年1月から2016年12月までの調査です。
   PPIを使用した115,933人に対して、使用しない115,933人を比較しています。
   5年間の経過観察です。

2) 結果は骨折がPPI群で5,354例、服用しない群では4,568例でした。
   PPI群の危険率は1.11です。1,000人当たりの年間発生率は、20.2対18.3でした。
   上肢の危険率は1.08、下肢は1.19、
   経年性の累積では、30日以内が1.08、31日〜364日が1.14、365日以上が1.34でした。
   長期処方で危険率が上がります。
   (1か月続けても効果が無ければ中止、効果があれば隔日服用かH2ブロッカーに変更が選択肢
   でしょうか。)

3) PPIを小児で使用する場合はリスクとベネフィットを考慮し、注意する必要があるとしています。






私見)
 咳喘息としてPPIを処方するのには、いささか抵抗を感じます。










posted by 斎賀一 at 15:46| Comment(0) | 小児科

2020年04月25日

見えない手―パンデミックにおける医療

見えない手―パンデミックにおける医療

The Invisible Hand − Medical Care during the Pandemic
n engl j med 382;17 nejm.org April 23, 2020
(ニュー・ノーマルの始まりなのか?)



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 新型コロナ感染症がパンデミックとなり、多くの患者さんも恐怖に晒されています。
雑誌NEJMに示唆に富むコラム(perspective)が載っていますので、簡単に纏めてみました。


 1) 筆者は循環器内科の医師です。
    
    安定型の狭心症患者を、外来で受け持っています。症状の軽快のため、内科的治療を
    始めようと、患者本人と妻に説明をしています。この夫婦は海外旅行も計画していましたが、
    新型コロナの流行が報道され主治医の筆者は旅行の中止をアドバイスしました。

    運よくISCHEMIA研究が発表された直後で、患者への説明も、筆者にとって有効に進むと
    考えられました。
    (ISCHEMIA研究は、先日の私のブログでも紹介しましたが、安定型の冠動脈疾患の場合は、
     CT血管造影のみの診断で、その後は内科的治療の方が、侵襲的なPCI治療より優位との
     結論でした。)
  
    筆者は次のように説明しようと考えました。
  
   ・ 冠動脈狭窄と言っても、それは一部の狭窄の事で、全身にも動脈硬化が進んでいると
     想像できる事から基本的には血圧、脂質を含めた内科的全身治療が大事である。
  
   ・ カテーテル検査において、冠動脈の狭窄を見つけると、術者は反射的に侵襲的な
     ステント治療によって、狭窄部を広げたい衝動に進んでしまう場合がある。
     (oculostenotic reflex)


 2) 患者とその妻は、筆者の説明に微笑みながら同意したものと理解しましたが、その数週間後に
    勝手に妻は血管造影、並びに侵襲的治療計画の承諾をしてしまいました。
    リスクとベネフィットの勘案は、医師が決める事ではなく、患者とその家族に委ねられることを
    十分に筆者は知っています。
    筆者は患者の決定を心の中で承諾しました。

 3) 患者との最終の受診日は、3月18日でした。この時点で新型コロナがパンデミックと
    なっており、筆者の病院でも電話診療に切り替えていました。
    しかし、筆者は医師の本能で、直接面談の診療の必要性を認識していましたので、
    所謂、social distanceは脇に置いて診察をしようと思っていました。
  
    オスラー博士の言葉 「患者の言葉に耳を傾けろ。患者が診断を語るから。」
  
    筆者の思いとは異なり、患者とその妻とは電話でのコンサルトとなってしまいました。
    しかし、それでも筆者にとっては良い結果となりました。

    患者とその妻は、内科的治療を選択しており、症状の改善も経験したので、このまま継続したい
    と言う希望をのべました。
    筆者は、もしも内科的治療で改善しなければ、薬の増量や変更も可能であることを説明し、
    増悪の場合は勿論、自分の病院で侵襲的治療を計画する旨を伝えました。

 4) 新型コロナの恐怖が、心血管疾患の時限爆弾の恐怖をおいやった事になります。結果的には、
    筆者の思いと同じ事になりましたが、しかし、これとは逆の例もあるかもしれません。
    一刻の猶予もならない診療を、新型コロナによって先延ばしになっていないか。

 5) 医師は患者の症状に耳を傾けなくてはならないと同時に、患者の懐いている恐怖にも、
    耳を傾けなくてはなりません。
 
 

私見)
 私にとって、新型コロナの状況は医師に成って初めの経験です。
 本エッセイには、私が忘れかけていた珠玉の言葉が散りばめられています。新型コロナにより世の中も
医療現場もニュー・ノーマルの時代が来るのでしょうか。しかし、本エッセイを読むと変わってはならない
大事な部分も分かってきます。
 
 ある登山家が語っています。
 
   「なぜ危険な山に挑戦するのか。それは自分を高めたいからです。」


 中国やイタリアや、はたまた日本のコロナ最前線で戦っている人達にささやかながら恥じないようにと
思うばかりです。




安定冠動脈疾患の初期治療法の比較_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf







posted by 斎賀一 at 18:57| Comment(2) | 小児科

2020年04月10日

新型コロナウイルスとRAAS(特にACE-2)希望の星

新型コロナウイルスとRAAS(特にACE-2)希望の星
 
Renin–Angiotensin–Aldosterone System Inhibitors
in Patients with Covid-19



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 以前、私のブログで紹介しましたが、新型コロナウイルスの分子生物的な観点からはRAAS系(RAA系)が注目されています。
RAASはレニンとアルドステロンという血圧に重要なホルモンのため、日常診療にも深く関わります。
RAASを抑制する事により血圧を下げる薬がACE阻害薬とARBです。
本院でも降圧薬の主役はARBです。(下記のPDFを参照)
新型コロナは、肺のRAASのACE-2受容体から侵入する事が分かっています。
ACE-2はRAAS系の中でコーディネイトする善玉(?)のホルモンです。
一方で血圧を上昇させたり組織破壊、特に今回は肺を損傷する悪玉(?)がangiotensinIIです。

 今回雑誌NEJMに総説が載っていましたので、纏めてみました。
複雑なRAASのシステムですが、的確に下記の図が表示していますのでご参照ください。



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論者によるとACE-2は肺損傷の立場からは善玉で、コロナ患者においてRAAS抑制薬のACE阻害薬やARBを休薬すると、却ってマイナスとなると考えています。


1) RAAS系の物質は組織中や血中に存在して、互いに拮抗しあって平衡を保っています。
   (regulatory and counterregulatory)
   炎症が起るとangiotensinTからangiotensinUとなり、それが組織の受容体に結合して組織
   破壊や血管収縮が進みます。
   一方で善玉のACE-2は
   angiotensinTとangiotensinU作用しangiotensin(1-9)とangiotensin(1-7)に変化
   させます。その事によって炎症の緩和(抑制)がもたらされます。

2) ACE-2は心筋、腎臓、肺の肺胞など全身の組織表面に存在しますが、血中にも存在します。
   血中のACE-2は少量です。興味ある点は肺組織にあるACE-2は正常では少ないのですが、
   ある種の病変では増量します。(up-regulated)
   雨後の竹の子のように一斉にニョキニョキと肺組織の表面に現れてきます。
   ACEとACE-2とは分子構造的に近いのですが、その作用部位は全く異なります。
   ACE阻害薬とARBの薬剤によるACE-2に対する影響は異なり、また動物実験と人体とも異なった
   結果がでています。
   日本での報告によりますと、ARBのオルメテックを長期に服用した患者は血中ACE-2が高値でした。
   しかし、その他のACE阻害薬とARBを服用していた患者ではそのような変化は認められていません。
   つまり、ACE-2との関係は全てのACE阻害薬およびARBには当てはまりません。
   結局ACE-2は組織の膜表面での活性の指標にはならないし、RAAS系が互いに干渉し合い調整
   しているため、色々な臨床状態により異なった反応をしています。

3) 新型コロナ感染はACE-2受容体を通して侵入してくるばかりでなく、その後、ACE-2の発現を低下
   させます。(down – regulated)
   (一部の説である、新型コロナ感染によってACEが枯渇すると言うよりは、何らかの機序により
   down – regulatedしているようです。)
   その結果、ACE-2がangiotensinUを弱めることが出来ずに組織破壊が進行します。
   既に研究では、新型コロナ患者に対してACE-2を投与する事によりangiotensinUが減少し、肺の
   損傷が回復したとの報告もあります。
   また心血管疾患患者にACE-2を投与する事により、病態の改善も期待されています。
   以前のSARSの病理解剖で、心臓の標本ではウイルスRNAが35%認められACE-2の減少も伴って
   いました。
   現在新型コロナ患者に対して、ARBであるニューロタンの治療効果を調べる研究(トライアル)が
   進行中です。

4) ACE-2が新型コロナ患者に有効かもしれないと言う希望がありますが、未だ明白ではありません。
   ただ言える事は、新型コロナ患者に関わらず流行期のパンデミックの現在に、ACE阻害薬とARBの
   薬剤を中断する事はデメリットが多いので、継続服用の勧告をすべきです。
   一方で心血管疾患の患者に、この時期新たにACE阻害薬とARBの薬剤へ変更すべきかについては
   明白なエビデンスは少ない。

5) 結論として、現段階において臨床家は不確実なエビデンスに基づくのでなく、明白な研究結果に
   従った治療をすべきである。





私見)
 新型コロナで世界中が大きな犠牲を払っています。そんな中で希望の光も見えてきています。
 疫病と戦いながら、人類は英知を尽くして次の時代に挑戦し続けています。
 世界の蔓延が心配されたエイズは対抗する薬剤が開発され、その延長線上にC型肝炎の薬が開発され
 ました。 
 新型コロナの治療薬のキーポイントはACE2の様です。その先には炎症に対して、特に心血管疾患
 治療薬の創薬の世界が開かれるかもしれません。
 暗いニュースばかりなので、たまには楽しい夢を見ながら明日も頑張りましょう。

 この時期に、慢性疾患の薬の中断は避けてください。






本論文.pdf

RAAS系について.pdf

新型コロナウイルスとACE-2に関して_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf

新型コロナウイルスと高血圧治療薬の関係:ACE-2_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf






















posted by 斎賀一 at 19:27| Comment(0) | 小児科