2025年02月19日

血球貪食性リンパ組織球症

血球貪食性リンパ組織球症

Hemophagocytic Lymphohistiocytosis
[n engl j med 392;6 nejm.org February 6, 2025]



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 以前よりバース症候群(阪神ファンには、たまらない疾患名)として有名な疾患ですが、
近年では、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)が一般名です。
血球貪食症候群は包括的な名称の様です。
私も今までに2例ほど診断(ほぼ疑いを込めて)して紹介したことがあり、注意を要する疾患
だと思っています。
雑誌NEJMに総説が載っていましたので、ブログします。
(残念ながらuptodateの方が今日の私の臨床に役立ちそうなので、併せてブログします。)


1)HLHは圧倒的な炎症により多臓器障害を呈し、生命の危険を脅かす疾患です。
  免疫系統のダウンレギュレーションの欠如による、免疫の暴走が原因です。
  遺伝的な一次性と二次性に分類されています。
  二次性の原因は、感染症、癌疾患、自己免疫疾患です。
  自己免疫のトリガーによりマクロファージの活性を引き起こすMAS-HLHも、この疾患の
  一部です。HLHは過剰炎症の典型例です。



2)図での説明



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 補足説明; DAMPは体内の細胞が損傷やストレスを受けた際に放出される分子であり、
       自然免疫系を活性化させる役割を持ちます。
       代表的なDAMPの例としては、
       尿酸結晶: 痛風の原因となる。
       ヒートショックプロテイン(HSPS): ストレス応答タンパク質であり、
                         細胞が損傷すると免疫応答を引き
                         起こす。
       などがあります。
       PAMPは、病原体(ウイルス、細菌、真菌、寄生虫)に特有の分子構造であり、
       自然免疫系が病原体を識別するための目印となります。
       炎症性サイトカインやインターフェロンの産生を引き起こし、感染防御のため
       の免疫応答を活性化させます。
       DAMPは感染がなくても炎症を引き起こす一方、PAMPは主に感染時に作動する
       という違いがあります。
       どちらも自然免疫の活性化に関与しており、免疫システムが異常に活性化すると
       炎症性疾患や自己免疫疾患を引き起こす可能性があります。





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(HLHではkillingとregulationが利かなくなり、down regulationの崩壊となります。
 その結果、マクロファージとCD8の過剰な活性化からサイトカインの暴走となります。)




uptodateより
実地医家にとってためになる点だけを記載します。


1)血球貪食性リンパ組織球症 (HLH) は、過剰な免疫活性化の攻撃的で生命を脅かす症候群
  です。
  出生から生後18か月までの乳児に多く発症しますが、この病気はすべての年齢の子供や大人
  にも見られます。
  HLHは家族性または散発性の病気として発生する可能性があり、免疫の恒常性を乱す様々な
  イベントによって引き起こされます。
  感染は遺伝的素因を持つ人と散発的な症例の両方で、一般的な引き金です。
  (従ってuptodateでは、一次性とか二次性との分類は適当でないとしています。
   なぜなら、一次性でも感染がトリガーとなるからですし、二次性でもその素因がある場合
   もあるからです。)
  マクロファージ活性化症候群(MAS)は、主に若年性特発性関節炎または他のリウマチ性疾患
  の患者に発生するHLHの一種と見なされています。
  これを「反応性血球貪食症候群」と呼ぶ場合もあります。

2)HLHは主に小児の症候群です。
  乳児が最も一般的に罹患し、生後3か月以内での発生率が高いです。
  世界的に見て、成人での発生の半分は日本人です。

3)初期症状
  発熱 – 95%
  脾腫 – 89%
  二系統血球減少症(bicytopenia)– 92%
  特に貧血と血小板減少症は、来院患者の80%以上に見られます。
  高中性脂肪血症または低フィブリノゲン血症 – 90%
  中性脂肪の増加やDダイマーの上昇も、頻繁に見られます。
  血球貪食– 82%
  フェリチン500 mcg/L 以上– 94%
  非常に高い血清フェリチンレベルはHLHで一般的であり、特に子供では高い感度と
  特異性を持っています。
  しかし低いフェリチン(例えばフェリチン500ng/mL以下)はHLHの可能性を排除する
  ものではありません。
  NK細胞活性が低い/存在しない – 71%
  可溶性CD25の上昇 – 97%

4)神経学的異常はHLH患者の3分の1で観察されており多彩で痙攣発作、精神状態の変動
  (脳炎様)、運動失調です。
  時に後方可逆性脳症候群(PRES)(可逆性後頭葉白質脳症症候群とも言うようです。)
  頭痛、意識障害、視覚障害、てんかん発作、運動失調、嘔吐です。

5)呼吸器の異常は、時に人工呼吸器の緊急の必要性と、急性呼吸窮迫症候群による死亡に
  繋がる可能性があります。
  急性呼吸窮迫症候群[ARDS]様症候を引き起こしますが、感染症が原因である可能性も
  あります。

6)腎機能障害は多くの患者に発生

7)皮膚の症状はかなり様々です。
  これらには、全身性発疹、紅皮症、浮腫、点状出血、および紫斑病が含まれます。
  皮膚の発疹は、HLHの成人の4分の1で報告されました。

8)結膜炎、赤い唇、頸部リンパ節腫大など、川崎病の臨床的特徴を持つ人もいます。

9)感染症 − HLHは、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CΜV)、
  パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒト
  ヘルペスウイルス8、H1N1インフルエンザウイルス、パレコウイルス、およびНІVなどの
  ウイルス感染と関係があります。
  混合感染もあります。

10)悪性腫瘍は、最も一般的にはリンパ性がん(B、T、およびNK細胞を含む)および白血病
   ですが、固形腫瘍とも関連した報告もされています。

11)リウマチ性疾患MASは、リウマチ性疾患で発生するHLAです。
   最も一般的な関連は、全身性若年性特発性関節炎(SJIA)(以前はスティル病)
12)成人に対する新たな診断基準は、小児患者で使用されるものとは、いくつかの違いがあり
   ます。
   基礎疾患;
        熱
        器官肥大
        血球減少症
        フェリチンの上昇
        LDHの上昇
        骨髄穿刺の血球貪食像

13)HLHを疑うときの最初の留意する所見としては、
   複数の臓器障害と原因不明の発熱、血清フェリチン、中性脂肪です。







私見)
 「蹄の音を聞いたら馬を考えるのであって、シマウマを考えなくても良い」とよく言われ
 ますが、開業医の診断の醍醐味としては、「野性」を研ぎ澄ましていることも大事だと
 思っています。











posted by 斎賀一 at 20:25| 小児科

2025年02月12日

小児へのワクチンの筋肉内注射

小児へのワクチンの筋肉内注射


   
 わが国では、小児に対するワクチン接種の多くが皮下注射で行われています。
しかし海外では、生ワクチンを除くほとんどのワクチンが原則、筋肉内注射での接種です。
新型コロナウィルス感染症(C0VID-19)のパンデミックを機に、日本においても小児に対して
新型コロナワクチンの筋肉内注射が実施されました。
また、2024年4月より定期接種の対象となった5種混合ワクチン、および15価肺炎球菌結合型
ワクチン、2024年10月より定期接種となった20価肺炎球菌結合型ワクチンは、いずれも電子
添文(添付文書)の記載が「皮下または筋肉肉に接種する」となっています。
筋肉内注射部位も、コロナワクチンの時より分かりやすくなった印象です。
文献がありましたので、ブログします。





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小児へのワクチンの筋肉内注射について.pdf







posted by 斎賀一 at 18:31| 小児科

2025年01月14日

アメリカにおけるジェネリック薬品の不足

アメリカにおけるジェネリック薬品の不足


The Role of Importation in Remediating
U.S. Generic Drug Shortages
[This article was published on January 8, 2025, at NEJM.org.]

  
    
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 日本と同様に、アメリカでもジェネリック薬品の不足が続いています。
雑誌NEJMに論説が載っていましたので、ブログします。

「アメリカでは梅毒が増加傾向ですが、その治療薬のペニシリンGが不足しており、更に追い
打ちをかけるように、溶連菌感染症に対してアメリカの小児学会が、既に不足しているアモキ
シリンの代わりにペニシリンGの適応を支持したため、ペニシリンGの不足が加速しています。
その結果、梅毒の治療に支障が生じています。
アメリカでの重要医薬品の不足は、既に数十年前から起きています。
先発メーカーの特許切れによりジェネリック会社が継続するのですが、採算の問題もあり、競合
する会社が少ない医薬品もあり、それが3社以内の場合には不足が顕著に出現します。
医薬品の不足が一度発生すると、平均で3年間は続く傾向です。
そのため海外からの輸入に一時的に依存する事になりますが、規制の問題もあり更に数か月の
遅れが生じます。
FDAはそのための法令を既に持っていますが、安全性のため、その権限を行使する事はめったに
ありませんでした。
ジェネリックの競合が限られてしまっている状況はアメリカで代替品が少ない事を意味します。
アメリカで不足している医薬品の41%の品目が、他の外国の5か国ではたった1%しか影響が
なかったとしています。国際協力を促進し、リスクの分散を図ることが大事です。
医薬品の輸入によって、米国が抱える持続的な医薬品不足の問題の原因を全て解決できる訳
ではありませんが、現在では同時に信頼性が高く強靭なジェネリック医薬品の生産が出来る国
からの輸入を、長期的に確保するための解決策も模索されています。
そのような多くの解決策は議会による対応が必要となるだけでなく、納税者、病院、または患者
の処方薬コストの増加につながる可能性もあり、その事への反対を克服することが求められるで
しょう。
がん化学療法や妊娠を安全に保つための医薬品に、患者さんはそれほど長く待つ時間はありま
せん。








私見)
 医薬品の不足は日本でも毎日報道されています。
 しかし、その背景を詳しくは報道されていません。
 日本でも対策をたてているとは思いますが、長期的な俯瞰した政策が必要です。









posted by 斎賀一 at 19:47| 小児科