2025年12月03日

前立腺がんのモニタリングに MRI 単独は信頼できるか?

前立腺がんのモニタリングに MRI 単独は信頼できるか?

<短 報>
Magnetic Resonance Imaging or Confirmatory Biopsy for Patients
With Prostate Cancer Receiving Active Surveillance



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 アクティブサーベイランスを行っている前立腺癌患者(米国ベテラン)集団において、
多パラメータMRIでは、確認生検でグレードグループ2以上の疾患を除外する際に75%の陰性
的中率を示し、サーベイランス生検ではcorresponding value(対応する値)は、77%との論文
が掲載されています。
これはMRI単独では、臨床的に重要な癌の相当部分を見逃すことを示しています。

【補足説明;アクティブサーベイランス(Active Surveillance, AS)とは、
 癌をすぐに治療(手術・放射線)せず厳格に経過観察し、進行の兆候が出たら治療に移行
 する管理方法を意味します。】

【補足説明;陰性的中率(Negative Predictive Value:NPV)とは検査が陰性だったとき、
 その結果が正しく “本当に病気がない” ことを意味する確率です。】
 低リスクの前立腺癌をアクティブサーベイランスで見ていく場合、最初の検査で見つけられな
 かった悪性度の高い癌がないかを確認するために、もう一度生検をすることが良くあります。
 最近のガイドラインでは、多パラメータMRIが確認生検の代替となり得ると提案されています
 が、その精度を裏付けるデータは限られています。
 その点を調べた論文の短報をブログします。



1)方法
  研究者らは2013〜2023年にグレードグループ1または2の前立腺癌と診断され、確認生検
  及びサーベイランス生検の180日以内にMRIを受けた1,901人の米国ベテランのデータを
  解析した。
  主要アウトカムは、確認生検またはサーベイランス生検においてグレードグループ2以上の
  前立腺癌の存在であった。 MRI におけるPI-RADSスコア3以上を陽性とみなした。

  【補足説明;PI-RADS スコアとは、
   前立腺MRIでの「癌らしさ」を5段階で表すスコア。数字が大きいほど、臨床的に重要な
   癌の可能性が高い。」3は中間、4・5は生検を考える】


  【補足説明;

       スクリーンショット 2025-12-03 185336.png 
                                   】


2)結果
  MRIの陰性的中率は、グレードグループ2以上の前立腺癌を検出する際に、
  確認生検で75%、サーベイランス生検で77%であり、MRI単独では約4分の1の臨床的に
  重要な癌を見逃していた。
  診断時生検でグレードグループ1の患者では、陰性的中率は確認・サーベイランス生検
  共に79%に上昇した。
  一方、グレードグループ2の患者では、陰性的中率は大幅に低かった。
  PSA密度が0.15ng/mL2 未満の患者では陰性的中率がより高く、確認生検:78%、
  サーベイランス生検:83%であった。


3)結論
  MRIは、グレードグループ3以上の前立腺がんを除外する際にはより良好な性能を示し、
  PI-RADS3〜5を陽性とした場合、複数のサブグループで陰性的中率が95%を超えた。
  高品質な多パラメータMRIは、前立腺生検を誘導し診断を改善するのに明らかに役立つが、
  AS(アクティブサーベイランス)において生検の代替としてMRIに頼ると、臨床的に重要
  な癌の過小診断に繋がることを確認した 。
  もっとも、これらの多くが差し迫って生命を脅かす可能性は低い。
  PI-RADSスコアを上回る改良が進行中であるが、それまではアクティブサーベイランスの
  確認検査としては、生検を含めるべきである。






私見)
 前立腺はグレードの低い癌も多くありますが、高齢化社会において発生頻度が高まると
 分母も多くなり、グレードの高い癌も絶対数が増えます。
 PSA検査、MRI検査、生検は三種の神器でしょうか...。










posted by 斎賀一 at 20:05| 小児科

2025年12月01日

マイコプラズマ感染症にミノマイシン服用の是非

マイコプラズマ感染症にミノマイシン服用の是非




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 インフルエンザと同時に、マイコプラズマ感染症も地味に流行しています。
全年齢層に認められ、以前の私の認識とは異なっている印象です。

昔は異型肺炎といい聴診上は所見がないのが特徴で、殆どが自然治癒の傾向でした。
しかし、最近では咳嗽と共に発熱もして、聴診上ラ音を認めるケースが多くあります。
何か判らなかったらエリスロマイシンを処方すれば良いと、先輩の先生に教えてもらった事も
あります。
最近ではクラリスもジスロマックも耐性が多く、現在では本院の選択肢はマクロライドよりは
ミノマイシン、ビブラマイシン、オゼックスが主体となっています。
しかしミノマイシンの副作用には注意が必要で、8歳以下の小児に処方すると歯牙が黄染するとの
注意勧告が出ています。

乳歯が形成されるすぐ後から、永久歯の歯胚が連続して形成されます。
胎生20週ごろに永久前歯(中切歯・側切歯)の歯胚が形成開始され、生後すぐから1歳で犬歯・
第一小臼歯の歯胚が続いて形成、2〜3歳で第二小臼歯・第二大臼歯が形成開始。
第三大臼歯(親知らず)はもっと遅い(7〜10歳以降)とされています。
従って乳歯が形成されている時期には、既に永久歯の芽も存在していることになります。
但し、永久歯の変色リスクは “エナメル質形成時期” に抗生剤があるかどうかです。
永久歯の色は “石灰化が始まってから” 決まるとされています。
短期のミノサイクリンでは象牙質に染み込むほどの蓄積量になりにくく、ミノマイシンの短期
治療(数日〜1週間)で不可逆的変色が起きた報告は、非常に少ないとされています。
下記に文献をPDFで掲載します。

しかし一方で、ミノサイクリンによる色素沈着自体は現在でも多数の報告があり、否定されては
いません。
一般に、テトラサイクリン系の歯牙変色の有病率は3〜4%、ミノサイクリンでは3〜6%程度と
する報告もあります。(主に長期投与例。にきび等)
妊婦・授乳婦・8歳未満の小児には歯牙変色のリスクがあるため、テトラサイクリン、ミノサイク
リンは可能な限り使用しないと明記されています。
厚生労働省は「完全に安全とは言えないので、小児や妊婦では他の薬があればそちらを優先する」
という保守的な立場が維持されています。

最近のエビデンスで歯牙変色のリスクが見直されているのは、主にドキシサイクリンです。
「ミノマイシンは小児の歯を黄色にする」という決定的なエビデンスは古く、しかもミノサイク
リン単独のデータは限られています。やや“伝承”的な側面があります。
具体的には総投与量が100gを超える頃から、リスク上昇するとされています。
(例:100mg/日を数か月 = 合計100g )
期間としては数週間〜数か月以上の継続、典型的には1〜6か月以上の連続投与に警告が出されて
います。
「短期(数日〜数週間)であれば、理論的・臨床的に歯牙変色のリスクは非常に低い」
これは経験則及び“色素沈着は長期累積量依存型である”という多数の報告からの論理的帰結です。
しかし、「それを実証した臨床研究・レビュー」は乏しいので、「絶対に安全」と断言できるわけ
ではありません。
よって、小児や将来の歯の発育を気にする場合は、可能であれば短期であっても代替薬を選ぶ事が
保守的なスタンスとされています。






私見)
 本院での個人的見解ですが、マイコプラズマ感染症は現在、意外に重症例が散見され、薬剤の
 耐性化も進んでいます。
 クラリスは半分が耐性との感触です。ビブラマイシンも効果がやや劣る印象です。
 最後の切り札的にオゼックスとミノマイシンと思っています。
 軽症例はクラリス、やや中等度ではビブラマイシン、発熱が続いており胸部所見を伴い、
 CRPが高値の場合は、原則オゼックスと考えています。
 しかし十分にコンセンサスをとり、短期的にミノマイシンを処方する場合もあります。
 ご理解をお願いし、ご意見を頂ければ幸いです。




ミノマイシンの安全性.pdf

ミノマイシン 歯牙.pdf

Tooth Staining.pdf




















posted by 斎賀一 at 18:21| 小児科

2025年11月18日

CKDにおけるACE阻害薬およびARB使用を最適化するツール

CKDにおけるACE阻害薬およびARB使用を最適化するツール



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 降圧薬のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬及びアンジオテンシン受容体遮断薬
(ARB)は、当初より慢性腎疾患の進展を予防すると言われていましたが、逆に腎機能の
悪化を招くため注意勧告又は禁忌の指導がされています。
その点については以前のブログでも紹介しましたが、今回はACEとACEiの中断がその利益を
損なうため、適切なツールが必要との報告がアメリカの腎臓学会における年次報告でされて
います。但しツールの内容は記載されていません。



1)一次医療提供者(PCP)向けの新しい臨床意思決定支援ツールは、慢性腎臓病(CKD)
  患者で、以前にこれらの治療を中止していた退役軍人において投与中止後30日以内の
  アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)
  の再開始を僅かに改善した。
  「これらの薬は30年以上前から利用可能ですが、依然として十分に使用されていません」
  と述べたのは、ベイラー医科大学及びヒューストンのMichael E. DeBakeyVA医療セン
  ター腎臓科長の Sankar D. Navaneethan, MD, MS, MPH である。
  更に、CKD患者ではACE阻害薬またはARB療法の中断は一般的であり、eGFRが低い患者
  で治療中断が高い死亡率と関連するというデータがあると説明した。
  これらのデータは Kidney Week 2025: American Society of Nephrology Annual
  Meetingで発表された。
  このようなツールは電子カルテに組み込むことで、処方再開の促進につながる可能性が
  あるとした。
  今後、再開始しなかった医師の意見をより深く調べる研究が必要であり、その理由を分析
  することで臨床意思決定を改善できる可能性があるとも述べた。
  台湾・国立台湾大学病院の Chia-Ter Chao, MD, PhD は研究に関与していないが、
  「特に進行したCKD患者で、ACE阻害薬及びARBは過少使用されている」とコメントした。
  今回の研究で示された「わずかな改善」も評価されるべきだと述べ、但し「eGFR30未満
  の患者でも、このツールを検証できれば更に良い」とした。


2)患者でこのツールを検証した。
  PCPには、ACE阻害薬またはARBを中断していたCKD患者の情報が通知された。
  研究期間は 2024年6月〜2025年8月
  コントロール群 1363例、介入(支援ツール)群 1363例

  患者背景
  介入群の年齢中央値:76歳(男性 96.3%)
  コントロール群:77歳(男性 93.8%)


3)結果
  介入群では 245名(18%)が30日以内に再開始したのに対し、コントロール群では
  175名(13%)であった(P = .001)
  介入群の82%は再開始しない、または30日以降に再開始した。
  これはコントロール群の87%とほぼ同様であった。
  (どの程度の割合で再開したかは明示されていませんが、20%前後と推測されます。
  CDSアラートがどれだけ早期の再開に繋がったかを評価したいので、「30日以内」
  を主要アウトカムに設定しています。
  30日以降の再開始は “介入の効果として計測しにくい” ため、主要評価には含めません。

  【補足説明1;KDIGOは世界的アウトカム改善を目指す国際非営利組織、JSHは
   日本高血圧学会です。

   要略より纏めてみますと
   @ CKDの確認
    1. eGFR <60 または
    2. ACR ≥30 mg/g(尿アルブミン/Cr比)
    → どちらか満たせば CKD として評価を進める
   A 糖尿病の有無の確認
   B アルブミン尿の程度を分類(KDIGO A分類)
    ・ A1:<30 mg/g(正常〜軽度)
    ・ A2:30–300 mg/g(中等度増加)
    ・ A3:>300 mg/g(高度増加)KDIGO
   C 血圧レベルを確認
    ・ 診察室血圧で
     目標:CKD では多くのガイドラインで <130/80 mmHg(許容できれば)
   D RAAS阻害薬(ACEi/ARB)開始の判断
    A. 糖尿病あり
    1)A2 or A3(ACR ≥30 mg/g) の場合:
    ・血圧の有無にかかわらず → ACEi か ARB を第一選択で開始(最大耐量を目標)
     尿アルブミン ≥30 mg/g なら腎保護目的で推奨 
    2)A1(ACR <30 mg/g) の場合:
    ・高血圧あり:血圧治療として RAASi も選択肢(他にCCB等も可)
    ・高血圧なし: 通常は必須ではなく、心不全など別の適応がある場合に考慮

    B. 糖尿病なし
    1)A2/A3(アルブミン尿あり)+高血圧
    ・KDIGO:CKD+A2/A3 で高血圧なら ACEi/ARB推奨
    ・ JSH:CKD+蛋白尿の高血圧ではACEi/ARBが第一選択
    2)A2/A3(アルブミン尿あり)+高血圧なし
    ・ KDIGO 2024:アルブミン尿CKDで高血圧がなくても、腎保護目的でRASiを
            考慮可
    3)A1(アルブミン尿ほぼなし)
    ・ 高血圧あり:
     JSH:CKD 高血圧の第一選択は CCB / ARB / ACEi など(蛋白尿ない場合は
       CCBもよく使う)
     KDIGO:A1 CKD では HTN/心不全など「他の適応」があれば RAASi考慮
         CCB or ARB/ACEi いずれも選択肢(高齢G4–5ではCCB優先もあり)
    ・ 高血圧なし: → RAASi は必須ではない(他の適応があれば考慮)

   #禁忌チェック
    妊娠、両側腎動脈狭窄、高度高K(>5.5〜6.0)、重度AKI など
   #開始前検査
    Cr/eGFR、K、尿アルブミン(ACR)、血圧
   #開始・増量後のフォロー
    KDIGO 2024:「開始〜増量後 4週間以内のCr上昇30%以内なら継続可」
    実臨床では1〜2週後に Cr/K チェックが安全
    高K時は利尿薬調整・K制限・SGLT2i併用などを検討
   #併用禁止
    ACEi + ARB の二重ブロックは 禁忌(腎イベント・高K増加)
   #血圧目標
    CKDでは多くのガイドラインで → <130/80 mmHg を目指すが、フレイル
    高齢者では個別化KDIGO+2】

  【補足説明2;
  (1)中止基準
    ・K ≥ 6.0
    ・Cr 上昇 >30%(原因調整不能)
    ・AKI(感染・脱水・造影剤)
    ・SBP < 90–100
    ・妊娠
    ・両側腎動脈狭窄
  (2)再開基準
    ・K < 5.0–5.2
    ・Cr の上昇が開始前の ≤30%
    ・血圧安定(SBP ≥100–110)
    ・AKI回復(尿量・Cr改善)
    ・蛋白尿があり腎保護効果を期待する場合

   開始前(=中止前ではなく、最初にACEi/ARBを入れた時点の Cr)と比べて上昇が
   30%を超えていないかを見る。
   それはACEi/ARB 開始後の腎機能変化は生理的な上昇があり得るためで、(=輸出
   細動脈拡張による軽度の GFR 低下)「開始前」を基準にしなければ、本来の評定が
   できないとしています。】






私見)
 中止後の再開は “遅らせない方が良い”が基本の様です。
 KDIGO解説では ACEi/ARBを中断すると死亡率、心血管イベントが増加し、AKI後に再開
 した患者は、再開しなかった患者より予後が良いとしています。
 従って 「中止する理由が解消したら、できるだけ早く(2〜4週以内)再開する」事が
 現代の推奨のようですが...。
 以前のブログも紹介します。





慢性腎臓病とRA系阻害薬.pdf

CKD.pdf

KDIGO-2024-CKD-Guideline.pdf













posted by 斎賀一 at 19:50| 小児科