糖尿病の薬物療法・2025
Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards
of Care in Diabetes−2025
アメリカの学会ADAから本年度の糖尿病治療のガイドラインが出ていますので、ブログ
します。
§1型糖尿病(大幅に省略します。)1) インスリン以外の治療として、SGLT-2iがあります。
体重減少、A1c改善、血糖コントロールの効果が確認されています。
しかし、日本では未だ上市されていないソタグリフロジンでは、ケトアシドーシスの
発生が8倍多かったとの報告です。
1型糖尿病にSGLT-2iを使用する場合は、リスクとベネフィットを考える事が大事です。
2) インスリン
外因的なインスリン投与(インスリン注射)は、筋注ではなく皮下組織に注射する必要
があります。
筋注の場合は皮下注のインスリン吸収とは異なり、筋肉の活動にも影響されます。
不注意に筋注すると予測不可能なインスリン吸収となり、たびたび原因不明の低血糖に
関連してしまいます。
皮下注でなく筋注になってしまうのは、体幹部位、腹部や臀部ではなく手足に注射する
場合や、より長い針を使用する時に生じやすく、特に若くて痩せた人では注意が必要
です。
筋注でも注入部位をその都度変えるのは、脂肪肥大つまり複数回の注射部位にインスリン
が及ぼす脂肪形成作用で、皮下脂肪が蓄積することを避けるためです。
脂肪肥大は、幅が数センチメートルの柔らかく滑らかな隆起した領域として現れ、不安定
なインスリン吸収、血糖変動の増加、および原因不明の低血糖エピソードの一因となる
可能性があります。
§2型糖尿病サマリー;
・2型糖尿病の成人では、治療開始時に併用療法を検討すれば治療目標達成までの時間を短縮
することができます。(メトグルコとDPP阻害薬との合剤を意味しているのでしょうか。)
・2型糖尿病の成人で心血管疾患の合併またはその高いリスクがある場合には、心血管イベント
を減らす効果が実証された薬物(GLP-1 RAまたはSGLT2阻害剤)の投与は、A1cに関係なく
心血管リスク低減に繋がります。
・心不全(HFrEFとHFpEF;駆出率の低下または維持状態)のある2型糖尿病の成人では、血糖
管理と、心不全入院の予防(A1Cに関係なく)の両方にSGLT2阻害剤が推奨されます。
・2型糖尿病で駆出率維持(HFpEF)の心不全および肥満を伴う成人では、GLP-1RAが血糖管理
と心不全関連症状の軽減(A1Cに関係なく)の両方に効果が実証され、推奨されています。
・慢性腎臓病CKDを合併している2型糖尿病でeGFRが20〜60では、SGLT-2iとGLP-1RAが
血糖管理とCKDの進行を抑制し、心血管疾患進行予防にも有効である。
・eGFRが30以下の場合は低血糖のリスクが低く、心血管疾患の減少にも有効なGLP-1RAが
推奨される。
・脂肪肝(MASLD)を有する2型糖尿病では、GLP-1RAとマンジャロが血糖管理と肥満に有効
である。
・肝生検で確診した脂肪肝(MASH)ではアクトス、GLT-1RA、マンジャロが推奨される。
肝線維化の進行が懸念される場合は、アクトスとGLP-1RAの併用が検討される。
・DPP-4阻害薬とGLP-1RAやマンジャロとの併用は不要のため、推奨されない。
・血糖が300以上かA1cが10%以上の高血糖状態では、インスリンの導入を検討する必要が
ある。
・内因性インスリンが保たれている場合(CPRが1.5以上;詳細は次回ブログで記載)は、
先ずはインスリンよりGLP-1RAかマンジャロの方を推奨。
・インスリンを導入している患者で肥満があり低血糖のリスクがある場合は、マンジャロや
オゼンピックを併用しても良い。但しインスリンの調整が必要。
・インスリンを使用している患者でも、血糖管理のために他の薬剤の併用追加も考慮しても
よい。
1)薬剤の選択
2型糖尿病と診断されたら、遅延なく薬物療法を検討すべきです。
心血管疾患、CKDの合併を考慮して薬剤を選択をする。
心血管疾患、CKDの合併がない場合は、肥満管理と脂肪肝を考慮して薬剤選択をする。
(結局マンジャロという事でしょうか。)
一般的には多剤併用する事となり、総合的に治療する事が大事です。
・メトグルコ
安価で低血糖リスクも少なく体重減少もあり、心血管疾患にも有効です。
スルホニル尿素系やDPP阻害薬よりも有効で、推奨されます。
腎機能eGFRが30以上なら安全に使用できます。
但し30以下の場合はメトグルコのオーバードーズの危険があり、極めて稀ですが乳酸
アシドーシスのリスクが増します。
また30〜45ではeGFRが変動するため注意が必要です。
・一般的にはA1cを最も低下させる薬剤は、インスリンとGLP-1RA(オゼンピック、リベル
ザス)です。DPP-4阻害薬は弱いようです。
・重度の高血糖の場合に、スルホニル尿素系にGLP-1RAやマンジャロを併用するのは低血糖
のリスク軽減にもなるが、A1cが10%以上での効果は不明です。
・GLP-1RAとマンジャロの併用はインスリン+スルホニル尿素系の併用よりも低血糖のリス
クが低く、心血管系やCKD、肥満にも効果があります。
・併用療法
以前よりメトグルコから徐々に併用薬を加えるのがオーソドックスでしたが、最近では
最初から併用療法を始めるメリットがあり、推奨されています。
メトホルミンにGLP-1RAまたはマンジャロを追加すると、通常A1cが2%以上低下します。
血糖コントロールがさらに必要な時は、基礎インスリン、ヒトNPHまたは持効型インス
リンのいずれかを開始する必要があります。
ただし、まだGLP-1RAまたはマンジャロを投与していない場合は、これらの薬剤を最初
に開始する必要があります。これはA1C目標を達成する可能性があるばかりでなく、
低血糖のリスクが低く、体重、心血管系疾患、腎臓、および肝臓の病態に良好である
ためです。
・心血管疾患のある患者
心血管疾患やそのリスクがある患者、心不全、慢性腎臓病ではSGLT-2i又はGLP-1RA
またはその併用が勧められます。
他の薬剤でコントロールがされていても、あえてSGLT-2i又はGLP-1RAに変更する事を
推奨しています。
さらに現在は心血管疾患のリスクがなくても、SGLT-2i又はGLP-1RAに変更する事は将来
のリスク軽減にも繋がるとしています。
合併症の事を考慮すると、スルホニル尿素系やDPP阻害薬よりもSGLT-2iまたはGLP-1RA
が優位です。
・慢性腎臓病のある患者
CKD患者のグルコース管理に適した薬剤は、GLP-1RAおよびSGLT2阻害剤です。
(eGFRが20 を超える場合に開始できます。)
GLP-1RAは、腎機能に関係なく低血糖のリスクが低く、血糖値を下げるのに有効であり
最近の臨床試験では、オゼンピックがCKD患者のCVD、死亡率、および腎臓の転帰に有益
な効果があることが示唆されており、オゼンピックがCKD患者のもう一つの第一選択薬と
して使用できることが推奨されています。
マンジャロに関しては、まだエビデンスはありません。
SGLT2阻害剤がCKDおよび心血管転帰の進行を遅らせるのに、有益な効果があることが
示されました。しかし、eGFRが45を下回ると血糖値を下げる能力は低下します。
メトグルコは、2型糖尿病のすべての人々に対する有効性と安全性プロファイルが十分に
証明されています。CKD患者にも好まれる薬剤です。
ただし、腎臓の直接的な利点は証明されていません。
重要な点は、メトグルコはeGFRが45以下の患者では開始しない方が良いです。
すでにメトホルミンで治療されている者にとっては、eGFRが45以下になったらメトグ
ルコの用量を減らし、eGFRが30以下になったら休薬すべきです。
進行したCKDや腎不全の患者では、低血糖のリスクが上昇する事に注意が必要です。
・インスリン
基礎インスリン
基礎インスリン単独は最も便利な初期インスリン治療であり、また非インスリン薬剤に
追加することができます。
2型糖尿病の場合、開始用量は体重(0.1〜0.2単位/ kg /日)と高血糖の程度に基づいて
決定し、血糖目標を達成および維持するため、必要に応じて数日から数週間にわたって
漸増します。
基礎インスリンの主な作用は、肝臓のグルコース産生を抑制し、夜間や食事の合間に
高血糖を制限することです。
基礎インスリンの過剰投与に注意が必要です。(すなわち、臨床的に必要かつ適切な
用量を超える基礎インスリンの使用は、不十分な食事時間帯のインスリンを隠して
しまいます。)過剰な基礎インスリンの診断は就寝時から朝まで、または食前から食後
までの血糖差が高いこと(例、就寝時から朝までの血糖差≥50 mg/dL )、低血糖症
(意識しているか知らないか)、および高いグルコース変動性がある場合です。
基礎インスリンの過剰と診断されたら、食後の高血糖症に対して、よりよく対処する
ための治療計画の再評価をする必要があります。
インスリン強化療法
基礎インスリン療法を漸増し空腹時血糖値がある程度コントロールされたのに、A1Cが
目標を上回っている場合や食後血糖値がまだ高い場合、または基礎インスリンが過剰と
判断したら、併用注射療法が必要です。
基礎インスリンにオゼンピックまたはマンジャロを追加するか、または速効型インスリン
の食前複数回投与することを検討します。
まだオゼンピックまたはマンジャロによる治療を受けていない場合は、GLP-1RA(単独
製品のオゼンピック、または基礎インスリン製品との固定比率の組み合わせのゾルト
ファイ、ソリクア)またはマンジャロを、低血糖のリスクおよび体重増加のリスクを下げる
ために、速効型インスリン(インスリン強化療法)を開始する前に検討すべきです。
速効型のインスリン食前投与量をする場合は、4単位又は基礎インスリンの10%を食後の
過血糖が一番高い時、もしくは最大の食事前に投与します。
2型糖尿病は、一般に1型糖尿病の方よりもインスリン抵抗性が高く、より多くの1日量
(約1単位/kg)を必要としますが、低血糖の発生率は低いようです。
インスリン療法の強化を開始する場合に、メトグルコ、SGLT2阻害剤、オゼンピックは、
副作用(治療負担を含む)がなければ継続する事を勧めます。
しかし、一部の患者では強化療法は実施上の複雑さ、合併症、治療負担を伴うため、
シンプルな治療選択にリセットして、低血糖のリスクを減らすことも考慮するべきです。
濃縮インスリン
大量のインスリンを必要とするインスリン抵抗性患者を改善する可能性があります。
現在、いくつかの濃縮インスリン製剤が利用可能です。
(本院では採用していません。次回のブログで情報を掲載します。)
(左が合併症を有する場合で、右が一般と肥満がある場合です。
何はともあれ、A1cよりも合併症の有無が治療選択には大事の様です。
DPP阻害薬は下位にランクされています。)
デュラグルチド(Dulaglutide): トルリシティ(Trulicity)
リラグルチド(Liraglutide): ビクトーザ(Victoza)
セマグルチド(Semaglutide): オゼンピック(Ozempic)
チルゼパチド(Tirzepatide): マンジャロ(Mounjaro))
(マンジャロは現段階では肥満以外は試験中です。)
私見)
経済的負荷を除けばSGLT-2iとGLP-1RAの花盛りです。
肥満が問題ならマンジャロ。
アクトスの復権、DPP阻害薬の衰退が個人的感想です。
次回のブログで補足説明をし、院内勉強会とします。
Glycemic Treatment Standards.pdf