2023年03月15日

1型糖尿病にもSGLT-2iとGLP-1RAの併用は効果的

1型糖尿病にもSGLT-2iとGLP-1RAの併用は効果的

Glucagon-like peptide-1 agonists combined with sodiumglucose
cotransporter-2 inhibitors reduce weight in type 1diabetes



5315.PNG




 1型糖尿病は内因性インスリンの分泌が低下しており、インスリン療法が基本の病態です。
従って、GLP-1RAは適応外と認識しておりました。
 今回SGLT-2iとGLP-1RAの併用を、1型糖尿病に行った論文が掲載されています。
インスリン療法は糖尿病治療の主流ですが、低血糖と体重増加が懸念されます。
2型糖尿病ではSGLT-2iとGLP-1RAが、現在では主要な治療薬となっています。
GLP-1RAは血糖値に依存してインスリンの分泌を促し、グルカゴンの分泌も抑制します。
また食欲の抑制効果もあります。
SGLT-2iは腎臓の尿細管での糖の再吸収を抑制し、インスリンの作用とは無関係で尿糖を
増加し、低血糖を起こさずに血糖を低下させます。
また体重の減少、心筋梗塞、心不全に対しても有効です。
しかし当初より、両者の併用は糖尿病ケトアシドーシスを誘発しないか懸念されていました。


1) 本論文では、対象の1型糖尿病は内因性インスリンが枯渇していることをCPR測定で
   確認しています。
   インスリン療法を行っている1型糖尿病患者296名を登録しています。
   コントロール群(インスリン療法)が80名、SGLT-2iが94名、GLP-1RAが82名、
   両者併用が40名です。
   治療開始から1年間を経過観察し、体重とHbA1cの変化を見ています。

2) 結果
   (下記のグラフをご参照ください。)
   GLP-1RAとSGLT-2iは、体重減少とHgA1cの改善にともに効果がありましたが、更に
   その併用は効果が増大しています。低血糖を含めた副反応は全ての群で同じでした。
   また、糖尿病ケトアシドーシスの頻度も増加しませんでした。

3) 考察
   3群ともインスリンの量を減少出来ています。
   SGLT-2iとGLP-1RAとの作用機序の違いが、併用効果をもたらしているとしています。
   低血糖の報告は、GLP-1RAと併用療法では同じですが、SGLT-2iとコントロール群では
   倍でした。併用療法の場合には、インスリン量が同じ場合に低血糖が起きています。






        5305-2.PNG









私見)
 本日、市原医師会の糖尿病研究会(三村会長)が開催されました。
 GLP-1RAの作用は多方面のようで、単に膵臓に作用してインスリン分泌を促すばかりでは
 ないようです。近々文献を整理してブログします。








本論文.pdf











posted by 斎賀一 at 19:09| 糖尿病

2022年12月09日

フォシーガの心不全における費用対効果

フォシーガの心不全における費用対効果

 〜患者さん並びに職員勉強編〜

Cost-effectiveness of Empagliflozin in Patients With
Heart Failure With Preserved Ejection Fraction



41209.PNG

    

 糖尿病治療薬のフォシーガは心不全にも有効との事で、心不全の治療を開始するための4本柱
として、エンレスト、ベータ遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬に加わり、最近特に
処方されていますが、駆出率が40%以上と保たれている心不全(HFpEF)には費用対効果が
乏しいのでは、との論文が雑誌JAMAに載っています。
 以前の私のブログでも紹介しましたが、NEJMの論文ではHFpEFにフォシーガを投与すると、
心不全の入院率と、心血管疾患の死亡率を低下させるとの報告から、フォシーガがHFpEFにも
処方されてきています。EMPEROR研究と同じモデルでその費用対効果を調べています。


1) 先ずは前知識として費用対効果を見る場合には、QALY(質調整生存年)と増分費用
   効果比(ICER;incremental cost-effectiveness ratio)が指標となるとの事で
   ネットにより勉強しました。下記のPDFをご参照ください。
   QALYは心不全をQOLとして捉えています。1年間全く健康で過ごした場合をQALYが1と
   します。死亡した場合は0です。
   1QALYを得るためのコストがICERです。ICERが500万円までならその薬は費用対効果が
   あるが、1,000万円以上の場合は費用対効果が低いとの判断になります。
   (下記のPDFをご参照ください。)

2) フォシーガをHFpEFに処方した場合には、心血管疾患の死亡が9%削減でき、QALYは0.06
   改善します。しかし1QALYに換算した費用(つまりICER)は$437,442となります。
   フォシーガがプライスダウンすれば$174,000となります。

3) 円安と相まって当然、コストの閾値を超えています。








私見)
 現時点では、HFpEFに対する処方は標準治療が主体で、BNPの上昇に加えて駆出率の低下傾向
 の場合にはフォシーガのアドン療法となるかもしれません。
 ガイドラインに従うと、エンレストはその先の戦術でしょうか。
 本院では、心不全傾向で糖尿病患者さんにはSGLT-2阻害薬、高血圧患者さんにはエンレストを
 アドンする方式にしていますが?







本論文 フォシーガのコスト.pdf

医療の費用対効果を考える.pdf

いのちの値段 QALYとICER.pdf

「費用対効果評価」の基礎知識.pdf














posted by 斎賀一 at 21:31| 糖尿病

2022年12月06日

糖尿病治療薬・フォシーガの心不全に対する効果

糖尿病治療薬・フォシーガの心不全に対する効果
 
Effect of Dapagliflozin on Cause-Specific Mortality in Patients
With Heart Failure Across the Spectrum of Ejection Fraction



41206.PNG

     

 糖尿病治療薬のSGLT-2阻害薬のフォシーガが心不全に対して効果があり、最近では収縮率の
保たれている心不全(HFpEF)にもそれなりの結果が出ていることは、私の以前のブログでも
紹介しました。しかし、心不全の層別化と効用に関して、具体的には不明確でした。
 今回雑誌JAMAに、心不全を横断的に調査したメタ解析が載っていましたのでブログします。
DAPA-HF研究(駆出率40%以下)とDELIVER研究(駆出率40%以上)の二つの研究からの
論文です。


1) 対象者はNYHA分類のU〜Wもしくは、血液検査のBNPの上昇です。
   主要転帰は
   ・心不全の増悪(入院もしくは救急外来受診)  ・心疾患による死亡です。 
   フォシーガ10mg/日群とプラセボ群に振り分けています。

2) 結果は
   11,007人が登録し、死亡した人は1,628人でした。(平均年齢は71.1歳、70%が男性)
   死亡例の中で心疾患が872人(53.5%)、非心疾患が487人(29.9%)です。
   心疾患の内289人(33.1%)が心不全、441人(50.6%)が突然死、
   69人(7.9%)が脳卒中、心筋梗塞が47人(2.9%)でした。
   フォシーガ群とプラセボ群の比較は、下記のグラフをご参照ください。

3 )結論
   フォシーガ群は心不全の全ての層に効果がありましたが、特に心不全の増悪と突然死に
   関して、リスクを軽減していました。

4) 討論
   突然死の原因としては不整脈が想定されますが、現実に心不全から不整脈を誘発し突然死
   が発生する可能性は少なく、腎機能の低下、肺高血圧、左室機能低下が関与している
   ため、それに対してフォシーガが優位に働いたと想像できます。
   非心疾患の死亡にはフォシーガの効果はありませんでしたが、様々な要素が加わるためと
   しています。





       41206-2.PNG

  
    (上の図から、非心疾患の死亡は駆出率とはあまり関係ないようです。
     しかし、心不全患者さんの死亡原因は、多くが突然死と心不全の増悪です。
     いかに心不全の管理が重要かを示しています。)





       41206-3.PNG   

   
       上の図で左に変位していれば、フォシーガが優位です。






私見)
 高齢者の患者さんからSGLT-2阻害薬は栄養分が出て行ってしまい、シワシワになって
 しまったと訴えられました。
 心不全も合併しているので服用を続けてと説明しましたが、フォシーガの5mgは心不全の
 適応でないのが欠点でしょうか。







フォシーガ.pdf









posted by 斎賀一 at 18:32| 糖尿病