2022年11月03日

ピロリ除菌・その2

ピロリ除菌・その2


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 文献を調べ、纏めてみました。


1) クラリスに対する耐性は、2002年より日本ヘリコバクター学会によるサーベイランス
   開始となり、 2002年18.9%、2003年21.1%、2002~2006年24.7%、
   2010~2011年31.0%、2013~2014年度38.5%と明らかに上昇傾向を示している。
   呼暖器科領域、耳鼻咽喉科領域に加え小児科領域でも頻用されるなど、小児期のクラリス
   使用の増加が原因と考えられている。

2) 2015年にタケキャブが上市されてからは、除菌率は2015年78.5%、2016年85.5%、
    2017年89.7%、2018年90.8%と、2014年を底に反転上昇傾向を示した。
 
3) 国内の二次除菌療法の除菌率が高水準である理由で最も重要な因子は、フラジール耐性菌
   の少なさである。
   日本へリコバクター学会によるサーベイランスで、フラジール耐性菌は2002年の調査開始
   以来、3%程度の水準で推移していたが、2015~2016年のサーベイランスでは5.6%と
   上昇傾向にあったため、今後の動向が注目される。
   他の国の状況と比較すると、中国韓国は共に60%と高率であり、その他の国でも40%前後
   という国が多いため、日本の状況は特殊であるともいえる。
   現在、ボノプラザンの登場によりほとんどの施設でAMPC+ MNZ + P-CABに移行して
   いる。
   東京HP研究会の後方視的データでは、AMPC +M NZ+ P-CABはAMPC+ MNZ+ PPI
   よりも有意に除菌率が高い結果となっているが(90.4% vs.8 6.2%)、その差は
   実地診療で実感できる差異ではなく、一方でPPI/P-CABの選択は除菌率に影響を与えない
   とする報告も散見される。
   (AMPC;ペニシリン系、MNZ;フラジール、P-CAB;タケキャブ)

4) 三次除菌
   STFXの感受性の有無にかかわらず、LVFX含有レジメンよりもSTFX含有レジメンの使用が
   勧められる。
   (STFX;グレースビット)

5) 機能性ディスペプシアは、最新のROME IV 診断基準では感染を伴う場合、除菌後
   H. pylori6〜12 カ月で症状が消失または改善すればH. pylori関連ディスペプシア
   症状が改善しないか再燃した場合には機能性ディスペプシアと診断するため、診断および
   治療に除菌治療が必要となる。

6) 除菌率に大きく影響するクラリス(CAM)耐性菌については、培養法による最小発育阻止
   濃度で薬剤感受性検査が可能であるが、時間を要し地域により保険適用で実施できない
   こともあり普及していない。
   しかし、最近便を用いて短時間で診断可能なPCR 法が報告され、胃液を用いても同様に
   短時間で精度高く検査可能と報告されているため、臨床現場で使用可能となれば、便や
   胃液を用いて短時間で感染の有無、耐性菌の有無を調べることが可能となり期待されて
   いる。

7) 10年以上の経過観察で胃がん発症率が低下していることが報告されており、感染源となる
   リスクや消化性潰瘍のリスクも低下することから、高齢者に対しても除菌治療の意義は
   ある。
 
8) ペニシリンアレルギーの既往がある場合の除菌治療としては、AMPC を除いたPPI または
   PCAB+CAM+MTZ による除菌治療が可能であり、その際はペニシリンアレルギーの病名
   と症状詳記を行う。
   他にはPPI またはP-CAB+MTZ+STFX も有効である。これらの除菌率は、CAM+MTZ が
   PPI で50%、P-CAB で92.3%、MTZ+STFX では、PPI で100%、P-CAB で92.3%
   と報告されており、ペニシリンアレルギー患者に対する除菌治療は、まずは保険適用で
   P-CAB+CAM+MTZ で行うことが望ましい。




◆参考資料

 ・診断と治療vol.110-no.7 2022 (6)
   Helicobacter pylori 感染症と除菌療法  Author 森英毅  鈴木秀和

 ・日消誌2021;118:905―910
   H. pylori 除菌治療のup-to-date  間部克裕  加藤元嗣








私見)
 文献紹介のため、不本意ながら全文コピペであることを陳謝いたします。
 次回は本院での取り組みをブログします。














posted by 斎賀一 at 14:44| 消化器・PPI

2022年10月31日

ピロリ菌・除菌における抗生剤の耐性その1

ピロリ菌・除菌における抗生剤の耐性その1

Rates of Antimicrobial Resistance in Helicobacter pylori Isolates
from Clinical Trial Patients Across the US and Europe


   
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 ピロリ菌の除菌における抗生剤の耐性問題は以前から指摘されており、第一次除菌のレジメの
有効率は80%以下と推定されています。それでも依然として処方は続いています。
今回、雑誌Am J Gastroenterolから報告がありましたので、要約を紹介します。


1) 一般的にPPIを基本とした除菌のレジメは耐性が15%を超えた場合は、その処方は避ける
   べきと言われていますが、現段階でクラリスの耐性は22.2%以上です。

2) アメリカで907人を対象に調査を行っています。
   クラリスが耐性の場合には、フラジールも3/4に耐性を認めています。
   アモキシリン(ペニシリン系)の耐性は1.2%
   フラジールは69.2%が耐性
   一般的に欧米ではフラジールの耐性は50〜79%で、アモキシリンの耐性は5%以下との
   報告です。

3) 以上のデータから総合的に考えて、PPIとクラリスを基本とした従来の治療は避けるべきと
   提言しています。






私見)
 医中誌で調べましたが、多くの報告論文は除菌の有効率です。
 抗生剤の耐性までは判明しませんでした。
 日本での現状を再度調べてブログします。






1 クラリス ピロリ菌.pdf

2 除菌報告 .pdf








posted by 斎賀一 at 19:02| 消化器・PPI

2022年08月01日

急性虫垂炎の内科的治療の有用性 CODA研究の二次解析

急性虫垂炎の内科的治療の有用性 CODA研究の二次解析

Analysis of Outcomes Associated With Outpatient Management
of Nonoperatively Treated Patients With Appendicitis



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 以前の私のブログで紹介しましたCODA研究の二次解析が、雑誌JAMAに掲載されています。
NEJMに報告のCODA研究の内容は急性虫垂炎に対して、内科的抗生剤治療は外科的治療に
非劣勢との報告でした。
再度、目を通して本院のストラテジーを構築してみたいと思いました。


1) CODA研究の776例が対象です。
   救急外来を受診し、CTで急性虫垂炎の確定診断をしています。
   先ず抗生剤の点滴治療をして、安定している場合は24時間以内に退院し、その後10日間
   経口抗生剤投与とする外来治療群と、24時間以上の入院で退院した群を入院群とし、比較
   しています。

   安定しているとは、
   ・発熱がない ・バイタルサインが安定している・腹水がない ・敗血症でない等です。
    (KODA研究の適応基準を下記に掲載します。)


2) 主要転帰は重篤な副反応(転帰)、虫垂切除術の施行、受診の必要、患者の満足度、
   7日間経過後の欠勤数等です。

3) 結 果
   776名の内、24時間以内に虫垂切除術を施行した42名(5.4%)と、
   最初の段階で抗生剤を服用しなかった8例(1.0%)を除外した726例(93.6%)を
   最終的に研究対象にしています。
   平均年齢は36歳(18〜86歳)です。外来群が335例(46.1%)、入院群が391例
   (53.9%)です。
   7日間の経過中で重篤な副反応は、外来群で0.9人/100人、入院群で1.3人/100人
   でした。糞石のあるサブグループでは、重篤な副反応は外来群で2.3人/100人、
   入院群で2.8人/100人です。
   この期間中(7日)で虫垂切除術は外来群で9.9%、入院群で14.1%です。
   これは統計補正をしても同様の結果でした。
   30日間の経過では虫垂切除術施行は外来群で12.6%、入院群では19.0%です。
   患者の満足度は両群ともに同程度でした。

4)結 論
  外来での内科的治療は有益な選択肢です。






私見)
 今日の臨床サポートとuptodateより抜粋します。






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NELMの記載からも、基本的には腸管感染症は同じ抗生剤の戦略との事です。
つまり結腸憩室炎と同じ範疇となります。


本院での基本のストラテジーとしては、
・2日間のロセフィン静注
・その後7日間の経口薬
 シプロキサン4錠/日 + フラジール2錠




本論文.pdf
 
1 supple NEJM coda.pdf

2 コロナ禍の虫垂炎・CODA研究_.pdf










  

posted by 斎賀一 at 22:07| 消化器・PPI