2023年03月08日

重症ツツガムシ病にジスロマックとビブラマイシンの併用

重症ツツガムシ病にジスロマックとビブラマイシンの併用

Intravenous Doxycycline, Azithromycin,or Both for Severe Scrub Typhus
[n engl j med 388;9 nejm.org March 2, 2023]


  
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 ツツガムシ病を最初から念頭に置かなくては診断の遅れとなります。
発熱と発疹で、ツツガムシ病と日本紅斑熱を疑います。そのためにも安易な抗生剤を初期で投与する事は、薬疹を除外するため控えなくてはなりません。日本では、ツツガムシ病は殆どが軽症との事ですが、しかし、今回雑誌NEJMからの文献では、対岸の火事ではなく、日本も楽観視出来ないようです。


 1) 未治療の場合に、ツツガムシ病の死亡率は6%と言われていますが、
    70%は重症例となります。多臓器不全を起こし、入院例の1/4は
    死亡の転帰となります。重症例に対する治療のランダマイズされた
    研究は、今までありません。

 2) 18歳以上で、重症ツツガムシ病の患者1684人が対象です。
    平均年齢は48歳。合併症としては、呼吸器系が62%、肝臓が54%、
    心血管系が42%、腎臓が30%、神経系が20%でした。
    重症例とは、少なくとも一器官が障害されている場合です。
    主要転帰は、28日での何らかの死亡例、7日以上の合併症(心血管系、
    呼吸器系、中枢神経系、肝臓、腎臓)、5日経過する発熱です。
    二次転帰は、ICUの入室期間、入院期間、人工呼吸器、回復期間です。

 3) ビブラマイシン静注、ジスロマック静注、これら2剤の併用の有効性を
    比較しています。患者を、7日間のコースでビブラマイシン静注を行う群、
    ジスロマック静注を行う群、ビブラマイシン静注とジスロマック静注を
    行う(併用療法)群のいずれかに割り付けました。

 4) ビブラマイシン静注とジスロマック静注の併用療法は、重症ツツガムシ病
    の治療選択肢として、それぞれの単剤療法よりも優れていました。
 


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 5) ジスロマックとビブラマイシンの併用が有効なのは、細菌のリボゾームに
    おける、メッセンジャーRNAの抑制の機序が異なっているためと推定して
    います。ジスロマックとビブラマイシンともに、組織移行性は高く、
    血液濃度の数倍とも言われています。しかし、ジスロマック場合は、
    細菌のDNAのクリアランスは迅速であり、その点、リケッチアにも有効の
    ビブラマイシンを追加する事の意味があるとしています。



私見)
 本院では、マイコプラズ症の治療ではジスロマック耐性が認められており、与薬は控えています。代替として、成人ではミノマイシン、小児ではビブラマイシンを採用しています。ツツガムシ病では、早期の治療が必須です。下記の「今日の臨床サポート」によると、日本では耐性が現段階では問題視されていないようです。
 実地医家の初期の経験的治療として、ミノマイシン、ビブラマイシン、ジスロ
マックの単独処方することも考えられるようです。
 下記に、以前の私のブログからツツガムシ病の資料を掲載します。同時に「今日の臨床サポート」を宣伝を兼ねて拝借します。いつも申し訳ありません。




日本紅斑熱 ツツガムシ病.pdf

ツツガムシ病11.pdf

ツツガムシ病 今日の.pdf









posted by 斎賀一 at 21:15| 感染症・衛生

2023年03月01日

新型コロナ後遺症(long COVID)と抗核抗体

新型コロナ後遺症(long COVID)と抗核抗体

Circulating anti-nuclear autoantibodies in COVID-19
survivors predict long COVID symptoms



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 新型コロナ感染の治癒過程で、10〜20%の人が後遺症を呈すると問題視されています。
急性期には自己抗体が進展し、それが病態の原因の一つとされています。
Long Covidの場合に自己抗体の消退がないか、または新たに自己抗体が生じた場合(de novo)
との関連性が指摘されています。
long Covidと自己抗体の抗核抗体(ANA)と血管系の因子(TNF-α,D-dimer)について調べた
論文が掲載されています。


1) 新型コロナ感染後の、回復期の患者106名を対象にしています。
   回復後、3,6,12か月に検査をしています。
   それぞれの時点で症状を記載しています。 (倦怠感、咳嗽、労作時呼吸困難)
   比較対象として、正常の人(22人)、他の感染性呼吸器疾患(34人)を調べています。

2) 結果
   ANAは回復期の3か月が一番高値で、3〜12か月にかけて平均3.99から1.55に減少して
   いました。しかし30%が12か月後まで陽性でした。
   興味があるのはlong Covidの12%が3、6か月時点では陰性でしたが、12か月の時点で
   ANAが陽性になっており、de novo型を示唆します。
   継続してANAの陽性者は、倦怠感、咳嗽、労作時呼吸困難が強い傾向でした。
   TNF-αとCRPは、12か月後にANA高値の予測因子でした。   
   またTNF-αとD-dimerは、12か月後の症状と関連性がありました。

3) 結論
   一般的な感染症でも初期にはANAが陽性ですが、暫くすると消退します。
   新型コロナの場合にANAが持続する事とlong Covid との関連性が示唆され、12か月後も
   持続するANA陽性は、long Covidの一部を示している可能性があります。






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私見)
 本院でもコロナの後遺症を訴えて来院される患者さんがいます。
 私の印象にすぎませんが、20%もいない感じです。
 Long Covidの病態と診断方法に関して研究がなされていますが、かなり専門的です。
 本論文のANA,CRP,D-dimerを適時測定する事なら本院も可能のようです。
 しかし、あくまでも十分に注意した問診が基本かもしれません。










long covid Circulating anti-nuclear autoantibodies in COVID-19 survivors predict long COVID symptoms.pdf









posted by 斎賀一 at 18:44| 感染症・衛生

2023年02月13日

今はライノウイルスの流行か?

今はライノウイルスの流行か?

Circulation of Rhinoviruses and/or Enteroviruses in
Pediatric Patients With Acute Respiratory Illness
Before and During the COVID-19 Pandemic in the US



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 新型コロナも収束傾向で、インフルエンザも懸念した程ではないようです。
しかし、本院においては感冒症状を呈する患者さんが減少していない印象です。
迅速検査を行っても陽性率は10%以下です。
 今回雑誌JAMAより、ライノウイルスの感染がアメリカではコロナ流行前後で同じように発生
しているとの報告がありました。


1) 2016年12月より2021年2月に救急外来を受診した、18歳以下の発熱もしくは呼吸器
   感染症を呈する患者さんを対象にしています。

2) 38,198人を登録しています。
   その中で11,303(29.6%)人はライノウイルス感染症でした。
   全体の平均年齢が2.8歳です。
   ライノウイルスとエンテロウイルスは抗原が交差反応するため、検査上は区別がつきま
    せん。(取りあえず本ブログではライノウイルスとします。)
   コロナ前ではライノウイルスの陽性率は29.4%(9,795/33,317)で
   コロナ禍では30.9%(1,508/4,881)でした。
   他のウイルスが同定されたのはコロナ前では42.2%で、コロナ禍では73.0%でした。

3) コロナ前およびコロナ禍で、ライノウイルスが1番多く同定されていました。
   コロナ禍ではライノウイルスの感染者はやや年長児が多い傾向ですが、それでも5歳以下
   では74.5%です。

4) コロナ禍でもその後においても、ライノウイルス感染は臨床的に重要な疾患となります。

5) 考察
   コロナ禍ではマスク、ディスタンス、手洗いの励行による予防が推奨されてきましたが、
   ライノウイルスとエンテロウイルスはエンベロープ(外殻)がないので、空気感染、
   飛沫感染、接触感染とあらゆる伝播形式をとり、コロナウイルスやインフルエンザ、
   アデノウイルスと異なり、ウイルスの安定性が高く、厄介なことにマスクやディス
   タンス、手洗いがあまり有効でありません。
   ライノウイルス感染は、基礎疾患のある特に2歳以下の乳幼児には喘息の増悪が懸念され
   ます。





私見)
 コロナ禍での発熱後1日たたなければ診断が出来ないなどと、訳の分からない選別は敵前逃亡
 かもしれません。








ライノウイルス.pdf










posted by 斎賀一 at 18:02| 感染症・衛生