2023年09月19日

2年後のコロナ後遺症

2年後のコロナ後遺症

Postacute sequelae of COVID-19 at 2 years
  

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 コロナ後遺症は以前より注目されておりますが、その実態は未だ不明確です。
今回、急性期後2年間の経過観察が論文で発表になっていますのでブログします。
コロナ後遺症と言っても多岐に亘っております。心血管疾患、神経学的、精神医学的、糖尿病、
脂質異常、腎機能、消化器症状まで幅が広いです。


1) コロナ感染者群の138,818人(平均年齢60.91歳)と、コントロールとして非感染者
   5,985,227人(平均年齢62.82歳)を登録しました。
   急性後の後遺症PASC(postacute sequelae of COVID-19)の80症状を調べました。

2) 急性期を過ぎて6か月では非入院感染者の死亡率は高くありませんが、入院感染者は2年後
   まで死亡率が高まります。
   2年後の累積後遺症は、障害調整生存年(DALY:疾患により失われる健康寿命)で見ます
   と感染者がPASCは80.4/1000人で、倦怠感は642.8/1000人です。
   多くの症状は2年以内に消退しますが、健康障害の累積は多くのケアが必要です。
   リスク比を見ますと、倦怠感は感染群で1.9対非感染群は1.2、嗅覚障害は2.2対2.2、
   呼吸苦は2.0対1.2、記憶障害は1.7対1.1、間質性肺障害は2.3対1.2、
   胆管炎は4.8対1.5、死亡は1.3対1.0でした。




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私見)
  1年間はコロナ後遺症は継続しますが、2年後には多くが消退します。
  しかし、2年後にも臓器障害が継続しているケースがある点は注意が必要です。
  生活習慣病も経過観察が大事な様です。







コロナ後遺症.pdf














posted by 斎賀一 at 19:10| 感染症・衛生

2023年09月02日

施設入所者の新型コロナ再感染

施設入所者の新型コロナ再感染

Early Omicron infection is associated with increased reinfection risk
in older adults in long-term care and retirement facilities



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 新型コロナのワクチンと感染を経験すると、ハイブリッドとして鬼に金棒で安心とのブログを
以前書きましたが、高齢者、特に施設に入所している人では易感染でもあり、実態はどうかの
論文が雑誌Lancetに掲載されています。
オミクロン株のBA.1/BA.2に早い段階で感染していますと、オミクロン株のBA.5に再感染すると
言われています。オミクロン株は免疫機能をすり抜けて再感染し、感染力を強めているとも
言われています。


1) 施設に長期入所している高齢者で、コロナワクチン接種済の750人が登録されています。
   全員がコロナワクチンを4回接種済みです。
   カナダからの報告で、観察期間は75日間です。(2022年7月から9月まで)
   液性免疫と細胞免疫を調べていますが、318人は観察期間の3か月前より検査をして
   います。
   登録者を下記の様に分類しています。

   ・コロナに感染したことがない人; 2020年3月から2022年6月までに感染のない人
   ・priorに1回オミクロン株感染; 2021年12月15日から2022年6月30日までに感染
    (つまり、観察期間直前の感染)
   ・preorに1回オミクロン株感染; 2021年12月15日より前の感染
    (つまり、観察期間の前のpriorより更に前の感染)
   ・multi prior感染; 2021年12月15日から2022年7月1日に複数感染
    (つまりpriorにおける複数感染)




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        (図から分かることは本論文の主題はpriorです。)



2) 750人中133人(17.7%)が、観察期間中にオミクロン感染をしています。
   観察期間の前に少なくとも1回はコロナに感染していた人は268/750人(35.7%)で、
   オミクロン株感染は131/750人(17.5%)でした。
   観察期間に感染した人は133/750人(17.7%)です。
   76/133人(57.1%)はPriorにオミクロン株に感染しており、観察期間中にも再感染して
   います。観察期間中オミクロン株に感染していない人は、438/617人(71%)でした。
   Priorにオミクロン株感染した人が、観察期間に再感染するリスクが高い傾向です。
   再感染は最初の感染から5か月以内が多く、平均では156日でした。
   登録者のフレイル、ワクチンとの間隔や施設内のアウトブレイクとは関係なく液性免疫と
   細胞免疫の低下との関連性がありました。




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3) 長期間施設に入所していることは、オミクロン株の再感染のリスクが高まりますが、
   その主たる原因は免疫力の低下している事と関連性がありました。
   年齢、施設のタイプ、男女差、施設の流行には関係ありませんでした。




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4) 免疫力は個々人で異なり、ハイブリッド効果が低下している高齢者がいます。

5) 考察
   オミクロン株に感染したことがない人と比べて、1価のワクチンを接種し2022年の早期に
   BA.1/2に感染した人は、BA.5の再感染のリスクが高い結果です。
   オミクロン株の再感染は最初のオミクロン株感染から6か月以内と短期間で発症し、免疫の
   減衰が原因のため、早めのワクチン接種が有効と思われます。






私見)
 残念ながらオミクロン株の変異が続いています。
 本論文は現在の状況の前の段階での調査ですが、今後の感染対策の示唆に富んでいます。
 初回接種の人と以前では2価のワクチンが有効でしたが、現在ではXBB1.5が主流です。
 9月20日から始まる本邦のワクチンは、このXBB1.5対応の1価ワクチンです。
 オミクロン株は免疫機能を潜り抜ける性質があり、感染力が増しています。
 本論文の趣旨はpriorの状態にスポットを当てていますが、感染してハイブリッドの状態でも
 オミクロンに対して免疫低下を起こしている高齢者は油断が出来ないとの事です。
 一般の健康人にも当てはまるケースがあるかもしれません。
 ワクチンを滞りなく接種し、感染対策は万全を期したいと思います。
 ワクチンに関する詳細は下記にアクセスしてください。


 https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/bivalent/









オミクロン 再感染.pdf








posted by 斎賀一 at 17:52| 感染症・衛生

2023年08月25日

コロナワクチンの母乳への移行

コロナワクチンの母乳への移行

Detection of Messenger RNA COVID-19 Vaccines
in Human Breast Milk



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 当初、コロナワクチンのメーカーによる文献によると、ワクチン接種は妊娠中は禁忌および
生後6か月以内の乳児がいる場合にはワクチン接種後の授乳は控えるようにとの事でしたが、
ワクチンの母乳への移行に関しては研究が十分にされていませんでした。
 今回雑誌JAMAのletterに掲載されていますのでブログします。


1) 11人の健康な母親の母乳を採取して冷凍保存し、調べています。
   母乳はワクチン接種前と後の1時間から5日間採取し、比較しています。

2) モデルナ社が5例で、ファイザー社が6例です。
   延べ131サンプルを抽出していますが、結果的には5人の7サンプルの母乳からワクチンが
   同定されています。
   最も濃度が高いのは、最大でワクチン接種後45時間でした。
   しかも全母乳の中よりは、細胞外小胞体の中に多く認められています。
   接種後48時間を超えての同定はありませんでした。

3) ワクチン接種後に、その成分は全身に分布しますが、乳腺もその一つで脂質の
   nanoparticleに分布し、そこから細胞外に細胞外小胞体として分泌されます。

4) 結論
   ワクチンの母乳への移行は殆ど心配なく、安全と言えます。
   しかし本論文も症例が少なく、十分な結論を導き出すには至っていません。
   ただし、生後6か月以内の乳幼児に、48時間以内での授乳は注意が必要かもしれません。







私見)
 授乳はまず心配ないが、48時間経過すれば問題ないと説明するつもりです。









コロナワクチン 母乳 JAMA.pdf










posted by 斎賀一 at 18:35| 感染症・衛生