2023年09月11日

鉄欠乏性貧血における鉄剤の服用

鉄欠乏性貧血における鉄剤の服用

Effect of dietary factors and time of day on iron absorption
from oral iron supplements in iron deficient women



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 静脈の投与と異なり、経口薬の鉄剤は余分な量は排出されるので、一般的には安全性が確立
されています。ガイドラインではビタミンCとの併用と、空腹時の服用を推奨しています。
但し副作用として消化器症状があり、本院では食後服用もありと説明していました。
uptodateによりますと、やはり空腹時での服用を勧めておりますが、副作用の胃部不快感が
あれば食事中での服用も認めています。
また、隔日での服用も副作用の軽減に繋がるとしています。
今回鉄剤の吸収に関しての論文が載っていましたので、ブログします。


1)鉄欠乏性貧血患者34人を対象にしています。血清フェリチンの平均値は
  19.4㎍/Lです。
  鉄剤100mgを6通りの方法で服用しています。
  ・朝に水と服用
  ・80mgのビタミンC(AA;ascorbic acid)と併用
  ・500mgのAAと服用
  ・コーヒーと併用
  ・コーヒーとオレンジジュース(AAが90mg以下)を含む朝食に服用
  ・午後に水と服用

2)結果
  ・80mgのAAとの服用は30%吸収増だが、500mgにAAを増加しても吸収増には繋がら
   ない。
  ・コーヒーとの併用は、54%まで吸収減
  ・朝食とコーヒーを併用すると、オレンジジュース(AA90mg)が含まれても66%吸収減
  ・午後では朝と比べて37%吸収減



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3) 考察
   ポリフェノールが鉄の吸収に抑制的に働きますが、コーヒーのchlorogenic acidが
   主に作用しているようだ。
   午後の吸収が悪いのは、hepcidinの日内変動によるものと思われる。
   (hepcidinは鉄の吸収をコントロールしており、高くなると吸収が抑止されますが、
   日内変動で午後に高くなるので、鉄の吸収が低下します。)

4) 結論
   鉄剤は朝食前にコーヒーも飲まずにAAもしくは野菜と服用すると吸収が増す。





私見)
 鉄剤の服用に関しては、本院での指導をやや変更して参ります。
 uptodateによりますと、AAつまりビタミンCとの併用までは勧めていません。
 また、原則として隔日の服用とします。





本論文 (3).pdf









posted by 斎賀一 at 20:30| Comment(1) | 循環器

2023年08月09日

慢性冠動脈疾患の治療ガイドライン・2023年版

慢性冠動脈疾患の治療ガイドライン・2023年版

2023 AHA/ACC/ACCP/ASPC/NLA/PCNA
Guideline for the Management of Patients With Chronic Coronary Disease



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  本院の立場より、本ガイドラインを抜粋してブログしてみます。


2) 脂質異常症
   慢性冠動脈疾患(CCD)の患者にはLDLコレステロールが50%以上低下する事を目標
   とする。
   もしも薬の忍容性に問題があれば、中等度のスタチンでLDLコレステロールの30%
   低下を目標としても良い。
   高リスクでは(VHR)LDLコレステロールを70以下にするために、スタチンとゼチーア
   の併用も考慮。
   高リスクでLDLコレステロールが70以上でHDLが100以上の場合は、スタチンとゼチーア
   を最大限に処方する。
   高リスクでない場合でもスタチンでLDLコレステロール70以下にならなければ、ゼチーア
   を追加しても良い。




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3) 血圧
   血圧の目標は130/80以下です。
   降圧剤の効果は、ほぼ全て同等です。
   β―ブロッカーはCCDに有効で、特に最近心筋梗塞になった人や、狭心症発作を繰り返す
   場合には第一選択として考慮される。
   ファーストラインはβ―ブロッカー、ARB、ACE-Iだが、降圧利尿薬、CCB、MCRAも
   選択肢。

4) SGLT2-IとGLP-1
   CCDでU型糖尿病の場合に、SGLT2-IとGLP-1を積極的に勧める。
   糖尿病の有無に関わらず、駆出率が40以下の心不全の場合はSGLT2-Iを勧める。
   駆出率が40以上の場合でも、SGLT2-Iを考慮してもよい。
   一型糖尿病とeGFRが30以下の場合は、SGLT2-Iの投与は慎重を要する。

5) 抗血小板薬と抗凝固薬
   CCD患者で抗凝固薬の適応がない場合は少量アスピリンを使用。
   PCI治療したCCD患者は抗血小板薬の2剤併用を6か月行い、その後に単剤とす。
   DESでのPCI治療後は、1〜3か月の2剤併用後に12か月間の単剤も可能。
   以前に心筋梗塞の既往があるCCD患者は、出血のリスクが低ければ3年間の2剤併用も
   理論的である。
   (抗凝固薬との関係は下記の図を参照)




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6) β―ブロッカー
   駆出率が50以下の場合は心筋梗塞の既往の有無に関わらず、CCDではβ―ブロッカーを
   漸増して使用する。
   1年以上の投与を推奨する。
   しかし、心筋梗塞の既往がなく、駆出率が50以上のCCDではβ―ブロッカーの処方が
   効果的かといった明白なエビデンスはない。
   (以上、意訳)

7) ACE-IとARB
   CCD患者で、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、駆出率が40以下の場合は、ACE-I又はARB
   を推奨する。しかしCCD患者で高血圧でなくても、ACE-I又はARBを投与してもよい。

8) コルヒチン
   CCD患者の二次予防にコルヒチンを処方する事はよい。

9) 狭心症症状のリリーフ
   狭心症の症状がある場合は、β―ブロッカー、CCB、長時間作用型のnitrateを組み
   合わせる事を推奨する。
   第一選択はβ―ブロッカーで、狭心症発作の軽減とニトロペン使用の削減に効果ある。
   長時間作用型nitrateは、行動範囲を広げる効果がある。
   ワソランとヘルベッサーは心機能の低下を招くかもしれないので推奨しない。
   特にβ―ブロッカーに追加するのは注意が必要。
   ニトロペンとニトログリセリンのスプレーも即効性が期待される。
   ニトログリセリンのスプレーの方がニトロペンよりも有効で、副作用も少ないとの
   データもある。






私見)
 冷房の嫌いな私は、熱闘の書斎でブログを書いています。
 そのためか意訳が過ぎたようです。原文をご参照ください。






AHA 冠動脈疾患ガイドライン.pdf











posted by 斎賀一 at 19:17| 循環器

2023年08月07日

スタチンとゼチーアの併用療法

スタチンとゼチーアの併用療法

Moderate-Intensity Statin With Ezetimibe Combination Therapy
vs High-Intensity Statin Monotherapy in Patients at Very High Risk
of Atherosclerotic Cardiovascular Disease



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 動脈硬化性心疾患(ASCVD)患者の中でもハイリスクの人(VHR)に対してはスタチンの
高容量を処方する事が勧奨されていますが、実地臨床ではスタチンの副作用を懸念するあまり、
中程度のスタチンが処方されています。
今回はクレストールとゼチーアの併用を行った韓国からの報告です。


1) 2017年2月から2018年12月までの処方で、2022年4月から6月までの集計です。
   事後解析です。
   クレストール10mg+ゼチーア10mgの併用群と、クレストール20mgの単独群の比較
   です。
   主要転帰は3年後の心血管疾患の死亡、冠動脈及び末梢の血管再建術、心血管疾患の入院、
   致命的でない脳卒中です。

2) 結果
   3,780人が対象で平均年齢は64歳
   両群共に差はありませんでした。




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    (論文中には記載がないのですが、表の実線が併用群で破線が単独群です。
     VHRは高ハイリスク群です。若干併用群が有効)






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        (悪玉コレステロールのLDLも併用療法が有効のようです。)





3) 追加
   (VHRとは2023年のガイドラインでは下記の如くです。次回ブログします。)





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私見)
 クレストール10mgからの展開で、具体的な示唆に富む論文だと思います。
 本院も動脈硬化性の心血管疾患(脂質異常症のある狭心症、心筋梗塞、脳卒中)の患者さんで
 65歳以上、高血圧、糖尿病、心不全、慢性腎臓病があればVHRとして考慮して参ります。






スタチンとゼチーア併用.pdf

コレステロールの更なる低下は有効だ.pdf

脂質異常症の管理・VA_DoDより_.pdf

脂質異常症の治療でスタチン系でない場合はゼチーア.pdf









posted by 斎賀一 at 19:14| 循環器