2018年05月19日

心房細動の生涯発生頻度と危険因子

心房細動の生涯発生頻度と危険因子

Lifetime risk of atrial fibrillation according to optimal, borderline,
or elevated levels of risk factors: cohort study based on longitudinaldata
from the Framingham Heart Study



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 英国のBMJより、生涯においてどの位の頻度で心房細動が発生するのかを調べた研究が発表に
なりました。心房細動に罹患したら脳梗塞になる年間の危険率はスコア化されていますが、患者さんに
今後の治療方針を説明する際にそれを使って説明しています(CHADS2-VASscore)。
しかし、心房細動になる確率を調べた研究は余りなかったようです。


本論文を纏めますと、


 1) フラミンガム研究のデータを基にして、3世代を対象に55歳、65歳、75歳を指標年齢として
    危険因子を比較しています。勿論、登録以前に心房細動が発生した人は除外しています。
    3世代は1948年、その子の1971年、更にその孫の成人世代の2002年に登録しています。
    最長95歳まで調べていますが、死亡例や心房細動発生の時点で終了としています。
    最大限に手紙やメールでの登録もしています。
    指標年齢(index age)に関しては、例えば50~55歳の間に危険因子を測定出来たら
    その時点で開始して、55歳のindex ageとしています。
    つまり、55歳で登録して95歳までですから最大で40年間の経過観察となります。

 2) 危険因子を最適(optimal)、境界(borderline)、危険領域(elevated)、の3分類に
    しています。喫煙、飲酒、BMI、血圧、2型糖尿病、心疾患の既往が危険因子ですが
    そのborderlineに関しては、下記の表を参照ください。


              0519-2.PNG


 3) 55歳以上の人で生涯に心房細動の発生は37%でした。
    55歳をindexとすると、危険因子が全くない人では23%、境界では34%、危険因子が一つでも
    あれば(eleveted)38%でした。
    つまり、1/3人に心房細動は発生しますが、危険因子が無ければ1/5にまで減少できる。

 4) 男性の方が女性より心房細動の発生が多いのはアルコール摂取や喫煙の量が多いからと推測
    しています。

 5) 其々の危険因子における心房細動の発生頻度は下記のPDFのグラフを参照ください。



私見)
 血圧、糖尿病、心血管疾患の適切な治療を施して、更に禁煙、アルコール摂取の制限(節酒)
を達成できれば1/3人が1/5人に減少できますが、もしかしたら厳格な治療と相まって、1/6人にまで、
つまり半分に減らすことが出来そうです。何はともあれ禁酒と禁煙のようです。



Lifetime risk of atrial fibrillation.pdf


文献表.pdf







posted by 斎賀一 at 15:04| Comment(1) | 循環器

2018年05月08日

肺塞栓症の診断;YEARSクライテリア

肺塞栓症の診断:YEARSクライテリア

 
Multicenter Evaluation of the YEARS Criteria in Emergency
Department Patients Evaluated for Pulmonary Embolism
Acad Emerg Med 2018 Mar 31



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 日本も欧米化のせいか肺塞栓症が多くなっています。
その原因として、下肢の深部静脈血栓症が多いようです。浅在静脈血栓の場合はその頻度は低いよう
です。
深部静脈の検査はエコーでも3点法などいろいろ工夫されていますが、診断価値としてはCTとなります。
しかしCT検査による暴露も懸念され、肺塞栓症の検査前確率が検討されています。
 有名なのがWELLsクライテリアですが、やや煩雑で簡略されたのも、年齢でD-Dimerを計算しなくてはならず厄介です。
最近では更に簡略化したYEARSクライテリアが推奨され、その有用性を証明した研究が、今回発表されました。
WELLsとYEARSのクライテリアは下記にPDF化しましたので、ご参照ください。




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 取り敢えず、上の赤の項目が一つもなく、且つD-dimerが1000以下の場合はCT検査をしなくてよく、
一つでもあり、且つD-dimerが500以上の時はCTを推奨しています。
 (残念ながら、D-dimerはELISA法でありラッテク法ではありません。両者の換算は出来ませんし
  コマーシャルベースでは扱っていません。)



前置きはそれまでとして、本論文を纏めてみますと

1) 米国の17の救急施設を対象に、肺塞栓症の疑いの1,789名を調べています。
   平均年齢は48歳。
   対象者はD-dimerを実施するためWELLsのスコアー6以上(high)は除外しています。
   またYEARSでは、D-dimerはダブルスタンダードで500と1000に基準設定しています。

2) YEARSクライテリアで、陰性は1235/1789(69%)、陽性は554/1789(31%)
   陽性の中で深部静脈血栓所見は、142(26%)、血痰は49(9%)
   肺塞栓症以外考えられない場合は、403(73%)の比率でした。
   肺塞栓症の確定診断は、84名(全体の4%)でした。
   クライテリアの陽性の場合の確定診断は、84/554(15%)

3) 結論的には肺塞栓症の見逃しは
   WELLsでは2%(2/84)、YEARSでは7%(6/84)とYEARSがやや多いのですが、無駄なCT検査を
   47%から33%に14%減少させています。
   詳細は下記のPDFのグラフをご参照ください。





私見)
 毎回残念な事ですが、開業医の限界でしょうか、D-dimerのELISA方は行う事が出来ません。
 しかし、ラクテック法でも色々と組み合わせる事により検査前確率を上げられるとする文献もあり、
 本院のクライテリアを作るしかありません。
 但し、高齢者では元来D-dimerが高値である点に注意が必要となります。

 尚、本論文中にゲシュタルト的診断法が書かれています。
 そのため、「肺塞栓症以外に考えられない。」とする項目があり、それを解析しています。
 (私が、長い女性遍歴の末に家内を選んで結婚したのではないのです。
  チョッピリ魅了的な彼女と結婚したのは、ゲシュタルト的につまりその時点で全人格的に、彼女以外に
  結婚する相手がいなかったからなのです。)

 岩田氏の著書に詳しく載っていましたので下記に掲載します。
 つまり肺塞栓症は名医、名人の領域のようです。



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 本院クライテリアの試案
   ○ D-dimer(ラクテック法)のcut-off値以下の場合
     ドプラーエコーで陽性所見(深部静脈が圧迫出来ない)の時は紹介
     陰性所見の時は経過観察
   ○ D-dimerがcut-off値以上の場合
     下肢浮腫で紹介
   ○ 高齢者ではドプラー検査で陽性所見の時紹介




★参考文献

 診断のゲシュタルトとデギュスタシオン : 岩田健太郎 編集   金芳堂




1d-dimer.pdf

2PEのアルゴリズム.pdf

3ゲシュタルト.pdf









posted by 斎賀一 at 20:37| Comment(1) | 循環器

2018年05月02日

鎮痛薬のセレコックスは心血管疾患にも安全

鎮痛薬のセレコックスは心血管疾患にも安全
 
Effect of Aspirin Coadministration on the
Safety of Celecoxib,Naproxen, or Ibuprofen
J A C C V O L . 7 1 , NO . 1 6 ,
2 0 1 8 A P R I L 2 4 , 2 0 1 8



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 鎮痛薬は、一般的にはCOX-1阻害薬です。
それに対してCOX-2阻害薬は、胃には優しいが鎮痛効果はやや弱いとされています。
更に以前、COX-2阻害薬のrofecoxibが心血管疾患に対して増悪するとされ、警告が出されました。
同類のセレコックスに対しても疑いの目で見られています。
 また一方で、COX-1阻害薬はアスピリンの作用を減弱する懸念もあり、アスピリンと併用する際にはCOX-1とCOX-2の阻害の両方を兼ね備えたブルフェンとナイキサンを、時間差で服用すれば良いのではとも言われています。

 今回、心臓のメジャー雑誌のJACCより、セレコックスはCOX-2ではあるがRofecoxibとは異なり心血管
疾患を増悪しないし、副作用も少ない比較的安全な鎮痛薬とする論文が掲載されました。



纏めますと

1) 23,953名の関節リュウマチ、骨関節疾患の患者を対象にしています。
   処方30日間の経過後に調査を開始して、最短18カ月から最長43カ月の経過観察をしています。

2) セレコックス、ブルフェン、ナイキサンをランダマイズに投与された時点で、抗血小板作用のため
   少量アスピリンを処方されていたのは、約11,000人でした。

3) 長期の心血管疾患の発生(extended MACE)はアスピリンを服用していない場合で、セレコックス
   がブルフェン、ナイキサンより勝っていました。
   少量アスピリンを併用している場合はその差は少なくなってきていますが、依然としてセレコックス
   の方が優位でした。
   更に長期になれば、消化管疾患の合併や腎機能の低下に関しても、セレコックスの方に分があり
   ました。

4) 本論文はintention-to-treat populationという解析を駆使しており、そのため以前の研究とは
   異なる結果に繋がったとしています。
    (残念ながら私にはよく分かりません。しかし大御所のJACCが言っている事なので、その通りと
     言ったところでしょうか。)

5) 詳しい結果は下記のPDFをご参照ください。





私見)
 心血管疾患と鎮痛薬に関しては、私の以前のブログをご参照ください。
 セレコックスに関しては認識を新たにしました。
 しかし、セレコックスは鎮痛効果がやや劣るのでブルフェン、ナイキサンよりも継続時間が短いから副作
 用も少ないとする、やや揶揄した論評もありました。
 ともあれ、鎮痛薬は出来るだけ長期処方を避けるべき、と考えます。






セレコックス.pdf

日本ペインクリニック学会.pdf












posted by 斎賀一 at 19:10| Comment(1) | 循環器