2022年11月07日

心筋炎

心筋炎
 
Myocarditis
 [N Engl J Med 2022;387:1488-500]


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 新型コロナで心筋炎が注目されていますが、全体像としての総説が雑誌NEJMに掲載されて
いますので纏めてみました。


1) 1987年Dallasクライテリアでは、心筋炎の診断は心筋の生検が基本でしたが、その後
   20年以上過ぎて、診断技術も向上し非侵襲的診断方法が確立されています。

2) アメリカでは心臓MRIでの診断向上により、一般的な心筋炎の発生頻度は9.5/10万人
   から14.4人/10万人に増加傾向です。
   胸痛で救急外来を受診した患者の3%は、心臓MRIで心筋炎の診断をされています。
   また冠動脈疾患と診断された患者の1/3は、心臓MRIで心筋炎であったとのデータもあり
   ます。癌患者の抗がん剤治療であるチェックポイント阻害薬では、心筋炎は1.14%の発生率
   です。
   新型コロナ感染による心筋炎の発症は、1〜10人/10万人です。
   新型コロナの流行期では、入院患者の2.4〜4.1人/1000人が心筋炎でした。
   一方で新型コロナのワクチン(mRNAワクチン)での心筋炎の発生は、0.3〜5人/10万人
   との統計です。最近でのFDAの報告では、ハイリスクの若い男性でも1人/10万人程度
   でした。

3) 原因は多岐にわたっています。
   感染症、自己免疫疾患、基礎にザルコイドーシス、溶連菌感染後リウマチ性心筋炎など
   です。
   ウイルス性も、直接性とT細胞などの免疫機能を介しての発症が考えられています。
   新型コロナウイルスに関しても多因子が想定され、ウイルスの直接感染による酸素欠乏、
   血管内皮細胞不全、血栓による微小循環障害が考えられています。
   組織学的には好酸球浸潤が特徴です。
   その他のウイルス性に関してはtwo-hitセオリー、つまり遺伝的背景とウイルス感染の
   両者が関与しているとしています。腸内細菌叢の関与を指摘されています。

4) 臨床症状
   一番多いのは、胸痛だけで他の症状がない場合があります。
   その他の症状として、新たな心不全や心不全の増悪、慢性心不全、重篤な循環障害、
   不整脈、伝導障害、時には重篤な房室ブロック、心室性期外収縮の頻発、不整脈と
   伝導障害は、心筋炎のいかなるステージでも出現します。
   心収縮率の低下、心不全、房室ブロック、心原性ショックなどは予後不良の徴候です。
   多くの患者は合併症もなく経過しますが、97%が胸痛でその内62%に、心電図上にST
   上昇が認められます。
   心ザルコイドーシスがある場合は、伝導障害が起きやすいです。
   組織学的に巨細胞性では劇症型となります。

5) 新型コロナ感染
   発症は極めて稀ですが、確定した心筋炎の38.9%は劇症型でした。
   循環障害は迅速に対応しなくてはなりません。特に肺炎合併患者にその傾向がありま
   した。

6) コロナワクチン
   2回目の接種の数日後に発生しています。若い男性に多い傾向です。
   ほとんどが自然治癒しています。入院しても87%が症状軽快で退院しています。

7) 診断
   末梢血の好酸球、CRPは特異的でありませんが有用です。
   心臓MRIは感度74%、特異度86%です。
   高感度トロポニンテストは、CKよりも有効です。
   BNPは有用ですが、特異的はありません。







私見)
 本院でのストラテジーは
 ・新型コロナを含めて、心筋炎と診断した時点で劇症型に注意する。
  特に肺炎合併の有無を調べるため、レントゲン検査も必要
 ・コロナワクチン後の心筋炎では、心電図、心エコー検査にて所見があれば、やはり劇症型を
  想定する。
 ・コロナワクチン後でトロポニン陽性だけの場合は、本院で経過観察も可能かもしれません。






劇症型心筋炎.pdf

劇症型心筋炎 ブログより.pdf













posted by 斎賀一 at 18:24| 循環器

2022年10月17日

心不全治療薬のエンレストは少量でもいいかも

心不全治療薬のエンレストは少量でもいいかも
 
Dose-Response to Sacubitril/Valsartan in Patients With
Heart Failure And Reduced Ejection Fraction


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 一般的な治療ガイドラインは目標を掲げてそれに向かって進むことを勧奨していますが
心不全においても高用量の治療薬が効果ありとするデータが多くある一方で、目標用量に
漸増する利点も示されています。
なぜならば、多くの患者さんが低用量で治療されて効果を示しているからです。
心不全治療のガイドラインでは、エンレスト200mgを1日2回服用で勧めています。
しかしランダマイズ試験後の実際の臨床現場では、その後漸減する用量で治療されており
ACE阻害薬と比較しても遜色がないとされています。
最近のデータによりますと、目標のエンレスト200mg×2/日に達成している患者は14%との
事です。

 今回、低用量のエンレストでも効果は高用量と同程度との文献がありましたのでブログ
します。


1) 方法
   心駆出率が40%以下の心不全(HFrEF)患者794名を登録しています。
   エンレストの平均用量を112mgの低用量群、342mgの中用量群、379mgの高容量群の
   3群に分けて12か月経過観察をしました。
   主要転帰はNT-Pro-BNPと心駆出率(本院での主な検査)
   その他(high-sensitivity cardiac troponin T, soluble ST2, atrial
   natriuretic peptide, urinary cyclic guanosine monophosphate),
   Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire-23 scores, and parameters
   of cardiac reverse remodeling(left ventricular EF, indexed left
   atrial and ventricular volumes, and E/e’)です。


2) 結果
   NT-Pro-BNPと心駆出率及び心リモデリングに関して、3群に差はありませんでした。




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     ・NT-Pro-BNPは血液検査での心不全マーカー
     ・LVEFは心エコー検査での心駆出率(正常は60%以上)


3) 考察
   本論文はPROVE-HF研究の後解析です。エンレストの投与量を3群に分けて解析して
   います。
   高用量群は若い人、血圧が高い、男性、ベースラインで腎機能が良い人が主体でした。
   エンレストの副反応である血圧低下、めまいは低用量群に多い結果でしたが、低用量で
   十分で漸増が出来にくい人が、この群を占めていたためと想像しています。
   現実には400mg/日を達成している人は14%で、100mg/日の人は51%です。
   今後はエンレストの成分用量の見直しも検討されるべきかもしれません。






私見)
 心駆出率40%以下とは明らかな心不全患者さんです。利尿薬、SGLT-2阻害薬、ジギタリス
 製剤などがガイドラインに載っています。新しいエンレストも各方面から推奨されています。
 実地医家の肌感覚では50mgを1日2回投与から抜け出せませんでした。
 私の座右の銘「ソフトランディング」がいいのかもしれません。

 副院長をはじめ職員の皆さん、よろしく。








1 エンレスト 本論文.pdf

2 エンレスト.pdf

3 心不全治療薬の三種の新器.pdf

4 ARNIを中心とした心不全治療の再考.pdf

5 心不全治療薬のエンレストは万能薬か.pdf










posted by 斎賀一 at 17:58| 循環器

2022年09月20日

心血管疾患の二次予防における配合剤の戦略

心血管疾患の二次予防における配合剤の戦略
 
Polypill Strategy in Secondary Cardiovascular Prevention
[N Engl J Med 2022;387:967-77.]



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 心血管疾患の発症後における再発予防(二次予防)のための投薬に対して、なんと50%近くの
患者さんが服薬アドヒアランス、つまり服薬遵守をしていないとの事です。
このアドヒアランスの向上のために、少量アスピリン+降圧薬+高脂血症治療薬の3者配合薬に
おける有効性を調べたスタディが、雑誌NEJMに掲載されています。


1) 過去 6ヵ月以内に心筋梗塞を発症した患者を、三者配合剤を基本とする群と、通常治療を
   行う群に振り分けています。
   登録患者は、75歳以上又は65歳以上の場合は糖尿病、中等度以上のCKD
   (eGFRが30〜60)、心筋梗塞の既往、冠動脈再建術の既往(PCI)、
   冠動脈バイバス術(CABG)の既往の一つでもある患者としています。
   抗凝固薬を服用している患者は除外しています。
   配合群では、アスピリン(100 mg) 
   降圧薬のACE阻害薬であるラミプリル(ramipril;2.5 mg,5 mg,10 mg のいずれか)
   スタチンのリピトール(20 mg または 40 mg)を使用しています。
   リピトールは患者の既往歴から、当初より減量もしています。
   ACE阻害薬を服用していない場合はラミプリル2.5mgより開始し、他のACE阻害薬を服用
   している場合は、相応のラミプリルに変更して3週間後にチェックしています。
   通常群はヨーロッパガイドラインに沿って処方しています。
   経過は6、12、24か月後に診察し、追加で18、36、48か月後に電話診療しています。
   診察時に血圧、血糖を測定し、6、24か月ごとに服薬アドヒアランスを調べました。
   研究は113施設で行われました。
   主要転帰は、心血管死、非致死的な心筋梗塞、非致死的な脳梗塞、緊急血行再建の複合
   としています。
   調査期間は2016年8月から2019年12月まで調べました。

2) 結果
   2,499例が無作為化され、追跡期間は36ヵ月でした。
   主要転帰イベントは、配合群の1,237例中118例(9.5%)、通常治療群の1,229例中
   156例(12.7%)に発生しました。
   患者報告による6か月後の服薬アドヒアランスは、配合群のほうが通常治療群よりも高く
   70.6%対62.7%でした。更に24か月後の服薬アドヒアランスは74.1%対63.2%でした。
   有害事象は両群で同程度でした。

3) 考察
   本研究の結果は国、年齢、糖尿病の有無、CKDの程度、以前の血管再建術に関係なく認め
   られました。
   最初の心筋梗塞の平均発症年齢が、男性で65.6歳、女性で72歳でしたが関係はありま
   せんでした。
   服薬アドヒアランスが適切ならば、心血管疾患のリスクを27%減らすことが出来ます。
   コレステロールの値と関係なく効果が出ている点は、ラミプリルとリピトールの
   pleiotropic effect(薬効を超えた効果)なのかもしれませんが、今後の研究が待たれ
   ます。また少量アスピリンの効果も、服薬アドヒアランスの改善により20%ありました。
   残念ながら全死亡率は両群で差はなく、配合群では癌死亡率が高まります。





  
私見)
 本研究は高齢者を対象にした二次予防効果です。
 未だ配合剤は市上されていませんが、今できることは患者さんに服薬アドヒアランスの重要性
 を説明することだと思います。
 参考までにsuppleを下記に掲載します。







polypill nejm supple1.pdf










posted by 斎賀一 at 21:07| 循環器