2021年12月18日

潜在性結核感染症

潜在性結核感染症
 
Latent Tuberculosis Infection
  [N Engl J Med 2021;385:2271-80.]



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 雑誌のNEJMに、潜在性結核感染症の総説が載っていました。
私にとって新たな知識もありましたので、その点を中心にブログします。


1) 結核症は2つの状態がある。
   一つが潜在性結核症と、もう一つが活動性結核症である。
   潜在性結核では、結核菌に対して免疫機能が持続的に働いて、結核菌の増殖が抑制されて
   いる状態です。潜在性結核の約5〜15%が活動性結核に進展するので、全てではありま
   せん。活動性結核となると結核菌の増殖が起きて、様々な臓器障害を引き起こします。
   つまり潜在性結核が、結核症の源となります。
   従って、潜在性結核の診断、管理が公衆衛生的に重要となります。

2) 潜在性結核の診断に重要な点は、結核による暴露の問診です。
   そして危険因子を把握する事です。
   出身国はどこか、どこで育ったか、1か月以上の海外生活の問診が重要となり、何年間
   アメリカに在住しているかは問題となりません。
   もちろん結核患者との接触が、潜在性結核の危険因子です。
   もし感染が確認され潜在性結核と診断されたら、感染から2年以内の活動性結核への進展
   が危険視されます。

3) 潜在性結核の直接的な診断方法はありません。
   ツベルクリン反応とIGRA(インターフェロン-γ遊離試験(interferon-gamma
   release assays)の略語)があります。
   IGRAには、クオンティフェロン(QFT)とTスポット(T-spot.TB)の二種類があり
   ます。ツベルクリン反応もIGRAも潜在性結核と活動性結核を区別することはできません。
   従って結核感染症の治療効果を判定することも出来ません。
   ツベルクリン反応とIGRAは、治療後も長期間陽性となります。
   アメリカではツベルクリン反応とIGRAの両方が、小児および成人に適用になっています。
   結核のワクチンとしてBCGがありますが、BCGには結核菌の構成成分が含まれますので、
   BCG接種後はツベルクリン反応が陽性となります。
   その影響は10年以上続きます。ただし乳幼児ではその影響は短期間です。
   IGRAはBCGの構成成分が含まれていないため、BCG接種の影響は受けません。
   結核が蔓延していない環境(国)では、ツベルクリン反応とIGRAの感度はほぼ同じで
   95%です。しかしIGRAの擬陽性が問題となります。
   結核患者の診断のセッティングでは、その感度はIGRAが90%でツベルクリン反応は80%
   と低下します。





私見)
 結核菌は弱毒の部類に入る菌です。免疫機能で即座に撃退する事が出来ないしぶとい菌です。
 そのため人体に侵入すると、人の免疫機能は細胞免疫により結核結節を作り、結核菌に蓋を
 します。しかし、しぶとい結核菌はその結核結節の中で生き残り、何かの折(抗がん剤、生物
 学的製剤の服用など)に活動する危険があります。
 この週末に潜在性結核を復習しブログします。
 忘れた頃に、結核はやってきます。












posted by 斎賀一 at 17:33| Comment(0) | 喘息・呼吸器・アレルギー

2021年07月12日

急性細気管支炎

急性細気管支炎




最近、小児を中心とした急性細気管支炎が流行っています。
主にRSウイルスが原因ですが、その他の原因ウイルスも想定されます。
uptodateを中心に纏めてみました。



1) 急性細気管支炎は2歳以下に起き、一般的な鼻水などの感冒症状が2〜3日続いて下気道に炎症を
   引き起こします。その結果、聴診上は喘鳴などの所見が認められます。(wheezing,crackles)

2) 病理所見は終末細気管支が主体で、その上皮が浮腫、過剰な粘液分泌から細気道の閉塞、無気肺
   が生じます。生検や動物実験からは細気管支上皮の壊死、繊毛の崩壊(ciliary disruption)
   リンパ球浸潤を認めています。

3) 原因ウイルスは第一にRSウイルスで次にライノウイルスです。
   入院した乳幼児では1/3が2種類以上のウイルスに混合感染しています。
   稀ながらマイコプラズマ症も合併している場合があります。

4) 原因ウイルスとして
   ・RSウイルス
    秋から冬にかけて流行する。世界のどこでも発生しているが亜熱帯や熱帯では雨季に流行する。
   ・ライノウイルス
    しばしば2つのウイルスの混合感染が認められている。
    春と秋の二相性である。
   ・パラインフルエンザウイルス
    クループ症候群が一般的である。
   ・ヒトメタニューモウイルス
    他のウイルス感染と合併することが多い。
   ・インフルエンザウイルス
    RSウイルスとの鑑別は困難
   ・アデノウィルス
    下気道ばかりでなく他の器官に波及する。(disseminated)

5) 危険因子
   ・未熟児
   ・低出生体重児
   ・生後3か月以内
   ・基礎疾患

6) 一般的には自然治癒する。多くの例は入院が必要なく、4週間で軽快する。
   上気道感染である鼻水が2~3日続き、その後に細気管支症状が出現する。そのピークは3〜5日で
   徐々に軽快するが咳は1〜2週間続くことが多い。20%の人に1か月症状が続くこともある。

7) 合併症で注意する点は脱水、誤嚥性肺炎、無呼吸、中耳炎
   しかし細菌感染の合併は1.2%で、抗生剤は一般的に必要ない。
   従ってレントゲン検査は推奨していない。
   発熱に関して、RSウイルスはアデノウィルスより低い。

8) 注意点
   ・多呼吸、陥没呼吸、サチュレーション




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9) 鑑別診断
   ・recurrent viral-triggered wheezing
   (所謂、小児ぜんそくで風邪の時に繰り返して喘鳴を起こす乳幼児がいます。)
   ・細菌性肺炎





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私見)
 治療に関しては気管支拡張薬、吸入、ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬、
 抗生剤など、すべてが有効とのはっきりしたエビデンスがないようです。
 ほとんどの患児は外来で対応できますが、重症化に注意が必要となります。










posted by 斎賀一 at 21:28| Comment(0) | 喘息・呼吸器・アレルギー

2021年07月09日

中等症以上の喘息治療は3剤併⽤療法が有効?

中等症以上の喘息治療は3剤併⽤療法が有効?
 
Triple vs Dual Inhaler Therapy and Asthma Outcomes
in Moderate to Severe Asthma



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 喘息治療の吸入剤には2剤併⽤療法(吸⼊ステロイド(ICS)、⻑時間作⽤型β2刺激薬(LABA)と3剤
併⽤療法(ICS、LABA、⻑時間作⽤型抗コリン薬(LAMA))がありますが、最近では3剤併⽤療法の
有効性が指摘されており医療現場で汎用されています。
LABAとLAMAに関しては私の以前のブログを参照ください。

 今回、雑誌JAMAに2剤併⽤療法と3剤併⽤療法の比較試験が載っていましたので簡単に纏めて
みました。


1) 中等症ないし重症のコントロール不良の喘息がある⼩児(6歳から18歳)および成⼈患者を検討した
   無作為化試験(RCT)20件(計1万1894例、平均年齢52歳、⼥性57.7%)を対象としています。
   主要評価項目は、急性増悪、喘息コントロール(7項目の質問票;ACQ-7、各項目0-6点で点数が
   ⾼いほどコントロール不良)、QOL(喘息関連QOL質問票で測定)、死亡、有害事象です。

2) 2剤併⽤療法と比較して、3剤併⽤療法は急性増悪リスクの低下
   (3剤併⽤22.7% 対 2剤併⽤27.4%、危険因子は0.83)、喘息コントロールの改善は
   (ACQ-7平均差−0.04点)と有意な効果が認められています。
   QOLの改善は認められませんでした。





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3) 3剤併⽤療法には、⼝腔乾燥および発声障害との関連が認められています。
   (3.0% vs. 1.8%、リスク⽐1.65)治療関連の有害事象と重篤な有害事象は両群に認められま
   せんでした。

4) 考察
   LAMAは気管支痙攣の刺激を抑制します。
   喘息のコントロール不良の場合に、追加治療としては経口ステロイドよりもLAMAは安全です。
   以前の研究では、喘息のコントロールにLAMAは有効だが、急性増悪の抑制には効果がないとして
   いました。しかし本研究では急性増悪の頻度を低下させています。
   一般的に急性増悪の既往歴がある人は12か月後に25%の確率で急性増悪を起こしますが、既往
   がなければ8%と言われています。
   この事からも、一番に過去に急性増悪の既往があることがLAMAの追加適応となります。

5) 結論として、小児から成人にかけて3剤併⽤療法は急性増悪に効果があり、喘息コントロールにも
   ある程度有効です。QOLに関しては差がありませんでした。








私見)
  喘息がコントロール不良の場合はICSとLABAを増量しますが、場合により躊躇なく経口ステロイドを
  短期的に追加します。急性増悪を繰り返す傾向の場合には、3剤併⽤療法の出番と考えます。
  最初から3剤併⽤療法に軸足を置くのは、いささかミーハーと思われないかと気にします。










喘息 triple.pdf

LAMA一覧表.pdf

ブログ1.pdf

ブログ2.pdf














posted by 斎賀一 at 19:18| Comment(1) | 喘息・呼吸器・アレルギー