2023年04月25日

COPDガイドライン・2023

COPDガイドライン・2023

Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease 2023 Report:
GOLD Executive Summary



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 新しいガイドラインは若干の変更がありました。


・診断基準は呼吸器症状、気道および肺胞の組織変化、呼吸機能検査としての一秒量と一秒率
 の3点から判断します。

・COPDをACOPD、BCOPD、ECOPDの3群に分けています。
 Eの意味は exacerbation(急性増悪)のEです。
 ECOPDは14日以内に増悪する呼吸苦、咳嗽と喀痰です。
 気道感染、大気汚染、その他気道の障害が原因です。その重症度は、呼吸苦の程度、呼吸数、
 心拍数、サチュレーションにより決定します。

・繰り返す急性増悪の場合は、CT検査を推奨しています。



個人的に注目した文献の細部を記載しますと

1) 雑誌NEJMの論文を以前の私のブログでも紹介しましたが、呼吸機能の発達のピークは
   若い時で、その後は早い時期から退行していきます。

2) COPDの原因として感染症も重要ですが、その中でも緑膿菌が注目されています。

3) COPDに新しい概念
   Early COPD、mild COPD、young COPD、Pre-COPD、PRISm等がありますが、
   未だ明白な定義と病態は解明されておらず、今後の研究が待たれます。
   PRISmに関しては下記のPDFをご参照ください。

4) 胸部レントゲンでは診断に限界があります。
   ・横隔膜の平坦化、透過性の亢進、血管影のtapering
   ・寧ろ他の疾患との鑑別に有用です。
    CTを推奨しています。

5) 吸入療法が主体ですので、前もってデバイスの教育を十分にしておく事が大事です。
   患者の好みや適応力にも関係してきます。


6) どの吸入を用いるかは、下記の図表を参考にして下さい。

   要点を纏めますと

   ・初期治療はLAMAかLABA
   ・次のステップはLAMA+LABA
   ・次は好酸球を参考にして、吸入ステロイド(ICS)を加える。
    好酸球の基準にはグラデーションがあり、吸入ステロイドが有効の時もあり、
    好酸球の数だけで決めるのは絶対的ではない。
    LABA+ICSの長期使用はあまり勧めない。寧ろ好酸球が多ければ、
    LAMA+LABA+ICSの導入が基本。
   ・LAMA+LABA+ICSの効果が認められない場合や好酸球が増多していない場合は、
    経口薬のroflumilast(日本では上市されていないようです)を処方。
    喫煙者でない場合はジスロマックを処方。

7) COPDは慢性気管支炎の合併が27~35%存在します。

8) ECOPDは結局のところ、臨床家の事後評価です。
   初期治療ではSABAもしくはSAMAを使用する。

9) 経口ステロイドも有効で、40mgを5日間が基本です。
   好酸球増多がない場合は、効果が乏しいようです。

10) 抗生剤はアモキシリン+クラバモックス。
    時にマクロライド、キノロン系を使用します。

11) 心血管疾患で選択制のβ1-ブロッカーの適応があれば、COPDが合併している場合に
    使用してもよい。
 
 




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私見)
 本ガイドラインから、本院が参考になった点は

 ・吸入のデバイスの指導は出来れば事前に時間を掛けて、患者さんの好みを把握しておく
  ことが大事です。
 ・好酸球は変動します。慢性気管支炎、喘息、COPDの患者さんには定期的に末梢血液像から
  好酸球の変動を調べておくことが大事です。
 ・COPDの診断には患者さんの呼吸器症状の診察と、鑑別疾患の検索が大事です。








COPDガイドライン.pdf

PRISm 呼吸器内科医.pdf

Japanese_CAT_combined.pdf








posted by 斎賀一 at 12:38| 喘息・呼吸器・アレルギー

2023年04月15日

慢性閉塞性肺疾患の吸入ステロイドの有効性

慢性閉塞性肺疾患の吸入ステロイドの有効性

Association of Inhaled Corticosteroids With All-Cause Mortality Risk
in Patients With COPD
 

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 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の維持療法に吸入ステロイドは欠かせませんが、その有効性をメタ解析した論文が雑誌CHESTに載っていました。


 1) 60の論文からのメタ解析です。
  
    COPD患者の103,034人が登録されています。吸入ステロイドを使用した60,552人と、
    吸入ステロイドを使用しないコントロール群の42,482人です。
    死亡率を見ますと、コントロール群と比較して、吸入ステロイドのみ群の危険率は0.9、
    吸入ステロイド+LABAの危険率は0.89、吸入ステロイド+LABA+LAMA(トリプル
    テラピー)は0.73でした。
    治療期間の危険率でも、6か月以上では危険率が0.9、6か月以内では0.91となります。
    吸入ステロイドの用量に関しては、中等量の危険率は0.71、低用量は0.88、高用量は
    0.95でした。中等量が勝るようです。

 2) 吸入ステロイド治療が奏功する予測因子として、
  
    ・ 好酸球が200/μL以上
    ・ 好酸球が2%以上
    ・ 前年に中等度以上の増悪が2回以上あった場合
    ・ 呼吸機能低下
    ・ 65歳よりも若い
    ・ BMIが25以上

 3) 本論文ではメタ解析のため、対象のばらつきがあります。
    吸入薬剤の差、使用方法、ポピュレーションの差異などの限界(limitation)が
    本論文にはあります。



私見)
 以前の私のブログも参照してください。
 やはり、三者併用療法(トリプルテラピー)が有効であることには間違いがないようですが。





吸入ステロイド 原文.pdf










posted by 斎賀一 at 17:39| 喘息・呼吸器・アレルギー

閉塞性肺疾患(COPD)治療の変遷・私のブログより

閉塞性肺疾患(COPD)治療の変遷・私のブログより



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 私のブログより、COPDの吸入薬を主体に抜粋してみました。
少なくとも私にとっては参考になり、明日からの診療に心新たにする事が出来ましたが?


 ・ 高齢化社会で、喘息患者も年齢とともに、COPDを併発するようになりますし、COPDの
   患者も、必ずしも喫煙に関係ないアレルギー因子に晒されたり、又肺の構造変化
   (リモデリング)などにより、気道過敏性が増加し、その結果として喘息症状を呈し、
   吸入ステロイドが有効な患者も増加してきています。

 ・ 吸入ステロイドによる肺炎の合併を調べています。103,386人のCOPD患者を対象にして
   います。吸入ステロイド使用の14,020人が肺炎を発症(2.8人/100人/年)
   吸入ステロイドを中止する事により、肺炎の合併を37%減少できた。1か月以内に中止
   すれば20%の減、4か月以内で50%の減少
   減少効果は、fluticasoneの方がbudesonideよりあった。(逆に言えば、budesonideの方
   が肺炎を起こさないと言う事のようです)

 ・ 以前よりLABA+ステロイドの合剤が一般的でしたが、LABA+LAMAの方が有効との結論
   の論文があります。
   ステロイドの吸入は、肺炎を誘発する危険が懸念されています。
   その点でも、LABA+LAMAの方が選択されそうです。
   論評でも、まずはLAMA、次にLABA+LAMA、更にステロイドを追加するのが良いかと
   示唆しています。

 ・ 吸入ステロイドは2週間の使用では心配ないと言われていましたが、1週間での減量を
   考慮する必要がありそうです。肺炎やカンジダ症に注意が必要です。
   特に、基礎疾患のある方(糖尿病)には、服用量及び服薬期間に注意が必要となります。

 ・ ともかくコントロールが不良の場合は、LABA+LAMAが第一選択かもしれません。更に、
   喘息症状があるACOSの場合は、吸入ステロイドを追加するのが賢明としています。

 ・ レルベアの使用の方が、8.4%の増悪の低下に繋がり、副反応も通常の治療と同程度
   でした。

 ・ LAMAの方がLABAより有効で、心血管疾患に影響は稀である。
   LAMAとLABAの併用は更に有効。この場合も、心血管疾患の悪化は少数例。(COPDは
   高齢者が多く、心血管疾患を合併している事もあり、注意が必要ですが、血圧や脈拍等が
   安定していれば、使用しても支障はないようです。)
   吸入ステロイドを追加するかは症例による。(ACOSなどの喘息様症状があれば別ですが、
   一般的にCOPDにステロイド吸入は、期待する程に効果がないかもしれません。)
   テオフィリンの効果は限定的。

 ・ 乳幼児の喘息で、定期的に毎日吸入ステロイドを行っている場合に、肺炎の発生増加は、
   吸入ステロイドをしないコントロール群と差がなかったとの結論です。
 
 ・ 今回の論文では、LAMA+LABAの合剤は、LABA+ステロイドと同程度の心血管の副反応
   であったとの報告です。つまり、LABAにLAMAを追加しても、心血管には追加負担には
   ならないと言う事のようです。
   高齢者が多いCOPDに、LAMA/LABAの使用は慎重さが必要ですが、LAMAで効果がない
   時は、LAMA/LABAは有力な選択肢です。

 ・ 心血管疾患を有する高齢者でも、COPDの軽度の症状があれば、スピリーバの吸入は
   QOLの改善と、重症化の進展予防には効果があり、副作用は懸念しているほど
   心配はないようです。

 ・ 安定しているCOPDの場合は、LAMA+LABAの方がLABA+ステロイドよりも増悪を予防
   出来て、しかも呼吸機能も維持できる様です。副作用は同等。
   COPDの場合に、安定していれば、先ずLAMA、次のステップとしてはLAMA+LABA、
   さらにステロイドの吸入を追加と言う感じでしょうか。

 ・ 処方後30日以内での心血管疾患の危険率は、LABAで1.5、LAMAで1.52、LABA+LAMA
   で2.03でした。しかし、30日を過ぎると危険率は下がり、70~240日で、処方していない
   患者との差は無くなっていました。

 ・ ステロイド吸入とテオフィリンを併用すると、その抗炎症作用は100倍以上にもなるとの事
   です。しかし、軽症:(FEV1が80%以上)のベースラインに関係なく、吸入ステロイドに
   テオフィリンを追加しても、急性増悪の予防効果には寄与していませんでした。
   しかし、UPTODATEの記載をみますと、「吸入ステロイドの喘息における早期介入は失敗
   に終わりましたが、テオフィリンのCOPDに対する急性増悪には効果は無いが、その都度
   使用することにより炎症をある程度抑制し、肺のリモデリングを予防できるのでは、
   と期待」

 ・ 一般的に、喫煙者や軽度のCOPD患者に対して、β遮断薬を投与することを躊躇する医師が
   多いが、心血管疾患の患者に、選択的β遮断薬を処方していても、COPDの悪化には繋がら
   ないとしています。
   β遮断薬が、COPDの急性増悪の頻度を軽減したとも結論付けています。
   その機序は明白ではない様ですが、動物実験ではβ遮断薬を長期に与えると、β受容体が
   増加するレギュレーションが起こるとしています。
   更に、β遮断薬の抗炎症作用、喘息モデルでの気管支分泌物の低下なども認められて
   います。本院では少量のアーチストまたはメインテートを使用します。

 ・ LABA+LAMAはLABA+吸入ステロイドと比較して、中等度の急性増悪の危険率は1.04
   で、重症の危険率は0.94でした。入院を必要とする肺炎の危険率は0.66でした。
   (LABA+LAMAが5人/100人で、LABA+吸入ステロイドが8人/100人)
   急性増悪の予防効果は、両群で同程度でしたが、肺炎の危険率は、LABA+LAMA に
   比べて、LABA+吸入ステロイドの方が悪い結果でした。
   COPDの治療で、step-upの時には、LABA+LAMAが有効との結果です。
   喘息を合併していたり、好酸球増加がある事は、ステロイド吸入を追加する選択肢も
   あります。

 ・ COPD急性増悪の80%は細菌性感染が関与しています。本論文では、CRPの値が20を閾値
   基準にしていますが、単に抗生剤が必要かどうかの判断基準とした方が良さそうです。
   COPDの場合に、本院ではCRPが5以上で抗生剤を考慮し(パセトシン、オーグメンチン
   など)、10以上でワンランク上の抗生剤投与(メイアクト、キノロン系など)とします。
   胸部レントゲンの適否は、経過で判断と考えています。

 ・ 肺組織は20歳でピークとなり、それ以降は退行していく。 
   つまり、若いうちから組織の老化現象は始まっている。
   喫煙が最もCOPDの重症化に関与している。COPDの軽症〜中等症に関しての原因及び
   促進因子に関しては、今後の研究課題です。

 ・ 心筋梗塞や心不全になって間も無いCOPDの患者さんに、βブロッカーを処方するのは、
   多くの研究で支持されていますが、十分な検討が今後も必要であるとしています。
   βブロッカー投与の一番の懸念である呼吸機能検査では、βブロッカー群とプラセボ群
   では差はありませんでした。
 
 ・ 心血管疾患は、炎症として捉える見かたもあります。
   その意味でもCOPDと心血管疾患は、同じ系統の疾患ともいえます。
   結論的に言えば、COPD患者が心筋梗塞等の心血管疾患を併発している場合に、
   β-ブロッカーの処方を懸念し過ぎる傾向があると忠告しています。
   寧ろ心選択制のアーチストやメインテートを漸増処方すれば、利点が多いと勧めています。

 ・ 配合剤吸入の方が、単独吸入よりアドへランスが高いことが証明されました。
   本論文では喘息に対する効果は調べていませんが、他の文献からアドへランスが
   高ければ、喘息のコントロールも良好とのデータが出ています


最後まで見ていただき、ありがとうございました。




エリプタ製剤について.pdf

テリルジー.pdf

ビレーズトリ.pdf

ブリーズヘラーとは?.pdf












posted by 斎賀一 at 16:56| 喘息・呼吸器・アレルギー