2023年09月06日

市中肺炎・NEJMの総説

市中肺炎・NEJMの総説

Community-Acquired Pneumonia
[N Engl J Med 2023;389:632-41.]



50906.PNG



 市中肺炎の総説が雑誌NEJMに掲載されていますので、要点をブログします。


1) 誤嚥にも微小のmicroaspirationと大きめのmacroaspirationがあります。
   microaspirationは病因の微生物(ウイルスおよび細菌など)が最初に肺に侵入する
   形態ですが、macroaspiraionが誤嚥性肺炎を引き起こします。(明確な区別は記載
   していませんが、肺炎を引き起こすにはmacroが必要かもしれません。)
   肺内のマクロファージが最初の防御システムです。そこからサイトカインが働きますが、
   サイトカインの過剰生産が炎症を増幅し、肺組織の損傷に繋がります。

2) 市中肺炎の原因を考えるときは、頻度の高い微生物(microorganism)を先ず考えます
   が、常に稀な原因も想定しなくてはなりません。
   市中肺炎は急性疾患ですが、現在では多系統の疾病と捉え長期の合併症を誘発し、しかも
   死に至る疾患と考えられています。




        50906-2.PNG




   
3) 肺炎の診断には、色々なツールが紹介されています。(本ブログでは省略)
   原因としてはウイルスと細菌があります。その鑑別にプロカルシトニンがあります。
   細菌感染の時に増加し、細菌感染が消退するとプロカルシトニンも低下します。
   但しプロカルシトニンは必ずしも精度が高いわけでなく、出血性ショックや腎障害の時
   には擬陽性となります。しかし、マイコプラズマ感染症の時には正常範囲です。

4) 市中肺炎の時に原因となる微生物を同定するのは一般的でなく、経験的な抗生剤投与も
   推奨しています。但し新型コロナ、インフルエンザなどの迅速検査は有効です。
   レジオネラの迅速検査や、MRSA鼻咽頭のPCR検査も診断には有効です。

5) 治療
   ガイドラインでは3つのラインを推奨しています。
   ・サワシリン+オーグメンチン
   ・マクロライド(ジスロマック、クラリス)
   ・ドキシサイクリン

   3か月以内に抗生剤を投与されていた人で慢性の心疾患、腎疾患、肝疾患、肺疾患のある
   人、糖尿病、アルコール依存症、喫煙者はサワシリン+オーグメンチンに更にマクロライド
   かドキシサイクリンを追加して処方する。
   セファロスポリン系にアレルギー反応のある人はキノロン系を使用する。
   多くの患者は3日以内に軽快する。

6) 治療期間
   一般的には2日以内に症状は安定する。
   最短でも5日間が基本だが、症状が完全に安定していれば治療期間は3日間が最も最適で
   ある。その際にプロカルシトニンの低下は抗生剤の中断に良い指標となる。

7) 結論
   ウイルス性感染でも細菌感染が合併していることも多々ある。
   簡単にウイルス感染だけと決めつけない方が良い。
   その際に、経過でプロカルシトニンの上昇が一つの目安となる。
   3日以内に症状が軽快すれば、その後は全体で5日コースが一般的に推奨される。





私見)
  プロカルシトニンの迅速検査を以前は実施していましたが、コロナ禍ではりあまり汎用して
  いません。初期の診断段階での使用よりも、経過中に治療の変更を模索する際に有効の様
  です。プロカルシトニンの復活を考えましょう。








市中肺炎 suppl.pdf









posted by 斎賀一 at 18:58| 喘息・呼吸器・アレルギー

2023年08月30日

60歳以上のRSウイルスのワクチン

60歳以上のRSウイルスのワクチン


  
 日本でも60歳以上の人にRSVワクチンが承認されるようです。詳しい内容が分かりましたら
ブログしますが、海外では小児を含めた承認が進んでいるようです。


アメリカでは高齢者用に二つのワクチンが用意されているようです。

 ・グラクソスミスクライン社製のArexvy
  日本で承認されたのは、本ワクチンの様です。
  60歳以上の約25,000人が治験に参加しています。
  70%が全ての感染に対して予防効果がありました。
  80%に下気道感染の予防効果、95%に重症化の予防効果がありました。
  重篤な副反応はありませんでしたが、1例のギランバレー症候群と2例の脳脊髄炎の報告が
  ありました。

 ・ファイザー社のAbrysvo
  60%の感染予防効果、90%が重症化の下気道感染に予防効果がありました。
  副作用として1例のギランバレー症候群と、1例のミラー・フィッシャー症候群の報告が
  ありました。
  両ワクチン共に、リスクの高い高齢者には治験を行っていません。
  またその効果は接種後6か月で衰退するため、RS流行の初めに接種しなくてはなりません。






私見)
 厚労省より正式な指導がありましたら、下記文献を精読する予定です。







Bivalent RSV in Older.pdf

Efficacy and Safety of an Ad26.RSV..pdf

Pregnancy to Prevent RSV.pdf

Respiratory Syncytial Virus in Older Adults.pdf







posted by 斎賀一 at 19:00| 喘息・呼吸器・アレルギー

乳幼児のRSウイルス・ワクチンをアメリカでは承認

乳幼児のRSウイルス・ワクチンをアメリカでは承認



 アメリカのFDAは、乳幼児のRSVワクチンのBeyfortus(nirsevimab-alip)を承認して
います。

出生29週〜35週の1歳未満の乳幼児1,453人を対象にした研究です。
Beyfortusの50mgを1回筋注しています。
1回目のトライアルでは、70%の感染予防効果がありました。
2回目のトライアルは、75%の予防効果。
3回目のトライアルでは2歳以下を対象とし、2回のRS流行に亘って調べ、Beyfortusと
従来の抗体製剤であるシナジスの複合調査です。ほぼ同じ結果でした。

・最初のRS流行時には、8か月以下の乳幼児全てに適応があります。
 これにはシナジスを受けた乳幼児も含まれます。
・生後8〜19か月の乳幼児でリスクが高い場合は、シナジスを受けていても対象です。
・同じシーズンではBeyfortus接種を優先し、シナジスは避けるべきです。
 Beyfortusが利用可能でない地域では、可能になるまではシナジスを優先すべきです。
・RSシーズンでは、生後1週間で接種すべきです。
・生後8か月以下の乳幼児は、RSシーズンの始まる前に接種すべきです。
・リスクのある生後8〜19か月の乳幼児は、RSシーズンの始まる前に接種すべきです。
・他のワクチンとの同時接種は可能です。







私見)
 日本でも承認され厚労省から正式な指導がありましたら、再度ブログします。







2 RS.pdf

2 FDA Approves.pdf











posted by 斎賀一 at 18:37| 喘息・呼吸器・アレルギー