2025年03月05日

間質性肺炎・再考

間質性肺炎・再考

<院内勉強用>


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1)臓器や器官は、実質と間質により成り立っています。
  その臓器の働きの部位が実質で、それを取り囲む部位を間質といいます。
  肝臓では肝細胞が実質で、それ以外(グリソン鞘、門脈域)は間質です。
  従って肺の働きはガス交換ですから、肺胞内部の空間が実質で、肺胞壁や細気管支周辺が
  間質です。間質性肺炎とは、肺胞壁や細気管支周囲に炎症がある場合です。


2)用語の説明
  ILD(Interstitial Lung Disease、間質性肺疾患)とIIP(Idiopathic Interstitial
  Pneumonias、特発性間質性肺炎)の違いについて説明します。
  ILDは、肺の間質に影響を及ぼす疾患の総称です。

  原因が特定できるものとして、
  職業・環境因子:珪肺(シリコーシス)、石綿肺(アスベストーシス)
  薬剤性:アミオダロン、メトトレキサート、ブレオマイシンなど
  膠原病関連:関節リウマチ(RA-ILD)、全身性強皮症(SSc-ILD)など
  過敏性肺炎(Bird Fancier's Lungなど)

  原因が不明なものとして、この中にIIP(特発性間質性肺炎)が含まれます。


3)IIPの主な分類(ATS/ERS分類 2013)として




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  特発性間質性肺炎の代表的な疾患が特発性肺線維症IPFです。
  この病理組織パターンがUIPです。その特徴は線維芽細胞巣fibroblastic fociです。
  (下記の病理組織とPDFを参照)
  IPFは肺に限定され、高解像度コンピューター断層撮影(HRCT)および肺組織学で特徴的な
  通常の間質性肺炎(UIP)パターンに関連する、(特発性) 慢性線維性間質性肺炎の特定の
  形態として定義されます。
  IPFの患者は通常、60歳以上で来院します。ほとんどの患者には喫煙歴があります。
  患者は通常、数か月にわたる運動と咳で、呼吸困難の症状が徐々に現れると報告して
  います。倦怠感、発熱、筋肉痛、関節痛はめったに報告されません。





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  しかし、実際にUIPと診断するのはかなり困難な場合もあり、上記のような判断基準と
  なっています。HRCTとの総合的な診断が必要となります。




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       関節リウマチでは色々なパターンが混在しています。



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   関節リウマチは殆どがNSIPですが、時にUIPの事もあり、急性の変化のDADを伴う
   事に注意が必要です。
   病理組織を示します。UIPです。




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        NSIPです。DADも記載します。

    



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  NSIPは、時相が均ーであること、fibroblastic fociや平滑筋増生が目立たないことが
  鑑別点となる。著しい形質細胞浸潤、germinal centerを伴うリンパ濾胞、著しい胸膜炎
  などの所見をみた場合は、膠原病をルールアウトする必要がある。
  また、膠原病肺では、間質性肺炎所見に加えて、気道病変や血管病変を合併していることが
  よくある。




4)雑誌NEJMの図表より



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  図の上部に示されている初期段階は、疾患特異的です。これは主にリンパ球の活性化と
  分化、自己免疫、および免疫介在性疾患における過剰な免疫反応(結合組織疾患(CTD)
  関連間質性肺疾患(ILD))、および特定または未特定の抗原の持続による慢性肉芽腫性
  炎症からなります。
  抗原は、しばしば吸入されたり(慢性過敏性肺炎の場合)、または別の曝露(例えば、
  薬剤誘発性間質性肺炎)または想定される抗原(サルコイドーシスの場合)によるもの
  です。複数の環境リスク要因(喫煙、職業曝露、大気汚染、微細吸引、ウイルス感染)
  が肺胞細胞に繰り返し損傷を与え、特に特発性肺線維症では初期の病変を引き起こす
  可能性があります。
  加齢、遺伝的背景、エピジェネティックな(DNAの塩基配列そのものを変えずに、遺伝子
  の発現を制御する仕組みのことを指します。)修飾は、これらのすべての状態における
  重要な因子として徐々に解明されてきています。
  これらのメカニズムのほとんどは、線維性肺疾患のそれぞれにおいて、程度の差こそあれ
  生じていますが、初期の誘因が特定される場合もあれば、特定されない場合もあります。
  (特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)や分類不能な間質性肺疾患のように)
  一部の患者では、部分的または完全な正常な肺組織への回復が自然に起こり(サルコイ
  ドーシスの場合など)、抗原除去後や(過敏性肺炎の場合など)、免疫調節治療により
  (CTD関連間質性肺炎の場合など)回復するともあります。
  肺胞または内皮細胞の損傷や免疫活性化および炎症が繰り返されると、線維芽細胞は
  線維化促進性サイトカインによって活性化され、増殖して筋線維芽細胞へと分化し、
  その後は肺胞間質へと移動して、線維形成の「活動的な最前線」となります。
  筋線維芽細胞は、さまざまな要因から生じる可能性があります。
  (例えば、常在線維芽細胞の増殖や上皮細胞、骨髄由来の線維芽細胞、pericyte、内皮
   細胞の分化など)
  線維形成の後半段階は、初期の原因や誘因に関わらず、あらゆる病態に共通して起こる
  と考えられ、線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生から、肺組織のリモデリング
  と胸膜下の顕微鏡的蜂巣肺形成につながります。
  線維化の画像および病理学的表現型は様々です。(例えば、UIPとNSIP)
  組織の硬化とリモデリングに関連する低酸素状態は、線維化促進性サイトカイン経路と
  筋線維芽細胞の活性化を促進し、その結果、線維形成が持続します。APCは抗原提示細胞
  を示す。




5)ルービン病理の図表は簡便なので掲載します。(急性のDADとの関係が分かり易いです。)




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6)線維芽細胞巣fibroblastic fociについて
  UIPとNSIPとの鑑別に、重要所見となります。
  アルシアンブルーの二重染色が有効です。




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 線維芽細胞の集塊の影響を受けた肺胞ドームでは、肺胞の側壁が消失する。
 (a) 正常に近い肺組織の例を示す。(H&E染色)
    (左) 青い矢印は2つの肺胞管の気流を示す。
    (右) 肺胞ドームは点線で囲まれ、肺胞の側壁は壁は黒い矢印で示されている。
 (b) (左上) 青い矢印は呼吸細気管支とその下流の肺胞管の気流を示している。
   点線と実線はそれぞれ「予測される」肺胞ドームとその側壁を示しており、線維芽
   細胞性病巣が形成される前に存在していたと推定される。
   (右上および下) 2つの線維芽細胞性病巣が、肺胞ドームの両側に観察される。




参考文献◆

 ・病理組織の見方と鑑別診断 医歯薬出版株式会社
 ・ルービン病理 西村書店
 ・Spectrum of Fibrotic Lung Diseases N Engl J Med 2020;383:958-68.
 ・Laboratory Investigation (2017) 97, 232–242
 ・uptodate






私見)
 繰り返しになりますが、関節リウマチの間質性肺炎は殆どがNSIPでステロイドに反応
 しますが、UIPの所見を伴い特発性肺線維症のように蜂巣肺を呈する事があります。
 また急性のDADにも注意が必要です。
 HRCTを定期的に検査する事が肝心のようです。













posted by 斎賀一 at 19:59| 喘息・呼吸器・アレルギー

2025年03月03日

関節リウマチの間質性肺炎

関節リウマチの間質性肺炎

<院内勉強用>


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 関節リウマチの肺病変として、間質性肺炎があります。
関節リウマチの間質性肺炎には色々なパターンがありますが、肺の線維化が進行性のUIP
(通常型間質性肺炎)パターンと、線維化が下肺野中心で進行が緩徐なNSIP(非特異的
間質性肺炎)パターンの二つが主流です。
関節リウマチの多くは、予後の良いNSIPパターンです。
(次回ブログで間質性肺炎を勉強します。)
本院通院中の患者さんが、ネットで調べて心配で来院されましたので、この機会に纏めて
みました。


uptodateより調べました。

1)関節リウマチにおける間質性肺炎の発生頻度は、関節リウマチそのものの重症度により
  異なるため、報告者によりばらつきがありますが、10〜15%とされています。
  女性よりも男性に多いです。
  HRCTで調べると、発生頻度は20%との事です。
  治療の進歩、DMARDにより症状の軽快が認められていますが、間質性肺炎に対する効果は
  明白でありません。

2)リスクとしては、関節リウマチの重症度、CRP値、男性、高齢、肥満、喫煙が考えられます
  が、最も重要なのは喫煙です。(危険率3.76)
  RA因子、抗CCP抗体値もリスクと関連しています。

3)病理所見のパターンは様々で(spectrum)、特発性間質性肺炎(IIP)に類似しています。
  関節リウマチの場合は、fibroblastic fociは少ないです。
  (後日ブログしますが、線維化の進行の指標のfibroblastic foci はUIPの特徴です。
   つまり、関節リウマチは緩徐なNSIPパターンが多いという事です。
   なお、特発性間質性肺炎IIPは総称で、その中に予後の不良なUIPパターンの特発性肺線
   維症IPFがあります。)
  以下の所見が関節リウマチの間質性肺炎のパターンですが、実際はそれらが混在してい
  ます。

  ・NSIP(非特異的間質性肺炎)
   肺全体に均一に病変が認められる。ステロイドで軽快する。
  ・UIP(特発性肺線維症(IPF)の病理所見
   肺の底部に病変が多く、不均一で蜂巣肺(honeycombing)を呈する事がある。
  ・organizing pneumonia(器質化肺炎)
  ・lymphoid interstitial pneumonia(リンパ球性間質性肺炎)
  ・Desquamative interstitial pneumonia (DIP)
   喫煙者の場合に認められます。
  ・Diffuse alveolar damage(DAD)
  ・Pleuroparenchymal fibroelastosis (PPFE)

4)多くは50〜60歳ごろに発生します。
  UIPパターンでは線維化が進行性のため、症状が徐々に顕著になります。
  しかし、UIPの中でも急激に症状の悪化するHamman-Rich症候群は稀です。
  Verclo雑音は75%、クラブ指は75%見られますが、肺高血圧の様な理学的所見は
  乏しいです。(次回説明)

5)呼吸器症状が悪化した場合には、関節リウマチで新たに間質性肺炎が発生したのか、
  単に増悪したのかの判断は慎重にすべきです。
  その際には下記の病態を鑑別する必要があります。
  ・感染症(特に免疫抑制剤服用の場合)
  ・薬物誘発性肺疾患
  ・吸入曝露による過敏性肺炎(DAD)
  ・症状が急速に進行する場合、急性間質性肺炎や血管炎など
  ・心不全、肺塞栓症、がん、または再発性胃食道誤嚥

6)レントゲンでは初期や軽度の場合は所見がありませんが、両側下肺野のスリガラス陰影、
  網状陰影、結節性陰影、パッチ陰影があります。
  後期となると、肺高血圧の所見も見られます。
  (レントゲンではスリガラス様陰影とは記載しないのが原則ですが、淡い陰影を指す場合が
   あります。)

7)HRCTは、胸部X線撮影よりも早く異常を検出し、さまざまな実質所見を明らかにする可能性
  があります。

8)血液検査でKL-6の高値は、2型肺胞細胞とマクロファージの増加を示唆します。
  つまりUIPの可能性があります。感度と精度は61%と99%です。








私見)
 ほとんどが進行は緩徐で、ステロイドが有効です。
 しかし、中にはUIPの特発性肺線維症(IPF)のパターンをとることがあり、注意が必要です。












posted by 斎賀一 at 19:29| 喘息・呼吸器・アレルギー

2025年02月27日

リンパ球性間質性肺炎・シェーグレン症候群

リンパ球性間質性肺炎・シェーグレン症候群

Lymphoid Interstitial Pneumonia
[n engl j med 392;8 nejm.org February 20, 2025]


     
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 雑誌NEJMに、リンパ球性間質性肺炎の症例報告がありましたのでブログします。


1)37歳の男性です。
  10か月続く乾性咳嗽、倦怠感、ドライマウスを訴えています。
  タバコは長年吸っていません。口腔粘膜と結膜はドライです。

2)胸部レントゲンは、下肺野に網状陰影を呈しています。
  両側に嚢胞性透亮像も認められます。
  CTでは明瞭に境界された薄い壁の気管支周囲の嚢胞が、下肺野を中心にあります。
  同時に下肺野には、擦りガラス状の陰影、胸膜下の網状陰影も認められます。

3)肺生検では肺間質にリンパ球の浸潤が集積しており、肺胞壁も著明に肥厚しています。

4)診断は、シェーグレン症候群によるリンパ球性間質性肺炎でした。 



   
     (左のレントゲンの印の部位が透亮像です。右のCTでは明瞭です。)


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私見)
 私はシェーグレン症候群で間質性肺炎の経験がなく、上記のレントゲンで透亮像の嚢胞性
 陰影を見逃してしまわないか心配になりました。
 最近、関節リウマチの患者さんで間質性肺炎を指摘されていましたので、次回のブログで
 勉強して掲載します。











posted by 斎賀一 at 11:45| 喘息・呼吸器・アレルギー