慢性咳嗽・UCCにリフヌアの効果は?
Multicenter questionnaire study investigating characteristics of adults
with unexplained chronic cough versus explained chronic cough
with unexplained chronic cough versus explained chronic cough
咳は、異物・刺激物・病原体を気道から排除するための基本的な防御反射です。
しかし、咳が慢性化し8週間以上持続すると「慢性咳(CC)」と定義され、患者の生活の質に
重大な影響を及ぼします。
一般に一過性受容体電位(TRP)チャネル、特にTRPV1やTRPA1の活性化によって、気道粘膜
の感覚神経が非特異的刺激物(煙、香料など)へ過敏になる「神経原性炎症」が、咳反射に
重要な役割を果たすと考えられています。
これらのチャネル活性化は、Substance Pなど炎症性メディエーター/ニューロペプチドの
放出を引き起こし、神経感受性を高め持続的な咳に繋がります。
また、中枢性感作(central sensitization)、即ち脳幹・高位中枢で咳反射経路の反応性が
増大する現象もCCでみられます。
Unexplained Chronic Cough(UCC:原因不明の慢性咳)は、8週間以上持続する咳であり
明確な基礎疾患が特定できない場合と定義されます。
今回、UCCの鑑別に関する論文が出ていますのでブログします。
1)方法
対象者(Inclusion criteria): 年齢18歳以上、8週間以上持続する咳がある。
(慢性咳の定義)
除外基準(Exclusion criteria): 現在喫煙者、または過去12か月以内に禁煙した者、
ACE阻害薬を現在服用している者、間質性肺疾患の既往、コントロール不良の心不全の
既往とした。
対象者をUCC(原因不明の慢性咳)またはECC(原因の説明可能な慢性咳)に分類した。
参加者は電子データ収集(EDC)によるアンケートに回答し、以下の情報を提供した。
年齢、性別、BMI、喫煙歴、併存疾患の病歴、咳の重症度評価として Hull Airway
Reflux Questionnaire(HARQ) を使用。
(HARQは14項目からなる、咳関連症状と誘因を0〜70点で評価する妥当性のある患者
報告アウトカム指標。)
回答者は医師の診断に基づき、咳の医学的説明がない場合UCCと分類された。
2)結果
研究には150名が参加した。
女性:53%(80/150)、 男性:32%(48/150)、性別非回答:14.7%(20/150)
平均年齢:女性:58.3 歳、男性:53.5 歳
最も頻度の高い併存疾患は、喘息:40%、 GERD:39.3%、アレルギー性鼻炎:38%、
高血圧:33%、10%は併存疾患なし。
分類による頻度:
・UCC:19%(29/150)
・ECC:81%(121/150)
年齢・性別は両群で差なし。
咳の持続期間:
・UCC:4.5 年
・ECC:5.1 年(差なし)
UCC で少ない疾患は:
・アレルギー性鼻炎;
UCC:17.2%、ECC:43%
UCC で多い疾患は:
・ 免疫不全;
UCC:13.8%、ECC:4.1%
UCCの方がECCより咳が重くなることと関連した因子(多変量解析)は:
(補足説明;UCCの患者さんの咳が、ECCの患者さんより重症である理由を説明する
因子のことです。つまり「UCCの患者さんがより重症」と言っている理由付けです。)
・慢性気管支炎/肺気腫の既往 OR 9.1(95%CI 1.4–999)
・高血圧 OR 3.4(95%CI 1.2–10.2)
・過去の喫煙歴 OR 6.6(95%CI 1.7–24.9)
・女性 OR 4.7(95%CI 1.5–15.1)
・BMI高値 OR 1.1(95%CI 1.0–1.2)
UCCの最も重要な区別点は後鼻漏の欠如です
・後鼻漏がないこと(postnasal dripの欠如)がUCCの最も強い特徴、
OR5.2(95%CI 1.7–16.0), p=0.008
・後鼻漏の訴え:後鼻漏なしUCC;44.8%、ECC;16.5%
・後鼻漏が強い:UCC;6.9%、ECC;21.4%
UCCでは「後鼻漏なし」が多く、ECCでは「後鼻漏が強い」が多い結果です。
季節性もUCCとECCが区別点です。
・ECC:冬(51.4%)、秋(48.6%)で悪化
・UCC:季節性なし(51%)。 UCCの咳は一年中持続し、季節依存が少ない。
特定の食物による誘発は、UCCでは少ない。
3)考察
UCCではアレルギー性鼻炎が著しく少なく(17.2%)、 さらに後鼻漏がないことが
UCCの主要特徴であった。
これは、UCCはアレルギー/好酸球性炎症の寄与が少ない可能性を示している。
このため、UCCに対しては全身性・局所ステロイド治療が効果に乏しいにもかかわらず
繰り返し処方されるという問題が指摘されている。
CC全体の約40%がGERDを持ち、ECCにおいては約31%がGERDを咳の原因として診断
されていた。
従って、UCCを除外する際にも、PPI(プロトンポンプ阻害薬)の 4〜6 週間の試験的
治療が依然として有用である。
禁煙しても咳が改善した者は12.5%のみだった。
喫煙歴がUCCの重症度と強く関連していたことも注目点である。
(補足説明;禁煙しても咳が改善する人は少ない。(12.5%)しかし「喫煙歴がある
こと」自体が、UCCの咳の重症度と強く関連していた。
喫煙により気道の神経が長期的に過敏化される。慢性咳には「神経原性炎症」が大きく
関わります。)
UCCは、排ガス、ヘアスプレー、スパイシーな食物など多様で予測しにくい刺激物が
関与しており、誘因なしと答えた患者も13.33%。
UCCの刺激物誘発は化学刺激に対する神経過敏性(neurogenic hypersensitivity)を
示唆している。
4)結論
次のような患者は UCC を強く疑うべきである:
・女性
・過体重または肥満
・過去に喫煙歴がある
・通年性(季節性なし)に咳が持続
・アレルギー性鼻炎の既往がない
・後鼻漏がない
・慢性気管支炎や喘息の既往がない
・多様な環境刺激物で咳が誘発される
ATPがプリン作動性受容体を活性化する経路が咳の重要な機序とされ、これを標的とする
P2X3受容体拮抗薬(例:gefapixant)が開発され、今後の治療に期待されています。
私見)
実地医家の立場では、除外診断を含めてUCCに至る過程が重要な様です。
gefapixant(リフヌア)に関しては、以前ブログしています。
UCCに限定すれば有効性はあるかもしれません。
リフヌア.pdf
慢性咳の治療薬・リフヌアに期待は出来るか?.pdf