2023年01月20日

早期アルツハイマー病の治療薬レカネマブ

早期アルツハイマー病の治療薬レカネマブ
 
Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease
[N Engl J Med 2023;388:9-21.]



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 アミロイドβの沈着を抑制することが、アルツハイマー型認知症の治療目標です。
アミロイドβには水溶性と非水溶性がありますが、非水溶性のアミロイドβに結合するのが
アデュカヌマブで、水溶性のアミロイドβに結合するのが今回のレカネマブです。
何れもエーザイとバイオジェンが共同開発したモノクローナル抗体です。
アデュカヌマブはアミロイドβを減少させますが、認知機能の低下を遅らせる効果はわずかと
されています。
しかし、2022年9月28日にレカネマブが主要評価項目、ならびに全ての重要な副次評価項目を
統計学的に高度で有意な結果をもって達成したと発表され、2023年1月6日にアメリカのFDAが
迅速承認しました。
報告文献がNEJMに掲載されています。


前知識として、下記の指標を判定の評価にしています。

・臨床認知症評価尺度(CDR-SB)スコア(0〜18で、数値が高いほど障害が大きいことを示す)
・PET上のアミロイド蓄積の変化量
・アルツハイマー病評価尺度の14項目の認知機能下位尺度(ADAS-cog14)スコア(0〜90で、
 数値が高いほど障害が大きいことを示す)
・アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS;0〜1.97で、数値が高いほど障害が大きいことを
 示す)
・アルツハイマー病共同研究の軽度認知障害における日常生活動作評価尺度(ADCS-MCI-ADL)
 スコア(0〜53 で、数値が低いほど障害が大きいことを示す)
・ARIA(amyloid-related imaging abnormalities); アミロイド関連画像異常
 抗アミロイド薬(レカネマブ、アデュカヌマブなどの人モノクローナル抗体)の使用により、
 アルツハイマー病患者の神経画像で見られる最も一般的な異常で、アルツハイマー病患者で
 自然発生的に生じることはめったにない。


ARIA-EとARIA-Hの2種類がある
ARIAは実際には有害性を意味するのではなく、アミロイドクリアランスの有効性のマーカーで
ある可能性も否定できないとされています。
ARIA-E(edema)浮腫は可溶化したアミロイドβが、血管周囲リンパ排液路に流れ込むも
十分ドレナージされずに溢れて浮腫性変化が生じたもの。
ARIA-HのHはヘモジデリン沈着を意味しており、血管壁のアミロイドβが中途半端に引き抜かれ
たことにより、血管壁が脆弱化し出血性変化が生じたもの。


アポ蛋白-Eとアルツハイマー病との関係
 アポ蛋白-Eにはアポ蛋白-E2、アポ蛋白-E3、アポ蛋白-E4があり、
 アポ蛋白-E3は正常型、アポ蛋白-E4がアルツハイマー病を悪化させる
 アポ蛋白-E2がアルツハイマー病の低下につながるとされています。


本論文として
レカネマブ経過観察12か月の研究発表がありましたが、効果がないとの結論でした。
今回は18か月での経過です。レカネマブを静注後にMRI検査ではARIAが9.9%出現しています
が、症状のある人は3%以下でした。


1) 早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症)を
   有し、PETまたは脳脊髄液検査でアミロイドの沈着を認める50〜90歳の人を対象と
   して、18ヵ月間の3相試験を行った。
   参加者をレカネマブ(10mg/kg 体重を2週間隔)を静脈内投与する群と、プラセボを投与
   する群に 1:1 の割合で無作為に割り付けた。

2) 1,795例が組み入れられ、898例がレカネマブ、897例がプラセボの投与を受けた。
   ベースライン時のCDR-SBスコアの平均は、両群とも約3.2であった。
   ベースラインから18ヵ月までの変化量の補正後の平均値は、レカネマブ群で1.21、
   プラセボ群で1.66であった。

3) 死亡率はレカネマブ群で0.7%、コントロール群では0.8%でした。 
   重篤な副反応はレカネマブ群で14%で、コントロール群は11.3%です。
   症状を伴うARIA-Eはレカネマブ群1.2%で、コントロール群は0%です。
   ARIA-Eは91%が軽症で、その殆どが(74%)3か月以内に認められ、4か月以内に消退
   しています。(81%)
   ARIA-Hはレカネマブ群で0.7%、コントロール群は0.2%でした。
   めまいの症状が多い結果です。脳出血はレカネマブ群で0.6%、
   コントロール群は0.1%(1/897)です。アポ蛋白-E4の人にその傾向がありました。

4) 結論
   レカネマブの投与は、18ヵ月の時点で早期アルツハイマー病におけるアミロイド関連
   マーカーを減少させ、認知・身体機能尺度の低下がプラセボよりも小さかったが、有害
   事象とも関連した早期アルツハイマー病に対するレカネマブの有効性と、安全性を明らか
   にするためには、より長期の試験が必要とされる。






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       (一部、日本版をコピペ)







私見)
 高額の薬剤です。今後は点滴でなく筋注も試験されているようです。
 副反応と効果に関しても、今後の報告が待たれます。












posted by 斎賀一 at 20:55| 脳・神経・精神・睡眠障害