前立腺癌のPSAを用いた診断基準
Prostate Cancer Screening with PSA and MRI Followed
by Targeted Biopsy Only
by Targeted Biopsy Only
1990年代にPSAが用いられるようになり、超音波検査下での生検も確立されてきましたが、
過剰診断の問題が指摘されています。
ガイドラインもこの問題を乗り越えなくてはならない状態です。
一般的に前立腺癌は小さく悪性度の低い、予後の良い癌が多いです。
60歳以上の男性の 50%にこのような癌が潜在しているとも言われています。またPSAの特異度も
低く、値が 3 以上でも前立腺癌は 16%の診断との事です。
しかし、前立腺癌での死亡率は増加傾向で、第7番前後です。
適切なスクリーニングが求められています。
今回雑誌NEJMにMRIを用いて標的生検の診断方式が過剰診断を削減するとの論文が出て
います。
1) 50〜60歳の男性 37,887例を、通常の前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングを行い
PSA値が 3 ng/mL以上の 17,980例(47%)が試験に登録しています。
MRIはすべて実施していますが、その後の生検の方法を 3 グループに分けています。
MRI後に従来の 12個の生検を実施し、更にMRIで陽性所見があれば標的生検を 3〜4個
追加する通常群(arm1)と、MRIの陽性所見の場合にのみ標的生検4個だけ行う実験群
(arm2)とし、この場合にPSAが 10以上の時はMRI所見が陰性でも標的生検を行って
います。arm2と同じ方式の生検ですが、PSAのカットオフ値を 1.8以上と下げたarm3も
設けています。arm3のデータはarm2に組み込まれています。
2) 主要転帰は、臨床的に重要でない前立腺癌のグリーソンスコア 3+3 と定義しています。
二次転帰は臨床的に重要な前立腺癌とし、グリーソンスコア3+4 以上と定義し安全性も
評価しました。
3) 臨床的に重要でない前立腺癌は、実験群の 11,986例中 66例(0.6%)で診断された
のに対し、通常群では 5,994例中 72例(1.2%)であり、相対リスク 0.46 です。
(過剰診断をほぼ半減出来ています。)
系統的生検(12個)のみによって発見された臨床的に重要な前立腺癌は、通常群の 10例
で診断されましたが、全例が中リスクであり大部分は低腫瘍量で、積極的監視により管理
されました。重篤な有害事象はいずれの群においても稀(0.1%未満)でした。
(referenceが通常群で、experimentalが実験群です)
4) 討論
生検の方針として、アメリカとヨーロッパのガイドラインは異なっています。
本論文ではMRIの所見を優先しています。MRI所見のPI-RADSスコアーが 1〜2 は生検を
せず、3〜5 に対して標的生検を実施する実験群を調べました。
つまり、小さなグリーソンスコアーが 3+3 に対しては過剰診断の可能性が高く、生検
にはharmfulとする認識です。本研究の実験群によりグリーソンスコアーが 3+3 は
54%削減できましたが、38%は否定できませんでした。
臨床的に重要な前立腺癌、つまり 3+4 は通常群と比較して実験群で 19%減少を意味して
おり、危険率は 0.81 でした。
(つまり、MRI検査後に標的生検のみで系統的生検を行わないと、臨床的に重要な前立
腺癌を 0.08%見落とします。例えば 10,000人の対象で約 8人を見落とす計算となり
ます。)
繰り返しますが、系統的生検によってのみ検出された臨床的に有意な癌が、通常群の 10人
の男性で診断されたことを指摘しています。
これらの男性の内 9人はMRIが陰性で、1人はMRIで偽陽性の所見がありました。
前立腺癌と診断された参加者の内 6人は、主に積極的な監視で管理され、3人は根治的
前立腺全摘除術で治療され、1人は放射線療法で治療されました。
診断が遅れたこれらの症例は全て予後不良とはなっておらず、更なる経過観察が重要
です。
本論文の制限(limitation)は、若い人が対象です。
5)結論
PSA高値の男性の前立腺癌のスクリーニングと早期発見には、MRIを用いた標的生検を選択
して系統的生検を回避することで、少数の患者で中リスク腫瘍の発見が遅れるという犠牲の
もと、過剰診断のリスクを削減できました。
私見)
ザックリと言って、MRIを用いた標的生検では(4個)過剰診断を半分に減らせますが、
臨床的に治療が必要な癌を 1,000人中 1人見落とす可能性があります。
前立腺癌は予後が良く過剰診断も多いので、スクリーニング検査も治療も拒否すると考える
御仁も多くいます。是非本論文を前向きに捉えてもらいたいです。
ネットの情報を下記に掲載します。
前立腺がん _ 国立がん研究センター 東病院.pdf
前立腺癌のMRI画像診断におけるPI-RADS v2.1まとめ!.pdf
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