2022年10月05日

U型糖尿病の血糖降下薬・微小血管と心血管疾患

U型糖尿病の血糖降下薬・微小血管と心血管疾患
 
Glycemia Reduction in Type 2 Diabetes −
Microvascular and Cardiovascular Outcomes
[N Engl J Med 2022;387:1075-88]


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 糖尿病とは尿に糖が出る事ではなく、高血糖により血管の病変が引き起こされることです。
端的に言えば、糖尿病とは血管の病気です。糖尿病の慢性合併症としての血管病変には、
細動脈とやや太めの動脈の二種類があります。
細動脈病変が糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性末梢神経障害があります。
中等度から大血管病変としては、MACE(主要心血管イベント)があります。

 今回、雑誌NEJMに4種類の血糖降下薬がこれらの血管病変にどのような差異をもって効果が
あるかを調べた論文が掲載されています。
前回のNEJMのGRADE研究の延長論文です。


1) 方法
   前回のブログで紹介しました論文と同じ内容で、2型糖尿病患者を対象とし、メトグルコに
   加えて4種類の血糖降下薬のいずれかを投与した場合の、ヘモグロビンA1c値7.0%未満の
   達成と、維持における相対的有効性を評価しました。
   参加者を、インスリングラルギン U-100(以下,グラルギン;持効型インスリン)群,
   グリメピリド群(アマリール),リラグルチド群(GLP-1;ビクトーザ),
   シタグリプチン群(DPP阻害薬;ジャヌビア)に無作為に割り付けました。
   (前回のとは異なり、血管病変を調べていますから、最初から転帰は二次的転帰となり
   ます。)
   事前に規定した、微小血管疾患と心血管疾患に関する二次的転帰は、高血圧・
   脂質異常症、尿中アルブミンの中等度、または高度の上昇が確認されるか、
   又は推算糸球体濾過量60mL未満、ミシガン糖尿病性神経障害スクリーニング法(MNSI)
   で評価した糖尿病性末梢神経障害、主要血管イベント、死亡などとしています。

2) 結果
   5,047例が登録され、平均5.0年の追跡を行っています。
   高血圧と脂質異常症の発生、および微小血管転帰に関しては、薬剤の群間に大きな差は
   なく全体的な発生率(すなわち100人/年あたりのイベント数)の平均は、尿中アルブ
   ミンの中等度の上昇が2.6、尿中アルブミンの高度の上昇が1.1、腎障害が2.9、
   糖尿病性末梢神経障害が16.7でした。MACE(全体的な発生率 1.0)、
   心不全による入院(0.4)心血管系の原因による死亡(0.3)、全死亡(0.6)に関しては、
   薬剤の群間で差はありませんでした。
   あらゆる心血管疾患の発生率は、グラルギン群で1.9、グリメピリド群で1.9、
   リラグルチド群で1.4、シタグリプチン群で2.0であり、わずかな差が認められました。
   1つの治療を、その他3つの治療を統合した結果と比較した場合、あらゆる心血管疾患の
   ハザード比は、グラルギン群1.1(95%信頼区間 [CI] 0.9〜1.3)、
   グリメピリド群1.1(95% CI 0.9〜1.4)、リラグルチド群0.7(95% CI 0.6〜0.9)、
   シタグリプチン群1.2(95% CI 1.0〜1.5)でした。

3) 考察
   4種類の薬剤による、A1cに対する効果は異なります。
   U型糖尿病はベースラインとして、高血圧、脂質異常症を合併しています。
   しかも本研究の当初には診断されていなくても、90%以上の参加者が研究の過程で臨床家
   から合併症を指摘されています。
   リラグルチド群は高血圧に比較的有効に作用していますが、グラルギン群はインスリンの
   特徴により、腎でのナトリウム再吸収に作用して血圧に関しては負の効果となります。
   細動脈疾患に関しては、4種の薬剤に大きな差異はありませんでした。
   従来の研究では、血糖の降下が細動脈疾患の悪化に繋がるとのデータがありましたが、
   本研究では血糖を細かく分類することにより、正確さを実証しています。
   心血管疾患(MACE)の発生は比較的低率でした。
   これは本研究で心血管疾患に対するマネージメント、つまり治療が十分になされていた
   ためと思われます。
   細動脈病変においては4種の薬剤でその差異はありませんでしたが、MACE(心血管疾患)
   においては相違があるようでした。

4) 結論
   2型糖尿病患者において、微小血管合併症と死亡の発生率には4種類の薬剤で大きな差は
   なかったが、あらゆる心血管疾患の発生率には群間差がある可能性が示されました。


    Glargine; 長時間作用インスリン
    Glimepiride; アマリール
    Liraglutide; GLP-1 ビクトーザ
    Sitagliptin; DPP阻害薬 ジャヌビア





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私見)
 細動脈病変に関しては、あまりにも厳格な血糖管理(血糖の上げ下げ)は却ってマイナス効果
 があり大血管病変のMACEは血圧、脂質などの総合的管理が影響するため、血糖のみのファク
 ターは結果にあまり反映されないとされていました。
 しかし、今回の論文は明言を避けていますが、それにやや反論じみた内容です。
 現在はSGLT-2阻害薬とGLP-1が主役になりつつあります。
 更なる研究が待たれます。
 一般的な知識として、旧版ですが教科書のハリソンを下記に掲載します。
 店頭で立ち読みしますと、新しい版では内容が刷新されていました。







ハリソンより1.pdf











posted by 斎賀一 at 18:46| 糖尿病