2022年09月13日

脂質異常症の治療薬・スタチンによる筋症状はまれ

脂質異常症の治療薬・スタチンによる筋症状はまれ

 
Effect of statin therapy on muscle symptoms: an individual
participant data meta-analysis of large-scale, randomised,
double-blind trials



40913.PNG

     

 脂質異常症の治療薬の主体は、スタチン系(下記の一覧表を参照)です。
心血管系疾患の予防に対する効果は実証済みです。
スタチン系薬剤の副作用として有名な横紋筋融解症があります。
グロテスクな病名と相まって、患者さんによってはスタチンに対して過剰に心配される方が
いらっしゃいます。
 今回、副反応の筋症状発生は稀であるとする論文が、LANCETに掲載されています。


1) スタチンとプラセボを比較した19のスタディを、メタ解析しています。
   1,000例以上の二重盲検試験で、2年以上経過観察したスタディを採用しています。
   また、軽〜中等度のスタチンと強力スタチンを比較した4つのスタディも加えています。
   対象症例は123,940例、平均年齢は63歳、女性は27.9%
   心血管疾患は48.1%、糖尿病18.5%です。
   スタチンの強さの4つの比較スタディは、30,724例です。

2) 追跡期間の平均は4.3年です。
   筋症状または筋力低下はスタチン群で16,835例(27.1%)
   プラセボ群が16,446例(26.6%)で危険率は1.03でした。
   スタチン群での筋症状または筋力低下は治療開始1年以内が一番多く、スタチン群で7%
   増加していました。その危険率は1.07です。
   絶対的発生率は11人/1000人/年で、実際にスタチン服用により15例中1例の発生頻度
   となります。
   2年以降は両群に差はなく、危険率は0.99です。
   スタチンの強さの違いでは危険率が1.08とやや増加しています。
   血清CK値の上昇は殆ど変化がなく、基準値の0.02倍でした。





       40913-2.PNG

       40913-3.PNG

    
    
3) 考察
   筋症状と筋力低下とは具体的に、筋痛症、痙攣(クランプ)、下肢痛、骨格筋痛、
   筋肉疲労等です。本研究ではスタチンの種類による差はありませんでした。
   また投与量による差もありませんでしたが、中等度より強力スタチンの方が若干報告が
   多い傾向でした。11%対6%です。
   筋症状を報告した患者の多くが1年後も継続服用していた事実は1年後の発生が同じとの
   データに影響はしてないようです。
   中等度のスタチンを服用することにより、5年間で1,000人当たり11人の筋症状の副作用が
   報告されますが、心血管疾患の二次予防に50例に効果があり、一次予防には25例に貢献
   できています。
   スタチン服用による筋症状に対してはnocebo効果があり、患者に対する説明にはチャレン
   ジ的要素が必要となります。
   スタチン服用で筋症状を訴える90%はスタチンが原因とは断定できません。
   しかもその殆どが治療開始の1年以内です。
   軽度の筋症状を訴える患者には継続服用を勧めます。







私見)
 本論文はスタチンの有効性とその安全性を担保する論文ですが、私が注目したのは患者さんに
 説明するのにチャレンジ的要素という文言でした。

 歴史家の加来耕三氏が語ります。
 「歴史とは結果だけ見ていては何も学べない。何をしようとしたのか、何を志したのか、
  それを探していくところに教訓らしきものが出てくる。」

 なんと素晴らしい言葉でしょう。借金ばかりを残していく先代に鎮魂歌の響きがあります。












posted by 斎賀一 at 20:40| 脂質異常