不明熱・FUO
Fever of Unknown Origin
[N Engl J Med 2022;386:463-77.]
[N Engl J Med 2022;386:463-77.]
臨床医にとって、不明熱を診断するのはその力量が問われます。
的確な診断をするばかりでなく、その過程が問われるのです。
今回、雑誌NEJMに不明熱に関する総説が載っています。
不明熱に関する診断のアルゴリズムは幾多の文献、雑誌からも紹介されていますが、不明熱に
関する医師としての姿勢において、示唆に富む内容ですので改めてブログします。
1) 長期の発熱の定義は1907年にCabotにより2週間以上とされていました。
1961年にPetersdorf等により、3週間以上の発熱で1週間の入院でも診断が出来ない
場合を、不明熱・FUOと定義されました。
Durack等は外来受診が少なくとも3回、もしくは入院して3日間で診断がつかない場合を
FUOとして期間を短縮した定義を提唱しています。
ウイルス性疾患は自然治癒傾向があるために、FUOの定義には発熱の期間に関して最近
では厳格に規定しない傾向の様です。
重要な点は先入観で、しかも恣意的な診断方法でFUOを扱うのでなく、常に診断を疑い
ながら(debatable)検査を勧めていく姿勢が大事です。
型どおりな一括した検査をするのでなく、除外診断を含めて順番に検査を勧めていくこと
が大事です。
2) 体温に関して、1868年Wunderlichは腋窩測定で37.0を正常としています。
しかし、体温は最近では低体温化しており、36.3〜36.5となっています。
発熱は人体にとって有害か有益かは、歴史的に論争があるようです。
3) FUOの原因は時代と共にに変化しています。
以前は感染症が主でしたが、最近では自己免疫関連の炎症疾患が多くなっています。
しかし、発展途上国においては依然として感染症が多いようです。
FUOの原因が判明しないのは最大で51%にも及ぶと言われており、特に高所得地域では
その傾向にあります。
4) FUOを分類するのに、古典的、入院患者、免疫不全関連、旅行関連に分けて考えることは
現在でも有用です。
5) 古典的分類として
感染症
結核、Whipple病、腸チフス、感染性心内膜炎、深部感染(膿瘍、前立腺炎)
ウイルス性
EBウイルス、動物性ウイルス
真菌感染症
その他の感染症、人獣共通感染症又はベクター媒介
症状が複数認められ、非特異的の場合で発疹、白血球減少、肝障害、血液検査で決め手を
欠く場合は診断が遅れます。
癌疾患
FUOの約2〜25%を占めます。
腎細胞がん、リンパ腫、肝細胞癌、卵巣がん、心房性粘液種、キャッスルマン病
ナイキサンチャレンジテストといって、癌疾患と一般的なFUOとを鑑別するのにナイキサン
を服用して発熱が軽快する場合は、癌疾患によるとする治療的試験ですが、根本的な診断
ツールでないことに注意が必要です。
自己炎症性および自己免疫疾患
FUOの5〜32%を占めます。
真の自己炎症性は自然免疫が関与します。例えは周期性発熱症候群です。
自己免疫疾患としては獲得免疫が関与します。例えは自己免疫性リンパ増殖性症候群です。
その他として、巨細胞性動脈炎と成人型Still病があります。
炎症マーカーは非特異的ですが、成人型Still病は高フェリチン血症(10000ng)が特徴
です。
薬物関連(drug fever)
入院患者のFUOの3〜7%です。
好酸球増加が25%、徐脈が10%、発疹が5%です。
Drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms (DRESS)は
特別な疾患として捉えられています。
重篤な発疹、発熱、肝障害、リンパ節腫大、好酸球症、非定型リンパ球症です。
(従来はStevensJohnson 症候群、中毒性表皮壊死症(TEN)と言われていましたが、
概念は若干別な様です。)
入院患者
医学の進歩と共に入院患者のFUOは増加しています。
原因は多岐にわたり、医師にとって「イライラ症候群」とも言われています。
しかし、古典的FUOの難解な診断方法を取るべきではありません。
実際的な診断をすべきです。
非感染性の場合でも白血球増多は起こり得ます。そのため、これをもって感染症とは診断
できません。
外科手術後の早期での発熱は多くは自然治癒します。これは手術により炎症性サイトカ
インが増えるからです。
また、手術により水分体内貯留が生じて痛風発作も誘発されます。
ある研究によると、入院中の発熱は31%が非感染性とのデータもあります。
免疫不全
ここ10年間で、免疫抑制剤と免疫刺激薬(生物学的製剤、モノクローナル抗体など)が
発展したため複雑化しています。
血液悪性腫瘍
発熱と白血球減少が認められたら、広域抗生剤の投与をすべきです。
細菌及び真菌の繰り返しの検査が重要で、簡単に更に広域の抗生剤の変更をすべきでは
ありません。
発熱は真菌、ヘルペス属ウイルスの再活性化、アデノウイルスなどの可能性もあります。
海外からの帰国者
海外での感染症に周知していなくてはなりません。
診断
患者の問診、診察、初期の検査で62%は診断が出来ますが、逆にその初期の診断では
48〜81%が診断を誤った方向に導く可能性があります。
普通の疾患でも、FUOの場合に特異的な症状として発症する場合があります。
型どおりのアルゴリズムで診断していると、余分なコストが掛かるばかりでなく擬陽性の
結果により迷路に入ってしまいます。
例えば細菌感染を疑うプロカルシトニンや、真菌感染症を疑うベーターDグルカンなど
です。
治療
FUOの治療に抗生剤やステロイド剤を使用する誘惑に駆られる事はありますが、白血球
減少や臨床症状の増悪がなければ、先ずは診断を優先すべきです。
なぜならば、FUOの患者の多くは予後が良好で、自然治癒するからです。
今後
20世紀も20年以上過ぎた今、必要なことは独断的な不明熱の定義から解き放されて、
リーズナブルな診断方法を再構築することが医学教育に必要です。
自然治癒する不明熱を除外するためにも
私見)
本論文を読んで今更ながら感じました。
医学は知識ではなく、その姿勢のようです。