2019年12月09日

non-HDLコレステロールと心血管疾患のリスク管理

non-HDLコレステロールと心血管疾患のリスク管理
 
Application of non-HDL cholesterol for population-based
cardiovascular risk stratification
  thelancet.com Published online December 3, 2019
 


1209.PNG
 

  

 総コレステロールから善玉のHDLコレステロールを引いた値がnon-HDLコレステロールです。
最近では健診でもこのnon-HDLコレステロールを採用している機関が多くなっています。悪玉と言われているLDLコレステロールの測定との整合性に混乱してしまいます。



         1209-2.PNG 
             ネットより引用



 今回雑誌Lancetより、non-HDLコレステロールがその後の心血管疾患の発生に対して有効な指標となるという内容の論文が掲載されました。現に10年リスクの算定には、このnon-HDLコレステロールを
採用しています。
 non-HDLコレステロールは動脈硬化促進リポ蛋白(proatherogenic lipoproteins)の全てを含んでおり、特に重要なApo-Bも勘案しています。
コレステロールの治療に関しては、一次予防と二次予防とに関して意見の乖離があります。
またコレステロール全般の値と疾患との関係や全年齢層における長期予後に関してのデータは、あまり
十分にはないとの事です。
 今回の論文では若い人を含めた累積危険率を算定しており、このnon-HDLコレステロールの高い人は
生涯を通じてその危険に晒されているとの指摘です。


本論文を纏めますと

1) 1 mmol / Lには38×67 mg / dLのLDLコレステロールと非HDLコレステロールが含まれると仮定
   して、閾値濃度をmmol / Lで報告しています。
   日本で馴染みのデータ値に換算しますと
    ・<100 mg / dL [< 2・6 mmol / L];
    ・100から<145 mg / dL [2・6から<3・7 mmol / L];
    ・145から<185 mg / dL [3・7から<4・8 mmol / L];
    ・185から<220 mg / dL [4・8から<5・7 mmol / L]、
    ・および 220 mg / dL [.5・7 mmol / L]
  本論文で採用しているカットオフ値(治療の基準)は
  130 mg/dL(3・4 mmol/L) から 145 mg/dL(3・7 mmol/L)としています。

2) ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカで、既往歴に心血管疾患が無い人を登録しています。
   主要転帰は心血管疾患として冠動脈疾患、脳梗塞です。
   経過は75歳までとしています。
   non-HDLコレステロールを50%減少したと仮定しての心血管疾患の発生抑制も算定しています。

3) 524,444名が対象で398,846名が登録して調査しています。
   登録時の48.7%が女性で平均年齢は51.0歳です。調査期間は最大で43.6年です。
    (平均13.4年)
   調査期間中に54,542例の心血管疾患が発生しています。

4) 結果は男女共に30歳以降はnon-HDLコレステロールが増加するに従って心血管疾患が増えて
   います。
   女性では non-HDL cholesterol 140以下(2.6 to <3.7 mmol/L)で
   危険率は 1.1, 220以上(≥5・7 mmol/L)で危険率1.9
   男性では non-HDL cholesterol 140以下で危険率は 1,1
   220以上で危険率は2.3でした。
   推定計算ではnon-HDLコレステロールを50%削減すると、生涯に亘って75歳までに心血管疾患を
   抑制出来ました。

5) フラミングガム研究の算定方法は主に60歳以上を対象にしており、危険率の算定も2,7,10年と
   短期間です。
   本論文では45歳以下の若い人も対象にしていますが、長い期間ではコレステロールと心血管疾患の
   関係が若い人でも認められました。
   60歳以上ではnon-HDLコレステロールのリスクが低いようですが、それは若い人に比べて絶対的
   危険率が高いからで、75歳までの累積危険率を調べると、non-HDLコレステロールとの関連性が
   明らかとなります。
   つまり10年リスクでなく30年リスクを計算すると、そのリスク率は10倍までになります。
   non-HDLコレステロールを50%削減の推定表も併せて、結果は下記のPDFのグラフをご参照
   ください。

6) 結論として、若いころからnon-HDLコレステロールに介入治療を勧めています。







私見)
 蟻さんの様に若い頃からコツコツと貯金をして老後に備えるのが理想ですが、気が付いたらこの歳に
 なっても借金があるのです。キリギリスの様に遊んではいなかったのですが、それが現実です。
 若い人に借金はするなとはとても言えません。
 取りあえず、non-HDLコレステロールが140以上の人には生活習慣の指導(バランスシート)を勧め、
 180~200の人には治療対象として、200以上の人には「孫さん」の様にならないよう積極的に指導
 します。
 尚、前回のブログでも紹介しましたが治療介入を考えるときはnon-HDLコレステロールを、治療目標や
 達成を調べるときはLDLを測定として、使い分けをしてみます。






HDL 本論文.pdf

ブログより.pdf














posted by 斎賀一 at 20:26| Comment(1) | 脂質異常
この記事へのコメント
先生の借金は、自分の為の借金じゃなくて、
人様(患者さんなど)の為の借金ですもんね(^_^)

先生、誰よりも長生きすると思ってた人が、逝っちゃいました...悲しい(T_T)
Posted by at 2019年12月10日 06:52