2025年03月31日

麻疹のヨーロッパの流行

麻疹のヨーロッパの流行

European Region reports highest number of measles cases
in more than 25 years –UNICEF, WHO/Europe
[Geneva/Copenhagen, 13 March 2025]



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 報道によりますと、日本でも散発的に麻疹の報告があります。




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 WHOとユニセフの報告によると、ヨーロッパにおける麻疹の報告は2024年は127,350人で、
1997〜2023年の倍発生しているとの事です。しかも40%が5歳以下の乳幼児です。
報告の半数が入院を要し、38人もの死亡例があました。
麻疹は収束していましたが、2018年は89,000人で2019年は106,000人と再増加しています。

コロナ禍により、麻疹ワクチンの接種率の低下が最も関与しています。
ワクチン接種率は多くの国で、コロナ禍以前まで回復していません。
「麻疹ウイルスが立ち止まらない以上、我々も立ち止まれない」と警鐘しています。
ヨーロッパでは1回目のワクチン接種をしていない人は、500,000人いると推定されています。

麻疹は感染力が強力なウイルスの一つです。肺炎、脳炎、下痢、脱水、視力障碍、長期間の
合併症より重症化します。免疫系統にも損傷を起こします。
(麻疹ウイルスが体内のB細胞やT細胞(記憶免疫に関わる白血球)を大幅に減らしてしまう
ことが報告されています。
ある研究では、麻疹にかかると免疫記憶細胞の20〜70%が失われるとも報告されています。)

集団免疫に必要なワクチン接種率は95%と言われていますが、ヨーロッパの国々では
80%以下です。
ボスニア・ヘルツェゴビナとモンテネグロでは、過去5年以上にわたり接種率がそれぞれ
70%、50%を下回っており、長期的な低接種率が問題視されています。
現段階で麻疹が流行の兆しがない国でもワクチン未接種を把握し、ワクチンの啓蒙活動、医療
従事者の研修、疾病監視体制の強化を通じて、流行の備えをしなくてはなりません。






私見)
 以前に麻疹の幼児が直ぐに水痘に罹患し、重症化した経験があります。
 ワクチンera(時代)で乳幼児が恩恵を受けていますが、1歳に接種する麻疹ワクチンが
 何と言ってもコーナーストーンです。
 それに向けてのワクチンスケジュールと認識しています。










posted by 斎賀一 at 19:28| 感染症・衛生

2025年03月28日

心房細動アブレーション後の抗凝固薬の中止について

心房細動アブレーション後の抗凝固薬の中止について

Discontinuation of Oral Anticoagulation After Successful
Atrial Fibrillation Ablation



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 心房細動のアブレーションが成功して、その後に抗凝固薬(OAC)の中止をすべきかの明白な
論文がありませんでした。
今回JAMAに論文が掲載されていますので、ブログします。
アブレーション後に血栓塞栓症と出血のリスクを層別する事を目的としています。
(本論文ではOACとしていますが、DOACとワーファリンを含めた意味です。)


1)後ろ向きコホート研究で、2006年1月1日から2021年12月31日の間に初めてアブレーション
  (CA)を受け、施行12か月後までに心房細動(AF)の再発や有害事象がなかった患者が対象
  です。
  CA後12か月時点をランドマーク期間とし、抗凝固薬(OAC)を継続していた群と中止していた
  群に分けました。
  追跡データは2023年12月31日までとし、解析は2024年1月から4月にかけて実施されま
  した。(グループの定義は下記の図です。)





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  (CA後の3〜4か月は原則OAC服用。12か月間がランドマーク期間となり、
   中止群と継続群に分かれました。丸印の意味が分かりません。)

2)主要転帰は12か月以降の血栓塞栓イベント、重篤な出血イベント、および全死亡です。

3)結果
  CAが成功し、心房細動の再発がない1,821人の患者を登録しています。
  平均年齢63.6歳、男性1339人(73.5%)です。
  922人(50.6%)は12か月時点でOACの継続群、899人(49.4%)はOACの中止群として
  います。
  平均4.8年の追跡期間中に、血栓塞栓イベントは43人(2.4%)、重篤な出血イベントは
  41人(2.3%)、死亡は71人(3.9%)に発生しました。
  OAC中止群は継続群と比べて血栓塞栓の発生率が有意に高く
  (発生率 0.86vs 0.37/100人/年)、一方で重篤な出血の発生率は有意に低い結果です。
  (発生率 0.10 vs 0.65/100人/年)
  サブグループ解析では、OAC中止は無症候性AF、左室駆出率60%未満、左房径45mm以上の
  患者においては血栓塞栓リスクの上昇と関連していました。
  一方で、HAS-BLEDスコアが2以上の患者では、OAC中止が重篤な出血リスクの低下に有益
  でした。

4)考察
  本研究では、無症候性AF、左室駆出率(LVEF)60%未満、左房径(LAD)45mm以上が
  血栓塞栓リスクと関連する合理的な背景因子であることが示されました。
  特に無症候性心房細動は、24〜72時間程度の短時間ホルター心電図モニタリングでは発見
  されにくく、モニタリング頻度も限られているため、AFが見逃され、脳卒中につながる
  可能性があります。
  駆出率LVEF(60%未満)および左房径(45mm以上)に関しては、心機能が低下している
  患者では血栓塞栓リスクが高まること、また左房の形態や拡大は血栓塞栓リスクと強く
  関連することが知られています。
  一方で、HAS-BLEDスコアは、AF患者におけるOAC投与後の出血リスクを評価するために
  開発された臨床スコアです。
  本研究ではCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアは、転帰と独立した関連性を示されま
  せんでした。
  また、過去に脳梗塞の既往がある患者群でも有意な差は見られませんでした。
  各サブグループにおけるイベント発生数が少なかったことが、これらの結果の一因と考え
  られます。





5)結論
  低リスク集団においては、OACの中止は安全である可能性があります。
  一方で、無症候性AFや心機能低下といった特定の特徴がある場合には、脳卒中予防のために
  OAC継続が推奨されます。
  したがって、2つの相反するリスク(血栓と出血)の間で、適切なリスク評価のバランスを
  事前に患者の特徴に応じて決める事が大事です。






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私見)
 勿論、DOAC中止の決定は二次施設にお願いしますが、リスク管理の上で実地医家にも参考に
 なる文献でした。
















posted by 斎賀一 at 18:51| 循環器

2025年03月26日

鳥インフルエンザに注意すべき事

鳥インフルエンザに注意すべき事

Avian Influenza: What Infectious Disease Physicians Need toKnow



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 WHOより、ヨーロッパでは鳥インフルエンザに対する警告が出ているようです。
medscapeからの報告です。


1)鳥インフルエンザの中でも、H5N1が一番注目されています。
  パンデミックにならないか心配されていますが、人への感染は依然として少ないです。
  鳥インフルエンザは数年間流行していますが、殆どが動物です。
  しかし、流行が頻繁になるに従って、突然変異も増えてきます。
  H5N1は現在のところ、哺乳類間で効率的に感染するわけではありませんが、牛同士や牛から
  猫への散発的な感染は、懸念すべき兆候です。
  ウイルスが新たな哺乳類の宿主に適応するたびに、人間への効率的な感染に一歩近づくの
  です。

2)更なる懸念として、reassortmentがあります。
  ウイルス間での混ざり合いが生じます。
  従来の人間に感染するウイルスであるH1N1やH3N2と鳥インフルエンザウイルスのH5N1が
  混ざり合って、新しいウイルスが誕生する事です。
  実際にreassortmentは稀で、一番混ざりやすい動物はブタです。

3)鳥インフルエンザH5N1の人感染における症状の一番の特徴は結膜炎です。
  この事象は、誤診や症状を軽く見てしまう懸念があります。

4)治療の基本はタミフルで、10日間の処方が勧められています。
  また、ゾフルーザとの併用も検討事項です。

5)関連業務の基本的な予防対策は、手洗い、手袋、マスクです。
  生の乳牛にはウイルスが同定されていますが、人への感染は認められていません。

6)人―人感染の成立にはウイルスの増殖が人の呼吸器組織で起きなくてはなりませんが、
  今現在ではそれは証明されていません。

7)H5N1はヒトを含む多くの種に感染可能ですが、その感染様式は宿主によって大きく異なり
  ます。それは鳥インフルエンザウイルスが結合するシアル酸(SA)受容体の種ごとの違い
  によるものです。
  • ヒト: SA受容体は肺の奥深くに存在するため感染は稀ですが、感染すると重症化しやす
       いです。
  • 豚:  人に似ています。
       ある種の鳥インフルエンザウイルスの受容体は、呼吸器組織にあります。
       長い間考えられていた原則は、豚の感染が最初とされていましたが、鳥インフル
       エンザ場合は、実際は人の感染から豚への伝搬が主のようです。
  • 家禽(鳥): 急速に拡散し、致死率が高い
  • 牛: 乳房に感染するが、呼吸器には感染しない。
  • 海洋哺乳類(例:アザラシ): 鳥インフルエンザウイルスのSA受容体が呼吸器組織に
   あり、感受性は高いです。
  • 猫: 呼吸器組織ではなく、脳にSA受容体があり神経症状を引き起こします。

  こうした種の違いが、鳥インフルエンザH5N1が一部の動物では致命的で、他の動物では
  比較的軽微である理由です。

8)現在、家畜の中でH5N1による最大の脅威に直面しているのは牛です。
  ただし、米国では家禽(ニワトリ)と牛に対する連邦規制体制に大きな違いがあります。
  家禽には確立された国家的な疾病管理プログラムがある一方で、牛に関してはH5N1が
  伝統的に「牛の病気」とは見なされてこなかったため、体系的な管理制度がありません。
  その結果、家禽におけるH5N1はよく管理されており、群れ間の伝播(flock-to-flock)は
  認められていません。
  しかし、牛では地方病(endemic)のような感染パターンのため、完全に根絶するのは
  難しいかもしれません。







私見)
 以前のブログもご参照ください。










鳥インフルエンザ(H5N1)の人感染.pdf

鳥インフルエンザの予備知識.pdf












posted by 斎賀一 at 18:34| 小児科