2024年12月27日

心房細動のアブレーションの展開

心房細動のアブレーションの展開
肺静脈隔離術(PVI)+線状アブレーション
+マーシャル静脈内エタノール注入(EIVOM)

<短 報>
Pulmonary Vein Isolation With Optimized Linear Ablation
vs Pulmonary Vein Isolation Alone for Persistent AF
The PROMPT-AF Randomized Clinical Trial



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 発作性心房細動のアブレーションは肺静脈隔離術が基本ですが、持続性心房細動では再発率
が高く追加の方法がとられています。
今回、中国からの報告で肺静脈隔離術(PVI)に、線状アブレーションとマーシャル静脈内
エタノール注入(EIVOM)を併用し成果を上げたとの論文が、雑誌JAMAに載っていましたので
ブログします。


1) 2021年8月27日〜2023年7月16日に、18〜80歳で少なくとも1種類の抗不整脈薬に
   抵抗性を示し、3か月以上続く心房細動患者でアブレーション歴がない498例を対象
   としています。
   肺静脈隔離術(PVI)群とPVI+EIVOM+線状アブレーションの介入群に、1対1の
   割合で無作為に振り分けています。
   主要転帰は、アブレーション後12ヵ月以内(3ヵ月のブランキング期間を除く)で
   30秒以上続く、あらゆる心房性不整脈が認められなかった患者の割合としています。
   二次転帰には、心房性不整脈の再発、AF、複数回の処置後の心房性不整脈の再発、
   抗不整脈薬の有無にかかわらず、記録された心房頻拍または心房粗動、AFの重症度、
   および生活の質(QOL)の改善が含まれました。

2) 結果
   498人中495人が登録されました。平均年齢61.1歳。
   12か月後の経過で心房細動がfreeの割合は、介入群で174/246人(70.7%)
   PVI単独群は153/249人(61.5%)でした。
   二次転帰における差はありませんでした。




私見)
 積極的なアブレーションの展開はそれなりに価値がありそうですが、world-journalによる
 コメントでは、本研究には3例の除外例があり、それがEIVOMか線状アブレーションかの
 記載がないとの事です。
 論評では、アブレーションの進歩によりEIVOMはやがて時代遅れになるかもしれないとの
 事です。同時にアブレーションについてブログします。






本論文.pdf








posted by 斎賀一 at 20:46| 循環器

心房細動のアブレーションの種類

心房細動のアブレーションの種類

<院内勉強用>


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 アブレーションの進歩は目覚ましいものがあります。雑駁ですが、院内勉強用に
纏めてみました。


1. エネルギー源による分類

1.1 熱エネルギーを利用するもの

 ・高周波アブレーション(Radiofrequency Ablation, RF)
  心筋を焼灼することで、異常な電気信号を遮断。
  一点ごとに処置するため、時間はかかるが精度が高い。
  適応: 持続性AFや再発性AF。
 ・クライオバルーンアブレーション(Cryoballoon Ablation)
  風船型カテーテルを用いて、冷却によって焼灼。
  一度に広範囲を処置可能で、肺静脈隔離に最適。
  適応: 発作性AF。

1.2 非熱エネルギーを利用するもの

 ・パルスフィールドアブレーション(Pulse Field Ablation, PFA)
  高電圧パルスで心筋細胞を選択的に破壊する電気穿孔法。
  非熱的なため、周囲組織へのダメージが少ない。
  適応: 肺静脈隔離が中心だが、広範囲治療への拡大が期待。
 ・レーザーアブレーション(Laser Balloon Ablation)
  レーザーエネルギーを使い、バルーン型カテーテルで肺静脈周囲を焼灼。
  適応: 発作性心房細動。
  利点:冷凍よりも一部コントロール性が高い。


2. 焼灼のターゲット部位による分類

 ・ 肺静脈隔離(Pulmonary Vein Isolation, PVI)
  心房細動の発生源となる肺静脈入口部を焼灼。
  標準的なアブレーション法で、すべての技術で実施可能。
 ・左心房後壁アブレーション
  持続性AFや再発性AFにおいて、肺静脈以外の異常電気活動を抑制するために追加される。
 ・ 上大静脈・下大静脈の焼灼
  特に右心房由来の心房細動で有効。
 ・ マッピングに基づくターゲット焼灼
  最新のマッピング技術を使用し、異常電気信号を発生する部位を特定して焼灼。
  例: 高密度マッピング、ローターマッピング。


3. 手技の範囲による分類

 ・ 標準的アブレーション
  主に肺静脈隔離を目的とするシンプルな手技。
 ・ 広範囲アブレーション
  肺静脈以外の部位(例: 左心房後壁や冠静脈洞)を追加焼灼。
  再発性AFや持続性AFで採用


4 対象部位による分類

 ・ 肺静脈隔離(Pulmonary Vein Isolation, PVI)
 ・リニアアブレーション
  左心房内に複数の線状の焼灼病変を作り、異常な電気回路を分断。
  適応: 持続性心房細動。
  利点:再発防止に役立つ。
  欠点:操作が難しく、手技時間が長くなる場合がある。
 ・焦点アブレーション(Focal Ablation)
  概要: 異常電気信号の発生源を特定して直接焼灼。
  適応: 心房細動以外の異常伝導路を伴う不整脈。
  利点:異常部位を特定できれば非常に効果的。
  欠点:AFの場合、原因が複数であることが多く、適応が限定的。
 ・ 複合型(ハイブリッドアブレーション)
  概要: 複数のアブレーション手法を組み合わせて治療。
  適応: 難治性または複雑な心房細動。
  利点:多面的なアプローチが可能。
  欠点:高度な技術が必要。


補足説明
 ・リニアアブレーション(Linear Ablation)
  心房細動の原因となる異常な電気信号が、心房内を円を描くようにリエントリー回路を形成
  することで持続する場合があります。
  この回路を遮断するため、心房内に線状の瘢痕を作ることで達成します。
  リニア形成ではある程度「仮想的な伝導路」を想定して病変を形成することが多いです。
  ただし、これは架空というより、解剖学的および電気生理学的な知見に基づいた「予測可能
  な伝導路」をターゲットにしていると言えます。
  つまり、リニア形成(Linear Lesion Formation)とは、心房の特定の部位に線状
  (リニア)の瘢痕を意図的に形成することを指します。
  この瘢痕(線状病変)は、異常な電気信号の伝導を遮断し、不整脈を制御または予防する
  目的で作られます。

 代表的な線状病変:
  左房頂線(Roof Line)
  左房下部線(Mitral Isthmus Line)
  三尖弁峡部線(Cavotricuspid Isthmus Line)
  適応:持続性心房細動や再発例。肺静脈隔離だけでは不十分な場合。
  特徴:完全なリニアブロックを作ることで心房内リエントリー回路を防止。
 ・ボックスアブレーション(Box Ablation)とは、心房細動(特に持続性心房細動)を治療
  するためのカテーテルアブレーション技術の一つで、肺静脈を囲むように広い領域を焼灼
  し、電気信号の伝導を遮断する方法です。
  この手法は、肺静脈隔離(PVI)を超えて広範囲のアプローチを行う。
  左房後壁を含む肺静脈周囲をボックス状に囲むことで、心房細動のトリガーや維持因子を
  包括的に遮断します。
  ただし、技術的に難しく合併症リスクもあるため、適応を慎重に判断する必要があります。
 ・拡大肺静脈隔離は、ボックスアブレーションの一種ではありません。
 ・マーシャル静脈内エタノール注入(Ethanol Injection into the Vein of Marshall,
   EIVOM)マーシャル静脈(Vein of Marshall)は心房内の重要な交感神経と副交感神経の
  集積部位であり、これをターゲットとしたエタノール注入は心房基質に影響を与え、AFの
  発症および持続を抑制する効果があります。
  左房の後壁や肺静脈隔離アブレーションの成功率を、補助的に高める役割もあります。







私見)
 アブレーションの進歩は凄まじいものがあります。
 実地医家にとっては眺める以外に方策がなく、専門家によく相談するよう説明する事が
 肝心です。
 ただ、前回の論文でも基本的なアブレーションと積極的な手技でも、10%程度の差しかない
 のかと思ってしまいます。主治医としては早期治療を旨として参ります。
 ネット情報を下記に掲載します。








1 アブレーション ネットより.pdf

mitral-isthmus-ablation.pdf

Vein of Marshall of Ablation.pdf

カテーテルアブレーションの治療内容.pdf

ボックスアイソレーション.pdf

vein_of_marshall..pdf

拡大肺静脈隔離.pdf

慶應義塾大学病院.pdf

心房細動に対するカテーテルアブレーション.pdf

富山大学第二内科 公式ホームページ.pdf









posted by 斎賀一 at 20:26| 循環器

2024年12月24日

チョコレートと糖尿病との関係

チョコレートと糖尿病との関係

Chocolate intake and risk of type 2 diabetes
: prospective cohort studies



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従来より認識している見解

・ポリフェノールの効果
 ダークチョコレートには、抗酸化作用を持つフラボノイド(ポリフェノール)が豊富に含まれ
 ています。これにより血圧の低下や動脈の健康維持、心疾患のリスク軽減が期待されます。

・気分を向上させる
 チョコレートにはセロトニンやエンドルフィンの分泌を促す成分が含まれ、ストレス軽減や
 気分の向上に役立つ可能性があります。

・脳の健康サポート
 ダークチョコレートを摂取すると、記憶力や集中力が向上するとされる研究もあります。
 これは血流改善効果によるものと考えられます。

・注意点
 カロリーと糖分の摂取
 ミルクチョコレートやホワイトチョコレートには砂糖や脂肪が多く含まれるため、摂取し過ぎ
 ると体重増加や糖尿病リスクの増加に繋がる可能性があります。

・カフェインの影響
 チョコレートには少量のカフェインが含まれているため、カフェインに敏感な人は注意が必要
 です。

・添加物
 市販のチョコレートには、保存料や人工甘味料が含まれる場合があります。
 

本論分に話を戻しますと

1) U型糖尿病でない192,208人が対象で、チョコレートとの関係をサブ解析した対象者
   111,654人が登録しています。2006年からの統計です。
   自己申告性です。

2) 18,862人がU型糖尿病を発症しています。
   1週間に5個以上(5serving;1servingは20〜のグラム、小さな板チョコ1〜2個)食べて
   いない人に比べて、明らかにU型糖尿病の発症が10%抑制されました。
   特にダークチョコレートでは21%の低減です。1serving毎に3%の低減となります。
   しかしミルクチョコレートは体重増と相殺にて、効果はありませんでした。




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私見)
 健康のためにチョコレートを食べるというよりは、一休みの中の嗜好品かもしれません。








チョコレート1.pdf










posted by 斎賀一 at 20:04| 糖尿病