2024年11月30日

2型糖尿病の血圧強化療法

2型糖尿病の血圧強化療法

Intensive Blood-Pressure Control in Patients with Type 2 Diabetes
[This article was published on November 16, 2024, at NEJM.org.]



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 15年前に同じ雑誌のNEJMから、同様の研究のACCORDスタディが発表になっています。
今回、中国から同様の方法でスタディが発表されています。
BPROADスタディと命名されています。
2型糖尿病では心血管疾患の合併が多く、生命予後に重大な影響を及ぼします。
血圧のコントロールは、本患者のリスクを軽減できる大事な因子です。


1) 50歳以上の2型糖尿病患者が対象です。
   血圧の目標を120以下とした強化療法群と、140以下にした標準療法群の2群に分けて
   5年間のランダマイズ試験です。
   主要転帰は非死亡の脳卒中、非死亡の心筋梗塞、心不全、心血管系の死亡です。

2) 結果
   12,821人(強化療法群が6,414人で標準療法群が6,407人)が登録しています。
   2019年2月から2021年12月までの登録期間です。45%が女性
   平均年齢は63.8歳です。
   1年後の到達血圧は、強化療法群では121.6mmHgで、標準療法群では133.2mmHg
   でした。平均経過観察期間は4.2年です。
   主要転帰の結果は、強化療法群が393人(1.65/100人/年)で、
   標準療法群が492人(2.09/100人/年)でした。リスク比は0.79です。
   重篤な副作用は両群で同じでしたが、症候性の低血圧と低カリウム血症は強化療法群の
   方が多かったです。

3) 考察
   (ACCORD試験では有意差がありませんでしたが、本試験では強化療法のベネフィット
    がありました。その理由を述べています。)
   ・本試験では年齢が若く、かつ心血管疾患を有する人を主に登録したACCORD試験とは
    異なり、一般的なポピュレーションを対象にしている。
   ・登録人数が本試験の方が多い。
   ・経過観察期間が本試験の方が長い。
   ・ACCORD試験では、血圧管理と糖尿病管理が介入し合っている。
    ACCORD試験のサブ解析では、標準的な糖尿病治療群での血圧の強化療法では明らか
    に差が出ている。
    本試験の48か月後の糖尿病コントロールのA1cは7.6%でしたが、ACCORD試験の
    標準的な糖尿病コントロール群でのA1cも7.5%と、ほぼ同じである。
   ・本試験の二次転帰の脳卒中では強化療法群が1.19/100人/年で、
    標準療法群が1.5/100人/年でした。
    中国では心血管疾患の中で脳卒中が第一のため、強化療法のベネフィットが大きい。

4) 結論
   2型糖尿病では、強化療法の方が明らかに心血管疾患の発生を抑制していました。






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私見)
 World journalの寸評では、本試験の副作用の症候性低血圧の頻度が少なすぎるとしています。   
 何はともあれ、糖尿病患者さんには高血圧治療は大事で、出来るだけ下げた方が良いかも
 しれません。
 ACCORD試験の日本版を下記に掲載します。





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1 糖尿病における強化血圧コントロール.pdf

糖尿病患者の目標血圧は.pdf

糖尿病患者の高血圧治療に関して_.pdf

降圧目標は120以下か?.pdf

血圧の強化療法と標準療法の比較試験.pdf

U型糖尿病の危険因子の解析.pdf










posted by 斎賀一 at 17:59| 循環器

2024年11月29日

一括アップデート!子どものワクチン・予防接種

一括アップデート!子どものワクチン・予防接種

小児科 Vol. 65 No.10 2024


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 小児のワクチンは、近年著しく変貌・進化しています。
雑誌小児科で特集号がありましたので、総論のみをブログします。
個々のワクチンに関しては雑誌を閲覧できるようにしますので、職員の皆さんは勉強してくだ
さい。


1) 予防接種接種方法;落合仁氏
   わが国において、ワクチン接種は一部を除いて原則皮下注射である。
   しかし、海外では生ワクチンを除く多くのワクチンは、原則筋肉内接種で行われている。
   真皮には免疫誘導する免疫細胞が多く存在し、その下の皮下脂肪層にも多くの免疫細胞が
   存在するが、血流は筋肉に比較し少ない。
   筋肉は免疫細胞は少ないが、抗原を認識した免疫細胞を胸腺やリンパ節へ早く到達させ、
   免疫細胞量も多いとされる。
   不活化ワクチンの皮下注と筋注を比較すると、筋注の方が高いか同等と報告されている。
   多くのワクチンにおいて、筋肉接種のほうが皮下接種と比べて局所の反応(痛み、腫れ
   など)が少ない。
   アジュバンド(ワクチンの効果を高める成分)が入ったワクチンは、皮下接種をすると、
   より多くの痛みや腫れ、更に強い炎症や肉芽を生じる可能性がある。
   また、非常にまれな疾患だが、進行性骨化性線維異形成症(fibrodysplasia ossificans
   progressiva: FOP)の患者では、筋注部位の異所性骨化をきたすため、一般的には筋注は
   禁忌とされる。


 標準的な接種部位図3,表2,表3)
 @1歳未満
  大腿前外側部に接種する。接種する筋肉は外側広筋で、中央1/3がその接種部位である。
 A 1〜2歳
  大腿前外側部または、三角筋中央部に接種する。
 B 3歳以上
  三角筋中央部に接種する。
  明らかに筋肉量が少ない場合などは、年齢に関係なく大腿前外側部に接種することも可能
  である。




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2) ワクチン接種前の注意;峯眞人氏
   小児肺炎球菌ワクチン、5種混合ワクチンの予約には注意が必要である。
   @生後2か月から小児肺炎球菌ワクチン、5種混合ワクチン初回接種を予約する場合
   ・PCV15を予約
   ・5種混合ワクチンを予約
   A既にPCV13、 4種混合合+Hibワクチンを接種した例の予約の場合
   ・PCV15を予約
   ・原則4種混合+Hibワクチンで接種を継続する。
   BPCV20が定期接種化後に生後2か月からの初回接種を予約する場合
   ・PCV20を予約
   CすでにPCVI5を接種した例の予約の場合
   ・原則PCV15を予約


 補足:
 第61回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会基本方針部会分において、PVC15を接種
 した例は原則としては、同一のワクチンで接種を行うこととされている。
 ただし自治体によって交互接種についての許容度合いが異なることから、自治体に十分確認
 のうえ、予約および接種を進めることが望まれる。
 DすでにPCV13を接種した例の予約の場合
  ・PCV20を予約




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 (PCV13からPCV20への切り替えは可能とする一方、PCV15からPCV20に切り替えて接種
  した場合の安全性・有効性は確立していないことから、PCV15で接種を開始した場合
  には、原則としてはPCV15で接種を行うこととし、原則によることのできない場合に
  ついては、接種が実施可能となるよう必要な規定を設ける。)以上の記載は各論より
  注射生ワクチンの次に他の注射生ワクチンを接種する場合のみ、27日以上の間隔をあける
  こと。それ以外のワクチンの組み合わせでは、前のワクチン接種からの間隔にかかわらず、
  次のワクチンの接種を受けることができるようになった。



3)ワクチン接種後の注意;中村豊氏
  接種数日後より認められる解離性神経症状反応応(DNSR)は、診察や検査に異常がないにも
  かかわらず、麻痺や異常運動など説明がつかない神経症状を呈するものである。
  新規ワクチンは筋肉注射で行われることも増えているが、皮下注射に比べ局所副反応は
  少なく、今後は筋肉注射が選択されるようになるであろう。


 予防接種ストレス関連反応(ISRR)
ISRRはワクチン接種の前後ですぐに起こる急性反応[接種前、接種時、接種直後5分未満)]
  と、ゆっくり起こる遅発性反応に分けられる。
  さらに急性反応は、急性ストレス反応と血管迷走神経反射に分けられる。




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 接種後1週間までの副反応

 1. 解離性神経症状反応(DNSR)
   ISRRの反応のうち、遅発性のものを解離性反応(dissociative neurological symptom
   reactions : DNSRと呼ぶ。
   接種数日後に生じ、医師による診察や検査では異常がないものの、さまざまな解離した、
   説明のつかない脱力、麻痺、不自然な四肢の動き、感覚の異常、言語障害、明らかな
   原因のない心因性非てんかん発作などの「神経症状」が出現する。

 2. 局所の反応
   接種部位の発赤、腫脹、硬結、疼痛などは接種後比較的早期に認められ、頻度が高い
   副反応である。
   アジュバンドを含む不活化ワクチンでの報告例が多い。
   通常接種後48時間で出現し、3〜4日で消失する。熱感,発赤が強い場合は局所を冷やす。
   硬結は1か月以上残ることがあるが、徐々に消退するので保護者には心配ないことを
   しっかり説明をしておく。
   まれに接種部位を中心に上腕全体、ときに前腕にまで及ぶ強い発赤・腫脹を認める
   ことがあるが、局所の保存的な治療(冷湿布、ステロイド含有軟膏や抗ヒスタミン剤の
   塗布)で消退させることができる。








私見)
 複雑化している小児のワクチンスケジュールに対応している本院の職員に敬意を表します。
 小児の未病のため、更に切磋琢磨しましょう。
 本特集号は皆さんが閲覧できるようにしておきますので、以前のガイドラインの小雑誌と
 合わせて勉強してください。












posted by 斎賀一 at 20:34| 小児科

2024年11月27日

若い人の二次高血圧症の実態

若い人の二次高血圧症の実態

<短 報>
Prevalence and Risk Factors for Secondary Hypertension in Young Adults



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 高血圧症で来院する若い人が多いです。
本態性高血圧症と違い二次高血圧症は原因があるため、単に降圧薬のみを処方する事以上に、
診断が大事です。
若い人を対象に二次高血圧症の実態を調べたcross-sectional studyが載っていましたので、
要約のみをブログします。
(クロスセクショナル研究(横断研究)とは特定の時点で、ある集団の状況を調べる研究方法
です。例えるなら、「写真を撮るように、その瞬間の状態を記録する」イメージです。)


1) 18〜40歳で高血圧症の確定診断を受けた人の中から、二次高血圧症の検索を行った
   2,090人が対象です。

2) 結果
   619人(29.3%)が二次高血圧症でした。
   原発性アルドステロン症が54.8%、腎血管疾患が18.4%、腎疾患が12.9%、
   薬剤性が6.0%、褐色細胞腫が5.9%、その他が2.7%でした。
   30〜40歳の方が、18〜30歳よりも多い傾向でした。
   高血圧の程度が高くなくても、二次高血圧症を否定することは出来ませんでした。

3) 傾向としては女性、低カリウム血症、少なくとも降圧薬を2剤処方している場合、
   家族歴に高血圧の人がいない場合、BMIが25以下、糖尿病を合併、などでした。





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私見)
 40歳以下の患者さんでは、家族歴と共に積極的に二次高血圧症の診断を勧める必要が
 ありそうです。
 アルドステロン症に関しては、以前のブログをご参照ください。






本論文.pdf

原発性アルドステロン症の診断.pdf

本院の診断基準.pdf

副腎偶発腫瘍(incidentaloma)の発生頻度.pdf

褐色細胞腫の診断法_.pdf








 
posted by 斎賀一 at 18:51| 循環器