2024年10月30日

軽症脳梗塞とTIAに対する二剤抗血小板療法の効果

軽症脳梗塞とTIAに対する二剤抗血小板療法の効果

Duration of Benefit and Risk of Dual Antiplatelet Therapy up to 72 Hours
After Mild Ischemic Stroke and Transient Ischemic Attack

<短 報>


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 軽症の脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)に対して、発症72時間以内の2剤の抗血小板療法
 (アスピリン-プラビックス)が推奨されていますが、いつまで2剤を続けるのかは不明確
 でした。
 INSPIREA研究の後解析として、中国からの報告です。
 (INSPIREA研究は以前にブログでも紹介しました。NEJMの資料を併せてブログします。)
 勿論、本研究では心房細動は除外しています。


1) 中国の222病院での調査です。
   72時間以内に2剤併用をした6,100人を、その後も21日間継続します。
   さらにその後の22〜90日間は、プラビックス単独に切り替える群とスタディの最初から
   90日間、アスピリン単独を継続する群とに分けて調べました。
   (結局、2剤併用を21日間継続する群と、アスピリン単独群の比較です。)
   主要転帰は90日後の虚血性脳卒中再発と、出血以外の死亡です。
   主要リスクとしては、中等度以上の出血です。

2) 結論
   6,100人を21日間、併用群とアスピリン単独群に、3,050人づつ振り分けました。
   平均年齢は65歳、64.2%が男性
   アスピリン単独群と比較して、併用群は絶対的リスク減少率が、
   1週目では1.42%、2週目が0.49%、3週目が0.29%でした。
   中等度以上の出血のリスクは、最初の3週間を調べていますが、
   内訳は1週間目が0.05%、2週目が0.10%、3週目が0.18%でした。
   (この結果は、2剤併用の出血リスクが治療期間に比例して増加することや、特に
   90日間のフォローアップで、21日以降の二剤併用が再発抑制に貢献しないことを示唆
   しています。)

3) 結論
   発症後72時間以内の2剤併用療法は、最初の1週間は効果があるが2週間以降の経過では
   効果はあるものの限定的です。また効果は出血のリスクを上回ると言え、そのリスクは
   増加傾向にあります。
   NEJMのINSPIREA研究の内容も下記に掲載します。




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      (本試験ではアトロバスタチンを加えた2×2です。 NEJMより)





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 (21日以降の2剤併用の効果を90日後に判定していますが、Aグラフでは21日以降も
  両群とも平行線で推移し、結局は併用群の方が発生率の抑制となっています。
  Bグラフの出血のリスクは、併用群の方がやや増加で推移しています。 NEJMより)





  
 私見)
  以前の私のブログもご参照ください。
  対象患者さんは、本院では少ないと思っています。
  TIA並びに脳梗塞の二次予防に関しては、後日ブログします。









TIA 原文.pdf

_斎賀医院壁新聞.pdf











posted by 斎賀一 at 19:53| 脳・神経・精神・睡眠障害

2024年10月28日

尿ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)

尿ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)

日本高血圧学会・ワーキンググループ



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 テレビや医療ネットで皆さんもご存じかと思いますが、簡単な装置で尿に排泄するナトリ
ウムとカリウムを調べる事により、高血圧ひいては心血管疾患と腎臓病の予防に結び付くとの
研究結果があります。既に自治体でも特定検診に取り入れている所もあります。

今回高血圧学会より報告がありブログします。
カリウムが心血管疾患の予防に役立つ理由は、主に以下のような生理学的な作用による
ものです。

・血圧の調整:  カリウムはナトリウムとのバランスを調整し、過剰なナトリウムの排泄を
        促進します。
・血管機能の改善:  カリウムは血管の緊張を和らげ、血管の弾力性を保つ役割もあります。
          血管機能が改善することで、動脈硬化や冠動脈疾患のリスクも軽減
          します。
・電解質バランスの維持:  カリウムは、心筋の収縮やリズムの調整にも不可欠です
・酸化ストレスの軽減:  酸化ストレスの蓄積は、動脈硬化などの心血管疾患の一因とされて
            いるため、抗酸化作用も予防に貢献します。


レポートでは

1) 摂取したナトリウム(食塩)の90%、カリウムの80%が尿中に排泄されます。
   ナトリウムの過剰摂取とカリウムの摂取不足は独立して血圧を高めますので、尿ナト
   カリ比が高いほど血圧が高い事が想定されます。
   尿ナトリウムとカリウムを単独に調べるよりも、尿ナトカリ比の方が血圧と関連性が
   より強かったとの報告もあります。




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2) 原則は1日蓄尿を用いますが、週4日以上で無作為に異なる時間帯に摂取した随時尿の
   平均を算出する。
   しかし、健康診断でやむを得ず単回のスポット尿で評価する場合は、起床後(早朝)
   第二尿を用いる。

   個人的説明;

   第一早朝尿
    採取タイミング: 朝起きてすぐの尿
    特徴: 夜間の尿蓄積を反映しており、体内の塩分バランス やホルモン(特に
        アルドステロン)反応を評価するのに適しています。
    目的: 特に食事や日中の活動の影響を受けにくいため、基礎的な体内ナトリウムや
        カリウムのバランスを評価する際に有用とされます。

   第二早朝尿
    採取タイミング: 朝食後、通常起床後2〜3時間以内の尿
    特徴: 食事や朝の活動の影響が加わるため、より実生活での電解質バランスや
       
    腎臓の働き(ナトリウムやカリウムの再吸収)を反映しやすくなります。
 


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私見)
  日を改められない場合は早朝の第一と第二尿を持参してもらい、外来尿を加えた3点で
  調べようと思っています。
  簡便には早朝第二尿のみです。
  食事指導後は随時尿で尿中ナトリウム/クレアチニン比を測定し、一日ナトリウム摂取量
  を推定して、更なる食事指導のステップアップを図ります。
  測定器のトリセツを下記に掲載します。






日本高血圧学会 尿ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)1.pdf

尿 Na K HEU-001F_B_m.pdf











posted by 斎賀一 at 20:15| 小児科

2024年10月26日

持続血糖測定CGMは低血糖の発見に有用

持続血糖測定CGMは低血糖の発見に有用

Relationship Between Sensor-Detected Hypoglycemia and
Patient-Reported Hypoglycemia in People With Type 1 and
Insulin-Treated Type 2 Diabetes: The Hypo-METRICS Study



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 本院でも持続血糖測定を始めています。
その有用性を示した論文がありましたので、簡単にブログしてみます。

血糖測定には、自宅で患者さんが血糖を測定するSMBG(self monitoring blood glucose)が
従来よりありました。
今回の持続血糖測定は、CGM(continuous glucose monitoring)は腕にセンサーを張り付ける
だけの装置で、リアルタイムで2週間連続測定が出来ます。
この方法により低血糖を防ぐことが出来、更なる治療の選択肢が増えます。

低血糖とは、
レベル1(警告);血糖が70以下
レベル2(臨床症状);54以下
レベル3(意識障害で治療を要する)に分かれます。
    このレベル2では心血管疾患への影響、心電図でのQT延長、炎症蛋白への誘導などが
    起こります。

1) T型糖尿病患者276人とU型糖尿病患者321人が登録し、CGMを装着しています。
   平均年齢はT型が47歳で、U型が63歳です。
   モニターが低血糖を示すSDH(sensor-detected hypoglycemia)と、患者が低血糖を
   申告するPRH(person-reported hypoglycemia)についての差異を調べました。
   SDHは、更に血糖が70以下と54以下に分けて調べました。
   10週間の経過観察です。結果として、低血糖のエピソードは1週間の集積回数です。

2) 結果
   多くの患者(84%)が、CGMで1回は低血糖を認めています。
   低血糖の発生は、T型糖尿病の方がU型よりも高頻度でした。
   少なくとも1週間でのCGMの低血糖の判定はT型が1.3回で、U型では0.3回でした。
   10週間での全体ではT型とU型を比較しますと、70以下のSDHは6.5対2.1で、
   54以下では1.2対0.2でした。患者報告のPRHは3.9対1.1です。
   70以下のSDHで、患者が気付かなかったケースは全体で65%もありました。
   一方で患者が低血糖と報告した(PRH)中で43%は、センサーでは(SDH)低血糖と
   判定していませんでした。
   逆に言えば、患者が低血糖と報告した57%だけがモニターでも低血糖と判定しています。
   (患者の報告の精度は50%、50%という事です。)





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3)結論
  CGMの中で少なくとも半数は無症状で、患者は低血糖を認識していませんでした。
  逆に低血糖と報告した多くは、センサーでは血糖値が70以上でした。




私見)
 インスリン治療の患者さんにとって、CGMは治療戦略に有効なツールです。
 ネットで比較が出ていましたので、下記に掲載します。
 本院では医療費低減のため、CGMとSMBGの適時併用を勧めて参ります。







持続血糖測定 本論文.pdf

SMBGとCGMのメリット・デメリット.pdf










posted by 斎賀一 at 18:46| 糖尿病