2024年09月30日

インフルエンザワクチン・ガイドライン 2024-2025 CDCより

インフルエンザワクチン・ガイドライン 2024-2025  CDCより

         
Prevention and Control of Seasonal Influenza withVaccines:
Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices
− United States, 2024–25 Influenza Season



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1) 序論
   全体的にインフルエンザワクチンの効果は38%といわれています。
   A型(H1N1)が62%、A型(H3N2)が22%、B型が50%です。

2) ワクチン接種のタイミング
   ワクチン1回目の接種は、外来受診時の機会で9〜10月が理想的とされています。
   残念ながら、インフルエンザのシーズン中にワクチン効果は減弱します。
   だからと言ってブスター効果を期待しての2回接種は勧めていません。
   そのため65歳以上の人と妊娠の初期と中期の人は、早期の接種(8月)を避けるべきです。
   生後6か月から8歳までの小児は2回接種が必要となりますので、可能な限り早期に1回目
   接種を勧めます。
   A型(H3N2)が効果の減弱が早いです。また高齢者の方も減弱が早い傾向です。
   但し減弱に関するデータは、バイアスが掛かっていますので注意が必要です。

3) 小児のインフルエンザワクチンの間隔は、少なくとも4週間を開けるべきです。
   妊婦に関しては何時でも(any time)接種をすべきですが、妊娠後期の場合は出来るだけ
   早期の接種を勧めます。
   それは新生児にも抗体が胎盤を通過して、ワクチンの効果があるからです。
   65歳以上の高齢者には、高用量のワクチンを勧めます。
   (日本ではありません)
   前回、接種後6週間以内にギランバレー症候群を起こした既往がある場合は、今回の接種
   には注意が必要です。
   しかしこの場合でも、ワクチンのリスクよりベネフィットが勝ると考えています。
   卵アレルギーのある人も全てインフルエンザワクチンを接種することが出来、事前に何ら
   かの検査は必要ないとしています。
   (この点に関しては下記に記載)
   インフルエンザワクチンには卵成分ばかりでなく、多数の成分が入っています。
   従って他のワクチン同様に、接種時にはアナフィラキシー反応の対応を準備しておくこと
   は当然です。
   海外旅行の場合は、出発の2週間前までには接種を完了しておくべきです。

4) フルミスト(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン)は、他のワクチンと同等の効果がある
   として推奨しています。(以前の私のブログ参照)





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個人的解説

 (アメリカのCDC(疾病予防管理センター)は、高齢者(65歳以上)の免疫反応が弱くなる
 傾向があることから、通常のインフルエンザワクチンよりも高用量の「high dose」
 インフルエンザワクチンを推奨しています。
 この高用量ワクチンは、通常のワクチンよりも抗原(ウイルスの成分)が多く含まれており、
 より強い免疫反応を引き出すことを目的としています。
 日本では「high dose」インフルエンザワクチンはまだ導入されていないため、65歳以上の
 高齢者が通常のインフルエンザワクチンを接種することになります。
 ただし、日本で高齢者が2回接種を受けるという方法は、標準的な推奨事項ではありません。
 インフルエンザワクチンの2回接種は、一般的には免疫システムがまだ発達していない子ども
 (特に初めて接種する場合)に対して行われます。
 不活化ワクチンIIV3(3価ワクチン)は、多くの場合従来の卵ベースの製造方法を使用して
 います。このため、卵アレルギーを持つ人、特に重度のアレルギーを持つ人にとっては禁忌と
 されることがあるのです。
 アメリカの不活化ワクチンIIV4(4価ワクチン)は、卵ベースの製造方法を使うものもありま
 すが、近年は卵を使わない製造方法(例えば細胞培養ベースや組換え型)も増えています。
 このため、卵アレルギーを持つ人でも使用できるワクチンが存在し、ガイドラインでもIIV4の
 選択肢が増えています。
 卵アレルギーに関して、IIV3とIIV4のガイドラインが異なるのは、製造方法や含まれる卵タン
 パク質の量が異なるためです。
 近年では卵アレルギーのある人に対応するため、卵を使用しないワクチンが増えており、
 IIV4がより安全な選択肢として、推奨されることが多くなっています。
 しかし、残念ながら日本では使用されている不活化ワクチンIIV4は卵ベースで製造されて
 います。従ってCDCのガイドラインと日本とは異なり、卵アレルギーが重度にある場合(アナ
 フィラキシー反応)では全てのワクチンが禁忌となります。)






私見)
 小児は早めに1回目を、高齢者はややゆっくりとでしょうか。









2024–25 Influenza Season _ MMWR.pdf











posted by 斎賀一 at 20:16| インフルエンザ

2024年09月28日

コントロール不良の気管支喘息にジスロマック

コントロール不良の気管支喘息にジスロマック

Effect of Azithromycin on Asthma Remission in Adults
With Persistent Uncontrolled Asthma



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AMAZES研究の二次解析の論文が出ていましたのでブログします。
アジスロマイシン(ジスロマック)を追加投与した際に、喘息が寛解するかどうかを調べた研究です。


 1) オーストラリアで2009年から2015年に登録された患者です。
    吸入ステロイドとLABA(長時間作用型β刺激薬)を使用しても、コントロール不良の
    成人患者で、聴力障害と心電図でQT延長のない人を選んでいます。
    ジスロマック群はジスロマックを500mg週3回追加服用しています(隔日で日曜は
    休薬)。コントロール群はマッチングさせています。
 

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 2) 方法
   ・ 臨床寛解は、観察期間の12か月の時点で前の6か月間に増悪がゼロ、経口コルチ
     コステロイドの使用がゼロで、且つ12か月時点で評価されたAsthma Control
      Questionnaire(喘息コントロール質問票)5項目のスコアが1以下であること
     でした。
   ・ 二次寛解の定義には、臨床寛解に加えて肺機能の基準(気管支拡張薬投与後の
     FEV1が80%以上、または基準値から5%以下の低下)とし、
   ・ 完全寛解は、更に喀痰中の好酸球数が3%未満であり、前述の基準をすべて満たす
     としています。

   *個人的解説

    (本論文で言及されている「前の6か月」とは、治療開始から12か月目の評価時点に
     おいて、その直前の6か月間(つまり6か月目から12か月目まで)の期間を指して
     います。この期間中に患者が喘息の増悪(症状の悪化や発作)や経口ステロイド
     の使用が一度もなかったかどうかを評価し、それによって「臨床的寛解」を達成
     しているかを判断しています。
     更にFEV1(Forced Expiratory Volume in 1 second、1秒量)とは、最大限に
     息を吸い込んだ後、できる限り速く強く吐き出した際の最初の1秒間に吐き出せる
     空気の量を示す肺機能の指標です。
     これは、呼吸器疾患特に喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断や重症度の評価
     に用いられます。正常値の範囲: 予測値の80%以上です。
     上の文章の呼吸機能クライテリアは一見矛盾するようですが、FEV1が80%以上の
     場合は正常とみなされる。80%未満でも、基準値(予測値)からの低下が5%以内
     であれば、大きな機能低下とはみなされず許容される。したがって、肺機能が
     軽度に低下している場合でも、「基準値の5%以下の低下」という条件で寛解と
     見なされる余地を設けていると考えられます)

 3) 結果
    335人が参加し、平均年齢は61歳、男性41.5%です。12か月間の経過観察で、
    ジスロマック群とコントロール群では臨床寛解が50.6%対38.9%でした。
    臨床寛解及び呼吸機能検査の寛解は、50.8%対37.1%でした。
    完全寛解は、23%対13.7%です。
    ジスロマック群は好酸球性と非好酸球性の両方のタイプの喘息に有効でした。
  
   *個人的解説

    (一般的な喘息では、Th2細胞がインターロイキン(IL-4、IL-5、IL-13)などの
     炎症性サイトカインを分泌し、これが好酸球を活性化させ、気道の炎症を引き
     起こします。しかし、Th2-low喘息では、この好酸球による炎症が少なく、
     むしろ好中球や他の免疫細胞による炎症が関与していることが多いです。この
     非好酸球性の場合は一般的な吸入ステロイド(ICS)などの抗炎症治療が効果を
     発揮しにくい傾向があり、治療が難しいことが特徴です。そのため、他の治療法
     や薬剤が必要となる場合があります。)
      
  
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   *個人的解説

    (Paucigranulocyticという言葉は、主に喘息などの炎症性疾患に関連して使われます。
     これは、気道における炎症反応で好酸球や好中球の数が非常に少ない、もしくは
     ほとんど見られないタイプの炎症を指します。 Paucigranulocytic型の炎症では、
     気道に顆粒球がほとんど存在しないため、典型的な炎症性喘息(好酸球や好中球が
     多いタイプ)とは異なります。このタイプの喘息は、通常の抗炎症治療(特にステ
     ロイド)が効果を示しにくい場合があります。なぜなら、ステロイドは顆粒球に
     基づく炎症を抑えることを目的としていますが、paucigranulocytic喘息では
     そのターゲットがほとんどないためです。

 4) 考察
    T-helper cell-low(Th2-low)喘息にもアジスロマイシンは有効でした。
    (つまり、アレルギーの側面がない喘息でも有効です。)
    本試験ではコントロール群でも25%の寛解が認められていますが、調査の始まる前に
    十分な治療のアドヘアランスが出来たためと思われます。



私見)
  勿論、ジスロマックのこの様な処方は適応外ですが、興味のある論文です。
  ジスロマックは体内での持続時間が長く、少ない用量で効果を発揮しやすいです。
本論文では詳細な機序は記載されていませんが、
・ 抗炎症作用: 好中球や好酸球の活性を抑制します。
・ 細胞間シグナル伝達: 炎症性メディエーターの放出を抑制することで、気道の炎症を軽減
            します。
・ マクロファージ機能の改善:マクロファージの機能を改善し、病原体の除去や炎症反応の
               調節に寄与します。
・ 抗菌作用: 抗菌特性も持ち、気道感染の予防や治療に役立ちます。以上が考えられます。
残念ながら、クラリスで代用できるかは不明です。





ジスロマック.pdf











posted by 斎賀一 at 17:03| 喘息・呼吸器・アレルギー

2024年09月26日

フィネレノン(ケレンディア)の軽症心不全に対する効果

フィネレノン(ケレンディア)の軽症心不全に対する効果

Finerenone in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction
[This article was published on September 1,2024, at NEJM.org.]



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 ステロイド性MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)は心不全患者の死亡率を下げ、
心機能の改善に働くとされています。
しかし、軽症の心不全には効果が明白ではありませんでした。
今回、非ステロイド性MRAであるフィネレノン(ケレンディア)の軽症〜中等度の心不全に
対する効果を調べた論文(FINEARTS-HF trial)が、雑誌NEJMに掲載されていましたので
ブログします。
 最近はSGLT-2阻害薬が主要な治療選択ですが、SGLT-2阻害薬すら軽症〜中等症の心不全に
関しては未だ十分なデータがないとの事です。
以前のブログで紹介しましたが、フィネレノンは腎臓病の進展を阻止し、心不全の入院率を
下げています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
1) 方法
   心不全だが駆出率が40%以上の患者(HFpEF)を、フィネレノン服用群
   (20mgまたは40mg)とマッチングしたコントルール群とに、1対1でランダマイズ化
   しています。
   主要転帰は心不全の悪化(初回又は予期せぬ再発又は救急外来受診)と、心血管疾患
   の死亡です。
   心不全の二次転帰として、QOLのKCCQスコアーとNYHA分類を用いています。
   腎機能の転帰としてはeGFRの50%以上の継続した低下、eGFRの15以下の持続的低下、
   人工透析の導入、腎移植としています。
   ベースラインとして、βブロッカーが84.9%、ACE阻害薬が35.9%、ARBが35.0%、
   エンレストが8.5%、SGLT-2阻害薬が13.6%それぞれ併用していました。

2) 結果
   32か月の経過観察です。フィネレノン群が3,003人で、プラセボ群が2,998人です。
   フィネレノン群では3,003人中624人にイベントが起き、延べ1,083例でした。
   コントルール群では2,998人中719人にイベントが発症し、延べ1283例でした。
   危険率は0.84です。
   心不全の悪化はフィネレノン群で842例、プラセボ群では1024例でした。
   危険率は0.82です。
   心血管疾患での死亡はフィネレノン群8.1%に対して、コントルール群は8.7%で
   危険率は0.93です。
   NYHA分類で12か月後の改善はフィネレノン群で557人(18.6%)に対して、
   コントロール群は553人(18.4%)で危険率は1.01でした。
   腎機能の転帰を見ますと、フィネレノン群で75人(2.5%)、コントルール群は55人
   (1.8%)でした。危険率は1.33です。
   何らかの死亡はフィネレノン群491人(16.4%)でコントルール群は522人(17.4%)
   で危険率は0.93です。

3) 考察
   以前のTOPCAT(Treatment of Preserved Cardiac Function Heart Failure with an
   Aldosterone Antagonist)研究は、左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全患者
   (HFpEF)に対するMRAのスピロノラクトン(アルダクトンA)の効果を調べた臨床試験
   です。
   スピロノラクトンは心不全による入院を減少させましたが、全体の主要な複合エンド
   ポイント(心血管死または心不全による入院)においては、有意な差は認められません
   でした。
   複合エンドポイントはスピロノラクトン群で18.6%、プラセボ群で20.4%で、統計的
   には有意差がなかったと報告されました。
   試験データの解析から地域による結果の違いが顕著で、特にロシアとジョージアでの
   データの質に疑問が呈されました。
   一部の副解析では、特にアメリカなどの一部の地域でスピロノラクトンが有効であった
   可能性が示されています。
   それでも、この研究はHFpEFにおけるアルドステロン拮抗薬の効果を、完全には証明
   できませんでした。
   本研究(FINEARTS-HF trial)では、SGLT-2阻害薬が心不全の治療選択肢の主流になって
   いる現在ですら、SGLT-2阻害薬の服用の有無に関わりなく同等の効果がフィネレノン群
   に認められたことは、その有効性の証です。
   高カリウム血症はフィネレノン群で多く認められていますが、そのための入院はフィネ
   レノン群で0.5%に対し、コントルール群は0.2%と差はありませんでした。

4) 結論
   フィネレノンは軽症〜中等度の心不全の悪化を予防し、心血管疾患の死亡を低下させ
   ました。




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      (高カリウム血症に関しては、やはり14.3%の注意が必要です。
       更に血圧にも注意が必要な様です。)






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          (急性腎障害も若干多いようです。)





私見)
 本研究(FINEARTS-HF試験)において、フィネレノンは慢性腎臓病(CKD)の進行に対して
 有意な効果を示しませんでした。
 腎機能悪化のリスクに関して、逆にフィネレノン群で腎機能低下の可能性が示唆されて
 います。
 この結果は、糖尿病と慢性腎臓病における他の試験(FIDELIO-DKDやFIGARO-DKD)で
 見られた腎保護効果が、心不全患者では同様に適用されない可能性があることを示して
 います。
 フィネレノン(ケレンディア)は万能薬では勿論ありませんが、人を見て法を説く必要性が
 ありそうです。






フィネレノンの軽症心不全に対する効果.pdf








posted by 斎賀一 at 14:02| 泌尿器・腎臓・前立腺