2024年08月30日

糖尿病治療薬・GLP-1の内視鏡検査における注意

糖尿病治療薬・GLP-1の内視鏡検査における注意

effects of glucagon-like peptide 1 receptor on gastrointestinal endoscopy

      
   
 本院のGLP-1はリベルザス、ゾルトファイ、オゼンピックです。
GLP-1薬は胃の運動を抑制するため、経口薬のリベルザスは朝食30分前服用の指示があります。
稀に嘔気の副作用を訴える患者さんもおります。
GLP-1の常用者では、胃内視鏡検査で胃の内容物が滞留していることも想像されます。
論文がありましたのでブログします。


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1) 2024年5月までの集計したメタ解析です。
   主要転帰は胃内容物の滞留(RGC)です。
   二次転帰は胃カメラの中断と再検および誤嚥などの副反応です。
   13のスタディより84,065人が対象です。

2) 結果
   GLP-1服用群では明らかにRGCが高率でした。オッズ比は5.56です。
   調整オッズ比でも4.20でした。糖尿病患者でのオッズ比は2.60とやはり高率です。
   胃内視鏡検査の中断のオッズ比は5.13で、再検率は2.19です。




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3) 考察
   胃内容物と言っても、液体か食物残差かによって異なります。
   正常でも胃からは2〜3リットルの胃液が分泌されます。この液体は胃カメラでの吸引で
   問題なく解決されます。検査前の絶食が12時間ではあまり効果的ではありませんでした。
   この事は症例数の問題もあり研究の限界でもあり、今後の研究が待たれます。
   しかし論者はGLP-1薬の中断ではなく、検査前の絶食時間の延長と、固形物でなく液状
   の食事を勧めています。
   現に下部消化器検査との併用時には、検査食を摂取しているためにオッズ比は低下して
   います。






私見)
 GLP-1薬を使用している人、特に糖尿病患者さんには前日の夕食は7時までに終了し、内容も
 軽食を勧める必要がありそうです。
 勿論、水分の補給は滞りなく勧める事も併せ指導する事が大事です。
 下記にGLP-1についてのブログを掲載します。






本論文.pdf

大腸ファイバーのGLP-作動薬の影響.pdf

糖尿病治療薬GLP-1作動薬と胆嚢疾患.pdf

GLP-1作動薬について.pdf

SGLT-2阻害薬とGLP-1作動薬の比較.pdf

















posted by 斎賀一 at 19:48| 糖尿病

2024年08月28日

抗うつ薬中断について・過剰の心配は必要ないかも

抗うつ薬中断について・過剰の心配は必要ないかも

 
Incidence of antidepressant discontinuation symptoms:
a systematic review and meta-analysis



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 抗うつ薬の中断は、慎重に漸減していく必要があります。
しかし、過剰な心配は却って臨床家にも患者さんにも不利益を被る可能性があるとする論文が
雑誌Lancetに掲載されています。


1) メタ解析の論文です。2022年10月13日までの集計です。
   抗うつ薬の中断による中断症状の発生を、プラセボ群と比較した研究です。
   79のスタディによるメタ解析で、21,002人の患者です。
   平均年齢が45歳、女性が72%、男性が28%です。
   16,532人が抗うつ薬の中断群で、4,470人がプラセボ群です。

   中断症状としては、非特異的症状として;
   めまい、吐き気、頭痛、倦怠感、不眠、筋肉の痛みやこわばり、発汗、感覚異常
   (例えば「電気ショック」のような感覚)があります。
   精神的・感情的症状として;
   不安、抑うつ感、怒りや易怒性、パニック発作、気分の不安定さ、集中力の低下です。


2) 結果
   一つでも上記の中断症状がある場合を、主要転帰としています。
   抗うつ薬群では0.31で、プラセボ群では0.17でした。14%の違いです。
   ランダマイズされたサブ解析では、両群での差は8%の差異です。
   重篤な副反応は抗うつ薬群で0.028(3%以下)、プラセボ群では0.006(1%以下)
   でした。
   Desvenlafaxine, venlafaxine(イフェクサー), imipramine(トフラニール), 
   escitalopram(レクサプロ) が高頻度に中断症状を認め、 imipramine, paroxetine
   (パキシル), desvenlafaxine 、 venlafaxine が重篤な症状を認めています。


3) 結論
   おおよそ、15%に中断症状(6人に1人)が出現します。
   重篤は中断症状2%程度です。慎重な漸減方式または半減期の長い(例えはプリザック)
   に変更するのも良いかもしれません。
   過剰な心配をせずに、臨床家も患者も抗うつ薬の中断を勧める事が出来ます。
   症状が非特異的なものか、うつ状態の再発なのかを鑑別するのが大事です。
   処方を戻すことも迅速に判断しなくてはなりません。
   抗うつ薬の中止による症状が発生した場合に、患者にはその症状を軽減するための適切な
   治療が必要です。
   それは、漸減法(hyperbolic tapering)の適用によって行うことが出来るでしょう。






私見)
 漸減法(hyperbolic tapering)が全ての人に適応できるとは限りませんが、慎重には慎重を
 期すれば安全性は担保されているようです。








本論文.pdf











posted by 斎賀一 at 19:24| 脳・神経・精神・睡眠障害

2024年08月22日

ステロイド剤使用のガイドライン・2024年版

ステロイド剤使用のガイドライン・2024年版

European Society of Endocrinology and Endocrine Society
Joint Clinical Guideline: Diagnosis and therapy
of glucocorticoid-induced adrenal insufficiency



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 ステロイド剤は最強の抗炎症薬の一つです。
症状が安定したら、いかに漸減していくかが問題です。ステロイド剤には、そのものの副作用と
ステロイド剤誘因の副腎不全も注意しなくてはなりません。
 今回、ヨーロッパからガイドラインが出ていましたのでブログします。
長い論文で実地医家にとってはやや饒舌な感じのため、journal Watchからも引用し、端折って
纏めます。


1) ステロイド剤の用量に関係なく、投与の期間が3〜4週間以内なら漸減の方法をとらなく
   ても良い。

2) 投与の期間が3〜4週間を超えた場合は、漸減方式が必要となる。
   それによってステロイド離脱症状を予防し、下垂体からの副腎刺激を回復できる。

3) 漸減は疾患がコントロールされていることを確認する必要があります。
   ・プレドニン換算で40mg/日を超えている場合は、5〜10mg/週の割合で漸減していく。
   ・40mg/日以下の場合は、10〜20mg/日になるまで2.5mg/1〜4週間毎に漸減し、
    10mg/日になったら、1mg/1〜4週間毎に漸減していく。

4) 長時間作用型ステロイド(例えばデキサメタゾン)を処方している場合は、短期作用型
   ステロイド(プレドニンやハイドロコルチゾン)に変更してから漸減する。

5) 漸減して生理的量(プレドニン換算で4〜6mg)に達したら、早朝のコルチゾール値を
   測定し、10μg/dl以上なら視床下部―下垂体―副腎(HPA)の反応が回復しているので
   ステロイドを中止しても良い。
   10μg/dl以下の場合は漸増を継続し、数週間後に再検する。

6) 考察
   ステロイドを漸減していく際に、ステロイド離脱症状か副腎不全か、それとも本来の疾患
   の再炎かを区別する事は簡単ではない事に留意する。

 




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私見)
 従来よりステロイド剤を2週間処方している場合は急に中止しても良いとされていましたが、
 本院では1週間としています。
 小児の場合は4日間が無難でしょうか。
 今後もステロイド離脱症候群、急性副腎不全(副腎クライシス)に注意して参りましょう。
 下記に関連文献を掲載します。






本論文.pdf

Adrenal Crisis.pdf

急性副腎不全(副腎クリーゼ).pdf