2024年06月28日

コロナ禍後の今こそ必要なエンテロウイルスの知識

コロナ禍後の今こそ必要なエンテロウイルスの知識

<院内勉強用>


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 コロナが再び流行り始めています。
それと同時に、エンテロウイルス感染の小児患者も増加傾向です。
エンテロウイルスの命名には、コクサッキーウイルスとエコーウイルスの名前が残る場合が
あります。これは、歴史的な理由とウイルスの特性に基づいています。
エンテロウイルスはA〜D種に分類されています。
エンテロウイルス68以降は、エンテロウイルスに連番をつけることで命名されました。
例えばenterovirusD68(EV-D68)としています。
コクサッキーウイルスは、1940年代にアメリカ合衆国ニューヨーク州のコクサッキーという町
で最初に分離されたため、この地名に因んで命名されました。
コクサッキーウイルスはA群とB群に分けられ、それぞれ異なる疾患を引き起こします。
これらのウイルスは、特定の臨床的特徴や疾患を引き起こすため、区別して命名されています。
例えば、コクサッキーウイルスA16型(CVA16)は手足口病の主要な原因の一つです。
エンテロウイルスは主として糞口感染あるいは飛沫感染ですが、EV-D68はライノウイルスの
ように呼吸器に感染します。
エンテロウイルスはエンベロープをもたないため、アルコールへの抵抗性が強いことに注意が
必要で、塩素系消毒薬が有効です。
雑誌小児科で、エンテロウイルスの特集がありましたので纏めてブログします。


・エンテロウイルスD68呼吸器感染症
 EV-D68は新興感染症で気管支喘息発作、急性呼吸不全、急性弛緩性脊髄炎の原因です。
 酸に弱いので糞口感染ではなくライノウイルスに似ており、飛沫感染です。
 ライノウイルスよりも喘息重積が多いです。
 近年ではわが国で2010、2013,2015,2018,2022年に流行がありました。

・手足口病
 この15年ほどの間に非典型的な手足口病が登場している。特にCVA6による。
 5歳以下の乳幼児が主だが、学童も流行する。
 飛沫感染と接触感染で広がるが、便へのウイルスの排出は2〜4週間続くので、おむつ交換の
 際の手洗い励行が大事。潜伏期間は3〜5日。
 発熱は1/3にみられ、軽微である。
 水痘と区別がつかない事があるが、違いは皮疹の偏在があり異なるステージの発疹(紅斑、
 小水疱、痂疲)が混在していない点である。
 EVA71が急性弛緩性麻痺、脳幹脳炎の報告がある。
 分娩前後の母親の手足口病は、新生児の敗血症の危険がある。



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・ポリオ
 ポリオ根絶計画の進捗により、1型野生株ポリオウイルス流行地はパキスタンとアフガニスタン
 に狭められ、近い将来の世界的根絶が期待されている。
 一方で生ワクチン接種(経口で安価)に由来するワクチン由来ポリオウイルスによるポリオ
 流行はアフリ力を中心に継続しており、米国、英国などでも2022年にワクチン由来ウイルスの
 地域伝搬が顕在化し大きなインパクトを与えた。
 日本のポリオワクチン接種率は高く、ポリオ流行が発生するリスクは低いが、ほとんど患者が
 発生しない状況下におけるポリオウイルス伝搬のリスクについては、日本でも十分留意する
 必要がある。
 日本では弱毒株を不活化したsabin-IPVを、五種混合ワクチンとして使用されている。

・無菌性髄膜炎
 日本では初夏から秋にかけて集団発生している。
 急性期には髄液細胞が多核球優位となるので診断に留意。
 しかし、細菌性ほどには絶対的優位ではない。
 小児では典型的な髄膜刺激症状を欠くことがあり、注意が必要。
 一旦軽快しても、神経症状や発熱が二相性に再燃することもある。
 皮疹は紅斑や斑状が多く、癒合はしない。
 SIADHを合併する事もある。



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・心筋、心膜炎
 ウイルス性心筋炎は感冒様、胃腸炎様症状の後に息切れ、呼吸困難、浮腫などの心不全が出現
 する。特に劇症型には注意。ウイルス性心膜炎は胸痛などの症状で発症する。
 (本院では、V音、W音に注意し、迅速トロポニン検査、簡易心エコーを多用。)

・急性出血性結膜炎
 殆ど両眼性となり、結膜出血を伴う急性濾胞性結膜炎が特徴。
 約1週間で自然治癒し、アデノウイルス結膜炎よりは軽症である。
 眼瞼結膜は充血と濾胞を強く認める。特に下円蓋部に濾胞が出現しやすい。




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 ステロイド点眼薬が必要な重症例はまれ。




    
私見)
 夏かぜのエンテロウイルス感染症が流行っています。
 「冬の風邪は肺炎、夏の風邪は髄膜炎」と言われています。
 コロナ禍と違い多角的な診察が必要となっています。以前の私のブログもご参照ください。





大人も罹る手足口病.pdf

夏風邪のエンテロウイルスが流行.pdf

昨年秋のエンテロウイルスD68型が小児喘息.pdf

エンテロウイルスD68の感染による急性麻痺.pdf









posted by 斎賀一 at 20:18| 小児科

2024年06月25日

割礼はエイズ(HIV)のリスクの軽減

割礼はエイズ(HIV)のリスクの軽減

<短 報>
Efficacy of voluntary medical male circumcision to prevent HIV infection
among men who have sex with men: A randomized controlled trial



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 割礼をすることにより、HIV予防になることは今までにも報告があったようですが、
今回男性のホモセクシュアルな大胆な研究が中国から報告されています。


1) 18歳から49歳の割礼をしていない男性で、過去6か月間に2人以上の男性とホモ
   セクシュアルな肛門セックスの経験のある人を登録しています。
   研究のスタート時点では、全員がHIV検査は陰性です。
   割礼群124人と非割礼群123人に分かれて比較検討しています。
   HIV検査は3,6,9,と12か月に実施し、ホモセクシュアルな行為に関して6か月と
   12か月にアンケートをとっています。

2) HIV検査陽性化は割礼群で0人、非割礼群では5人でした。
   その他の性感染症(梅毒、ヘルペス、パピローマウイルス)は、両群で同じでした。
   肛門に挿入される方が、挿入するよりも感染が多いようです。






私見)
 アフリカでは割礼を勧める事により、HIVを50から60%抑制できるとしています。
 先進国のHIVの予防のガイドラインとはかなり異なっています。
 しかもHIVが中国の一般社会に、こんなに広まっている事に驚かされます。







Circumcision to Prevent HIV.pdf









posted by 斎賀一 at 18:40| 感染症・衛生

2024年06月24日

乳幼児の呼吸器感染症のウイルス排出は長引く

乳幼児の呼吸器感染症のウイルス排出は長引く

Respiratory Virus Detection From Polymerase Chain Reaction
of Nasal Specimens Collected Longitudinally in Healthy Children
in a US Birth Cohort

<短 報>


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 今までは健康で無症状の小児の場合、呼吸器感染におけるウイルス排出の期間については
明白な研究がありませんでした。


1) 誕生から2歳までの乳幼児が対象です。
   発熱と咳嗽のあった乳幼児に対し、その後1週間ごとに保護者が鼻腔スワブにより検体を
   採取し、PCR検査を行っています。
   101の参加者により9,801検体が集められ、その内1,489検体にウイルスが陽性でした。

2) 結果
   有症状の場合には、39%にウイルスを同定できました。
   その中の23%は、4週間以上のウイルス排出が続いていました。
   殆どが排出は1週間でしたが、ボカウイルス、ライノウイルス、一般的なコロナウイルスは
   平均で2週間の放出でした。
   しかし、ライノウイルス、ボカウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス
   の中には5週間以上のケースもありました。
   インフルエンザウイルスとRSウイルスは、ウイルスの放出が長引くことはありません
   でした。
   乳幼児の場合に初期感染と混合感染の際においては、放出が長引く傾向でした。
   年齢、症状、性差と、放出に関しては関連性がありませんでした。

3) PCRと感染力との関連性は証明されていませんが、多くは放出している場合に感染力が
   保持されているものと思われます。








私見)
 新型コロナに関してのデータはないとの事です。
 初感染の場合は放出が長期になるかもしれませんので、2歳以下の乳幼児は解熱後も1週間前後
 の回復期が必要かもしれません。
 現在流行している呼吸器感染症は咳が長引いており、18日に及ぶ場合もあるとの事です。
 その間に混合感染しますと、肺炎の合併も懸念されるため注意しております。






小児 ウイルス排出.pdf









posted by 斎賀一 at 19:25| 小児科