コロナ禍後の今こそ必要なエンテロウイルスの知識
<院内勉強用>
コロナが再び流行り始めています。
それと同時に、エンテロウイルス感染の小児患者も増加傾向です。
エンテロウイルスの命名には、コクサッキーウイルスとエコーウイルスの名前が残る場合が
あります。これは、歴史的な理由とウイルスの特性に基づいています。
エンテロウイルスはA〜D種に分類されています。
エンテロウイルス68以降は、エンテロウイルスに連番をつけることで命名されました。
例えばenterovirusD68(EV-D68)としています。
コクサッキーウイルスは、1940年代にアメリカ合衆国ニューヨーク州のコクサッキーという町
で最初に分離されたため、この地名に因んで命名されました。
コクサッキーウイルスはA群とB群に分けられ、それぞれ異なる疾患を引き起こします。
これらのウイルスは、特定の臨床的特徴や疾患を引き起こすため、区別して命名されています。
例えば、コクサッキーウイルスA16型(CVA16)は手足口病の主要な原因の一つです。
エンテロウイルスは主として糞口感染あるいは飛沫感染ですが、EV-D68はライノウイルスの
ように呼吸器に感染します。
エンテロウイルスはエンベロープをもたないため、アルコールへの抵抗性が強いことに注意が
必要で、塩素系消毒薬が有効です。
雑誌小児科で、エンテロウイルスの特集がありましたので纏めてブログします。
・エンテロウイルスD68呼吸器感染症
EV-D68は新興感染症で気管支喘息発作、急性呼吸不全、急性弛緩性脊髄炎の原因です。
酸に弱いので糞口感染ではなくライノウイルスに似ており、飛沫感染です。
ライノウイルスよりも喘息重積が多いです。
近年ではわが国で2010、2013,2015,2018,2022年に流行がありました。
・手足口病
この15年ほどの間に非典型的な手足口病が登場している。特にCVA6による。
5歳以下の乳幼児が主だが、学童も流行する。
飛沫感染と接触感染で広がるが、便へのウイルスの排出は2〜4週間続くので、おむつ交換の
際の手洗い励行が大事。潜伏期間は3〜5日。
発熱は1/3にみられ、軽微である。
水痘と区別がつかない事があるが、違いは皮疹の偏在があり異なるステージの発疹(紅斑、
小水疱、痂疲)が混在していない点である。
EVA71が急性弛緩性麻痺、脳幹脳炎の報告がある。
分娩前後の母親の手足口病は、新生児の敗血症の危険がある。
・ポリオ
ポリオ根絶計画の進捗により、1型野生株ポリオウイルス流行地はパキスタンとアフガニスタン
に狭められ、近い将来の世界的根絶が期待されている。
一方で生ワクチン接種(経口で安価)に由来するワクチン由来ポリオウイルスによるポリオ
流行はアフリ力を中心に継続しており、米国、英国などでも2022年にワクチン由来ウイルスの
地域伝搬が顕在化し大きなインパクトを与えた。
日本のポリオワクチン接種率は高く、ポリオ流行が発生するリスクは低いが、ほとんど患者が
発生しない状況下におけるポリオウイルス伝搬のリスクについては、日本でも十分留意する
必要がある。
日本では弱毒株を不活化したsabin-IPVを、五種混合ワクチンとして使用されている。
・無菌性髄膜炎
日本では初夏から秋にかけて集団発生している。
急性期には髄液細胞が多核球優位となるので診断に留意。
しかし、細菌性ほどには絶対的優位ではない。
小児では典型的な髄膜刺激症状を欠くことがあり、注意が必要。
一旦軽快しても、神経症状や発熱が二相性に再燃することもある。
皮疹は紅斑や斑状が多く、癒合はしない。
SIADHを合併する事もある。
・心筋、心膜炎
ウイルス性心筋炎は感冒様、胃腸炎様症状の後に息切れ、呼吸困難、浮腫などの心不全が出現
する。特に劇症型には注意。ウイルス性心膜炎は胸痛などの症状で発症する。
(本院では、V音、W音に注意し、迅速トロポニン検査、簡易心エコーを多用。)
・急性出血性結膜炎
殆ど両眼性となり、結膜出血を伴う急性濾胞性結膜炎が特徴。
約1週間で自然治癒し、アデノウイルス結膜炎よりは軽症である。
眼瞼結膜は充血と濾胞を強く認める。特に下円蓋部に濾胞が出現しやすい。
ステロイド点眼薬が必要な重症例はまれ。
私見)
夏かぜのエンテロウイルス感染症が流行っています。
「冬の風邪は肺炎、夏の風邪は髄膜炎」と言われています。
コロナ禍と違い多角的な診察が必要となっています。以前の私のブログもご参照ください。
大人も罹る手足口病.pdf
夏風邪のエンテロウイルスが流行.pdf
昨年秋のエンテロウイルスD68型が小児喘息.pdf
エンテロウイルスD68の感染による急性麻痺.pdf