2024年05月31日

スタチン(脂質異常症治療薬)誘発糖尿病

スタチン(脂質異常症治療薬)誘発糖尿病

Effects of statin therapy on diagnoses of new-onset diabetes
and worsening glycaemia in large-scale randomised blinded
statin trials



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 糖尿病は心血管疾患のリスクですが、脂質異常症も同様に危険因子です。
その治療薬のスタチンが糖尿病の発生に関与していることは、以前の私のブログでも紹介
しました。スタンダードスタチンにより新規糖尿病発生が10%増加し、ストロングスタチン
では更に10%の増加と言われています。
 今回の論文ではその投与期間と糖尿病状態に踏み込んでのスタディです。


1) メタ解析です。2年以上、1,000人以上の対象者、ダブルブラインドのスタディを集積
   しています。19のスタディで、スタチン群とプラセボ群を比較しています。
   123,940人が対象で、その中25,701人が糖尿患者です。
   4.3年の追跡調査です。

2) 結果
   スタンダードまたはストロングスタチンを投与していると、全体で約10%の新規糖尿病
   が発生しています。
   スタチン群では2,420人/39,179人、1.3%/年の発生で、
   コントルール群では2,214/39,266人、1.2%/年です。リスク比は1.10。
   ストロングスタチンでは36%の増加で1,221/9,935人、4.8%/年。
   コントロール群では905/9,859人、3.5%/年でした。
   (メタ解析ですので整合性はありません。)
   ベースラインに糖尿病がない場合は、スタンダードスタチンでHbA1cが0.06%増加、
   ストロングスタチンでは0.08%の増加です。
   糖尿病の新規発生率は、スタチンの種類には関係ありませんでした。
   ベースラインに糖尿病があると、スタンダードスタチンの危険率は1.10で、ストロング
   スタチンの危険率は1.24でした。

3 )結論
   スタンダードスタチンの投与によりプラセボに比して10%の新規糖尿病の発生があり、
   ストロングスタチンでは36%の増加でした。
   この増加傾向は糖尿病と診断された以降も続きます。
   新規糖尿病の発生は少数ですが、既に血糖値が正常を超えている人では(前糖尿病状態、
   軽症糖尿病、いわゆる糖尿病予備軍)HbA1cを測定し経過観察をする事が、スタチン処方
   の場合は特に重要です。
   スタチンは血糖値を若干増加させますが、それを相殺し心血管疾患の予防効果が認められ
   ます。
   既に糖尿病と診断されている人でも、スタチンの有効性が最終的には認められます。





                                                                                                                                                                  
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  (AとBはスタンダードスタチン、CとDがストロングスタチン
   左はHbA1Cがベースラインで、高ければスタチンの超過効果が多くあります。
   右は糖尿病のリスクが多い人は、超過効果も高くなっています。
   糖尿病のリスク判定はsunpple28ページに記載されていますが、解釈にギブアップ)







私見)
 スタチンの効果は既に明白ですが、影響は少ないと言えども実地医家にとっては、やはり
 懸念材料です。







スタチン誘発糖尿病 本論文.pdf

supple.pdf

1 スタチンは糖尿病を悪化.pdf

2 スタチンは悪党ではありません.pdf











posted by 斎賀一 at 19:47| 糖尿病

2024年05月28日

降圧薬の転倒と骨折の危険性・介護施設

降圧薬の転倒と骨折の危険性・介護施設

<短 報>
Antihypertensive Medication and Fracture Risk in Older Veterans
Health Administration Nursing Home Residents



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 介護施設に入所している高齢者の患者さんに、降圧薬を導入すると転倒による骨折のリスクが
あるようです。


1) 平均年齢が77.9歳の64,710人をコントロール群とし、平均年齢が78歳で介護施設に入所
   し降圧薬を導入されている29,648人の患者さんを導入群として、比較しています。
   2006年1月1日から2019年10月31日までのスタディです。
   降圧薬を導入後、30日以内の上腕骨、股関節、骨盤、橈骨、尺骨の骨折が主要転帰です。

2) 結果
   骨折の発生は導入群で5.4人/100人/年に対して、コントロール群では2.2/100人/年
   でした。危険率は2.42です。
   両群を比較して導入群のリスク比は、骨折による入院1.80、失神は1.68です。
   認知症を伴うと3.28、ベースラインの収縮期血圧が140以上だと3.12
   拡張期血圧が80以上だと4.41
   以前に降圧薬を服用していない場合は4.77と、リスク比は上昇します。

3) 介護施設で降圧薬を導入する際は、血圧のモニタリングと立位での血圧測定が大切です。






私見)
 実地医家での外来診療にも当てはまるかもしれませんが、現実的に高齢者での即、降圧薬の
 導入はあまりないものと思います。
 しかし降圧薬の追加投与は慎重に、家庭での立位の血圧測定も指導する必要がありそうです。






降圧薬 転倒 JAMA.pdf







posted by 斎賀一 at 19:22| 循環器

2024年05月27日

急性冠動脈症候群の継続治療はプラビックスの単独処方か

急性冠動脈症候群の継続治療はプラビックスの単独処方か

Extended Clopidogrel Monotherapy vs DAPT inPatients
With Acute Coronary Syndromes at High Ischemic and Bleeding Risk

<短 報>


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 ガイドラインでは、急性冠動脈症候群の治療ではステント治療(PCI)が基本ですが、抗血小板
療法は2剤併用(プラビックス+少量アスピリン)を9か月から1年間処方するのが一般的です。
その後に関しては論文により論争があります。(出来るだけ継続を推奨した論文を、以前ブログ
で紹介しています。)
今回は中国からの報告です。


1) 急性冠動脈症候群にて、ステント治療後に9か月から12か月迄2剤併用を続け、その後の
   9か月間も2剤を続ける群と、プラビックス単独の群とを比較しています。
   対象はbirisk患者です。(高リスク患者の事と思われます。高血圧、糖尿病、高コレステ
   ロール血症、喫煙、肥満、慢性腎臓病、冠動脈疾患の家族歴など、リスクファクターを
   多く持つ患者。)
   ランダマイズされる前の6か月間は、症状が安定していることが条件です。

2) 7,758人が対象で2018年から2020年まで登録し、2023年4月から2023年5月にかけて
   解析しています。平均年齢は64.8歳。
   主要転帰はBARCの2,3,5の出血です。

   BARCタイプ0:出血なし。
   BARCタイプ1:不重要な出血。臨床的に意味がなく、特別な治療を必要としない軽微な
           出血。
   BARCタイプ2:臨床的に重要だが、血液製剤の輸血を必要としない出血。
           例えば、治療や評価が必要な出血。
   BARCタイプ3:
         3a:輸血を必要としないが、ヘモグロビン値が3g/dL以上低下した出血。
         3b:輸血を必要とし、ヘモグロビン値が3g/dL以上低下した出血。
            手術を必要とする場合も含む。
         3c:頭蓋内出血や、致死的な出血、あるいは他の主要臓器(目の失明を
            含む)への出血。
   BARCタイプ4:CABG(冠動脈バイパス術)に関連した出血。
           周術期出血がコントロール不能な場合や、血液製剤の大量輸血が必要な
           場合を含む。
   BARCタイプ5:
         5a:心血管疾患による致命的な出血。
         5b:非心血管疾患による致命的な出血。以上
   二次転帰はMACE(全ての死亡、心筋梗塞、脳卒中、血管再形成術)です。


3) 結果
   主要転帰のBARKタイプ2、3、5の出血はプラビックス単独群で
   95/3873(2.5%)、併用群では127/3885(3.3%)でした。
   二次転帰のMACEでは、プラビックス単独群で101/3873(2.6%)で
   併用群では136/3885(3.5%)でした。

4) 結論
   追加の9か月間の抗血小板療法は、プラビックス単独群の方が虚血性のイベントを生ずる
   ことなく、出血の危険も減少させていました。






私見)
 本論文は特別なポピュレーションでもなく、アジア人で問題となるプラビックスから説得力
 がある結果となっています。
 2剤併用を切り上げる傾向です。しかし単独にしてもイベントは発生していることから、
 患者さんには十分な説明が大事です。






Monotherapy vs DAPT.pdf










posted by 斎賀一 at 19:12| 循環器