2024年03月28日

潜因性脳梗塞におけるエリキュースの効果

潜因性脳梗塞におけるエリキュースの効果

Anticoagulation vs. Antiplatelet Therapy for Cryptogenic Stroke
and Atrial Cardiopathy

<短 報>


6328-2.PNG



 潜因性脳梗塞とは原因不明の脳梗塞の事で、一般的には心房細動がなく起きた塞栓源不明
脳塞栓症の事を指します。

雑誌JAMAに、抗凝固薬のエリキュースと抗血小板薬との比較が載っていましたのでブログ
します。
cryptogenic stroke(潜因性脳梗塞)の本論文の定義は、心房細動は認められないが心房に病変が
あると思われるatrial cardiopathyを対象にしています。
心房病変の基準は
・心電図でV1のP波が5000μV以上   ・pro-BNPが250以上 
・心エコー検査で左房径3cm/m2以上(左房径を体表面積で割っています。下記参照)として
 います。


1) 2018年2月1日より2023年2月28日までの3,745人を集計し、1,100人が登録され最終的
   には1,015人が対象です。経過観察は平均で1.8年です。平均年齢68.0歳、
   女性が54.3%です。
   エリキュース群507人は、2.5mgと5.0mg錠一日2回服用です。
   アスピリン群508人は、81mg錠一日1回服用です。

2) 主要転帰は脳梗塞の再発です。本研究がランダマイズされてから、心房細動の発生例は
   研究に取り入れています。
   副反応の転帰は症状のある脳出血、他の重篤な出血としています。

3) 結果
   脳梗塞の再発はエリキュース群で40人(4.4%)、アスピリン群で40人(4.4%)で
   危険率は1.00でした。
   脳出血はエリキュース群で0人、アスピリン群で7人(年間発生は0.7%)です。
   他の重篤な出血はエリキュース群で5人、アスピリン群5人で危険率は1.02でした。
   以前の研究と異なり脳出血がアスピリン群で若干多いのは、本研究のイベントが少数の
   ための偶然としています。(そんなことを言ったら身も蓋もないです。)

4) 結論
   エリキュースはアスピリンと比較して、心房細動以外で原因不明の脳梗塞再発に対する
   予防効果は同じでした。






私見)
 偶然とはいえエリキュースの方が脳出血の発生がなく、本研究では後出しの心房細動も入って
 いることより、何らかの左房病変が推定されればエリキュースの選択もありと思っています。






https://www.calc-site.com/healths/bsa


本論文.pdf










posted by 斎賀一 at 13:13| 脳・神経・精神・睡眠障害

抗凝固薬・NOACの適否

抗凝固薬・NOACの適否

When Are Direct-Acting Oral Anticoagulants
Not the Standard of Care?



6328.PNG

         
  
 J Wachに、NOACの適否に関して3分類出来るとする記事が載っていましたので纏めて
みます。



<NOACが効果も安全性も優れている領域>


・静脈血栓塞栓症   但し抗リン脂質抗体症候群は除く。
・心房細動   但し人工心臓弁(mechanical heart valves)とリウマチ性心房細動は除外。
        加えて最近で、急性冠動脈症候群とPCIを受けた場合は、DOACにプラビックス
        を追加。


<DOACの効果と安全性が乏しい>

・人工心臓弁はワーファリンが優位
・リウマチ性心房細動はワーファリンが優位
・抗リン脂質抗体症候群はワーファリンが優位
・カテーテルによる大動脈置換術は抗血小板薬が一般的
・原因の不明な塞栓性脳卒中は抗血小板薬が一般的


<DOACの効果と安全性が不明>

・左心室血栓、カテーテル関連の深部静脈血栓症、脾静脈血栓症、脳静脈血栓症
・妊婦
・慢性腎臓病(end-stage);ワーファリンとの優位差は不明。DOACは減量が必要










posted by 斎賀一 at 12:31| 循環器

2024年03月26日

降圧薬のカルシウム拮抗薬と利尿薬の併用

降圧薬のカルシウム拮抗薬と利尿薬の併用

Association of a calcium channel blocker and diuretic prescribing cascade
with adverse events:A population-based cohort study



6326.PNG

    
  
 降圧薬の併用療法ではカルシウム拮抗薬、降圧利尿薬、ARBの三者を用いる事がガイドライン
に示されていますが、今回の論文ではカルシウム拮抗薬における下肢浮腫に対して、降圧利尿薬
を追加することでの副作用について論じています。
 カナダからの報告です。


1) 新たにカルシウム拮抗薬を処方された66歳以上の高血圧患者で、前年までに心不全の
   既往がなく降圧利尿薬の処方も受けていない人が対象です。
   カルシウム拮抗薬を処方されてから、90日以内に降圧利尿薬を追加処方された人を
   カスケード群とし、処方されない人を非カスケード群としています。
   主要転帰は、90日以内の重篤な副作用(救急外来受診、入院)です。





       6326-2.PNG


   


2) 結果
   39,347人が登録されています。
   1,881人(4.8%)がカルシウム拮抗薬処方後90日以内に降圧利尿薬を追加しており
   1,866人がカスケード群と非カスケードにマッチングして比較しています。
   全体としてカスケード群の382人(20.5%)と非カスケード群の229人(12.3%)が
   少なくとも1回以上の重篤な副作用の報告をしています。
   加えてカスケード群の25人(1.3%)と非カスケード群の22人(1.2%)が、期間中に
   死亡していました。
   全体として重篤な副作用の発生は、カスケード群で3.61人/1000人/日に対して、
   非カスケード群では2.99人/1000人/日でした。
   非カスケードに比して、カスケード群の危険率は1.21でした。




       6326-3.PNG




   
3) 考察
   カルシウム拮抗薬に降圧利尿薬を追加する事は、予測できない循環障害が起きている
   ことが想定されます。







私見)
 本院でもカルシウム拮抗薬は第一選択薬の一つです。
 文献では20%以上の人に下肢浮腫が出現するとしていますが、私の印象では殆どの人に認め
 られます。
 患者さんが訴えた場合に、カルシウム拮抗薬服用中の私の足のむくみを見せて、納得して
 もらっています。
 カルシウム拮抗薬の血管拡張によって、余分な水分量を下肢に貯めているのかもしれません。
 そこに利尿薬を追加して体液を吐き出しては、循環に悪影響を及ぼしかねません。
 私を含めて高齢者に薬を追加する場合は、注意が必要です。






本論文.pdf








posted by 斎賀一 at 18:27| 循環器