2024年01月31日

血小板減少症患者における抗凝固薬の影響

血小板減少症患者における抗凝固薬の影響

Influence of thrombocytopenia on bleeding and vascular events
In atrial fibrillation



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 心房細動における抗凝固薬のDOACは治療の根幹ですが、血小板減少症において出血の危険が
懸念されます。心房細動において血小板減少症を伴っている人は、6〜24%と言われています。
殆どのスタディでは、中等度以上の血小板減少症の患者は事前に除外されています。
 今回新たなスタディが発表になっていますので、ブログします。


1) 2015年〜2020年にかけて、新たに心房細動と診断された1,070人を登録しています。
   274人が血小板数10万以下の減少症群と、796人が15万以上の正常群の2群で比較して
   います。
   約半数がワーファリンを服用し、40%がDOACのエリキュースを服用しています。
   75%に抗血小板薬が併用されていました。
   抗凝固薬の投与12週間前と投与4週間後で2回測定しています。
   主要転帰は、1年間累積された大出血です。
   二次転帰は臨床関連出血、動脈性及び静脈性血栓症、全死亡です。

2) 血小板減少症群では大出血が13.3%で、正常群では5.7%です。
   臨床的関連出血は減少群で24.5%、正常群では16.7%です。
   血小板減少症は独立した危険因子で、リスクは2.20です。
   血小板減少の程度に相関して、出血のリスクが増大しています。
   血小板数が7万5千以下では、リスクは2.92です。
   興味深いことに、静脈性の血栓症も血小板減少群で3.9%に対し、正常群では0.9%
   でした。

3)討論
  心房細動で抗凝固薬を服用すると出血のリスクが生じますが、その第一の要因は年齢です。
  その他として悪性疾患、腎疾患、抗血小板薬、高血圧などが推測されています。
  血小板数が5万以下の場合は抗凝固薬の投与量を減少するように勧められていますが、明白な
  エビデンスはありませんでした。
  血小板減少症の患者に抗凝固薬を処方すると、血栓症の発生も増加する事があります。
  この事は単に血小板数が問題でなく、その根底には血小板に影響を及ぼす何らかの因子が
  関係しているかもしれません。





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私見)
 血小板減少は出血と血栓の両面にリスクがあるようです。
 抗凝固薬の投与では十分な注意が必要です。

 



血小板減少 AF.pdf












posted by 斎賀一 at 18:50| 循環器

2024年01月27日

慢性閉塞性肺疾患の血液好酸球;実地医家

慢性閉塞性肺疾患の血液好酸球;実地医家

Blood eosinophil-guided oral prednisolone for COPD exacerbations
in primary care in the UK (STARR2)



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 ガイドラインによりますと、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪時に血液好酸球数を評価
する事は、吸入ステロイドや経口ステロイドの追加を検討する基準ともなっています。
今回雑誌LancetにCOPDの急性増悪時、全ての患者に経口ステロイド(プレドニン)を投与
すべきかを調べた論文が載っています。


1) COPDの急性増悪時に好酸球が2%以上の場合、プレドニン30mgを14日間服用する群
   (BET群)と急性増悪の全ての患者に、プレドニン30mgを14日間服用する群
   (標準群)を比較しています。抗生剤も期間中は服用しています。
   40歳以上、喫煙者、呼吸機能でCOPDの診断を受けた308人が登録し、1回以上急性増悪
   を起こした93人が対象となっています。
   急性増悪は144回で、BET群が73回、標準群が71回に振り分けています。
   BET群の66%が経口プレドニンを服用し、標準群の100%が経口ステロイドを服用して
   います。

2) 主要転帰は治療不成功で治療後30日間内での再治療、入院、死亡としています。
   二次転帰はCAT、VAS、呼吸機能です。(下記参照)
   2017年11月6日から2020年4月30日までの期間です。
   治療不成功はBET群では14回(19%)に対し、標準群では23回(32%)でした。

3) 症状のスコアー、呼吸機能、副作用(尿糖)に関して両群に差はありませんでした。

4) 討論
   好酸球が低値の場合は両群に差はありませんし、症状の改善にも両群に差はありません
   でした。
   CATを観てみますと、急性増悪から30日後の症状は標準群の方が悪化しています。
   好酸球が低値での急性増悪では、経口ステロイドを服用した方がプラセボと比較して
   症状の改善が悪く、好酸球が高値の方が経口ステロイドを服用の効果がありました。
   好酸球が高値の急性増悪ではCAT、VAS、呼吸機能は両群共30日後の改善に差は認め
   られませんでした。
   経口プレドニンの効果は、急性増悪の炎症の基盤に関係するものと考えられています。
   この事はCOPDのendotypeに関係しています。
   COPDにおいては、経口プレドニンの自己判断には不向きであることを示唆します。





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       治療不成功例;赤線が標準群で青線がBET群





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  ・VAS(Visual Analog Scale)スコアは、主に医学や心理学の研究などで使用される評価
   尺度の一つです。VASは視覚的なアナログスケールを用いて、被験者が特定の主観的な
   経験や感覚を評価するための手法です。

  ・CATスコアーはCOPD Assessment Test"(COPDアセスメントテスト)の略で、以下の
   8つの質問で構成されています。
   咳がどのくらい頻繁にありますか?  咳で寝ることがありますか?
   悪化した呼吸困難感がどのくらい頻繁にありますか?
   活動が制限されていると感じますか?  エネルギーがありますか?
   気分はどうですか?  眠りが妨げられますか?  気分が悪いことがありますか?    
   これらの質問に対する回答は、0から5のスケールで評価され、総合的なスコアが算出され
   ます。高いCATスコアは、患者の症状や生活の質が悪いことを示し、医師が治療計画を
   立てるのに役立ちます。

  ・COPD(慢性閉塞性肺疾患)のendotype(エンドタイプ)は、疾患の生物学的な異なりを
   指し、それぞれが異なる生物学的・分子学的特徴を持つサブグループを指します。
   COPDは単一の疾患ではなく、異なる病態学的メカニズムが関与していることがあります。
   これらの異なる生物学的特徴に基づいて、COPDは異なるendotypeに分類されることが
   あります。例えば、COPDの一部のendotypeには、慢性的な気道炎症が中心的な役割を
   果たすものがあります。
   別のendotypeでは、気道の構造的な変化が支配的であるかもしれません。
   また、喫煙による影響や遺伝的な要因も異なるendotypeを形成する要因となります。






私見)
 COPDの急性増悪の時には経口プレドニンを処方して、好酸球を検査センターに依頼し、
 翌日再来院にて治療方針の変更を検討する事も一策かもしれません。
 COPDのガイドラインのブログも下記に掲載します。







COPD LANCET.pdf

COPDガイドライン.pdf










posted by 斎賀一 at 16:37| 喘息・呼吸器・アレルギー

2024年01月24日

HPVワクチン

HPVワクチン

森定徹・浅野史男
沓林太学医学部産科婦人科学教室
Medical Practice vol.4' no.' 2024


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 最近の雑誌にHPVワクチンの総説が載っていましたので、纏めてみました。
短い総説の論文ですが、的確に要領を得ていますので参考にして下さい。


1) ヒトパピローマウイルス(HPV)はほとんどが一過性の感染ですが、ごく一部の持続
   感染例では数年から数十年かけて、前がん状態を経て浸潤癌に進展する。
   つまり上皮内腫瘍(CIN)を形成し、一部が癌となる。

2) 現在200種類以上の遺伝子型が知られている。
   ローリスクからハイリスクまである。
   子宮頸部浸潤癌はHPV16型が40〜50%を占めている。
   HPV18型が15〜25%で52と58型がこれに続く。
   生涯において全女性の50〜80%が感染していると推測されている。

3) 2価ワクチンのサーバリックス、4価ワクチンのガーダシル、9価ワクチンのシルガード9
   である。
   2価のサーバリックスは 16と18です。
   4価のガーダシルは 6、11、16、18を含んでいます。
   9価のガーダシル9は 6、11、16、18に更に 31、33、45、52、58です。

4) 2020年のスウェーデンの報告では17歳前に接種すると、発生率比は0.12
   17〜30歳で接種をすると、0.47でした。






私見)
 以前の私のブログもご参照ください。
 ワクチンが再開になりましたが、希望者は依然として少数です。
 接種時の疼痛を訴える方は殆どおりません。









 
posted by 斎賀一 at 20:05| ワクチン