2023年05月19日

乳がん検診のガイドラインの草案・USPSTFより

乳がん検診のガイドラインの草案・USPSTFより

New USPSTF Draft Suggests Mammography Start at 40, Not 50
 


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アメリカでは乳がん検診のガイドラインが2009年に刊行され、2016年に改定されています。
50歳から74歳がマンモグラフィーの対象でしたが、今回のガイドラインの草案では、40歳に
引き下げる事を検討しているとのレポートがMedscapeにありました。

 アメリカでは乳がん全体として45歳以下の乳がんの発生は9%との事で無視できない数字です。
しかし本草案では、マンモグラフィーの検診は隔年を予定しています。
現在は75歳以上が対象外になっている点と、検診が隔年で実施している点に明白なエビデンスが
ないとして、反対意見があるようです。

・黒人の方が乳がん発症年齢が低い。
・高濃度乳房dense breastは、マンモグラフィーでの診断が難しくリスクが高い。
 よって臨床医と相談し追加検査が必要。
・リスクのある人は、特に黒人は30歳から検診の準備と教育を受けておかなくてはならない。



高濃度乳房に関してuptodeteより引用します。

・乳房の濃度の増加は、マンモグラフィーの異常の検出を損ない乳がん診断の精度を落とし
 ますが、乳がんそのもののリスクとは関連していません。
・乳房の密度は、月経周期に影響される可能性があります。
・乳房の密度は患者の年齢と反比例し、高濃度乳房は50歳未満の女性または閉経前の女性に
 最も多い傾向です。
・マンモグラフィーは乳がん検診で、最大20%を見逃す可能性があります。
・デジタルマンモグラフィーは、高濃度乳房に対してフィルムマンモグラフィよりも感度が高く
 乳房の密度が増加した女性には有効です。
 米国では、更にデジタル乳房断面合成(DBT)が利用され始めています。
・マンモグラフィーに超音波を追加すると、小さな癌に対する感度は高まりますが、特異度は
 大幅に低下します。
・MRIは、乳がんリスクの遺伝子変異(BRCA20またはBRCA25変異など)を有する女性、
 乳がんまたは卵巣がんの家族歴がある女性、その他の乳がんのリスクが高い女性の場合
 には推奨されます。




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今日の臨床サポートより引用

・日本人女性の乳癌罹患率は、30歳代後半から急増し40歳代後半から70歳代はほぼ同率で、
 80歳以降緩やかに減少する。
・日本の対策型検診は、40歳以上に対して問診およびマンモグラフィーによる隔年検診が推奨
 されているが、欧米に比べて受診率が低いことが問題となっている。
・40歳代もしくは乳腺組織が多い受診者に対して、マンモグラフィの精度はやや低い。
・日本では40歳代に対してマンモグラフィーに超音波検査を上乗せするRCTが行われているが、
 まだ死亡率減少効果は証明されていない。
・厚生労働省の推奨方法は、問診およびマンモグラフィーであるが、一部の自治体(岩手県、
 栃木県、茨城県など)ではマンモグラフィーと超音波検査の併用が行われている。
 検診間隔は費用効果分析から隔年(2年に1回)で行われているが、自治体によっては逐年で
 行っている所もある。


市原市の乳がん検診

 乳がん検診(女性)
超音波検査(30歳代・40歳代奇数歳):500円
マンモグラフィ検査(2方向)(40歳代偶数歳):500円
マンモグラフィ検査(1方向)(50歳以上偶数歳):500円



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私見)
 周回遅れではありますが、ある意味で日本は医療環境に手厚い様な気がしますが ...。









乳がん検診New USPSTF Draft Suggests Mammography Start at 40, Not 50.pdf











posted by 斎賀一 at 19:07| 癌関係

2023年05月17日

鼻用エピネフリン噴霧をFDA承認

鼻用エピネフリン噴霧をFDA承認

 
FDA Advisory Committee Votes in Support of Favorable Benefit-Risk
Profile for neffyレジスタードマーク (Intranasal(IN) Epinephrine) for the Treatment
of Allergic Reactions (Type 1), Including Anaphylaxis



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 本院でも食物アレルギーに対して鼻用エピネフリン噴霧を用いていましたが
(本院職員作成)、コロナワクチンのアナフィラキシーには、エピネフリン(ボスミン)
筋肉注射がガイドラインで推奨されており、鼻用エピネフリン噴霧の使用は影を潜めていま
した。
 今回アメリカのFDAが鼻用エピネフリン噴霧を承認したとのリリースがあり、本院でもアナ
フィラキシーに対して鼻用エピネフリン噴霧の復権を考えています。


1) タイプ1型アレルギー反応に対する鼻用エピネフリン噴霧使用に関してのFDAの承認投票
   では、成人の使用に関しては16−6の賛成、小児に関しては17−5が賛成でした。

2) エピネフリンの筋肉注射と鼻用噴霧とを投与後、10〜20分での血中エピネフリン濃度を
   調べています。
   また、投与後1分後の血圧と脈拍数も比較しています。

3) 最も信頼できるサロゲートマーカーは血圧と脈拍数と仮定すると、1回投与では鼻用エピネ
   フリン噴霧は筋肉注射と同程度でしたが、2回投与では血圧の上昇はエピペンよりも鼻用
   エピネフリン噴霧の方が上昇していました。






私見)
 エピペンを含めてエピネフリンの筋肉注射は、効果がない場合に30分後に2回施行も可能と
 されていますが、今回のリリースからは鼻用エピネフリン噴霧の2回目も視野に入れても良い
 ようです。
 当然ながら以前の私のブログでも紹介しましたが、過剰投与の問題も注意が必要です。
 鼻用エピネフリン噴霧に関しての本院資料とブログを下記に掲載します。







本論文.pdf

1 鼻用エピネフリン本院.pdf

2 鼻用シリンジ.pdf

3 アナフィラキシーの2相性について.pdf

4 エピネフリンの鼻用スプ.pdf

5 アナフィラキシーにエピネフリン鼻用スプレー.pdf

6 鼻用の論文.pdf













posted by 斎賀一 at 19:37| 喘息・呼吸器・アレルギー

2023年05月15日

Long COVIDの研究の課題

Long COVIDの研究の課題

Clinical Trials: Top Priority for Long COVID



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 アメリカではLong COVIDの発生が、成人で6.1%と推定されております。
主な症状は脳神経系の筋肉痛/慢性疲労(ME/CFS)です。
現段階で色々な研究(スタディ)がされているとの事です。今後の発展が期待される一方で、
課題もあるとの事がMedscapeに掲載されています。


簡単にブログしてみますと

・ウイルス感染症に対するME/CFS、自己免疫疾患、AIDSなどの治療薬が50種類ほど
 Long COVIDに対しても治験されていますが、十分な効果が上がっていません。

・Long COVIDの病態そのものが多岐にわたっており、必ずしもその治療が単一ではなく、
 研究にも注意して解析をしなくてはならない。

・慢性疲労症候群などの一般的な行動治療は、Long COVIDの場合は却って症状の悪化を招く
 ため均一な行動治療、エクササイズを取り入れてはならない。

・研究の対象者とコントロール群の設定にPCRや抗体検査を用いる場合には、注意が必要と
 なる。
 感染しても抗体が陽性になるseroconverは1/3で、逆に数か月で抗体が陰性になるserorevert
 も同様に認められるからである。

・Long COVIDの症状は他の一般的な症状とも近似しており、その鑑別が問題である。

・治療の成果としての転帰(エンドポイント)は明白な効果が必要で、軽度な症状の回復は排除
 しなくてはならない。

・Long COVIDの多くは数か月で自然に回復するが、中には再炎する事もあり、研究の対象者を
 選定するには注意が必要となる。

・稀ながらLong COVIDには治療しなくては症状の軽快が乏しい症例もあり、それに焦点を
 集めるべきである。

・Long COVIDの問診を十分に行うことが最重要となります。
 勿論、血液検査のデータの推移も参考になりますが、単純なアンケート調査では却って問題が
 生じます。






私見)
 Long COVIDは、研究も治療もこれからが勝負の様です。








Clinical TrialsTop Priorityfor Long COVID.pdf









posted by 斎賀一 at 19:10| 感染症・衛生