2023年03月25日

心拡張不全(HFpEF)の総説

心拡張不全(HFpEF)の総説

Heart FailureWith Preserved Ejection Fraction
A Review



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 以前のブログでも心拡張不全に関して掲載しましたが、雑誌JAMAに総説が
載っていましたので、ブログします。

心収縮の機能が保たれている(心収縮率50%以上)の心不全を、心拡張不全と定義しています。心拡張機能の測定は種々提案されていますが、それらを組み合わせて検査をしなくてはなりません。また本論文でも記載していますが、血液検査のBNP(本院ではNTpro-BNP)は絶対的ではありません。あくまでも主体は、心不全
の臨床症状としています。


 1) 拡張不全の患者は、年間の入院率が1.4倍増加し、年間の死亡率は15%
    で、軽症の心不全との認識ではありません。
    拡張不全の病態は、決して心臓だけに限局していません。肺、右心、
    血管、腎臓、肝臓、全身の代謝、骨筋肉、臓器のリモデリングなどの
    総合的な病態として捉える必要があります。

 2) 拡張不全のリスクとして、高血圧、高齢、糖尿病、脂質異常、肥満が
    あります。殆どの患者は、高血圧をボーデンとしています。高血圧の
    治療により、2〜8年間で最大40%の改善が認められます。高血圧は
    心臓肥大、心筋の線維化を誘発し、さらに心筋のstiffness(固くなる)
    から心筋拡張機能の低下を招きます。
    その他の臓器病変と、代謝の変化が相まって、拡張不全の病態が形成
    されます。拡張不全の65%に、心不全の臨床症状が出現します。
    安静時、並びに労作時の呼吸困難、うっ血の心不全所見(下肢浮腫、
    腹水、経静脈拡張、ギャロップリズムなど)レントゲンと心エコーの
    所見等です。
    心エコー検査の所見については省略(本院ではIVCD、左房拡張、Tr、
    E/A波、TEI指数などを適時簡便に外来では用いています。詳細を期す
    場合は、専門の技師の方にお願いしていますのでご理解ください。)
    拡張不全の診断に、H2FPEFスコアーの2以上を目安とします。
   (本論文及びcirculationより)


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    急性期では、NTpro-BNPは300以上、慢性の場合は、125以上で拡張
    不全を考えます。しかし、クリアランスの問題や、NTpro-BNPが正常
    範囲の拡張不全もあり、絶対的な基準ではありません。
    しかも、呼吸困難の50〜60%は、心不全ではなく他の疾患です。

 3) 拡張不全と言えども、臨床症状がある患者には治療が必要となります。
    第一選択薬は、SGLT-2阻害薬(ジャディアンスとフォシーガ)です。
    うっ血所見がある場合は、利尿薬を併用します。
    心不全の場合は、利尿薬の半減期が変化します。ラシックス(2.7時間)、
    ルネトロン(1.3時間)、ルプラック(6時間)ですが、入院率に
    関しては、利尿薬の差がありませんでした。
    拡張不全と診断後の66%に、心房細動の合併が認められています。
    エンレストとアルダクトンAの効果に対しては、明白な結論が
    出ていません。

 4) 食事制限による体重管理、有酸素運動、食塩制限も基本です。




私見)
 心不全の基本は、臨床症状を主体としています。拡張不全の治療の選択肢が増えるほどに、きめ細かな患者さんの訴えが重要となります。AIには任せられません。




本論文.pdf

circulationより.pdf

SGLT-2阻害薬と心不全_.pdf

駆出率の保たれている心不全には塩分制限は.pdf

心不全ガイドライン・2022AHA.pdf

心不全にSGLT-2阻害薬は第一選択薬.pdf

心不全治療薬としての利尿薬・ループ利尿薬.pdf

新しい心不全治療薬を強く推奨.pdf

糖尿病治療薬・フォシーガ.pdf










posted by 斎賀一 at 15:06| 循環器

2023年03月22日

多発嚢胞腎

多発嚢胞腎
What Is Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease?
Autosomal dominant polycystic kidney disease is the most common genetic
cause of kidney failure



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 「常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)は、最も多い遺伝性腎疾患であり、
70歳までに約半数が末期腎不全に至る。両側腎臓に、多数の囊胞が進行性に発生・
増大し、さらに高血圧や、肝囊胞、脳動脈瘤などを合併します。
末期腎不全に至る前でも、囊胞感染や脳動脈瘤破裂など、致死的な合併症を呈する
ことがあり、その早期診断と対策の重要性が、喫緊の課題として認識されている。
常染色体劣性多発性囊胞腎(ADPKD)の頻度は、出生10,000〜40,000人に1例と
推測され、新生児期に症候を示す。
現在では、生後早期の適切な管理と、末期腎不全治療の進歩により、重症肺低形成
を伴う新生児以外は、長期生存が可能になっている。」
(全文、ガイドラインより引用)


今回、雑誌JAMAより患者さん用の小論文が掲載されています。本院でも、本疾患の患者さんが多く来院されており、参考までにブログしました。


 1) 常染色体劣性多発性囊胞腎(ADPKD)は、両親の何れかが疾患を有して
    いると、50%遺伝する疾患です。しかし、15%は両親から遺伝しない
    変異から発症しています。

 2) 嚢胞は、腎臓以外にも肝臓、膵臓、ヘルニアにも認められ、稀に
    9〜12%で脳動脈瘤を合併します。

 3) 症状は、初期には認められませんが、多くの患者さんは高血圧を
    併発します。
    嚢胞が増大するにしたがって、腹痛、膨満感、血尿、尿路感染症、
    腎感染症、腎結石が発症します。腎機能低下により、腎不全から
    透析に至る場合は50%と言われていますが、50歳前にも進行する
    事もあります。

 4) 診断は、超音波検査が有効です。

 5) 危険因子
    同じ遺伝子を持っていても、その臨床経過は異なります。嚢胞の増大
    による、腎機能の低下が作用します。

 6) 治療
    血圧の管理が腎機能の進展を遅らせ、最重要となります。
    体重管理、運動、水分の補給、一日5gr以下の食塩の厳格な制限、禁煙、
    ブルフェンなどの鎮痛解熱剤の制限。
    薬剤として、サムスカがあります。

 7) 家族歴に本疾患のある小児は、定期的なスクリーニング検査が必要
    となります。





嚢胞腎 JAMA.pdf














posted by 斎賀一 at 21:38| 泌尿器・腎臓・前立腺

2023年03月20日

新しい脂質異常症治療薬・ベンペド酸

新しい脂質異常症治療薬・ベンペド酸

Bempedoic Acid and Cardiovascular Outcomes
in Statin-Intolerant Patients
[This article was published on March 4,2023, at NEJM.org]



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 脂質LDLコレステロール降下薬の新しい薬剤、ベンペド酸の臨床試験結果が雑誌NEJMに
掲載されています。海外では既に承認されていますが、日本では臨床試験の段階です。


1) 対象者は18〜85歳で心血管疾患のリスクがあり、スタチン薬の副作用のため服用を
   望まない人です。但しスタディ開始時にはスタチンの利点を説明し、納得するか
   スタチンの種類を変えたり、量の変更を承認した人も含まれます。
   従って開始時には、スタチンやゼチーアなどの他の脂質異常症治療薬も併用している
   場合もあります。

2) ベンペド酸180mg服用群と、服用しないコントロール群に分けています。
   登録者は13,970人でベンペド群は6,992人、コントロール群は6,978人です。
   主要転帰は4つのMACE(心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、
   冠動脈再建術)です。
   経過観察期間は平均で40.6か月、ベースラインでのLDLコレステロールの平均は、両群
   とも139.0でした。

3) 結果はベンペド群がLDLを29.2mg/dl低下させ、21.1%の低下率でした。
   主要心血管イベント(4-MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞/脳卒中、冠血行再建術の
   複合)のリスクを13%有意に低下しています。
   致死性/非致死性心筋梗塞は23%(危険率0.77)、冠動脈再建術は19%(危険率0.81)
   の有意なリスク低下でした。
   一方、致死性/非致死性脳卒中は、ベンペド酸群で15%の低下傾向を示したものの
   有意差は認められません。

4) 副作用としての筋肉痛は差がありません。
   新規糖尿病の発生もコントロール群と同等でした。
   尿酸値の上昇、肝機能障害、尿管結石、クレアチニン増を認めています。







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私見)
 学会発表時に、本薬剤はスタチンに代わるものでなく、スタチンの忍容性がない場合の
 代替薬の位置付けとしています。
 スタチンの服用で、筋肉痛を心配される患者さんが意外に多い感じです。
 本薬剤はゼチーアとの併用効果もあるとの事です。大いに期待できそうです。












posted by 斎賀一 at 18:24| 脂質異常