2022年12月09日

フォシーガの心不全における費用対効果

フォシーガの心不全における費用対効果

 〜患者さん並びに職員勉強編〜

Cost-effectiveness of Empagliflozin in Patients With
Heart Failure With Preserved Ejection Fraction



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 糖尿病治療薬のフォシーガは心不全にも有効との事で、心不全の治療を開始するための4本柱
として、エンレスト、ベータ遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬に加わり、最近特に
処方されていますが、駆出率が40%以上と保たれている心不全(HFpEF)には費用対効果が
乏しいのでは、との論文が雑誌JAMAに載っています。
 以前の私のブログでも紹介しましたが、NEJMの論文ではHFpEFにフォシーガを投与すると、
心不全の入院率と、心血管疾患の死亡率を低下させるとの報告から、フォシーガがHFpEFにも
処方されてきています。EMPEROR研究と同じモデルでその費用対効果を調べています。


1) 先ずは前知識として費用対効果を見る場合には、QALY(質調整生存年)と増分費用
   効果比(ICER;incremental cost-effectiveness ratio)が指標となるとの事で
   ネットにより勉強しました。下記のPDFをご参照ください。
   QALYは心不全をQOLとして捉えています。1年間全く健康で過ごした場合をQALYが1と
   します。死亡した場合は0です。
   1QALYを得るためのコストがICERです。ICERが500万円までならその薬は費用対効果が
   あるが、1,000万円以上の場合は費用対効果が低いとの判断になります。
   (下記のPDFをご参照ください。)

2) フォシーガをHFpEFに処方した場合には、心血管疾患の死亡が9%削減でき、QALYは0.06
   改善します。しかし1QALYに換算した費用(つまりICER)は$437,442となります。
   フォシーガがプライスダウンすれば$174,000となります。

3) 円安と相まって当然、コストの閾値を超えています。








私見)
 現時点では、HFpEFに対する処方は標準治療が主体で、BNPの上昇に加えて駆出率の低下傾向
 の場合にはフォシーガのアドン療法となるかもしれません。
 ガイドラインに従うと、エンレストはその先の戦術でしょうか。
 本院では、心不全傾向で糖尿病患者さんにはSGLT-2阻害薬、高血圧患者さんにはエンレストを
 アドンする方式にしていますが?







本論文 フォシーガのコスト.pdf

医療の費用対効果を考える.pdf

いのちの値段 QALYとICER.pdf

「費用対効果評価」の基礎知識.pdf














posted by 斎賀一 at 21:31| 糖尿病