2022年12月21日

小児の新型コロナとインフルエンザの混合感染

小児の新型コロナとインフルエンザの混合感染
 
Prevalence of SARS-CoV-2 and Influenza Coinfection and
Clinical Characteristics Among Children and Adolescents Aged <18 Years
Who Were Hospitalized orDied with Influenza − United States,
2021–22 Influenza Season


        
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 小児における新型コロナとインフルエンザの混合感染の重症化を警告する論文がCDCより
ありました。MedPage Todayより纏めてみました。


1) 2021−2022年のインフルエンザシーズンにおけるデータによりますと、小児においては
   インフルエンザによる入院率は6%でした。
   新型コロナを合併した場合の死亡率は16%との事です。

2) インフルエンザと新型コロナを合併して死亡した7人は全て、インフルエンザのワクチンを
   接種していませんでした。(一人はワクチン不適合)
   混合感染した小児は、インフルエンザ感染のみと比べて約3倍の侵襲的人工呼吸器が必要と
   なっています。
   また、インフルエンザの抗ウイルス薬を適切に使用されていたのは、7人中たったの1人
   でした。

3) 昨シーズンの2021−2022年のインフルエンザによる小児の死亡は44人でしたが、
   2022−2023年の今シーズン(9月まで)は既に21人が死亡しています。
   未だ新型コロナとインフルエンザの合併例は少数ですが、冬到来となり混合感染の
   重症例が増加する懸念があります。
   呼吸器感染の症状が重い例は、混合感染の可能性を念頭に検査をしなくてはなりません。

4) CDCによりますと、FluSurv-NETの集計では小児の575人がインフルエンザにより
   入院し、その内32人が新型コロナを合併していました。平均年齢は3歳(1〜12歳)
   32人のインフルエンザワクチンの接種内訳は、
   4人が接種済み、19人が非接種、5人が不適応でした。







私見)
 小児のインフルエンザワクチン接種を勧めます。
 また、インフルエンザの早期診断、早期治療を徹底したいと思います。






混合感染Prevalence of SARS-CoV-2 and Influenza.pdf









posted by 斎賀一 at 19:07| 感染症・衛生

2022年12月19日

前立腺癌のPSAを用いた診断基準

前立腺癌のPSAを用いた診断基準

Prostate Cancer Screening with PSA and MRI Followed
by Targeted Biopsy Only



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 1990年代にPSAが用いられるようになり、超音波検査下での生検も確立されてきましたが、
過剰診断の問題が指摘されています。
ガイドラインもこの問題を乗り越えなくてはならない状態です。
一般的に前立腺癌は小さく悪性度の低い、予後の良い癌が多いです。
60歳以上の男性の 50%にこのような癌が潜在しているとも言われています。またPSAの特異度も
低く、値が 3 以上でも前立腺癌は 16%の診断との事です。
しかし、前立腺癌での死亡率は増加傾向で、第7番前後です。
適切なスクリーニングが求められています。
 今回雑誌NEJMにMRIを用いて標的生検の診断方式が過剰診断を削減するとの論文が出て
います。


1) 50〜60歳の男性 37,887例を、通常の前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングを行い   
   PSA値が 3 ng/mL以上の 17,980例(47%)が試験に登録しています。
   MRIはすべて実施していますが、その後の生検の方法を 3 グループに分けています。
   MRI後に従来の 12個の生検を実施し、更にMRIで陽性所見があれば標的生検を 3〜4個
   追加する通常群(arm1)と、MRIの陽性所見の場合にのみ標的生検4個だけ行う実験群
   (arm2)とし、この場合にPSAが 10以上の時はMRI所見が陰性でも標的生検を行って
   います。arm2と同じ方式の生検ですが、PSAのカットオフ値を 1.8以上と下げたarm3も
   設けています。arm3のデータはarm2に組み込まれています。





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2) 主要転帰は、臨床的に重要でない前立腺癌のグリーソンスコア 3+3 と定義しています。
   二次転帰は臨床的に重要な前立腺癌とし、グリーソンスコア3+4 以上と定義し安全性も
   評価しました。

3) 臨床的に重要でない前立腺癌は、実験群の 11,986例中 66例(0.6%)で診断された
   のに対し、通常群では 5,994例中 72例(1.2%)であり、相対リスク 0.46 です。
   (過剰診断をほぼ半減出来ています。)
   系統的生検(12個)のみによって発見された臨床的に重要な前立腺癌は、通常群の 10例
   で診断されましたが、全例が中リスクであり大部分は低腫瘍量で、積極的監視により管理
   されました。重篤な有害事象はいずれの群においても稀(0.1%未満)でした。





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        (referenceが通常群で、experimentalが実験群です)



4) 討論
   生検の方針として、アメリカとヨーロッパのガイドラインは異なっています。
   本論文ではMRIの所見を優先しています。MRI所見のPI-RADSスコアーが 1〜2 は生検を
   せず、3〜5 に対して標的生検を実施する実験群を調べました。
   つまり、小さなグリーソンスコアーが 3+3 に対しては過剰診断の可能性が高く、生検
   にはharmfulとする認識です。本研究の実験群によりグリーソンスコアーが 3+3 は
   54%削減できましたが、38%は否定できませんでした。
   臨床的に重要な前立腺癌、つまり 3+4 は通常群と比較して実験群で 19%減少を意味して
   おり、危険率は 0.81 でした。
    (つまり、MRI検査後に標的生検のみで系統的生検を行わないと、臨床的に重要な前立
   腺癌を 0.08%見落とします。例えば 10,000人の対象で約 8人を見落とす計算となり
   ます。)
   繰り返しますが、系統的生検によってのみ検出された臨床的に有意な癌が、通常群の 10人
   の男性で診断されたことを指摘しています。
   これらの男性の内 9人はMRIが陰性で、1人はMRIで偽陽性の所見がありました。
   前立腺癌と診断された参加者の内 6人は、主に積極的な監視で管理され、3人は根治的
   前立腺全摘除術で治療され、1人は放射線療法で治療されました。
   診断が遅れたこれらの症例は全て予後不良とはなっておらず、更なる経過観察が重要
   です。
   本論文の制限(limitation)は、若い人が対象です。





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5)結論
  PSA高値の男性の前立腺癌のスクリーニングと早期発見には、MRIを用いた標的生検を選択
  して系統的生検を回避することで、少数の患者で中リスク腫瘍の発見が遅れるという犠牲の
  もと、過剰診断のリスクを削減できました。







私見)
  ザックリと言って、MRIを用いた標的生検では(4個)過剰診断を半分に減らせますが、
  臨床的に治療が必要な癌を 1,000人中 1人見落とす可能性があります。
  前立腺癌は予後が良く過剰診断も多いので、スクリーニング検査も治療も拒否すると考える
  御仁も多くいます。是非本論文を前向きに捉えてもらいたいです。
  ネットの情報を下記に掲載します。









前立腺がん _ 国立がん研究センター 東病院.pdf

前立腺癌のMRI画像診断におけるPI-RADS v2.1まとめ!.pdf













posted by 斎賀一 at 19:07| 泌尿器・腎臓・前立腺

2022年12月15日

医療従事者はN95マスクが必要か?

医療従事者はN95マスクが必要か?

Medical Masks Versus N95 Respirators for Preventing COVID-19
Among Health Care Workers



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 医療従事者にとって、N95とサージカルマスクの比較を調べた論文が載っていしまたので
ブログします。


1) 新型コロナの疑いや確定診断した患者を診療した医療従事者を対象にしています。
   各国で調査をしていますが、患者との暴露時間は同等にしています。
   自己報告によるアドヘアランスは、サージカルマスクが91.2%でN95は80.7%でしたが
   実際の聞き取り調査では、サージカルマスクが98.3%でN95が96.6%のアドへアランス
   でした。
   参加者は、現在流行している変異株に50%以下の効果のワクチンを接種しているか、
   非接種者です。
   2020年5月4日から2022年3月29日まで、カナダ、イスラエル、パキスタン、エジプトの
   29の医療施設で調査しています。COVID-19が疑われる、または確認された患者に直接
   ケアを提供した1,009人の医療従事者を登録しました。
   サージカルマスクと適合テスト済みのN95マスクを10週間使用しています。

2) 主要転帰は、PCR検査でCOVID-19の確認です。
   結果は、PCR検査で確認されたCOVID-19は、医療用マスク群の参加者497人中52人
   (10.46%)で発生し、N95呼吸器群では507人中47人(9.27%)で発生しました。
   (危険率1.14)

   サージカルマスクのN95に対する危険率は各国で異なります。
   ・カナダ;6.1%対2.2% (危険率2.83)
   ・エジプト;13.6%対14.6% (危険率0.95)
   ・イスラエル;35.3%対23.5% (危険率1.54)
   ・パキスタン;3.3%対2.1% (危険率1.50)

   各国で幅が大きい結果です。イスラエルでは流行の期間が長く、医療従事も当然長くなり
   ます。
   ベースラインでの血清抗体陽性率がカナダでは2%と低いのは、パンデミックの初期に登録
   しているためで、エジプトとパキスタンでは80%と高い傾向で、当然ながら全体的な危険
   地域はエジプトとパキスタンの方があります。
   エジプトではオミクロンが流行している時期に登録し、ワクチンも接種が行き渡っていま
   した。
   サージカルマスクとN95が対する効果は、危険率が3%減から69%増まで幅が広いです。
   地域として感染拡大が強い国はカナダと異なり、サージカルマスクとN95の効果の違いが
   見えなくなります。
   オミクロン株が流行していて抗体陽性率が高い場合は、サージカルマスクとN95の差は
   なくなります。現にエジプトではその差はありません。
   リスクが5%増加は許容範囲かもしれませんが、それ以上は医療従事者には受け入れられ
   ないかもしれません。
   しかし実際は供給の問題もあり、危険率が倍あるとしてもサージカルマスクを採用して
   います。
   本論文の限界(limitation)としては、家庭およびコミュニティへの曝露、国間の異質性、
   効果の推定値の不確実性、自己申告によるアドヘアランスの違い、ベースライン抗体の
   違い、および循環変異体とワクチン接種の国間の違いによるSARS-CoV-2の潜在的な感染
   があります。

3) サージカルマスクとN95のどちらを選ぶかは一概には言えなく、それぞれの国の事情に
   よります。




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私見)
 結論的にはN95をサージカルマスクに変更すると、20%の危険率の増加が予想されます。
 (N95の危険率が5%なら、サージカルマスクは6%となります。)
 ワクチンが医療従事者で行き渡り、コロナも明らかに弱毒化している今日、二重のサージカル
 マスクとフェイスシールドの併用で事足りるかもしれません。
 人生、色々な意味で息苦しい私は、以前からそうしています。







本論文.pdf










 
posted by 斎賀一 at 14:20| 感染症・衛生