2022年08月31日

降圧薬の服用は朝か就眠前か

降圧薬の服用は朝か就眠前か

〜学会報告〜
Breakfast or Bedtime BP Meds? Timing Doesn't Matter After All



40831.PNG

    

 バルセロナで開催されたヨーロッパの心臓学会ESCでの報告です。
以前の私のブログでも紹介しましたが、2010年MAPEC研究で降圧薬は就眠前に服用する方が
心血管疾患の抑制に繋がるとの報告をしています。
仮面高血圧やモーニングサージといった早朝高血圧を防ぐ意味で、就眠前服用を推奨していま
した。


1) 今回のTIME研究は、65歳以上の高血圧で135/79とコントルールされている21,104人
   を対象にしています。男性が57.5%です。13%が糖尿病を合併しています。   
   服用を朝(午前6〜10時)と就眠前(午後8時〜深夜)に振り分けて、心血管疾患の
   発生を主要転帰として比較検討しています。
   5年間の経過観察です。
   アドへランス(服薬遵守)は77.5%対61%と、両群とも思っていた以上に良好との事
   です。
   また転倒による骨折も、それ程の頻度ではありませんでした。

2) 結果は、両群ともに相違はありませんでした。
   朝の群の危険率は0.95です。

3) 血圧の日内変動は、一般的に夜間が低下します。
   夜間に血圧が高い事は心血管疾患の予兆とも取れます。
   従って就眠前の服用で、夜間の血圧を下げることは意味があります。
   しかし、却って早朝の低血圧に繋がることもあります。
   睡眠前の方が優位と思われる点は、睡眠時無呼吸症候群、治療抵抗性高血圧の場合です。
   結論的には、人によってベストな状態が異なるという事です。
   降圧薬は長時間作用型が基本です。





  https://www.escardio.org/Congresses-&-Events/ESC-Congress






私見)
 家庭内血圧を患者さんが測定し、血圧の日内変動から朝方か就眠前かを決めても良いかも
 しれません。
 個人的経験からは、朝方の方がアドへランスが良い印象です。









posted by 斎賀一 at 20:57| 循環器

2022年08月30日

痛風発作は心血管疾患の予兆

痛風発作は心血管疾患の予兆

<短 報>
Association Between Gout Flare and Subsequent
Cardiovascular Events Among Patients With Gout



40830.PNG



 痛風発作そのものはそれほど心配はありませんが、その後2か月の間に心筋梗塞と脳梗塞の
発生が増加するとの報告がありました。その傾向は6か月迄続くとの事です。
その因果関係は、明白には解明されていないようです。


1) イギリスからの報告です。
   1997年1月より2020年12月31日までの統計です。痛風発作の62,574人を登録しました。
   その中で痛風発作後に心血管疾患を併発したのは1,421人です。
   平均年齢は76.3歳。69.3%が男性。主要転帰は急性心筋梗塞と脳梗塞です。

2) 痛風発作後に心血管疾患を併発したのは10,475人で、それにマッチングする
   心血管疾患を併発しなかった痛風患者、52,099人を比較対象にしています。
   痛風発作が0〜60日に発生した場合を見ますと、
   心血管疾患があった人では、204/10475の2.0%
   心血管疾患のない人では、743/52099の1.4%でした。危険率は1.93です。
   痛風発作後61〜120日を見ますと、心血管疾患があった人では170/10475の1.6%
   心血管疾患がなかった人は628/52099の1.2%です。
   危険率を算定しますと、0〜60日で1.89  61〜120日で1.64  120〜180日で1.29
   心血管疾患の既往のある人では、痛風発作が2.0%に対して、既往のない人は1.4%
   でした。 
   痛風発作があると、60日以内に2.49/1000人に心血管疾患が発生するのに対して、
   痛風発作がない場合の発生は、1.32/1000人です。

3) 考察
   当然ながら臨床医は生活習慣を重視します。
   ダイエット、スタチン服用、抗炎症薬(アスピリン、コルヒチン)、禁煙、糖尿病、
   血圧、抗血栓療法等です。
   痛風発作は白血球などの炎症のパラメーターです。
   それは動脈硬化のプラークとも関係しています。
   炎症と痛風発作が心血管疾患と密接に関与しているかもしれません。




  
 私見)
  痛風発作を発症した場合は、心血管系の十分な検査精査が必要です。
  内頚動脈、眼底、血液検査等。動脈硬化の進展が示唆されれば、尿酸降下薬の処方と
  なります。
  ガイドラインでは発作が2回以上の時に服用を検討、となっています。
  痛風発作で即、服用とはならないようです。
  なぜなら、私が高尿酸血症でポリファーマシーだからです。







Association Between Gout Flare and Subsequent Cardiovascular Events Among Patients With Gout _ Cardiology _ JAMA _ JAMA Network.pdf













posted by 斎賀一 at 20:44| 循環器

2022年08月29日

ブルガダ症候群・Brugada症候群

ブルガダ症候群・Brugada症候群

<院内勉強用>




0829.PNG
     



検診で、ブルガダ症候群の疑いを指摘され、来院される患者さんが時々おります。患者さんは、事前にネットで調べ、不安になってくるケイスがあります。
文献、および今日の臨床サポートと、uptodateより調べ、ブログしました。
(一部、文献よりコピペ)



 1) ブルガダ症候群とは、12誘導心電図のV1、またはV2(V3)誘導に
    おける特徴的なST上昇と、心室細動(VF)を主徴とする、明らかな
    器質的心疾患を認めない症候群です。


       0829-2.PNG
   

    Brugada症候群の心電図のことを、Brugada型心電図と言いますが、
    これには主にタイプ1と、タイプ2があります。
    内容的には、タイプ1はCoved型、タイプ2はSaddleback型と
    言われてます。
    
    Coved型というのは、弓状に折れ曲がるとか、弓を曲げるといった意味
    があり、心電図の心室波形であるQRS波の終末部が、弓を描いたように
    ふっくらと湾曲して、その後の下向きのT波につながっていくものです。
    
    Saddleback型というのは、文字どおり馬の鞍型で、ちょうど馬の鞍の
    ようにST部分が基線よりも上がって、しかも、その後の上向きのT波に
    つながっていくということです。
    一般的にCoved型は、専門病院でのご紹介、Saddleback型は、
    経過観察となります。

 2) 1992年に、Brugada兄弟が発表したBrugada症候群は、日本を含む、
    東アジアの男性に多く、夜間にうめき声をあげて、失神発作を繰り返す
    ような、日本では昔、「ぽっくり病」と言っていたような概念で、
    そういう方の心電図をとってみると、非常に特有な波形をしている
    ということで、一つの症候群として提唱されたものです。

 3) 無症候性であり、他の臨床基準を持たない、典型的なECG特徴を
    有する患者は、ブルガダパターンを有すると言われます。突然の心臓死、
    または持続的な心室頻脈性不整脈を経験した、典型的なECG機能を
    有する患者、または他の関連する臨床基準を1つ以上有する患者は、
    ブルガダ症候群、症状がない場合は、ブルガダパターンと言われます。
    
    タイプ1のCoved型は、より心室細動などの致死的な不整脈を
    起こしやすいタイプで、予後としてはあまり良くありません。
    タイプ2のSaddleback型は、心室細動を起こしにくいという
    ことで、予後はCoved型に比べると、良好と言われております。
    症状もないSaddleback型の場合は、すぐに専門医の先生方に
    お願いしなくてもよく、しばらく様子を見る余裕はあると思います。
    遺伝子変異を呈するのは、たかだか2割前後と言われています。
    多因子的な疾患であると言われておりますし、それに加えて、
    自律神経や電解質バランスや環境因子も絡んでくるため、
    非常に複雑です。
    副交感神経の緊張が、Brugada型心電図を誘発しやすいので、
    食後に満腹な状態で、副交感神経が緊張した際には、より明らか
    になります。
    発熱は、ブルガダパターンECG、またはブルガダ症候群を有する
    人で、ブルガダパターンECG異常、および心停止、両方の誘発の
    引き金となります。

 4) 心電図というのは、胸部誘導でV1からV6がありますが、普通は、
    第4肋間からV1としてスタートするわけです。これを1〜2肋間上げて、
    第3肋間や第2肋間で、Vl、V2誘導に相当する電極をつけると、
    第4肋間では見えなかったBrugada型心電図が、非常にはっきりする
    ことがあります。
    ブルガダECGパターンの経時的な変動は、一般的です。

 5) ブルガダ症候群の患者は、心房不整脈、特に心房細動(AF)のリスクが
    高く、発生率は、ブルガダ症候群の患者で10〜20%と言われています。
 
 6) 薬剤誘発性ブルガダ症候群


       0829-3.PNG




私見)
 Coved型とSaddleback型の鑑別を、下記のPDFに掲載しました。
 薬剤誘発試験は、安全対策をして専門病院で行います。
 本院では、Saddleback型に対して、十分な問診、心エコー検査、肋間を上げての心電図、食後の心電図、経過観察を行います。


参考文献)
・ゼロから学ぶBrugada症候群;臨林と研究・97巻3号(令和2年3月)
  丸山 徹
・今日の臨床サポート
・uptudate
・ブルガダ症候群つてなに?;日医雑誌第143巻・第B号/平成26(2014)年1月
  山根禎一





ブルガダ 文献集.pdf















posted by 斎賀一 at 21:34| 循環器