2022年01月29日

小児の市中肺炎に対する抗生剤の投与期間

小児の市中肺炎に対する抗生剤の投与期間

<短 報> 
Short- vs Standard-Course Outpatient Antibiotic Therapy
for Community-Acquired Pneumonia in Children


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 外来での抗生剤の投与期間に関しては、古くて新しい問題です。
溶連菌感染症においても、短期(5日間)と長期(10日間)のスタディが以前から行われて
います。
 今回は、従来健康な小児の市中肺炎における、短期(5日間)と長期(10日間)の抗生剤
投与について比較したスタディが雑誌JAMAに掲載されています。


1) 対象は合併症のない小児の市中肺炎です。
   6か月〜71か月の380名で平均年齢は3歳
   2016年12月2日から2019年12月16日まで調べています。
   適応基準は、48時間以上の発熱、胸部レントゲン、多呼吸、救急外来の医師の診断です。
   除外基準は、持続する発熱、2歳以下で50以上の多呼吸、2歳以上で40以上の多呼吸、
   重度な咳嗽です。

2) 5日間の抗生剤投与後に更に5日間、継続服用する長期(10日間)群と、その時点でプラ
   セボに切り替える短期(5日間)群で比較しています。
   使用する抗生剤は、アモキシシリン(サワシリン、ワイドシリン)、オーグメンチン
   (クラバモックス)、セフジニル(セフゾン)です。

3) 主要転帰は、適切な臨床効果、症状の軽快、抗生剤の副作用です。
   具体的には、投与後4日目で症状の改善、明らかな多呼吸の改善、発熱のスパイクが1回
   以下、抗生剤の追加がない、入院の必要性がないとしています。
   6〜10日と19〜25日で調べています。

4) 結果
   主要転帰は、短期(5日間)群と長期(10日間)群に差はありませんでした。
   効果は短期(5日間)群が108 of 126 children(85.7%) 対長期(10日間)群が
   106 of 126 children (84.1%) です。
   治療不応は両群とも少なく10%以下でしたが、統計学的に7%前後の範囲で長期
   (10日間)群の方が治療不応は優位でした。
   抗生剤の耐性を遺伝子レベルで調べていますが、長期(10日間)の方が明らかに耐性が
   増加していました。
   抗生剤の副作用と耐性に関しては、短期(5日間)群の方が69%優位です。






私見)
 実地医家の場合は、肺炎の疑いを的確にし、抗生剤の適正使用に心掛けることが肝心な
 様です。







Short- vs Standard-Course Outpatient Antibiotic Therapy for Community-Acquired Pneumonia in Children_ The SCOUT-CAP Randomized Clinical Trial _ Infectious Diseases _ JAMA Pediatrics _ JAMA Network.pdf









posted by 斎賀一 at 17:57| 小児科

2022年01月28日

新型コロナ抗原検査の擬陽性

新型コロナ抗原検査の擬陽性
 
False-Positive Results in Rapid Antigen Tests for SARS-CoV-2


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 カナダからの報告です。
医療機関における医療従事者の早期発見のために、無症状の段階で週に2回抗原検査を行って
います。
陽性者には全員PCR検査を24時間以内に行って、擬陽性の頻度を調べています。


1) 期間は、2021年1月11日から10月13日まで調べています。
   537施設、903,408名の抗原検査を実施。
   1,322件が陽性(0.15%)で、引き続きPCR検査を実施したのは1,103件
   偽陽性者は462名。スクリーニングテストとして擬陽性率は0.05%です。
   擬陽性率は462÷1103=42%でした。
   しかし擬陽性の278件は、675km離れた2施設で起こっています。278/462=60%
   つまり原因としては、抗原検査製品の問題が一番考えられます。
   その他実施方法も関与しているかもしれません。
   (この2施設の結果を除外すると、擬陽性率は(462-278)/1103=17%)

2) 無症状の医療従事者を対象にしたスクリーニングの場合に、擬陽性の発生は0.05%です。
   (陽性の結果が出た場合に、その精度は83%となります。)

3) スクリーニングとして使用する場合には、実施方法、製品の精度管理、つまりロッド番号
   に注意が必要となります。勿論、被検者の症状の有無、発症の時期(あまりに早いか、遅
   すぎたのか)も大いに関係します。






私見)
 現在、医療機関にも抗原検査キットの品不足が続いています。
 適切な時期での使用が求められています。オミクロン株においては潜伏期間がかなり短く、
 症状発現と同時に陽性となっています。
 抗原検査払底の現状からは職員への頻回の検査は出来ませんが、初期症状での実施により
 医療体制の維持を図りたいと思います。 







jama 抗原検査.pdf






posted by 斎賀一 at 20:43| 感染症・衛生

2022年01月26日

オミクロン株を甘く見てはいけない

オミクロン株を甘く見てはいけない

Omicron Is Far From 'Mild,' Experts Say
 

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 一開業医ですが、今はオミクロン株の流行の波に襲われています。
オミクロンを心配する患者さんの誘導に、職員一同必死に頑張っています。
後藤茂之大臣の方針には当初、違和感を感じましたが、今となっては賛同するしかありません。
本院で診断した新型コロナの患者さんに、入院を必要とする重症例は現在幸いにもおりません。
しかし、潜伏期の短さと感染力には驚くばかりです。
新型コロナの最前線で診療している私を含めた職員全員が、本当にオミクロン株は軽症なのかと
戦々恐々の毎日です。
ネットのMEDPAGETODAYに「オミクロン株を甘く見てはいけない」という趣旨の記事が載って
います。簡単に箇条書きに纏めます。


1) 新型コロナ病棟の職員は、今どう感じているのでしょう?
   新型コロナが大流行している現実を、どう思うのでしょう?
   軽症とは何を根拠にしているのでしょう?
   多くの子供が罹患して入院患者も増加傾向の現実を、軽症と言えるのでしょうか?

2) 軽症とは何なのか、自然治癒とはどういう状態なのか、やがてピークに達して収束する
   のにどれくらい我慢が必要なのでしょう?

3) ワクチン未接種に重症例が多い傾向ですが、だからと言ってワクチンを接種していれば
   安全だとは言えないのです。
   オミクロン株の再感染は、デルタ株の5倍も多いのです。

4) 慢性疾患の患者さんが新型コロナに罹患して、救急部門は混乱状態です。
   疾病に侵されやすい患者さんに対して、十分な医療提供が出来ない状態です。
   そうした患者さんは、オミクロン株の流行時にはアクセスする方法すらわからずに、取り
   残された状態です。病気を持っている人々の格差が始まっています。
   通常の医療においては、原疾患の診断、慢性か急性化か、新型コロナの合併の有無を診断
   していくことが大事ですが、新型コロナによって全ての疾患が増悪をきたし、崖から落ち
   ていく状態です。それを防ぐために、長期入院となっているのが現状です。

5) 今、我々はオミクロン株が軽症かどうかを知ることではなく、我々の希望は今を乗り越え
   て他岸に到達する事だけです。





私見)
 私は乃木大将でなく、橘中佐の立場です。
 オミクロン株を侮る心境ではないのです。





Omicron Is Far From 'Mild,' Experts Say _ MedPage Today - コピー.pdf









posted by 斎賀一 at 19:48| 感染症・衛生