2021年08月31日

新型コロナの異種混合ワクチン

新型コロナの異種混合ワクチン
 
Safety and immunogenicity of heterologous versus
homologous prime-boost schedules with an adenoviral vectored
and mRNA COVID-19 vaccine (Com-COV):
a single-blind, randomised, non-inferiority trial


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 日曜朝のテレビ番組で河野太郎規制改革担当相が、異なる種類を組み合わせる「異種混合接種」実施について語りました。
以前の私のブログでも、アストラゼネカの次にファイザーワクチンを接種する、所謂「ハイブリッド」の有効性を掲載しましたが、今回ガチンコ勝負の文献が雑誌LANCETに載っていましたので、この時期に遅ればせながらブログします。

 尚、今回の研究報告ではアストロゼネカの2回目の接種を最初より計画しており以前のような待機
 (ペンディング)ではありません。


1) 2021年2⽉11⽇〜2⽉26⽇の間に、検査でSARS-CoV-2感染歴がない50歳以上の成⼈が対象
   です。
   28⽇または84⽇のブースト間隔で投与された830人が登録され、ChAd/ChAd、ChAd/BNT、
   BNT/BNTまたはBNT/ChAdに無作為に振り分けられています。
    (AstraZeneca社, 以下ChAdと Pfizer-BioNTech社, 以下BNT)
   今回の報告は、ブースト間隔が28⽇の463⼈が対象となりました。
   液性免疫と細胞免疫を0日、28日、56日に測定しましたが、その中で特別に100人が
   Immunology群として、7日、14日、35日、42日に追加検査をして詳細化しています。
   一般群とImmunology 群を、それぞれ4つのスケジュール(28⽇間隔のみ)に(1:1:1:1)振り分け
   ています。参加者の平均年齢は57.8歳で⼥性は212⼈(46%)です。
   84日のブスター間隔は近々報告されるとの事です。
   主要転帰はChAd/BNTとChAd/ChAd、BNT/ChAdとBNTを⽐較したときのブースト後、28⽇の
   ⾎清SARS-CoV-2抗スパイクIgG濃度(ELISAで測定)です。

3) 結果は
   4つのスケジュールすべてがChAd/ChAdスケジュールの濃度と同程度の、感染予防に匹敵する
   ⾼濃度の抗体であるSARS-CoV-2抗スパイクIgGを誘導していました。
   細胞性免疫応答は、BNTワクチンを含むスケジュールでは同様に、ChAd/ChAd群と同等以上に
   ⾼く、BNT/ChAdはブースト後28⽇のワクチン抗原に反応するT細胞が、最⼤に反応しています。
   重篤な有害事象は全群で4件発⽣したが、いずれも予防接種との関連性はないとの事です。

4) アルファ変異株(B.1.1.7)感染による⼊院に対する有効性は86%、デルタ変異株(B.1.617.2)
   感染による⼊院に対する有効性は92%でした。
   症候性感染に対する有効性は、アルファ変異株で66%、デルタ変異株で60%です。

5) 今までの研究ではドイツで⾏われた前向きコホート研究で、BNT/BNTを3週間間隔で接種した
   医療従事者と、ChAd/BNTを8〜12週間間隔で接種した医療従事者を⽐較した初期の結果では、
   ブースト後3週間の抗体濃度は同程度で、細胞応答はChAd/BNT接種者の⽅が高い結果でした。
   25〜46歳の26⼈の被験者を対象としたドイツの別のコホート研究では、8週間のプライムブースト
   間隔でChAd/BNTを投与したところ、強固な液性免疫が得られ、BNT/BNTを投与した非無作為化
   コホートで観察された中和活性よりもベータおよびデルタ変異株に対する中和活性が保持されて
   いたことが示されています。

6) 本研究から、ChAdとBNTの異種混合スケジュールが、4週間のプライムブースト間隔で高い免疫
   反応と証明されました。





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   上の2つの表のAとBから、ChAd/BNTが優位なようです。
   一番下のグラフのAが液性免疫の推移で、Dが細胞免疫の推移です。
   BとCが中和抗体を示します。やはりChAd/BNTが勝っています。

7) 考察として
   発展途上国や経済的貧困国では多様なワクチンスケジュールが必要です。
   しかしこの異種混合ワクチンスケジュールは年齢が若くなればなるほど、その反応源性
   (免疫形成と副反応を含めた意味)が高まり、今後の課題です。







私見)
 日本はコロナに関して二流国です。海外のエビデンスを頼りにしなくて何も語れません。
 イケイケドンドンの河野大臣発言に対して、官房長官が水を差しています。
 なぜ今、異種混合ワクチンなのか。
 答えは簡単です。
 効果はともかくとして、日本でもワクチンが不足している事と、アストラゼネカが安いからです。






Safety and immunogenicity of heterologous versus homologous prime-boost schedules with an adenoviral vectored and mRNA COVID-19 vaccine (Com-COV)_ a single-blind, randomised, non-inferiority trial.pdf












posted by 斎賀一 at 19:23| Comment(0) | ワクチン

2021年08月27日

もともと小児は感染源だった

もともと小児は感染源だった

 
Association of Age and Pediatric Household Transmission
of SARS-CoV-2 Infection



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 昔は感染症においては大人から子供に伝染すると考えられていましたが、インフルエンザを含め感染症
の多くが子供から大人への広がりを指摘されています。
デルタ株が子供にも感染しやすいことから、家庭内感染の危険が騒がれています。
デルタ株が蔓延する前の子供を中心にした、新型コロナの伝搬に関する論文が雑誌JAMAに掲載されています。


1) カナダからの報告です。(引用文献に日本発が一つもないのは寂しいです。)
   2020年6月1日から12月31日までの18歳以下の家庭内発生の新型コロナ患者を登録しています。
   その最初の患者をインデックスケイスとして、0〜3歳、4〜8歳、9〜13歳、14〜17歳の
   4つのグループに分けて調べています。
   家庭内感染の定義はインデックスケイス発生後の1〜14日において、1人以上の家庭内コロナ患者
   の発生としています。

2) 結果
   インデックスケイスは6,280例で、その中で家庭内二次感染したのは1,717例(27.3%)でした。
   詳しくは下記のPDFのグラフで説明します。




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   先ず簡単に上の表で説明しますと、0〜3歳での伝搬は13.6%で9〜13歳では29.1%ですが、
   統計処理(検査の遅れ、集団でのクラスターなどを調整)を行いますと、それでも0〜3歳では、伝搬
   の危険率は1.43と高値です。
   統計処理をしますと、インデックスケイスが無症状か有症状かの違いよる感染伝播の影響はありま
   せんでした。  
   また学校や保育所での流行とも関係はありません。更に学校と保育所の再開とも無関係でした。
   小児の感染力が強いのは、ウイルス量が多く輩出するため、小児ほど家族とのコンタクトが強い、
   症状が多岐にわたるなどが考えられます。
   ある研究によると、5歳以下の小児では鼻咽頭にウイルスが多くいるとの報告です。
   小児では症状が軽微のため、検査が遅れる結果となり伝播しやすいと推定されましたが、それ等の
   因子を統計学的に処置しても、0〜3歳と4〜8歳の伝播の危険率は高い結果です。

3) 新型コロナ感染が流行した当初は、都市のロックダウン、3密を避ける、家庭内自粛、
   検査は基礎疾患のある高齢者優先とされており、結果的には症状の軽症な小児は検査対象から
   外され調査も対象外でした。
   今後、小児の隔離、マスク着用など根本的な対策の変更が必用となります。







私見)
 小児の新型コロナは症状が軽い人もいますが、感染源としても特段の注意が必要です。
 グラフ解説は下記のPDFにて掲載します。






小児のコロナ.pdf

jamapediatrics_paul_2021_oi_210047_1628263996.00852.pdf












posted by 斎賀一 at 21:02| Comment(1) | 感染症・衛生

2021年08月24日

コロナ禍での小児の重症糖尿病の発生

コロナ禍での小児の重症糖尿病の発生
 
The SARS-CoV-2 pandemic is associated with increased severity
of presentation of childhood onset type 1 diabetes mellitus:
A multi-centre study of the first COVID-19 wave



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 若い人のT型糖尿病(インスリン注射が絶対的に必要な糖尿病)は、ある日突然発症します。
T型糖尿病は、膵β細胞の破壊によるインスリンの絶対的不足が原因です。自己免疫機序の関与する
自己免疫性(1A型)と、自己免疫機序の関与が明らかでない特発性(1B型)に分類されています。
また、1A型をさらに急速進行型(rapidly progressing form)と、緩徐進行型(slowly progressing form)に分類することもあります。
一般的なU型糖尿病は体質、つまり遺伝的要因が強いのですが、T型糖尿病は感染症が原因との事も
指摘されています。

uptodateによりますと
(ウイルスは、直接感染してβ細胞を破壊するか、これらの細胞に対する自己免疫攻撃を誘発することに
よって、動物モデルで糖尿病を引き起こす可能性がある。1型糖尿病を発症してから、数週間以内に死亡
した75人の患者の膵臓組織におけるコクサッキー、EBウイルス、流行性耳下腺炎、またはサイトメガロ
ウイルスからの急性または持続性感染の証拠は見つからなかった。
しかし、いくつかの異常な形態の糖尿病は、多数のβ細胞におけるコクサッキーウイルスの存在と関連
している。)

このコロナ禍で、重症T型糖尿病が見過ごされている可能性を指摘した論文が発表になっています。
簡単に纏めますと


1) 18歳以下に発生したT型糖尿病を調べています。
   期間は2019年7月1日から2020年3月22日までのコロナ流行前と
   2020年3月23日から2020年6月30日のコロナ流行時での発生を比較しています。
   通年で1年間を調べています。


2) 結果はグラフで示します。




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  T型糖尿病の発生は、コロナ流行前は3.5例/月に対して、コロナ流行時では4.9例/月と増加傾向
  ですが、問題なのは重症例、つまりケトアシドーシス症例(DKA)が流行時において、10%から47%
  に増加している点です。





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       本研究では、実際にコロナに感染した人は確信例で1人/17人でした。





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3) 考察として
   新型コロナウイルスが何らかの免疫機能により、膵β細胞に働きT型糖尿病を発症したことも想定
   されますが、多くはコロナ流行により医療機関の受診を手控えることに起因するものと思われます。





私見)
 小児のT型糖尿病は、一歩間違えば死に至る病です。
 しかしその診断は重症例なら尚の事、苦慮することがあります。
 コロナ禍では疾患の診断の遅れが他にも多くあるものと思われます。
 新型コロナは実地医家にとって、忍耐と知略を振り絞る段階を迎えようとしています。







コロナ 小児 糖尿病.pdf









posted by 斎賀一 at 20:43| Comment(2) | 小児科