2021年07月30日

心不全におけるpro-BNP検査の有用性

 
心不全におけるpro-BNP検査の有用性

   
NT-proBNP for Risk Prediction in Heart Failure: Identification
of Optimal Cutoffs Across Body Mass Index Categories




 私の若いころは、心不全の診断に苦労しました。
現代は血液検査と心エコーにより早期に、しかも迅速に診断できるようになっています。
もちろんピットホールはありますが、隔世の感がします。

 心不全の診断に血液検査のBNPと、NT-proBNPがあります。採血管が1つでよい事から
本院ではNT-proBNPを汎用していますが、迅速診断ではセキスイのBNPを使用しています。
BNPとNT-proBNPの相互関係は、下記のPDFを参照ください。
 

 今回雑誌JACCより、NT-proBNPの生命予後に関する論文が出ています。


 5年後の心臓血管疾患と、生命予後を調べています。
 
 外来の安定した心不全患者のデータ(BIOS)から12,763人(平均年齢66歳)を対象に、
 体重(BMIによる最適なNT-proBNPのカットオフ値を解析しました。
 登録患者の平均の駆出率は33%です。結果のカットオフ値を下記に示します。


・低体重(BMI;18.5以下)    205人     3785ng/L

・正常体重(BMI;18.5〜24.9)  4,299人 2193 ng/L

・体重増(BMI;25〜29.9)    5,176人 1554 ng/L

・軽度肥満(BMI;30〜34.9)   2,157人 1045 ng/L

・中度肥満(BMI;35〜39.9)   612人 755 ng/L

・高度肥満(BMI;40以上)    314人 879 ng/L



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私見)
 心不全の診断にBNPは欠かせませんが、生命予後のリスク評価にも有効との論文です。
体重が正常ならproBNPが2000以下に推移していれば心不全の治療を主体で良いかもしれませんが、
心不全症状が安定していても、肥満傾向の人でproBNPが1000以上ならダイエットを含めた体重管理も必要となりそうです。







本論文.pdf

院内資料1.pdf

院内資料2.pdf

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posted by 斎賀一 at 13:16| Comment(0) | 循環器

2021年07月27日

感染後のワクチン接種;ハイブリッド

感染後のワクチン接種;ハイブリッド
 
Hybrid immunity
   COVID-19 vaccine responses provide insights
into how the immune system perceives threats



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 新型コロナに感染後の免疫(natural immunity)は、その後のワクチン接種の免疫(vaccine-generated immunity)によって補填されるとの報告があり、本院でも既に新型コロナに感染した人にもワクチンを1回は接種するように勧めてきました。
 今回、既感染者も2回接種することでさらに免疫を増強し、変異株にも有効との論文が掲載されていますのでブログします。


1) 獲得免疫には3パターンあります。
   Bリンパ球が造る抗体、Tリンパ球のCD4とCD8の3種類です。
   CD4とCD8は一般的には細胞免疫と言われており、その効果は少なくとも8か月は持続すると
   言われています。
   一方でB細胞が司る抗体、つまり液性免疫は徐々に低下して1年以内に消失してしまいます。

2) 研究によると、natural immunityは93〜100%も7〜8か月持続すると報告されています。
   しかし変異ウイルスに関してはやや低下しており、デルタ株では明白ではありません。
   ワクチンによる効果(vaccine-generated immunity)は最初の報告によりますと、デルタ株に
   対してもその有効性はあるとされています。

3) natural immunityとvaccine-generated immunityを組み合わせたhybrid immunityは
   一層の免疫を獲得するとの報告が今までにされています。
   つまりhybrid immunityはB細胞とT細胞の協同作用です。 (下記に紹介)
   B細胞が変異ウイルスに対しても認識するのは本質的に困難ではありません。
   ベータ株(南アフリカ株)以外の新型コロナに感染した人が、その後ワクチン接種をすることにより
   新たにベータ株に感染してもnatural immunityの場合の100倍も抗体を産生しています。
   なぜhybrid immunityで抗体が上昇したのでしょうか。
   液性免疫を司るB細胞も、記憶B細胞に分化し変異ウイルスに備えます。
   vaccine-generated immunityにより高品質な記憶B細胞が分化形成されると推測されます。
   そして分化した記憶B細胞に対してT細胞も対応します。
   リンパ組織の胚中心(germinal center)でその反応は起こります。
   hybrid immunityの場合に顕著に認められるのはB細胞による液性免疫ですが、その陰で記憶
   T細胞も分化しています。

4) 子供のころに水痘に罹患した人がその後に帯状疱疹の予防のためのワクチンのShingrixを接種
   すると抗体が更に高められることと似ています。
   アストラゼネカのワクチンの後にファイザーのワクチンを接種すると、ブスター効果が高められる
   のもこのためと推測しています。
   hybrid immunityは変異ウイルスの時代に光明を与えるかもしれません。






私見)
  すでに新型コロナに罹患した人には、ファイザーのワクチンを1回接種するよう勧めてきました。
  既感染者は2回目の接種で副反応が強いとの報告もあるため慎重を期していましたが、変異株の状況
  変化により本院も原則としてコンサルトをし、ご納得の上で2回接種を勧めて参ります。
  免疫については以前の私のブログをご参照ください。






本論文.pdf

Science Journals − AAAS 1.pdf

Science Journals − AAAS 2.pdf

ブログa.pdf

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posted by 斎賀一 at 21:52| Comment(2) | 感染症・衛生

2021年07月24日

WPWパターンとWPW症候群

WPWパターンとWPW症候群

患者さん用と院内勉強
 


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        内科臨床医サポートより
 
 最近、学童の方が検診の心電図でWPWの診断を受けて来院されました。
ネットで、WPWと調べるとほとんどがWPW症候群の記載内容です。
心電図で、特有なΔ波を認められればWPWパターンです。さらに不整脈、多くは頻脈発作を伴えば、
WPW症候群となります。WPWパターンは全年齢層に認められ、0.13〜0.25%の頻度です。
WPWパターンの中で、WPW症候群になる人はさらに少なく、2%より低いと言われています。
ただし、WPW症候群の人の10〜30%に心房細動を合併します。
心筋は、シンシチウムという合胞体で、自発的に活動電気を発生するペースメーカー細胞が
備わっています。
人は、発生の段階で房室結節の周辺の線維巣にシンシチウムの吸収不全が起きると、通常とは異なる
副伝導路が形成されてしまいます。有名なのがケント副伝導路ですが、その他の副伝導路もWPWの
原因となります。つまり、WPWは心筋の先天異常です。
副伝導路には、数種類あります。


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ピンクが正常の伝導路で、黒が副伝導路です。
この副伝導路により、心電図には異なった波形が生じます。WPWパターンには下記の3型があります。


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問題は、この副伝導路には順行性と逆行性がある事です。順行性は心房から心室に伝導しますが、
逆行性は心室から心房に伝導するポテンシャルがあります。
逆行性に心房に伝わった刺激は、心房内の発電部位(ダイナモ)を刺激し、頻脈を誘発します。


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副伝導路の60〜75%は、順行性と逆行性の両方を兼ね備えていますが、17〜37%は逆行性のみ
です。この逆行性のみの場合は、Δ波は生じません。
順行性伝導はある条件では制限され、徐脈になります。これが潜在性WPWです。
運動負荷をかければ頻脈となり、Δは消失します。このような潜在性WPWは、一般的に予後が良いと
されています。
13%に複数の副伝導路が合併しています。
予備的な知識は以上で、本題に入ります。


Uptodateを中心に纏めてみました。


 1) 無症状のWPWパターンが不整脈に進展するのは、3年以上の経過観察でも20%程度と
    言われています。特に、若い健康な人ではその傾向は低いようです。

 2) 危険因子の頻脈発作を経験した場合は、EPS(Electrophysiology Studyとは
    電気生理学的検査の事で、電極カテーテルという数ミリ径の細い管を、足の付け根や鎖骨下の
    静脈から、心臓に向かって数本挿入します。このカテーテルの先端には、小さな電極が付いて
    おり、これを心臓内壁に接触させると、心臓内の電気活動を詳細に得られる事が出来ます。
    食道を介する方法もあります。)を実施します。

 3) 頻脈発作のない無症状のWPWパターンの患者で、Δ波が間歇的に出現する場合は良性と
    見なしますが、常にΔ波を認める場合は、下記の手順でリスク評価をします。

      ・安静時心電図
      ・運動負荷試験により脈拍を増加させてΔ波の消失を調べる
      ・運動負荷試験が出来ない場合はホルター心電図を実施

    運動負荷試験などで、急にΔ波などの早期興奮(preexitation)が消失すれば、
    順行性伝導のみで、逆行性伝導はないと考えられます。従って、EPS検査はせずに経過観察
    となります。
    運動負荷で最大の脈拍にしても、Δ波が持続するからと言ってハイリスクとは限りませんが、
    EPS検査が必要となります。
    EPS検査まで進んだ無症候性WPW患者の224人中76人(34%)に、その後に頻脈発作などの
    不整脈を認めています。
    その場合にはアブレーション治療が必要となります。その効果は5年間で、不整脈の消失は
    コントロール群と比較して、7%対77%でした。

 4) しかし、EPS検査でハイリスクと診断された人で、生命予後に危険な不整脈の発生頻度は、
    たったの2%でした。従って、EPS検査がリスク評価の金科玉条かどうかは分かっていません。

 5) 無症候性のWPWパターンでは、特に35〜40歳は経過観察でよいと思いますが、
    若い学童児の場合はEPS検査も考慮に入れるべきとしています。
    非侵襲的検査もあり、保護者と十分なコンサルトが重要です。


他の文献より抜粋します。



  ・検診ガイドラインによりますと


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  ・ドクターサロンより
   

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  ・雑誌小児科より


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最後にuptodateのストラテジーを掲載します。
 


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私見)
WPWパターンの多くは、心配ないと理解してください。
個別のコンサルトが保護者の方と必要です。
ドクターサロンに、WPWパターンについての概要が丁寧に記載されていますので、
下記にPDFを掲載します。
WPWの心電図読解もかなり難解です。出版元には恐縮ですが、抜粋をPDF化して掲載しますので
皆さんは改めて購入してください。



参考文献
・心電図再入門  南江堂
・雑誌小児科 小児科Vol. 55 NO.l 201 小児循環器領域
・日本内科医会会誌 2017年9月号 学校心臓検診ガイドライン
・検診資料
・雑誌mediscape 出典不明
・その他 ネットより合成してPDFを作っています。



1 小児のWPW症候群.pdf

2 WPW 図譜.pdf

3 心電図「再J入門.pdf

4 これってWPW症候群?1.pdf

5 これってWPW症候群?.pdf







posted by 斎賀一 at 20:11| Comment(0) | 循環器