2021年01月13日

炎症性腸疾患の病態生理・その2

炎症性腸疾患の病態生理・その2
 
Pathophysiology of Inflammatory Bowel Diseases
n engl j med 383;27 nejm.org December 31, 2020


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 今は懐かしいabeちゃんも使ったと思われる、潰瘍性大腸炎の生物学的製剤を理解する上で、欠かせ
ない病態生理をまとめた総論が雑誌NEJMに掲載されていました。
本論文を理解するのに難儀しましたが、私なりに理解できた点だけを纏めてみます。
下記の図が不鮮明の場合は、更に下のPDFをご参照ください。




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1) 炎症性腸疾患の場合には、粘液層(mucus layer)を作る杯細胞(goblet cell)が減少していて
   細菌叢の侵入を防ぐバリアーも減少し、さらけ出されている状態です。
   最近では腸上皮の粘膜下にある幹細胞(線維化細胞、筋細胞、血管周囲細胞)による急性増悪の
   際の反応が解明されています。

2) 遺伝的な解明も進んでいますが、潰瘍性大腸炎よりもクローン病の方が意味合いが強いようです。

3) 共生細菌叢とその産物が、炎症性腸疾患の進展に関係あることも分かり始めています。
   粘膜のバリアーが損なわれると、正常の細菌叢も病態の原因となります。
   一方で、細菌叢の全くいないマウスでの実験では、炎症性腸疾患の重症化を認めています。
   細菌叢との関連性が今後の研究テーマです。

4) 粘膜の免疫機能
   腸上皮においては、免疫機能として自然免疫と獲得免疫、及び局所免疫と全身免疫が全て関与して
   います。獲得免疫として特異的T細胞(MALT)が重要な位置を占めています。
   腸管が健康な人間の免疫機能の主な部位を担っており、なんとリンパ球の75%が腸管や腸間膜に
   存在し、健康な人の免疫グロブリンの多くはこの部位で作られています。
   腸管の免疫機能は全身の免疫機能と異なり、病原性病因との戦いと同時に食物アレルギーを代表
   するような、過剰な免疫反応を抑制するコントロールもしなければならないといった、複雑な機能が
   必要となります。
   自然免疫はマクロファージが主役です。
   最初の段階で病因となる細菌などを貪食するために、粘膜下に位置しています。
   樹状細胞も粘膜下に存在し、獲得免疫の初期段階で働きます。
   粘膜下のリンパ装置のパイエル盤、native B細胞が抗原(病原細菌)と出会うと、形質細胞に変化
   して抗体を産生し、更に記憶B細胞に分化していきます。
   形質細胞は分化して短期及び長期的に働き、免疫グロブリンのIgMからIgAを形成していきます。
   IgAは補体との共同作用がないので炎症を伴わずに病因を排除しますが、IgGは補体と共同して
   炎症を伴いながら病因(病原菌)と戦います。

5) B細胞は炎症性腸疾患の場合には、特別に主たる行動は起こさないようです。
   健常人ではIgAが主役ですが、炎症性腸疾患の場合にはIgGがその病態の主たる原因として作用
   します。
   現に炎症性腸疾患の場合にIgAは減少し、IgGが局所で増加しています。
   潰瘍性大腸炎の場合、細菌叢に対するIgGが局所的に増加していることが証明されています。

6) T細胞
   未だ抗原提示を受けていないnative T細胞(ナイーブT細胞;20歳後半に未だ女性の提示を受けて
   いないナイーブな僕みたい)が腸管の粘膜下のリンパ装置である樹状細胞から抗原提示を受けて
   活性化し、粘膜の表面に移動します。
   活性化したT細胞は機能をもったeffector T細胞(Tef)、制御性のregulatory T細胞(Treg)
   抗原性を記憶したmemory T細胞に分化します。
   一般的にTefは炎症性サイトカインを分泌し、即座に炎症を起こして細菌感染を予防しようとします。
   Tregは行き過ぎた炎症を鎮める働きがあります。
   memory T細胞は長期間生存して、免疫的な記憶を提供します。
   ヘルパーT細胞のTh1とTh17のネットワークが粘膜のホメオスタシスに関係しているので、それに
   関連するサイトカインのインターロイキン12、23をブロックするtofacitinibなどのJAK阻害薬が
   治療薬として登場しています。
   インターロイキン17は炎症を誘発し、腸上皮の再生、修復に関係するといった多面的効果
   (pleiotropic)のため、インターロイキン17に対する抗体は治療としては確立していません。
   Tregは免疫のホメオスタシスに関係します。しかも免疫機能とは無関係な再生にも関与します。
   更に炎症部位に移動して炎症を沈静化します。
   しかし炎症性腸疾患において、局所でこのTregが増加していることがあり、その解明は未だ十分
   にはされていません。
   活性化したCD4とCD8は記憶T細胞に分化しますが、更にその記憶T細胞は組織固着型(Trm)と
   循環型(Tcm)に変化します。
   Trmが細菌に遭遇すると表面に移動してバリアーを形成し、細菌を抑制し自然免疫を活性化して、
   その情報をTcmに伝えます。
   クローン病においてスキップ病変があるのは、Trmが局所に居座って炎症反応を起こすからです。
   また、手術例のクローン病で吻合部に病変が再発するのもこのためです。
   動物実験ですが、CD8は炎症性腸疾患において腸管の透過性を促進するとの事です。
   CD8とTrmが相まって炎症を誘発し、循環性のTcmに変化して全身に循環するため、腸管以外の
   部位にも炎症を起こします。
   長期に記憶T細胞、特にTrmが居座ることが炎症性腸疾患の慢性疾患である所以です。






私見)
   最近の生物学的製剤関連の文献と本論文の図譜を見比べながら、根気よく調べてください。
   尚、図譜の中で青のブロック表示が薬剤の作用部位です。
   大体の流れを理解するだけでよいです。本院では生物学的製剤は採用しません。
   患者さんへの説明の際には、知識として覚えておきましょう。





1 炎症性腸疾患の図.pdf

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posted by 斎賀一 at 19:51| Comment(0) | 消化器・PPI