2020年12月31日

新型コロナの重症例

新型コロナの重症例
 
Severe Covid-19
   N Engl J Med 2020;383:2451-60.
  

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 雑誌NEJMに、新型コロナ重症例の総説が症例報告として掲載されています。
簡単に何時ものように、本院の身の丈に合った部分だけをブログしてみます。


1) 症例は50歳代の男性です。従来は健康で基礎疾患がありません。
   息苦しさが出現し、2日後に救急外来を受診しています。
   その1週間前から発熱、咳、全身倦怠感がありました。
   救急外来受診時には体温39.5度、脈拍110/分、呼吸数24/分、血圧130/60、SpO2;87%、
   リンパ球減少を伴う白血球数7300、PCR検査陽性です。
    (新型コロナの重症例に関しては、厚労省の下記の冊子をご参照ください。)

2) 従来健康な人も、本症例の様に重症化することがあります。
   もちろん基礎疾患のある人はリスクも高くなりますが、重症例は女性より男性の方が多いようです。
   ある日突然、狭い地域で今まで経験のない新型コロナ感染症の重症例が発生することがこの感染の
   深刻な点です。
   つまり、感染症に対して十分に訓練されていないその地域の医療従事者が診療に当たらなくては
   ならず、当然ながら医療物質供給も不足しています。

3) 感染症に不慣れなスタッフによって、院内感染が瞬く間に拡大していきます。
   新型コロナ感染の重症患者は経過が長く、死と隣り合わせです。
   従って治療の早期から、医師は患者に寄り添って病状の悪化の兆しに対して適切に説明し、長い
   経過の中でそのゴールを示していくことが大事です。(新型コロナ患者に対してはその家族も含めて
   全経過を担当医が責任をもって計画立案することが求められます。)

4) 患者本人はパルスオキシメーターによって、自己管理することが求められます。

5) 患者が低酸素で挿管(人工呼吸器)を望まない場合は、鼻腔カニュレーションも選択肢です。
   高濃度の酸素療法を行っていれば、腹臥位での対応が低酸素の改善に繋がるとの報告があります。
   しかし新型コロナの重症例で、この腹臥位が鼻腔カニュレーションから人工呼吸器の進展を予防
   できるかは現段階では不明です。

6) 治療に関しては、ステロイド剤のデキサメサゾンは30日後の死亡率を17%削減しています。
   特に人工呼吸器を装着している患者には有効です。
   抗ウイルス薬のレムデシビルは、人工呼吸器まではいかない酸素療法を行っている重症患者には、
   29日時点での死亡率が、プラシーボでは15.2%に対して11.4%と軽減しています。
   最近の研究では、入院患者の死亡率に関してレムデシビルは有効性がないとの報告もあります。
   現場ではデキサメサゾンとレムデシビルの併用はよくされていますが、その効果に対しての十分な
   研究はまだされていません。

7) 多くの患者が脱水傾向なので、補水管理は注意深く行う必要があります。

8) 血液の凝固系異常は時にあります。CRP、血小板減少、D-dimerの異常値で調べます。
   禁忌でなければヘパリンを使用します。
   予防的に抗凝固薬使用が有効かのエビデンスは十分ではありません。

9) 一般的に、は新型コロナの重症例で細菌感染の合併は稀とされています。
   しかし、新型コロナの重症例そのものが長い経過の発熱を伴うため、臨床家は細菌感染の存在に
   注意を払わなくてはなりません。

10) 新型コロナの治療を探求する場合、既に重症化している患者と軽症から重症化を防ぐ治療とを
    分けて考えなくてはなりません。
    効果が未だ確立されていない治療を実施する場合は、患者並びに家族と十分に話し合いをしなく
    てはなりません。





私見)
 残念なことに、羽田雄一郎参院議員が急逝されました。
羽田氏は24日、周囲でコロナ陽性者が出たため、無症状だったものの「PCR検査がどこで受けられるか」
と秘書を通じて参議院の診療所に問い合わせています。
新型コロナの第1波の時は、感染拡大阻止のための検査を実施できず歯がゆい思いをしましたが、その
十分な検証もしないうちに現在の第3波となっています。
第3波は第1波とはやや趣を異にして、重症者の早期発見早期治療の意味合いもあり、検査が更に必要
です。
我々のような末端の医療機関も、社会全体の医療制度でも「不足」しているものを補うのは、単にシステム
の再検討と新たな構築だけです。
本論文の卓越している点は「関わった医師は、その患者と家族に対して寄り添いながら全経過の中で、
適切な提言をする必要性」を述べていることです。
新型コロナはらせん状に行ったり来たりしながらその姿を現してきます。
もちろん全能な人間はいません。しかしこのウイルスはそこを突いてくる曲者です。






厚労省コロナ .pdf








posted by 斎賀一 at 17:46| Comment(2) | 感染症・衛生

2020年12月28日

気管支喘息ガイドライン・2020年版 その2

気管支喘息ガイドライン・2020年版 その2
 
Managing Asthma in Adolescents and Adults 2020
Asthma Guideline Update From the National Asthma
Education and Prevention Program



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 アメリカの学会NHLBIからのガイドラインは膨大なので、雑誌JAMAをブログします。
先ず、2014年にアメリカの学会から出たガイドラインEPR-3に加えて変更になった点が6つあります。

・吸入ステロイド剤の間歇療法(intermittent)
・LAMAの追加療法
・FeNOの測定、舌下免疫療法、気管支熱形成術(Medica1 Practiceよりまとめ、下記のPDFに掲載
 します。)、室内のアレルギー物質の減少です。
 分子標的治療薬に関しては、明白なエビデンス不足のため省略されています。

 日本の2018年版ガイドラインと本論文のガイドラインを比較しますと



         21228-3.PNG ←クリックで拡大


本論文のガイドラインでは、積極的にsmart治療を推奨しています。
つまりホルモテロールとLABAの合剤(シムビコート又はフルティフォーム)のコントローラと、
リリーバーの使用を推奨しています。


簡単に纏めてみますと

1) EPR-3では、コントロール出来ずにステップアップした場合は、それを少なくとも3か月継続する
   ことを勧めていましたが(炎症が収束には3か月を要するため)、この点に関しては2020年版も
   継承しています。

2) 上段のpreferredが推奨で、それが有効性に乏しければ下段のalternativeとなりますが、
   2020年版ではalternativeの適応する人は一部の患者さんとして、preferredを先ずは推奨して
   います。

3) Step1
   EPR-3を継承しています。
   ホルモテロールとLABAの合剤をレスキューとして使用するsmart治療alternativeとして考え
   られますが、本ガイドラインでは記載されていません。
   (以前の私のブログでも紹介しましたが、妊婦でのSABA単独の使用は推奨していませんでした。)

4) Step2
   EPR-3を継承しています。
   ホルモテロールとLABAの合剤の使用に関しては、2020年版ではコメントしていません。

5) Step3
   EPR-3とは二つの点が改訂されています。
   ・ホルモテロールとLABAの合剤がコントローラおよびリリーバーとして追加することを推奨して
    います。
   ・12歳以上の場合でICS+LABAが使用できない場合にはICS+LAMAを推奨しています。

6) Step4
   ホルモテロールとLABAの合剤を主体として、LAMAの追加またはレスキューとしてSABAの使用を
   推奨しています。
   基本的には4歳以上の患者にはホルモテロールとLABAの合剤の1吸入を、コントローラ及び
   リリーバーとして使用することを推奨しています。
   LABAが使用できない12歳以上の患者にはICS+LAMAを推奨しています。

7) Step5と6
   EPR-3との改訂の違いは高用量のICSとLABAにLAMAを追加し、更にレスキューとしてSABAを
   使用することです。
   Smart治療のホルモテロールとLABAの合剤に関しては記載がありません。
   (多分、高用量のICSに関係しているものと思います。)

8) レスキューとしてのICS
   EPR-3では、12歳以上の場合はICSを倍量することを推奨していましたが、2020年版では異なった
   見解です。
   4歳以上の患者できちんとICS吸入が出来ている場合で喘息発作が中等度なら、短期的にICSだけ
   を増量しても結果において効果はあまりない。
   つまりICSを増量する場合はレスキューとして使用するのでなく、短期的と言えどもコントローラの
   考えで使用することを推奨しています。
   ICSの増量に関しては2倍、4倍、5倍がありますが、2018年の研究報告ではそれほどの効果を
   示していません。ただしプラシーボとの比較において、エビデンスが限定的な結論の様です。
   結論的には2020年版ではレスキューとしてのICS増量使用を推奨していませんが、16歳以上の
   場合にリリーバーとして短期的な意味での4倍量までの増量を認めています。

9) コントローラとリリーバー
   2020年版では、Step3以上ではsmart治療(ホルモテロールとLABAの合剤)を推奨しています。
   smart治療ではホルモテロールがICSとして使用された論文のため、本ガイドラインでもStep4まで
   はICSはホルモテロールのみを推奨しています。
   なぜならホルモテロールは即効性で使用量の幅が広く、コントローラとしてもリリーバーとしても
   有用です。
   具体的にはコントローラとしてシムビコートの1〜2回吸入を1日2回行います。 
   リリーバーとしては、1〜2回追加吸入を4時間おきに行います。
   最大で1日12吸入までです。(本院では8吸入までです。)
   ホルモテロールとLABAの合剤を使用することにより、一般的にはSABAをレスキューとして使用する
   必要はないとしています。

10) ICSの間歇療法
   12歳以上のStep2までの軽症例では、ICS+SABAの間歇療法を認めています。
   ICSのホルモテロール単独の間歇療法も認めています。
   (本院にはホルモテロール単剤はありませんので、結局はシムビコートの間歇療法は認められると
    拡大解釈します。)

11) LAMAの追加療法
   LAMAの長期のコントローラとしての使用は外来治療で行うもので、救急医療現場では適しない。
   使用に当たっては尿閉、緑内障は禁忌です。
   「ICA+LAMA及びレスキューとしてSABA」の治療は推奨していません。
   つまりICS+LABAの方が有用だからです。
   原則として、LAMAの使用はLABAが処方できない患者さんの場合です。
   ただしICS+LABAにLAMAを追加する場合は、喘息のコントロールが優位でしかもQOLの向上が
   認められます。
   結論的には、LAMA適応は12歳以上でSmart治療のみではコントロールできないStep3以上の
   場合です。






私見)
 従来の本院の治療の方針と、あまり違いはないようでホッとしています。



◆ 参考文献

  Medica1 Practice;Oecember1 .2 019 Volume 36 Number 12
  今日の臨床サポート






32 ガイドライン喘息jama_cloutier_2020_sc_200005_1605887151.79707.pdf

33 FeNO.pdf

34 気管支熱形成術.pdf

36 smart治療.pdf

37 スマート治療ドクターサロン.pdf

38 喘息 ガイドライン2020 Focused Updates to the Asthma Management Guidelines_.pdf










posted by 斎賀一 at 21:22| Comment(0) | 喘息・呼吸器・アレルギー

気管支喘息ガイドライン・2020年版 その1

気管支喘息ガイドライン・2020年版 その1


    〜院内予習編〜 

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 アメリカの学会NHLBIから、2020年度の気管支喘息ガイドラインが出ています。
膨大な文献なので暇なときに見たいと思っていますが、雑誌JAMAにサマリー的な文献が掲載されて
いましたので、それを次回ブログします。以前の私のブログもご参照ください。
先ずは予習の意味で、喘息の登場人物を整理してみます。


吸入ステロイド剤(ICS) 
  本ガイドラインではホルモテロールの有効性を示していますので、長時間作用性吸入β2刺激薬
  (LABA)との配合剤としては、シムビコートとフルティフォームとなります。

長時間作用性吸入β2刺激薬(LABA
  単独ではセレベントがありますが、後述するように単独使用によって喘息の重症化を招く危険性を指摘
  したsmart研究後は、吸入ステロイド剤との併用又は合剤が一般的です。

長時間作用性吸入抗コリン薬(LAMA)
  気管支を拡張するには交感神経のβ2を刺激すればよいのですが、交感神経の反対の副交感神経を
  抑制する、つまり抗コリン薬を用いても気管支は拡張します。これがLAMAです。
  LAMAは以前より閉塞性肺疾患(COPD)や長引く咳に処方されていましたが、最近では気管支喘息
  にも併用されて本ガイドラインでも推奨しています。
  一般的にはLAMAの方がLABAに比べてマイルドです。

短時間作用性吸入β2刺激薬(SABA)
  喘息薬は長期管理薬(コントローラ) と 発作治療薬(リリーバー、レスキュー) に分けられます。
  SABAはリリーバーとして処方されます。本院ではサルタノールかメプチンミニが主流です。

・ロイコトリエン受容体拮抗薬( LTRA )
  本院ではシングレア、キプレス、シングレアチュアブル、オノンを使用

smart研究とsmart治療
  LABAのセレベントが上市された時は画期的な薬剤で、喘息発作で苦しんでいる患者さんにとっては
  福音でした。もしこれがあればテレサテンを救えたのではと思いました。
  しかしその後の研究で、アメリカの黒人を中心としてセレベントが急性増悪を誘発するのではとの懸念
  から、一気に冷え込んでしまいました。
  喘息の発作は収まっても、喘息を引き起こす炎症は収束していないからと説明されています。
  それでも慎重に短期で使用すればSABAよりは有効ではないかと、依然として個人的には密かに
  思っています。
  Smart治療は、LABAとICSのホルモテロールの合剤のシムビコートがコントローラでもリリーバーでも
  有効とのスタディです。2020年のガイドラインではこのsmart治療が主体になっています。
  詳しくはドクターサロンとクリーブランド・ジャーナルに記載されていますので、ご参照ください。
  日本では、2018年に気管支喘息のガイドラインが改訂されています。
  雑誌Medica1 Practiceと今日の臨床サポートを参考にPDFを作成しました。






22 気管支喘息 今日の臨床サポート.pdf










posted by 斎賀一 at 20:16| Comment(0) | 喘息・呼吸器・アレルギー