新型コロナの重症例
Severe Covid-19
N Engl J Med 2020;383:2451-60.
N Engl J Med 2020;383:2451-60.
雑誌NEJMに、新型コロナ重症例の総説が症例報告として掲載されています。
簡単に何時ものように、本院の身の丈に合った部分だけをブログしてみます。
1) 症例は50歳代の男性です。従来は健康で基礎疾患がありません。
息苦しさが出現し、2日後に救急外来を受診しています。
その1週間前から発熱、咳、全身倦怠感がありました。
救急外来受診時には体温39.5度、脈拍110/分、呼吸数24/分、血圧130/60、SpO2;87%、
リンパ球減少を伴う白血球数7300、PCR検査陽性です。
(新型コロナの重症例に関しては、厚労省の下記の冊子をご参照ください。)
2) 従来健康な人も、本症例の様に重症化することがあります。
もちろん基礎疾患のある人はリスクも高くなりますが、重症例は女性より男性の方が多いようです。
ある日突然、狭い地域で今まで経験のない新型コロナ感染症の重症例が発生することがこの感染の
深刻な点です。
つまり、感染症に対して十分に訓練されていないその地域の医療従事者が診療に当たらなくては
ならず、当然ながら医療物質供給も不足しています。
3) 感染症に不慣れなスタッフによって、院内感染が瞬く間に拡大していきます。
新型コロナ感染の重症患者は経過が長く、死と隣り合わせです。
従って治療の早期から、医師は患者に寄り添って病状の悪化の兆しに対して適切に説明し、長い
経過の中でそのゴールを示していくことが大事です。(新型コロナ患者に対してはその家族も含めて
全経過を担当医が責任をもって計画立案することが求められます。)
4) 患者本人はパルスオキシメーターによって、自己管理することが求められます。
5) 患者が低酸素で挿管(人工呼吸器)を望まない場合は、鼻腔カニュレーションも選択肢です。
高濃度の酸素療法を行っていれば、腹臥位での対応が低酸素の改善に繋がるとの報告があります。
しかし新型コロナの重症例で、この腹臥位が鼻腔カニュレーションから人工呼吸器の進展を予防
できるかは現段階では不明です。
6) 治療に関しては、ステロイド剤のデキサメサゾンは30日後の死亡率を17%削減しています。
特に人工呼吸器を装着している患者には有効です。
抗ウイルス薬のレムデシビルは、人工呼吸器まではいかない酸素療法を行っている重症患者には、
29日時点での死亡率が、プラシーボでは15.2%に対して11.4%と軽減しています。
最近の研究では、入院患者の死亡率に関してレムデシビルは有効性がないとの報告もあります。
現場ではデキサメサゾンとレムデシビルの併用はよくされていますが、その効果に対しての十分な
研究はまだされていません。
7) 多くの患者が脱水傾向なので、補水管理は注意深く行う必要があります。
8) 血液の凝固系異常は時にあります。CRP、血小板減少、D-dimerの異常値で調べます。
禁忌でなければヘパリンを使用します。
予防的に抗凝固薬使用が有効かのエビデンスは十分ではありません。
9) 一般的に、は新型コロナの重症例で細菌感染の合併は稀とされています。
しかし、新型コロナの重症例そのものが長い経過の発熱を伴うため、臨床家は細菌感染の存在に
注意を払わなくてはなりません。
10) 新型コロナの治療を探求する場合、既に重症化している患者と軽症から重症化を防ぐ治療とを
分けて考えなくてはなりません。
効果が未だ確立されていない治療を実施する場合は、患者並びに家族と十分に話し合いをしなく
てはなりません。
私見)
残念なことに、羽田雄一郎参院議員が急逝されました。
羽田氏は24日、周囲でコロナ陽性者が出たため、無症状だったものの「PCR検査がどこで受けられるか」
と秘書を通じて参議院の診療所に問い合わせています。
新型コロナの第1波の時は、感染拡大阻止のための検査を実施できず歯がゆい思いをしましたが、その
十分な検証もしないうちに現在の第3波となっています。
第3波は第1波とはやや趣を異にして、重症者の早期発見早期治療の意味合いもあり、検査が更に必要
です。
我々のような末端の医療機関も、社会全体の医療制度でも「不足」しているものを補うのは、単にシステム
の再検討と新たな構築だけです。
本論文の卓越している点は「関わった医師は、その患者と家族に対して寄り添いながら全経過の中で、
適切な提言をする必要性」を述べていることです。
新型コロナはらせん状に行ったり来たりしながらその姿を現してきます。
もちろん全能な人間はいません。しかしこのウイルスはそこを突いてくる曲者です。
厚労省コロナ .pdf